【完結】害虫生存戦略   作:エルゴ

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 今月最後の初投稿です。
 そしてまーた長いわよ!


第54話「救助・帰還」

 

「ウア゛あ゛あ゛ア゛ア゛あ!!!」

「あっぶね!」

「ちっ……』

 

 あちこちから襲いくるドロドロの液体──めんどくさいから『泥』と呼ぼう──をひたすら躱しながら、本体を狙える隙を待つ。

 

「よし避けっ……ぅ、ああっ!」

「箒っ!?」

「問題ないっ、掠っただけだ……けど厳しいなこれは……ぅ」

「避けたと思っても油断するな。常に攻撃を意識するように』

「わ、わかった! ……!」

 

 今のところ変異する前に比べてかなり狙いは大雑把で、攻撃速度も落ちている。が、半流動体のため動きが読みにくく、また範囲が広いため回避に難儀する。近接主体の俺たちでは飛び散ってしまうため下手に迎撃することもできない。

 

「ギャァァアアッ!!」

「また激しくなった!?」

「苦しいんだろ。もはや俺たちのことすら認識できてるかどうか……』

「なら急がねばな。時間が経つほど激しくなるなら、一生届かない可能性もある」

 

 奴はずっと叫び続けている。苦しみを紛らわすように暴れ、手当たり次第に攻撃している。

 その対象は俺たちはもちろん偶然近くに来た小動物や鳥、そこらの木や瓦礫、果ては何もない空間にすら及ぶ。おそらく感知機能に障害が出て、何が何やら見分けがつかないのだろう。

 

「ぞっとするな。俺もああなっていた可能性があったなんて』

 

 『器』だ何だと語りはしたが、俺もその器が無ければ二次移行できていたかも怪しいわけで、あんな醜く暴れるだけになっていた可能性も否定できない。

 まあその場合は無人機に殺されて終わりだったわけだがな。

 

「それよりどうする? このまま近づけないんじゃ助け出すなんて夢のまた夢だぞ』

「ここからじゃコアの位置はわからないのか?」

「ちょっと遠すぎるな……かと言ってこれ以上近づくと調べる余裕がなくなる』

 

 奴を助けるまでの方法は単純だ。感知能力の高い俺があの泥の中にあるコアを探り当て、エネルギー無効化攻撃を持つ一夏が無力化しつつもぎ取る。たったそれだけの作業だが、見ての通りそう簡単にはいくわけがなかった。

 

「回避はそれで精一杯になるからダメ、迎撃は逆効果……被弾覚悟で突っ込むのは?」

「本体に届くまでに達磨になりたいならいいんじゃないか』

「ダメか……」

 

 シールドバリア破壊がなければ無視して突っ込めたのだが、解析の結果それもできないことがわかっている。

 もし無理やり近づこうとしたら……よくて絶対防御が発動してエネルギー切れか、最悪泥に包まれて死ぬかかな。

 

「っ、じゃあどうすればっ!」

「知るかっ! 俺も思いつかねーよ! ……とっ!』

「うぐ…………」

「どうした箒? 大丈夫か?」

 

 俺たちが必死に回避しながら何とか作戦に考えている最中、妹様の様子がおかしい。

 そういえば、さっき攻撃が掠った時も少し変だった気がする。作戦開始前は絶好調な雰囲気だったはずだが、何かあったのか。

 

「わからない……けど、奴を見てるとこう、苦しくなるんだ」

「苦しい……、痛いとかじゃなくてか?」

「いや違う。痛いとかじゃなくて、窮屈な服を着ているような……」

「何だそりゃ……』

 

 窮屈な服? ISを装着しておいて何を言っているのか。設定ミスか……いや、それなら『奴を見ていると』はおかしい。

 

「これは、この感じは……前にもあった……」

「お?おい箒? 不調なら下がった方が……」

「そうだ、思い出した……」

「思い出したって何を……っていいから下がれ!』

「アアアアァァ!!」

 

 ブツブツと独り言を呟いて動かない妹様。何かを思い出したようだが、今はそれどころじゃない。

 泥が大きく波打ち、こちらを飲み込まんと塊となって撃ち出された。

 

