【完結】害虫生存戦略   作:エルゴ

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 いくらなんでも寒すぎませんか? 地球温暖化とかなんかわるい組織の陰謀だろと思ったので初投稿です。


第60話「白界・敗走」

 

 

 

 

 

「えーと、どこだここ……?」

 

 上下左右どこをどこまで見渡しても真っ白い謎の空間。足元には影も無く、聞こえるのは自分から出た音だけ。

 

「みんなはどこだ? 俺だけしかいないのか? ……おーい」

 

 ついさっきまで目の前にいたはずの仲間たち。アリーナまで競走しようと駆け出していたその姿は影も形もない。

 あちこちに呼びかけてみても、返ってくるのは静寂だけだった。

 

「……あっち行ってみるか」

『待って』

 

 立ち止まっていても仕方がない。とりあえず適当に一歩踏み出そうとした時、背後から声がかかる。

 これはここに来る前に聞いたのと同じ声。今といいさっきといい、直接姿を見せないで話しかける癖でもあるのだろうか。

 

「……あ、君は!?」

『こんにちは』

 

 後ろにいたのは一人の少女。白い髪に白いワンピースを着た、かつて一度だけ見た彼女が立っていた。

 どうりで声に聞き覚えがあるような気がしたんだ。そう、あれは臨海学校の時。【銀の福音】に撃墜された後、砂浜と海が広がる不思議な空間で歌っていたあの子。

 

『久しぶり、一夏』

「ああ、久しぶり……ってほど関わったことあるっけ?」

()()()()()、一夏は知らないみたいだけど』

「?」

 

 不思議なことを言う。確か前に見た時は歌って歩いて、空を眺めていたのを見ていたぐらいだと言うのに。

 その後はいきなりこの子が消えて、千冬姉みたいな人と話してから目覚めて──ああ! 思い出したっ!

 

「俺はさっきまで戦ってた! そしてあと少しのところで、後ろから……」

『やっと思い出せたね』

 

 箒を助けるために透と戦って、やっとの思いでとどめの一撃を決められると思った瞬間。後ろから何かをされて俺は気を失った。つまりそれから見ていた学園での生活は夢ってことか?

 

『「たのしい学園生活」ならただの夢だよ。ほら、前にも似たようなことがみんなに起こってたでしょ?』

「……あれか、俺までかけられる側になるとは」

 

 専用機持ちを幸せな(基準は不明)夢に閉じ込め、今は箒を悪夢に捕らえている力。まさかあの一瞬で俺もかけられていたなんて。

 ……俺を捕らえた夢。今でこそ透がいないという違和感を感じるが、もしあの中にいたままだったら、きっとその違和感も気のせいで終わらせていたかもしれない。それ以外は何一ついつもの日常と変わらない……俺一人で抜け出せただろうか。

 

「君が助けてくれたんだな……ありがとう」

『んーん。一夏を助ける、それが私の()()だから』

「役目って?」

『今は考えなくていいよ』

「えーと……わかった」

 

 つまり夢の中で声をかけてくれたこの子は俺を助けてくれたわけだ。小さな小さな声で、必死に呼びかけてくれた……本当にありがたい。

 役目とやらも気になるが、それよりも先に現状を知らなければならない。さっきのが夢なら、ここはどこだ?

 

「じゃあ、こっちは?」

『ここは夢のようで夢じゃない場所。一夏と私の心が重なる場所』

「……?」

『そのうちわかるよ。とにかく着いてきて』

「あ、ああ……」

 

 そのまま方角も分からず歩き続けること……どれくらい経ったのだろう。なにせどれだけ歩こうが景色はまるで変わらず、足は疲れない。現実ではないからだろうか。

 

『着いた、ここだよ』

「着いたって……何もないじゃないか」

『あるの。ほらここ、ここに触れてみて』

「いや、そこには何も……」

 

 不意に歩みを止めた少女が空中に指を差す。しかしそこには何もなく、その先どれだけ延長しても先ほどと何も変わらない真っ白な空間があるばかり。

 もしかして俺は揶揄われているのだろうか、着いてきたのは間違いだったかと思いつつ、言われるがまま手を差し出す。

 

