「よし、全員集まったな」
「「「…………」」」
あの日から二週間が経とうとする頃、もはや極秘の作戦ではお決まりとかした学園地下区画のオペレーションルームに専用機持ちが集められた。
「今日集まってもらったのは他でもない、篠ノ之と九十九の居場所についてだ」
「見つかったんですか!?」
「一体どこに……いやどうやって?」
「それは今から説明する。
「一夏さんが?」
頭の中に疑問符を浮かべながら、千冬の隣に立つ一夏を見る専用機持ち。
自分たちや学園の教員部隊がどれだけ探しても見つけられなかった二人の居場所。それをようやく発見できたのはいいが、一夏が説明する理由がわからない。
「まずはこれを見てくれ」
一夏が右腕につけられた
「みんなが招集される少し前、俺の【白式】にこの信号が送られてきた。太平洋上のこのポイントに、箒がいる」
「……本当に? 今リヴァイヴも同じポイントに合わせてみたけど、何も出てないよ」
「ああ、学園の調査でも何もなかった。衛星から見ても、そこにあるのは海水だけだ」
各々のISが調べても、そこに広がるのはただの海面。まして衛星ですら同じ結果ならば、とてもこの信号が箒の居場所を示している確証など持てない。
「だが、それこそが逆に篠ノ之がいる証拠と考えられる」
「!」
「束は【紅椿】と【白式】、さらに言えば篠ノ之と織斑がセットであるということを強調していた。どうにかして二人を揃えたがっていること間違いない」
「ということは……」
「ああ、
捕らえた獲物を使って、更なる目的を釣り出す。
本来であれば無視するべきだ。敵の目的が二人を揃えることなら、一夏を行かせなければ達成されることはない。このまま待っていてもいつか来るだろうとはいえ、太平洋上というロクな支援も望まない場所に向かうよりはずっといい。
「罠でもいい。箒がそこにいるなら、俺は絶対に行く」
「……意気込みだけはあるようだが、一人でどうする気──」
「一人じゃありません。私も行きますから」
「楯無さん……!」
一夏を止めようとする千冬を遮って、楯無が声を上げる。罠であると知りながら、自らも出るという決意。
「篠ノ之さんがいるってことは、透くんがいる可能性もあるでしょう? もし彼と戦うことになるのなら、彼をよく知る私も出るべきです」
「それはそうだが……」
「わ、私も出ます……! 現場でのサポートは必要かと……!」
「更識簪、お前まで……」
続いて簪も参加を表明。確かに言い分は間違っていないが、実際どうにかついていくための方便であることは千冬には見抜けた。
「あたしも! あいつぶん殴ってやるから!」
「わたくしも! お二人にはそれぞれ借りがございますの」
「ぼくも! 黙って見てるなんてできないよ!」
「私もです! 欠片でも可能性があるのならば!」
「みんな……!」
次々と名乗りを上げる専用機持ち。ついには全員が参加することとなった。
それぞれ口にする理由は異なっても、箒を助け、透を殴りたい気持ちが伝わる。思わず一夏の目頭が熱くなった。
「「「「それに一夏放っておけないから!」」」」
「みんな……」
そして一瞬で冷めた。そんなに自分は頼りなく見えるのだろうか、と一人若干ズレた不満を抱く。
しかし、これでもう一人ではなくなった。
「……止めても無駄、か。いいだろう、ではこれより、篠ノ之箒救出作戦を開始する! 参加者は各自機体及び装備の点検を三十分後の出撃までに全て済ませろ!」
「「「はい!」」」
決意した表情で号令をかける千冬と、威勢よく返事をする専用機持ち。戦いの時は刻一刻と迫る中、全員が慌ただしく準備を始める。
「
「箒、今行くからな!」
「透くん……待ってなさい!」
「よし、各機発進!」
救出、怒り、悲しみ、疑問。それぞれの想いを抱いて七人は飛び立つ。
「さぁお仕事の時間だよ。準備はいいかい? とーくん、【赤月】」
「いつでも」
『────』
「うんうん。それじゃあ……いってらっしゃい」
その先に待つ出来事も知らずに。
「止まって!」
「どうした、異常か?」