「そうだ。あの時と一緒なら、こうすればいいんだ!」

「まずい、巻き込まれて──』

「箒ぃっ!!」

「──はぁぁぁっっ!!」

 

 バキッ

 

 妹様の叫びとともに聞き覚えのある無機質な音が響き【紅椿】の装甲が真っ赤に光る。直撃するはずの泥は全て弾かれ──

 

「──スッキリした!」

 

 ──そこには赤く鋭い装甲を持ったISと、両の瞳が赤く変色した妹様が立っていた。

 

「……あれは」

「タッグマッチトーナメントでなったやつだな。今度は全身だが……』

「ああ、よくわからんができた」

「んなめちゃくちゃな……」

 

 あの時は確か半身だけの変異だったが、それでも圧倒的な性能を持っていた。直ぐに束様によって中断させられていたが、あのレベルが違う機動はよく覚えている。

 

「【◼︎天機(てんき)◼︎ 赤月(あかつき)】……また名前バグってんな』

「うーん……まだ不完全とかか?」

 

 しかし名前はまだ一部が伏せられている。名前を知ればどうなるという話でもないが、伏せられてところにはどんな意味を持つ字が入るのかは気になるところだ。

 ついでにもう一つ気になるのは、妹様だけの変異ってことだ。前回は一夏も一緒だったのだが……考えるだけ無駄か。

 

「おい一夏、お前もちょっとやってみろよ』

「いや無理だって!」

「ギュギューッとした感覚がしたらドバーンってやるとできるぞ」

 

 説明も下手すぎて理解できそうにないし。

 あとは半身に比べてどれくらい性能が上がったかだ。最低でもこの敵に対抗できる何かは欲しいところだな。

 

「安心しろ。一瞬でも心配かけた分は存分に働いてみせる」

「言うなぁ。じゃあ早速その力を見せてもらおうか』

「いいとも、まずは……こいつだっ!」

 

 がしゃんがしゃんと展開装甲がスライドし、肩部のユニットがパージされ、大型のビットが形成される。

 【紅椿】の肩部ユニットは《穿千》というブラスターライフルに変形していたが、ビットにまでなる機能はなかったはず。これが【赤月】の新たな武装の一つというわけか。

 

「いけっ!」

「ッッグァ、ァァァ!?」

「おお、すげー火力』

「ビットなんて初めてのはずなのにあんな精密な動き……セシリア並みだ」

 

 壊れた認識でも妹様の脅威度はわかったのか。泥を集中させて襲わせる敵。

 しかしその全てを軽々と避け、お返しのレーザーが泥を焼く。

 当然のようにビットの操作中も一切動きを止めることはない。

 

「まだまだぁっ!」

「でかくなった!?」

 

 さらには両手に構えた《雨月》《空裂》をエネルギーの刃によって巨大化、そのまま斬撃も繰り出していた。

 こんなにやりたい放題すればすぐにエネルギー切れを起こしそうなものだが、それも妹様の全身から溢れ出る金色の粒子──『絢爛舞踏』によって使った側から補充されているらしい。

 

「もうチートかよ……』

「ぼさっとするな九十九! 私は助け方をよくわかっていないんだ、このまま倒しちゃっていいのかっ!?」

「完全にはダメだ! 俺が奴のコアの位置を特定するから、それまで一夏と泥を引きつけといてくれ!』

「了解した!」

「おう!」

 

 既に泥は二割方焼かれて機能を停止させている。その分脅威は減ってはいるが、もしやりすぎて本体がくたばったら元も子もない。

 さっきまでなかなか実行できなかった作戦も、手数が多く火力のある戦力が増えたのなら話は別だ。俺がコアの位置を探る間も十分に泥への対応ができる。

 早速泥の少ないところから敵の本体は近づき、分析を開始する。

 

「信号が弱いな。泥の操作に全機能回してんのか?』

「グァ、ヤメ、ロ……」

「うるせぇな、助けてやるんだから大人しくしろっての……『Venomic The End(暴毒命終)』」

「ギ!? ……ガ……」

 