「っ、え!? 何かある!」

『そのまま、ぐぐーっと開いちゃって』

「お? お、おおお……」

 

 予想に反してぐにゃぐにゃした柔らかいものが触れる。それは指先を程度の小さな穴から少しずつ広がり、人一人が容易に通り抜けられるような裂け目に変わった。

 

「ここに入るのか?」

『頭だけね、ほら早く』

「うわっ!? わかったから押すな!」

 

 入って大丈夫なのかすら確認する暇もなく、強引に裂け目の中へと押し込まれる。

 頭を突っ込むとこことは対照的に真っ黒い空間が広がっていて、奥にはまた何かが見える。そのまま奥に目を凝らすと……そこには見知った少女がいた。

 

「箒!?」

「────」

「聞こえるかっ! 俺だ!」

「────」

「駄目か……!」

 

 どこまでも続く闇の中には刀を握る箒が立っていた。その刃と全身を赤く染めて。

 こちらの声は聞こえていないのかなんの反応も示さない。ただ虚空を見つめているばかりだ。

 

『足元見てごらん、ほら』

「あれは、俺の……死体? てことはやはり!」

『……ここは篠ノ之箒の心の世界。今は、強制的に一夏と殺し合いを繰り返す悪夢に染められてる』

「なんてことを……!」

 

 大体の想像はついていた。だからあんなに狂っていたのだろうと。けれどまさか、ここまでその通りになってるとは思いもしなかった。

 

「──! ァ──」

「──動き出した!?」

 

 ぐちゃぐちゃと肉と骨が蠢く音が響き、足元の死体が動き出す。人の形は戻った死体はどこからか刀を取り出した。

 それを見て一瞬怯えて逃げ出そうとした箒は、見えない力で強制的に構えを取らされる。

 何度もこうして繰り返したのだろうか、殺して、殺されて、ずっと、ずっと──

 

「くそっ! 箒っ! 離せよ!」

『駄目』

 

 許せない、止めてやらないと。そう思って全身を裂け目に突っ込もうとするが、上半身が入ったところで後ろから思い切り引っ張られてしまう。

 小柄な見た目からは考えられない力で全身を引き戻されると、裂け目は一瞬にして無に戻ってしまった。

 

「何で止めた? 見てるだけにしろってことか!」

『今は見ることしかできないの。声すら届かなかったでしょ? あのまま入っても触れることすらできないし、最悪戻れなくなる』

「じゃあどうすれば……」

『それを今から説明するの!』

「ご、ごめん……」

 

 こんな小さな女の子に叱られるなんて情けない。あまりに焦りすぎて思慮が足りなくなっていた。

 この空間は俺にはわからないことだらけ。素直に従っておくべきだったんだ。

 

『いい? 今一夏が見た篠ノ之箒の心は、言うなれば立体映像。それを見ている者は、何をしたって本体には干渉できないの』

「……なら、立体映像じゃない、本体が別に存在すると?」

『そう。でもそれはここからじゃ届かない。現実()から特別な力を使って初めて干渉できるようになる』

「《権能行使(コード):皇の白(ホワイト)》、みたいな?」

『うん』

 

 透の邪魔が入る前に俺が狙っていたこと、《権能(コード)》を利用したデータの消去……あの時は半分賭けであったが、この子の言うことを信じるならそれで正解だったわけか。

 

「けれど、今はどうすればいいんだ? 俺まで夢の中じゃどうしようもないのでは……」

『ううん。『これは夢』という自覚さえあれば、覚めることだけは簡単だよ。みんなのを見た経験のある一夏は特にね』

「だったら早く起きないと!」

『それもダメ。早く起きる必要があるのはそうだけど、それだけじゃ足りない』

 