「うん。姿は隠してあるけど、下に大きい何かがあって……誰かいる!」
「何だって!?」
学園から目標ポイントまで半分を過ぎたというところ。見渡す限りの海の上で、簪が静止をかける。
どう見てもただひたすらに青い海が広がっている中に、【打鉄弐式】のセンサーは巨大な影と、そこに立つ何者かを捉えている。
「さすが、いい探知機能を持っているじゃないか。なぁ、簪?」
「! この声は!?」
一瞬。青い海の一点が揺らぎ、そこにいた何者かを覆う
手が、足が、顔が、隠していた全身が目に見え、その正体を明かす。
「透……!」
「よう。元気してたか?」
裏切り者、九十九透がいた。
「よく来た……いや、
「そんなことを言われて大人しくしているわけがないでしょう?」
「箒を返してもらうよ!」
「はっ、やっぱりそんな理由か。仲間思いで……実に愚かだ」
「お前……っ」
呆れた様子でため息を吐き、挑発するような言葉をかける。一瞬それに乗りかけた一夏だが、こんなところで怒っている場合ではないと頭を冷やす。
「今はお前に構っている暇はない。箒はこの先にいるんだろ? 通してもらう」
「せっかちなやつだ……まあ正解。篠ノ之さんはこの先だよ」
「なら……」
「おいおい、こうしてわざわざ姿を現したってのに、素直にお前たちを通すと思うか?」
「……でしょうね」
当然、顔を見せたのはただ再開を喜ぶためではない。篠ノ之束の命令通り、全員とここで戦うためにいる。
「さぁ出てこい
「──、────」
「──」
「下からっ!?」
「こいつ、どこかで……」
透が軽く指を鳴らした瞬間、青い海が広がっていた彼の足元に真っ黒いフロートが出現。フロートにはあちらこちらに穴が開いており、そこからわらわらと無人機が漆で塗られたような黒い無人機が飛び出す。
それはまるで外敵を察知した働き蟻のように。
「無人機かっ!」
「ああ、こいつらは【
「名前なんてどうだっていいわよ……それよりもこの数、いつの間に……!」
「だから蟻なんだよー。まあ、数の分個の性能は大したことないし、特殊機能もないが」
【漆機蟻】を細かく見ていくと、武装は右腕のブレードと、左腕のにある小型の機関銃のみ。今までの無人機にあった高出力ビーム兵器は見当たらない。
単体の脅威度は始めて戦った無人機にも劣る。この人数であれば、透込みでも何とか対処しきれるはず……と透を除く全員が思った、その瞬間。
「だけど、そうは問屋は卸さない」
「──何!? 出力がっ……」
「異常はなかった、どうして急に……」
突然、専用機持ち
出撃前は、急な準備だったとは言え完璧な状態にしていたはずだ。仮に整備不良があっても六人同時にその影響が出るなんて偶然はあり得ない。何か人為的な、別の力が働いている。
「《
「……ああ、そうみたいだな」
学園側のISで唯一、コードの影響下に無いのは【白式】だけ。つまり一夏だけは全開で動くことができる。
また、【Bug】と【漆機蟻】は束から特別に対象外となるためのプログラムをインストールされて無効化している。
「ちなみに使ってるのは俺じゃない。俺にそんな権限は無いからな……『レッド』で察しはつくだろう?」
「……箒さんですわね」
「正解。つまり発生源はこの先で、止めるならそこまでいくしかない……どうする? 帰るなら今のうちだぜ?」
「くそっ……」
箒がいるのは透の後方数百キロ先。ISならば出力が低下していてもそう時間はかからないが、この無人機を振り切って行くのはかなり厳しい。
では全て倒してから行くか、それも厳しいだろう。性能差というアドバンテージを失い、更に相手は全開。形成は一気に不利へと傾いた。
なら、ここでするべき判断は一つ。
「一夏、先に行って!」
「シャル!?」
「これぐらい、わたくしたちでどうにかしますわ!」
「代表候補生舐めんじゃないわよ!」
「嫁は少しでも消耗を抑えるんだ、いいな!」
「みんな……」
一夏がまだ全快のうちに、余計なダメージを負う前に、一刻も早く箒の元へ行かせること。
この戦いの目的は無人機を破壊することでも、透を倒すことでもない。箒をを取り戻すことだ。全てできれば最高だが、最も重要なことを忘れてはならない。