 分析と同時に指先から打ち込まれたナノマシンが敵の身体を蝕んでいく。

 全体は不可能でも、狭い範囲──本体とその周りの僅かな泥ぐらいなら俺の単一仕様能力で容易に止めることができる。

 

「よし見つけた』

 

 分析完了。とりあえず妙な場所に埋まってなくて助かった。もし脳内とか出たら殺すしかないからな。

 一度本体から距離を取り、締めを担当する一夏に合図を送る。

 

「よっしゃ、俺の出番だなっ!」

「位置は鳩尾の少し下、壊すなよっ!」

「任せろっ!」

 

 自慢のスピードを阻む泥は減り、目標は定まった。瞬時加速によって突撃する【白式】の左手、《雪羅》がクローモードに変形する。

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!」

「うおおおおおおっっ!!!」

 

 白く光るクローがコアを守る僅かな装甲を突き破り、エネルギーを根こそぎ消滅させる。

 核を失った泥は一瞬動きを止めて、力なく崩れ、消えていく。

 

「ア……アア…………ア」

「やっぱり似てるなぁ……」

「ネエ、サン………」

「…………』

 

 敵の身を包む泥も消え去り、ようやく完全に素顔が拝める。そこにあるのは涙と汗でぐちゃぐちゃなことを除けば、俺たちがよく知る人物──織斑先生に似ていた。

 俺には大体原因はわかる。が、俺以外は知らない。だからここは黙っておこう。いずれ先生から説明されるだろうから。

 

「っと、これで作戦完了……だよな?」

「ああ、後は戻るだけだな……って、こいつお前にしがみついてないか?」

「本当だ。気絶してるのに……まあ攻撃されてるわけでもないしいいか」

「ああそう、コアは俺が持っておくよ。一緒にして何かあったらマズイからな』

「ん、じゃあ頼む」

 

 意識を失った敵を抱えた──妹様が変な顔で見てるが無視──一夏からエネルギーの抜けたコアを受け取り、拡張領域にしまっておく。これでもし奴が意識を取り戻しても安心だ。

 

「……すぅ」

「…………はぁ』

「どうした?」

「なーんでも』

 

 苦しみが消えたかのような寝息を立てる敵を見て、小さくため息を吐く。

 こいつは当分入院して、その後は独房生活だろうが、まず死ぬことはない。自身の目的は達することができなくても、誰かの思惑に乗せられて操られることもない。

 それが今の俺には、少しだけ羨ましく思えた。

 

「さあ急いで戻ろう。どうやら俺たちが一番最後らしいからな。連絡も来てる……あれ、篠ノ之さん?』

「う、うむ……」

 

 気を取り直して、たった今届いた()()のメッセージに目を通しながら二人に呼びかける。すると、またもや妹様の様子がおかしい。

 

「あっ」

「はぁっ!?」

 

 そして妹様が間抜けな声を発した瞬間、傷ひとつなかったはずの【赤月】は突然待機形態に戻り、生身となって宙に放り出される。

 

「わあああっ!?」

「せ、セーフ……」

「なんなんだマジで……』

 

 自由落下を開始しかけた妹様を一夏が掴み、間一髪落下死体の出来上がりは回避された。

 にしても強制解除とは、エネルギー切れなら気づくはずだし、突発的な変異のツケか? 何にせよ詳しく調べる必要がありそうだ。……束様から。

 

「篠ノ之さんは俺が抱えようか? 二人は持ちづらいだろ』

「うーん、じゃあそうす「私は一夏がいい」……いやそれは」

「一夏がいい」

「……よし帰ろう』

 

 勝利を喜び合いたいところだが、こんな状態ではハイタッチもできない。今までだってしたことないだろと言われたらまあその通りなんだけども。

 若干締まらない空気感のまま、俺たち三人と一人は皆の待つIS学園へと飛び立った。

 

 

 

 

 

「おかえりー」

「ただ今戻りまし……なんだこれ!?」

「ここ本当にIS学園か!?」

 

 戦いを終え、無事にIS学園に戻るとそこには荒地が広がっていた。

 座標に間違いはない。確か出発した時には簡易的に建てられた作戦本部やら機材やらが置いてあったはずなんだが、何故か周りの植物ごと吹き飛んでいる。

 いや、理由なんて聞くまでもないけど。

 