 そう言いながら、くるりと後ろを向いた少女は再び何もない空間に指を当てる。

 指が触れたところから少しずつ、少しずつ何かが広がっていき、その何かは人の形を成していく。よく知る人物に似た風貌。白い装甲を身に纏い、どういうわけか鎖に繋がれ、磔のような形で拘束された女性。

 記憶の姿とはだいぶ異なるけれど、今度はすぐに思い出した。臨海学校のあの日、俺に力を欲するかと問うた──白い騎士だ。

 

『これは『前の』白騎士の残滓。私のベースで、【双天機神】たる証……この意味、わかる?』

「……この人が囚われているから、俺が起きても《権能》が使えないってことか?」

『うん。だから一夏は目覚める前に、この白騎士を解き放たなきゃいけないの』

 

 もし俺が今すぐ起きたとしよう。しかしこの人──『白騎士の残滓』は囚われたまま。俺が扱えるのはただスペックの高いISだけで、【双天機神】とやらの証たる《権能》は封じられたまま。そして、それは箒を助けられないことを示している。

 

「ならこっちも解放するまでだ! この鎖を外せばいいんだな?」

『そのはず……だけど気をつけて、この鎖は、きっと簡単には外せない』

「だろうな。まだ触れてもいないのに、すっごく嫌な感じがする……よし」

 

 白騎士を縛る鎖。棘も何も生えていない、ただ黒いだけの鎖は、見ているだけでも強烈な不快感を与えてくる。こんなものに触れればどうなってしまうのか。嫌な想像が幾つも頭に浮かぶ。

 しかしここにいるのは俺と少女だけ。ホームセンターじゃあるまいし便利なカッターもない。現実ならまず無理でも、夢の中なら素手ででも外せるものであってくれと思いながら、恐る恐る鎖に手をかける。

 

「痛っっっっ!? 何っだ、これ……?」

 

 鎖を握る手にほんの少しだけ力を込めた瞬間、全身を内側から八つ裂きにされるような痛みが走る。今まで味わったことのない激痛。慌てて手を離したものの、その余韻は未だに残っている。

 

『外されないためのプロテクトがかかってる。本当はそれも解除したいけど……』

「できないんだろ……」

『うん……今の私の処理能力じゃ、どれだけ急いでも数時間はかかる』

「そうか、わかった」

 

 これも束さんが組んだプログラムなんだろうか、それとも銀髪の少女のものか……どちらでもいい。今はそんなことを考えている暇じゃないんだ。

 ここは精神世界。この痛みはいわば概念。俺の心に直接当てられているもので、現実の身体は無傷のはずだ。だったら……耐えてやる。

 今度はどんな痛みが来ようと絶対に離さない。そう覚悟を決めて鎖を握る。

 

「っぐああああっっ!!」

『一夏! あ、ああ……』

 

 再び全身にとてつもない痛みが走る。その痛みは時間が経つごとに強くなり、精神世界で言うのもおかしいが、意識が飛びそうだ。

 痛い、苦しい、辛い。今すぐこの鎖を離して、楽になりたい。心配そうな表情で少女がこちらを見ている。

 だから、俺は。

 

「──大、丈夫だっ……!」

『!』

「箒の苦しみに比べたら、こんな痛み屁でもないっ。それに、この程度で諦めたら、今も戦ってるみんなに怒られちまうよなぁっ!」

 

 痛み以外の感覚は消え失せながら、それでも万力の力を込めて鎖を握り締める。

 もっと、もっと思いっきり、限界以上の力を絞り出せ──気合いだ!

 

『頑張って、一夏ぁっ!!』

「──うおおおおっっ!!!!」

 

 バキィン……!