「っ……すまん。ここは任せたっ!」
「──……」
「おい……行っちゃったか」
素早く敵の間をすり抜けて先へ行く一夏。無人機はそれを追う素振りも見せず、透もまた何か言いかけるだけに留まった。
「透っ! あなたの相手は」
「私たちよっ!」
「……あーあ」
透と対峙するのは簪と楯無。最も透の性格を知る二人が武器を構える。
残りの四人は大量の無人機の相手を。数は圧倒的に負けているが、今日までつるんできた四人の連携でその差を埋める計算だ。
「知りませんよ、どうなっても……」
黒い光が全身を包む。手に、足に、胸に、背に。集まった粒子は装甲へと変化し、ISを形作る。
そこには全てを黒で染め上げ、『
「……【
「──っ、行くわよっ!」
「叩き潰す』
そして、戦いの幕が切って落とされた。
「ふっ!』
「きゃあっ!?」
「お姉ちゃんっ!」
「ははははっ。あなたでもデバフがかかればこんなもんですか、楯無先輩っ!』
突き出された槍を弾き、尾の薙ぎ払いで返す。
待ち構えたポイントに皆が来て、戦闘を開始して数分。戦況は極めて優勢だ。
お互い
「──!」
「ちょっ……こいつらっ!」
「見えてるのにっ、なんてことないはずなのに……!」
「動きが、ついてこない……」
万全の状態なら余裕の敵ですらかなりの苦戦を強いられている。敵に回すと恐ろしいコードだ、味方の俺には嬉しいがな。
とはいえ、あまりこの状況に胡座をかいてはいられない。なぜなら──
「──今っ!」
「うおっ……と、さすが、もう対応しつつある」
蛇腹剣に持ち替えての斬撃を体を捩って躱す。危ない危ない。
こんな具合に、その内慣れてくるからだ。このコードは出力を強制的にダウンさせる効果を持つ。逆にいえば、その影響は出力だけ。俺の『
つまり低出力に合わせた動きをすれば、ある程度はカバーできるというわけだ。
「それでも、すぐに全員が対応できるわけじゃないっ!』
「くううっ!」
「簪ちゃんっ……このっ!」
「無駄だっ!』
「っぐ!?」
例えば簪。開始直後に比べれば幾分かマシだが、それでもいつもの調子には程遠い。だからこんな風に、正面からの一撃も避けきれなかった。
それは他のメンバーも同様。代表と、代表候補の差が出てきたな。
「……教えて」
「ん? 何をです?』
「どうして私たちを裏切ったの!? 箒ちゃんを攫って、篠ノ之博士に従って、あなたたちは何をするつもりなのっ!?」
「……あー……』
ここでその質問か。どうしたものか……どうせいつかはわかることだし、口止めもされていないかったな……うん、いいだろう。
一夏も向こうに到着したころだ。まだ時間を稼ぐ必要はあるが、少し話をすれば十分。余計に動かせなければ出力低下に慣れることもない。
ついでに
「止め』
「────」
「え……?」
「止まっ……た?」
どうせなら全員に聞いてもらおう。静止の命令をかけると、【漆機蟻】は速やかに動きを止める。忠実な機械だ。
突然の戦闘中断に困惑している様子だが、話に付き合ってもらおう。
「さて、どこから話したものか……とりあえず
そう。世界中で俺しか……いやひょっとしたら織斑先生あたりに言ってるかもしれないが、とにかくほんの数人しか知らない、篠ノ之束の最終目的。
「簡潔に言えば、あの人が目指しているのは『神話の創造』及び『世界平和』の実現だ』
「は……神話を、創造……?」
「それに世界平和って……何それ冗談?」
「まさか、本気に決まってるだろ? 言葉通りの世界平和だよ』
疑うのも無理はない。俺だってそうだったから。神話に世界平和だなんて、今日日小学生でもこんな夢は持たない。
あまりに巨大で、抽象的で、現実味のない目的。それでも、束様は本気だ。
「まあそれだけ聞かされても意味がわからないだろうし、補足説明もしてやるよ。全部は言わないが』
例の紙束に記された数々の計画。創造される神話とその先に実現されるであろう世界平和の形を語る。少しでも理解してもらわないと、後の話もできないからな。