「……やったなぁ」

「やったんだ」

「やったのサ」

 

 織斑先生とアリーシャさん、待機のはずが妙にボロボロになっている二人がやり合ったとかそんなところだろう。報告書には適当な嘘でも書いてな。

 だがそんなことはどうでもいい。どんな決着だったかは知らないが、やけに晴れやかな顔が悪くない結果であったことを証明している。

 

「おかえりなさい。透くん」

「ただいまです。なんか髪焦げてませんか?」

「大変だったのよ……」

 

 出迎えてくれた楯無先輩からタオルとドリンクを受け取りつつ、若干髪が焦げていることに気づく。おそらく先輩の敵はスコールだったのだろう。あの火力ならこうなるのも頷ける。

 

「怪我はない? 私もうずうっと心配で……」

「はは……いつもすみません。今回は大丈夫でした」

「よかったぁ……!」

 

 何回も怪我してきたせいで心配されるのが当たり前になってるな。もう反動でやられることは無いんだけど。

 

「今日は盛大に打ち上げしましょう! 極秘だけど!」

「どっちなんですかねそれは……」

「だってうれしいんだもん! みんな無事だし、私が生徒会長の内に問題片付きそうだし!」

「……そうですか。それは……うん、よかったですね」

 

 興奮のあまり矛盾した発言が飛び出す先輩。こんなに喜んでいる姿を見るのは初めてかもしれない。

 それにしても片付きそう、か。なんというか……申し訳なくなってきたな。

 

「悪いが話は後にしてもらおう。まだ作戦は終わってないのでな」

「「は、はい!」」

「よし、では全員集まれ」

 

 このまま談笑を続けたかったところだが織斑先生の話が始まる。といっても今更新しく行動するわけでもなし、ただのまとめみたいなものだろう。

 それぞれ散らばって休んでいたメンバーがよろよろとこちらへ集まっていく。

 

「まずは全員、ご苦労だった。お前たちの尽力によりこの亡国機業掃討作戦を完遂することができた」

「「「…………」」」

「これにて一件落着……とはいかないが、亡国の戦力はかなり削ぐことができただろう。()()()()()

「もがー!!」

 

 話す先生の横にはばっちり拘束された亡国機業のメンバー。オータムだったかは気を失い、スコールは手足がもげているが、学園を裏切った先輩方は元気にこの待遇に抗議している。猿轡噛まされてて何言ってるのかわからないが。

 俺たちが戦った敵──エムも後ろで拘束されている。あの分だと意識を取り戻すのはいつになるやら。

 

「以降はこいつらからの情報を利用して対抗することができる。どれだけ聞き出せるかは尋問次第だがな」

「拷問の間違いでは?」

「……お前が思い浮かべてるようなことはしない」

 

 ドイツ軍直伝の拷問技術とかないのかなと思ったが、そこまで酷いことはしないらしい。

 

「本来ならば、私たち大人だけで何とかするべきだったのだがな……。お前たち生徒に任せてしまったことは本当に申し訳ないと思っている」

「いいんだよ千冬姉! 俺たちが通うIS学園のためだ。教師も生徒も関係ないって!」

「ありがとう一夏……それと、織斑先生だ」

「おぶっ!」

 

 せっかくいいこと言ったのに出席簿アタック(どこに隠してたのか)を食らう一夏。だがこれは叱責ではなく、照れ隠しのせいだろう。だって一夏って言っちゃってるし。

 

「いってぇ……」

「誰一人欠けることなく、無事に帰ってこれたことを嬉しく思う」

「先生……!」

「ではこの後メディカルチェック、詳細レポート、メンテナンスを経て作戦終了とする。以上!」

「うへぇ……」

 

 いい感じになった空気一瞬で吹き飛んだわ。他のメンバーもこの後のこと──特に詳細レポート──が嫌で嫌で仕方がないと言った表情をしている。

 ……まあ俺には、そんなもの関係ないが。

 

 さて。

 