 

「う、……あ……?」

『……わぁ』

 

 ふっ、と。全身から痛みが抜けて、手の内に何も感じなくなったことに気づき顔を上げる。

 そこにいたのはもう鎖に縛られていない、完全な白騎士の姿だった。

 

『……感謝します。一夏』

「なぁに、少しチクッとしただけだよ」

『あ、強がってる?』

 

 千冬姉に似た姿で感謝されるのは少し照れ臭くて、強がりを口にする。頼むから本音を見透かさないでくれ。

 

『事情は全て把握しています。私の力が必要なのですね』

「ああ……欲するぜ、白騎士(お前)の力を」

『……ええ、行きましょう』

 

 正直今すぐ六時間は寝たいところだがそうも言ってられない。必要な力は戻った。一刻も早く箒を──みんなを助けないと。

 ……その前に。

 

『? どうしたの一夏?』

「いや、改めて言っておかないとなって……ありがとな」

『……役目だからいいって言ったのに』

「うーん。それでもさ、俺は感謝したいから」

『そっか……うん、どういたしまして』

 

 少女にもう一度お礼を告げ、現実へと戻る段階へ移行する。

 目を閉じて、強く念じる。ここは夢だと、目を覚ませ。強く、強く。次第に身体が本物の夢から目覚める直前のような揺らぎに包まれ出し、現実への帰還が近づいていることがわかった。

 

「さぁ行こう【白騎士】。そして──【白式】!」

『了解』

『よーっし!』

 

 そして、揺らぎが最大になって──光に目を開いた。

 

 

 

 

 

 

「……粘るなぁ、いい加減諦めたらどうだ?』

「っ──嫌に決まってんでしょ!」

「土下座されたって諦めるものですかっ……!」

「はぁ……」

 

 専用機持ちに追いつかれてから幾分か経過した。威勢よく【双天機神】に戦いを挑んだ彼女らは、圧倒的な性能差によって追い込まれていた。

 当然のことだ。素の性能、《権能》による弱体化、さらには仲間が本気で刃を向けてくる心理的なダメージ……まだまだ原因は出てくる。やる前からこの結果はわかりきっていた。

 ……だというのに、こいつらは。

 

「わからないな、これ以上抵抗して何になる。どれだけ足掻いても、最後は全員仲良く傀儡だってのに』

「もしその通りだとして、それを知った僕たちがはいわかりましたって降伏すると思う?」

「それもそうか、お前ら()馬鹿だもんな』

「ふん。貴様に言われたくはないな、大馬鹿め」

 

 全員馬鹿だ。こんな選択肢を選んだ俺も、無駄に足掻き続けるこいつらも。みんなみんな、馬鹿だ。

 

「いいだろう。なら手っ取り早く……終わらせる』

「何をする気!?」

「『最終手段』だよ。クロエ』

「かしこまりました」

 

 傀儡化した【白騎士】への干渉を強化。【双天機神】の、ISの神たる力を強制的に発現させる。

 

「《権能行使(コード):皇の白(ホワイト)》』

「──っ!!」

 

 一夏の右手が白く輝く。少し歪で、ゆらゆらと揺れる光には触れたISのデータを自在に消し去る恐ろしい効果が備わっている。

 これで全員、『消去(デリート)』だ。

 

「……やれ、【白騎士】!』

「──…………」

「……ん?』

「えっ?」

 

 どうした。既に光は集まっている。《権能》は発現している。だというのに何故【白騎士】は動かない。

 クロエも珍しく困惑した表情で命令を送り続けている。

 

「──違う」

「──まさかお前っ!?』

 

 小さな呟き。に戦慄が走る。

 まずい、離れなければ。そんな危機感が頭によぎった瞬間、【白騎士】は右手の光を握り潰すように消していて。

 

「俺は、『織斑一夏』だっ!!」

「!?!!?!』

「「「一夏っ!!!」」」

 

 その握り拳によって、俺の腹に強烈な一撃が叩き込まれていた。

 

「がっ、てめぇ……クロエっ!!』

「あ、【赤月】!」

 

 一夏が目覚めた。一体全体何をしたのかはわからないが、とにかくこれは緊急事態。込み上げる吐き気を堪えてクロエに指示を出す。

 目覚めたばかりなら全力は出せないはず、《権能》も途切れている。だったら武装のない【赤月】でも抑え込める……という甘い考えは、消えたはずの光に掻き消された。

 

「いつまでも筋書き通りに行くと思うな! 箒はもう二度と、操らせないっ!」

「もう再発動しているだとっ!? 待てっ!』

「──……」

「一夏危ないっ!」

 