「順番が前後するけど、まずあの人が目指す『世界平和』とは『全世界のISによる管理』を指している。……この意味、わかる?』
「……国の運営をISにさせるってこと?」
「正確に言えば国家なんて物は形だけにして、別の区切りで管理するみたいですけど。政治、軍事、経済、その他諸々……今の穴だらけの体制を、全てISに担わせる。そしてISはあの人が統制するわけだから、実質世界征服も兼ねているわけか』
人が運営する国家は、その中枢に立つ人間によって大きな影響を受ける。俺自身今の政治がどうだのと言うつもりはないが、その点は間違いないと思う。
そしてその影響は、利益を産めば争いも産む。そうやって、歴史では何度も醜い争いを繰り返してきた。
「だがISを通したあの人の管理下ならば、そんな争いは起こらない。起こさせない。あの人とISならそれができる』
「でも、それは独裁と一緒じゃない!」
「さぁどうかな。そもそも独裁が悪だと言うのは、過去の歴史から学んだ今の人間の主観なわけで……実際にこの計画が実現されればどうなるかなんて、誰にもわからない』
否定する気持ちはよくわかる。もしこれが篠ノ之束の発案でなく、駅前でメガホン持って騒ぐ怪しい団体であれば、今すぐ精神科を勧めている。
さて、『世界平和』の形はこんな物でいいだろう。
「次は神話。と言ってもこれは計画の流れをそれっぽく言い換えただけで、人々に管理を受け入れ易くする以外に大した意味はないんだけど』
「…………」
「『突如現れた怪物よってもたらされた世界の危機。有象無象の
「……まるでクソ映画だね」
「俺もそう思う』
これが映画館で上映されて、公開初日に見ていたらポップコーンを投げているところだ。最低のマッチポンプ、あの人にはそう言う才能はないのかもしれない。
「陳腐な
しかし、これが現実となれば、裏側を知らなければ? 信じて従う人間も、信じなくとも従う人間も数多くいるだろう。大衆とは馬鹿なのだから。
「ちなみに、有象無象の天使がそこらの雑魚IS。選ばれし二柱の神役が一夏と篠ノ之さん、怪物役が……俺だ。名演技しなきゃな』
「……随分軽く仰いますのね。世界中から憎まれるであろう存在になるというのに」
「今更なんでなぁ』
大衆に好かれようなんてこれっぽっちも願っちゃいない。どれだけ憎まれて、蔑まれて、討たれるような
「ああそう、ISは例外除いて全機傀儡化しますよ。人の意思は邪魔だそうなので』
「……では操縦者は人柱ってことですの? 無人機だっているでしょうに、何人もの犠牲を出してまで世界平和だなんて……」
「そこは神話っぽく『依代』と言って欲しいなぁ。もしくは『大いなる礎』とか。……それに、無人機じゃダメだ。ISがその能力を発揮するには、どうしても人間が必要になる』
あの人が言うには、人間の脳の構造がコアに与える影響がどうとか。本来女性しかISを起動できないのもそれがどうとか言っていたが、専門でもなければ直接関係もないので聞き流した知識だ。
説明はこれくらいでいいか、次はこっちが聞く番だ。
「そこでだ、お前らに提案したい』
「提案?」
「勧誘さ。どうだ、お前ら全員、こっち側に来ないか?』
「あ……あんた何言ってんの!?」
悪くない提案だと思うんだが。まあこれであっさり乗る例なんて見たことないけどな。
……もう少し攻めてみるか。
「このままじゃお前らも傀儡にされる。元とは言え仲間がそんなことになるのは悲しいことだ。でもこちら側に来れば、もしかすれば傀儡にならなくても済むかもしれない……』
「バッカじゃないの、結局言いなりにされるのは変わらないじゃない。誰が乗るもんですか」
「もう少しセールスの勉強したらどうです?」
「ちょっと……下手だね」
「そもそもお前が私にそんな情かけてなかっただろうが、アホめ」
「あー……確かに』
言われてみれば、まあ少し仲良さげに振る舞っておくべきだったか……いや、あれ以上面倒事が増えてる生活とか絶対嫌だな。
この四人はまあいい。それよりもまだ二人、答えを聞いていない。
「後は簪と楯無先輩、どうします?』