「先生。敵から奪ったISコアなんですが……」

「ああ、今は私が預かっている。お前が持っている分も渡してくれ」

「了解です、今出しますね……と言いたいんですが」

「は?」

「え?」

 

 惚けた表情で俺を見る先生と一夏たち。きっとこれから起こることなんて予想すらしていなかっただろう。

 

 

 ぱきん。

 

 

「起きろ、『ゴーレムⅢ』」

「!? 全員逃げっ──」

「もう遅い」

 

 懐から取り出したのは休眠状態のコア四つ。間髪入れずに全て起動し、一瞬にして無人機四体が俺の周りに現れる。

 その内の一体が、ちょうど手の届く範囲で最も無防備な人間──妹様を掴んで人質にする。

 もう止まれない。これが俺の選択だから。

 

「ぁぐっ!?」

「箒っ!」

「さぁ、そのコア全部渡してもらいましょうか。先生?」

 

 IS学園を裏切って、『世界の敵』になる。

 

 

 

 

「貴様いつからっ……」

「さぁね。はじめからか、ついさっきか……どう思います?」

 

 『いつから』『裏切っていた』その問いにはこう答えざるを得ない。少なくともここに戻ってくるまでは学園の味方だったが、こうなることも決まっていた。いっそ俺が教えてほしいぐらいだ。

 

「どういうことだよ透!? 冗談だろ!?」

「マジなんだなぁこれが。全く最悪だよな」

「そんなっ……」

「嘘よ……」

 

 そんな希望を持たれても、悲観した目で見られても、俺が今こうして皆んなを脅していることは変わらない。大人しく受け入れて、敵と見做してくれ。

 ……そういう俺も、受け入れたくなんかなかったけど。

 

「俺の要求は二つ。まず一つ目はその亡国から回収したISコアを全て俺に渡してください」

 

 一つ目は簡単だ。織斑先生が持っているであろうコアを俺に渡して、それで終わり。すぐに終わらせられる要求だ。

 

「渡さなければ、どうなる……?」

「そうですねぇ。その場合は……おい」

「──、────」

「あうっ……」

 

 軽く無人機に指示を出すと、たった今捕らえた妹様を見せつけるように掲げる。

 傷はつかないようにしているが、それでも強い力で押さえ込まれた彼女が苦しみ、呻く。

 

「篠ノ之さんの顔面でも剥がしましょうか。これぐらいなら死なないでしょう」

「ひっ……」

「ふざけんな! こんなっ──」

「それ以上近づけば目を抉らせる。どれだけお前が速かろうと、片目ぐらいはできるぜ」

「っ! ……くそっ!」

 

 この人質は見栄や建前で確保したものじゃない。情の深いこいつらなら大丈夫だろうが、もしもの時は本気でやる。後で束様には怒られるだろうが知ったこっちゃない。

 自分じゃわからないけど、俺の雰囲気で本気ということを悟ったのか全員の動きが止まる。

 

「長引くのも何ですし、十秒待つごとに指を潰すことにしましょう。どうします?」

「ぐっ……わかった、渡す。だからっ……」

「懇願する前にコアを渡せ」

「……受け取れっ」

「っと、どうも」

 

 条件を上乗せ。これで考える時間は与えない。我ながら非道いやり方だと思うよ。

 無事に投げ渡されたケースを開き、中身を確認する。

 

「ひぃ、ふぅ、みぃ、俺のと合わせて四。あと一つ足りないな……」

「それは……」

「誤魔化したわけじゃないんでしょ。知ってますよ……()()()でしょ?」

「があっ!?」

 

 無人機の一体が転がされていたスコールを引き寄せ、比較的傷のない腹に鋭く指を突き立てる。肉と鉄がかき混ぜられるような音を立て、目当てのものを探る。

 

「ぐふっ……ぁ、あ……」

「あったあった。手足がないと抵抗が無くて助かる……ああ、こいつはもう用済みなんで。急いで手当てすれば助かるんじゃないですか?」

 

 引き抜かれた手には血に濡れたISコア。生体同期型なのはスキャンした時にはわかっていたからな。取り出しやすい位置にあってよかった。こんなところで殺しはしたくないんでね。