 やめてくれ。こっちはどれだけ苦労したと思ってるんだ。それをただ触れるだけで終わらせるだなんて。ふざけるな。

 既に手が届きそうな位置まで移動した一夏。まだ間に合わないと決まったわけじゃない、せめて集中を乱すことさえできればと右腕を伸ばす。

 しかし、その右腕は。

 

『──《流穿水(ながれせんすい)

「っ、まさかっ!?』

蒼蒼破穹(そうそうはきゅう)》ッ!!』

「マズ──ぐあぁっ!』

 

 突如遠方から響く声と、ほぼ同時に襲いかかった水刃によって肘から吹き飛ばされ、誰にも触れることなく宙を舞った。

 

「腕、俺の腕がっ……クソッ! 誰だっ!?』

「やった!」

 

 すっぱりと見事に切られた断面から血が滴る。すぐさまISの搭乗者保護により止血されるが、落とされた右腕は海に飲み込まれて消えて行った。

 超遠距離から水の刃を飛ばす……そんな技は見たことがないが、それができうる人物とISを俺は知っている。

 

「よかった、間に合ったんだね──

「やってくれたな──

 

 ──お姉ちゃん/楯無先輩!」』

『痛ぁい……でも、やってやったわ……!』

 

 更識楯無と、その専用機【霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)】だ。ISの望遠機能を使わなければ見えない遥か遠くの彼女は、初めて見る大型ライフルを構えてこちらを睨みつけている。

 しくじった。先輩はやられたわけじゃないと、頭の片隅には入れておくと決めていたというのに、目の前の事態に気を取られてこのザマだ。

 義手でも用意すれば腕を失ったことぐらいどうにでもなるが、このタイミングで動きを止められてしまうなんて。お陰で一夏はもう──

 

「ぅ──い、一夏? 一夏だな?」

「ああ、箒。待たせてごめん」

「いいんだ。ありがとう、みんなも……」

「……ううん。仲間でしょ?」

 

 ──篠ノ之さんを救ってしまった。

 正気を取り戻した篠ノ之さんを抱き抱える一夏の姿はまるで本物の騎士。もし英雄(ヒーロー)とでも呼んだら、こいつは怒るのだろうか。

 簪除く専用機持ちも仲間の救出に喜んでいる。何となく、今回ばかりは譲ってやるかとでも言いたげな雰囲気が滲み出ているが。

 

「最悪だ……』

 

 だが俺はこれっぽっちも喜べない。傀儡化が解除されてしまった以上、このままでは計画を進めるどころか何もかも終わってしまう。

 今からもう一度『解離世界(ワールド・パージ)』にかける? この人数を相手にできるか? ……無理だ。

 

「よくも、よくもやってくれましたね楯無先輩。これのせいで俺がどうなるかはよくわかっているんでしょう?』

『ええ。全部理解した上でやったわ』

 

 作戦が台無しになった恨みを込めて遠くの先輩に通信をかける。

 開放回線(オープン・チャネル)越しに決意に満ちた力強い声色が聞こえる。さっきまでとは大違いだ。

 

『私は透くんが好き。好きだから、透くんを救いたいの』

「へぇーえ、その割には随分と荒っぽい──まるで殺す気みたいだ』

 

 思いには薄々気づいていた。でもそれを口にすることで何かが変わるのが嫌で、無理やりわからないフリをしていただけだ。そして、きっと俺も同じ気持ちだった。

 だがまさか、ここまで手荒な仕打ちを受けるとは。百年の恋に冷められてしまった……とかだろうか。

 

『そうよ。だから私は殺してでも止めて、絶対に生かしてみせる。そうしなきゃ、あなたを本当に救えないっ!』

「救う、ね。随分と簡単そうに言ってくれるな……』

 

 救いたいなら、ただ俺の言う通りにしていればよかったんだ。だが先輩は、皆はそれを選ばなかった。

 それでもまだ救う気でいるだと? 『殺してでも止めて、絶対に生かす』? 滅茶苦茶だ。

 