「行くわけないでしょ、第一こっちは透をしばいて連れて帰るんだから」
「……う、うん。行かないわ」
「……そうか、残念だ。』
断られたか……本当に残念だが、仕方ないな。普通は受け入れるわけがない。
これ以上の勧誘は無意味だが、あともう少し時間を稼いでおきたいな。
「待って!」
「……まだ何か?』
戦闘を再開するために【漆機蟻】にかけていた待機命令を解除しようとしたその時。楯無先輩によって再び待ったがかけられる。
あっちも時間稼ぎか? 別にこっちが消耗しないで済むのなら構わないがな。
「理解はできないけど、篠ノ之博士の目的はわかったわ。でも、透くんがそれに協力する理由がわからない。いくら命の恩人だとしても、今までのあなたなら絶対に拒否しているはずよ」
「あー……、そこまで気づかなくたっていいのに……』
確かにそうだ。学園にいた頃の俺ならば、神話だの世界平和だのというものに手を貸すはずがなかった。実際理解者ぶって説明した今も100%賛同しているわけじゃないし、できることなら今すぐ抜けている。
でもそれはできないんだ。だって、俺は。
「……もしも俺があの人の下を離れて、IS学園で仲良くやっていた場合……俺の寿命はあと一ヶ月だ』
「……え?」
「いっか……げつ? 透が?」
「……ああ、正確には数日ずれるだろうけど。大体そんなところだ』
そりゃあ驚くだろう。だって元気に──少々欠損があるが──目の前にいるやつが、いきなり寿命が一ヶ月なんて言い出したのだから。
だがこれは紛れもない事実なんだ。
「俺の右腕がどうなってるか知ってるだろ? 原因の説明は省くが、再生力が暴走して起きたことだ。そして暴走は止まってない』
「じゃあ、それで……」
「その通り。この前までは精々見た目の問題で収まったたけど、いずれは体内、心臓や肺とかの重要臓器に致命的な異常が発生する。その猶予が一月だ』
「嘘……」
「本当だよ。一番受け入れたくないのは俺だが』
俺も嘘だと思いたかった。たちの悪い冗談だと。でもこれを計算したのは束様で、あの人はこんな嘘はつかない。
「今はあの人が作った薬で無理矢理再生力を抑えてるから、毎日飲み続けている限りは問題ない。逆に飲まなければ……ってわけ』
「説明は省くってことは、原因はわかってるんでしょう!? すぐに病院に行けばきっと……」
「無理ですよ。そう簡単な治療じゃない……そもそも俺を治せて、かつ信頼できる医療機関がどこにあります?』
「っ、それは……」
「でもあの人に従えば確実な治療を受けられる。俺はそう約束したし、それしか信じられない』
日本中、いや世界中のどこを探しても、確実に信頼ができる機関なんてない。精々失敗したとか適当な理由をつけて、解体されて実験材料になるのがオチだ。そもそも胸の機械を取り外す技術があるのかも怪しい。
だから俺はこちら側を選んだ。1%でも高い生存率に縋って。
「そんな……それじゃあ、私は……」
「同情でもしてます? いりませんよそんなの』
「透! そんな言い方……」
「じゃあ何だ、『わー俺ってばかわいそー』って態度でも取るか?』
「このっ……!」
情なんてかけられたところで一秒も延命されない。無駄でしかない。
……話し過ぎた。今から向かえば
「……もういいでしょう。俺は行きます』
「ま、待ちなさい! 待って!」
「いいや待たない──やれ』
「──!」
飛び去る俺と、追おうとした先輩の間に割り込む【漆機蟻】。ダラダラと話す間に用意しておいた追加も含めて一斉再起動だ。ここからはこいつらだけで足止めをしてもらう。
……所詮雑魚だし、慣れればすぐに倒されるだろうけど。
「待って透くん! このっ、どきなさいっ!」
「ふざけんなぁっ! あーもう邪魔っ!」
「……無駄を承知でもう一度言うけど、『追ってくるな』……じゃあな』
これ以上構ってはいられない。もし遅れたりなんかしたら計画が台無しだ。
後ろで叫ぶ声を無視して、目標へ飛び立つ。
さあ、選ばれし神に会いに行こう。
第57話「信号・
赤ちゃんだから執筆ペースわかんなくなっちゃった(進捗300)