 虫の息になったスコールを投げ捨て、これでやっと一つ目の要求が達成された。そして──

 

「もういいだろ! 箒を放せよ!」

「残念それも無理だ。だって二つ目は()()なんだから」

「え……?」

 

 二つ目はもう達成されている。本来はどうにか無力化してから捕まえる予定だったが、偶然勝手に無力化されていて、しかも近くにいたものだから実に都合がよかった。念のため俺の損傷は控えめにしていたが、もし全員とやり合うなんてことになったら間違いなく負けてるからな。

 

「さぁ篠ノ之さん。君にはちょっと寝ててもらうよ」

「やめろっ……う、ぅ……」

「アンタ何したの!?」

「即効性の麻酔だよ。ほんの数時間寝てもらうだけさ……じゃあ、そういうことで」

 

 目的を達すればもう長居する必要はない。すればするほど嫌になるから。

 温存しておいた分ほとんどダメージのない【VenoMillion】を展開し、妹様を抱えた無人機を連れて逃げる態勢に入る。

 

「待ってよ透くん! こんな、あっさり……」

「……すみません。でも、決めたことなんです」

 

 一線は超えた。今更やめることなんて出来やしない。

 例え何と言われようと、罪悪感で心が痛もうと。

 

「はぁ……最悪」

「だめっ、待って!」

「言っても無駄でしょうが、どうか抗わないで。……もう二度と会わないことを願ってます」

「いやっ……あああああーーーーっ!!!」

「さよなら」

 

 そして引き留める先輩を振り返ることなく、俺は学園を去った。

 深い後悔を残して。

 

 

 

 

 

「ふんふーん、ふふふーん」

「…………」

「お、来たねぇ」

 

 薄暗い部屋の中。鼻歌混じりに幾つものモニターを操作する一人の女、篠ノ之束(わたし)は入室してきた者の気配を感じて振り返る。

 

「まあ座りなよ。箒ちゃんはこっち乗せといて」

「……はい」

 

 彼が抱えた少女──箒ちゃんは適当に作った寝床へ乗せ、彼はこれまた適当に作った椅子に座らせた。

 

「まずはお疲れ様。要求通り……いやそれ以上だね。120点あげよう」

「……そうですか」

「もっと喜べばいいのに。私がここまで褒めることなんてそうないよ?」

「どうだっていいですよ。そんなことで喜べるような面に見えますか?」

「ふーん……まあいいや」

 

 つまらない返答が返ってきたことに心の中で減点しつつも、『ちょっと拗ねてるのだろう。思春期だし』という考察で納得する。

 それに私しても、彼が喜ぶか否かなんてどうだっていいことだ。

 

「君を拾って、育てて、ISを与えて、学園に送って……本当に長かった。けどこれでようやく、その手間と時間が報われたね」

「……保険(スペア)まで用意していたくせに、よく言いますよ」

「あはは、確かに。でもまぁ、結局あっちは期待外れだったなぁ……一応役には立ったけど。もったいない精神は大事だね」

 

 偶然見つけて、彼より元の出来は良さそうだったから使ってみたが……結果は見事に失敗。

 まさか形態移行すらできないなんて。ちょっとばかり多めに突っ込んでやっただけだというのに、まさに『器』でないという表現がピッタリだ。

 

「やっぱり君じゃなきゃ。君こそ世界の敵の器足りえる、唯一の存在だ」

「……敵だろうか味方だろうが、生きるためならなんだってやりますよ。全くもって不本意ですがね」

「賢い選択だね。そういうところは好きだよ」

 

 嘘じゃない。本当のこと。ただしこれは恋愛なんて薄っぺらな感情などではではなく、道具への愛着に過ぎない。

 濁った目でこちらを見据える彼に向き直り、今一度賞賛を込めた出迎えの言葉を告げる。

 

「──おかえりなさい。とーくん(私の右腕)

「……はい。束様」

 

 さあ、次の計画を進めよう──

 

「……ふふふっ」

 

 ──『正しい世界』のために。

 

 

 

 

第54話「救助・帰還」

 

 

 

 




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