「やってみろよ。やれるものなら』

『……もちろん。首洗って待ってなさい』

「ふん……』

 

 もうどんな揺さぶりも先輩には効かないだろう。この距離でもそれがわかるほど、今の先輩の決意は固いことがわかる。

 ……本当に、励ました野郎は──たぶん女だけど──余計なことをしてくれたものだ。

 

「さて、お縄につく用意はできまして?」

「取り敢えず半殺しにしてやろう」

「チッ……』

 

 《権能行使(コード): 后の赤(レッド)》の効力が切れ、消耗はあれどもほぼ全開の出力を出せるようになった専用機持ち。仲間も救出し、このまま俺を捕らえようという考えだろう。

 状況は最悪。ここから二人をもう一度傀儡化させることは不可能。《VenoMillion(ナノマシン)》は全員に付着しているはずだから『暴毒命終』でなんとか……効く前に俺が落とされる可能性の方が高い。

 詰んだか? いいや、諦めてなるものか。

 

「俺は俺の思い通りに生きる……これ以上邪魔はさせない!』

「こいつはさっきの……」

「まだ残ってたの!?』

 

 隠し持っていたコアを投げ、六機の【漆機蟻】を召喚する。今日俺が持ってきたのはこれで最後。これ以上は出せない。

 まだ戦力が残っていたことに驚きつつも、出力制限のない現状では難なく応戦されるのは目に見えている。だが、最後の手持ちを消費してまでこいつらを呼び出したのは戦わせるためじゃない。

 

「弾けろ木偶ども! 役目を果たせ!』

「────!」

「っ、やっば──」

「避けろみんな!!」

 

 かちり。と六箇所から音が鳴り、全ての【漆機蟻】はその機体を縮めて蹲る。

 一瞬の間を置いて、危険を察知した専用機を巻き込むように光を放ち──一斉に起爆した。

 

「わあぁぁぁ!?」

「ぐぅ──いきなり自爆なんて!」

「落ち着け! ダメージは!?」

「だ、大丈夫!」

 

 ……どうやら全員生きているようだ。少し離れた位置にいたやつならともかく、近距離なら墜とせてもおかしくない威力なんだが。

 だがそれでも構わない。この一斉自爆は倒すためにやったわけじゃない──狙いは、この爆風と光だ。

 

「──はっ。透は!?」

「え……しまった! あいつ……!」

「…………』

 

 爆破による衝撃と光はほんの一瞬だけハイパーセンサーにも影響を与える。そして俺はその隙に機体の部分展開に切り替え、光学迷彩(ステルス)を起動して隠れることに成功した。

 篠ノ之束特製の光学迷彩。いくらハイパーセンサーが復旧しようと、そう簡単には見つけられない。楯無先輩には起動した瞬間を見られたかもしれないが、あの人は遠すぎて追いつけない。

 とにかく、これで撤退の用意は整った。

 

『……戻りましょう、透さま』

「ああ……けどその前に』

 

 こんな状況になった以上、戦いは続けられない。後は尻尾を巻いて逃げるしかないが、どうしても一つだけ、言っておきたいことがある。

 それは計画が台無しにされた仕返しか、それともただの気まぐれか……今の俺にはわからない。

 

「『織斑計画』。或いは、『プロジェクト・モザイカ』』

「っどこだ! いや、それは何のことだ!?」

「織斑先生に聞いてみな。お前が知りたいことの一つや二つはわかるだろうよ……じゃあな』

 

 これでいい。後はこいつらが戻った後でどうにかなるだろう。

 光学迷彩が見破られる前にクロエを連れ、その場を後にする。作戦失敗、敗北……何と束様に説明したものか。どうせ全部見てるんだろうけど。

 

「痛ってぇ……』

 

 すぐには治らない右腕が酷く痛んだ。

 

 

 

 

 

 

第60話「白界・敗走」

 

 

 

 

 




 もうしばらくはこんなペースで更新していきます
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