【完結】害虫生存戦略   作:エルゴ

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 ISアニメ10周年らしいので初投稿です。
 予約忘れたのは内緒だよ


第66話「黒片・歪曲」

 

「うぅぅぅん』

「……!」

 

 透が蛹になってからどれほどの時間が経過しただろうか。五分な、十分か、はたまたそれ以上か。とにかくその長い間、俺たちは一切の手出しも出来ずに傍観することしか許されなかった。

 そして今。沈黙と共に蛹が破れ、その身を羽化させようとしている。

 

「あ゛、ああああぁぁぁ──…………』

「何か出てきた!」

「黒い、欠片?」

 

 広がる裂け目から溢れ出したのは黒い欠片。それもただでさえ巨大な蛹から、その体積を遥かに超えた量を出し続けている。

 遠目から見たその光景は、世界そのものを包み込もうとする黒煙の様に映った。

 

「あぁ、苦しかった』

 

 人影が欠片に紛れて浮かび上がる。その姿は予想に反してかなり小柄で、ほとんど人間大の【Bug-Human(第一形態)】によく似ている。

 唯一はっきりと分かる違いはその頭部。三本の大きく捻れた角が絡み合ったようなヘッドギアの形はまるで、王冠の様だった。

 

「随分待たせたじゃないか、()()()()は済んだのか?」

()()()()、見守りありがとう』

「…………」

 

 受け応えには何の異常も無し。意識は正常に保たれている……つまり、以前見たと()()とは違うということ。

 形態移行(フォーム・シフト)は完遂された、されてしまった。

 

「織斑マドカは失敗した。けれど正解には近づいていた』

「……正解?」

「ああ。そして、その答えがこれだ』

「! 欠片が……」

 

 不規則に舞っていた黒片は一斉に透の元へ集まっていき、かちかちとパズルの様に組み合わせられていく。

 一つ一つは小さな欠片。しかしそれらが組み合わされば少しずつ大きな部品へと変わり、遂には巨大な装甲を形成して透を本体を覆い隠した。

 

「まずは紹介から。この欠片はCatastroFear(カタストロフィア)。そしてこのISはBug-CatastroFear(災恐蟲)。……【Bug】シリーズの『第三形態(サード・フォーム)』だ』

「『第三形態』……!」

「なるほどな。確かに、失敗ではなさそうだな……けど」

 

 《CatastroFear(災恐)》。名は災いと恐怖から取られているのだろうか。なるほど怪物を自称するだけはある。

 マドカとは違い、ドロドロに液状化することも無く完全に制御できている。いつの間にか抜け殻までも分解されているし、取り込んだ物を全てが変換されているのだろう。が、それは失敗でないだけのこと。正解とは何なのか、まだわからない。

 

「どれだけ形が変わろうとも、それがISであるのならば、《権能》という絶対的な有効打が存在する。……忘れたわけじゃ無いよな?」

「あぁ、そりゃあ──』

 

 黒片の一部がざわめき、装甲は鋭く攻撃的な剣型の武装へと変じる。数度メトロノームのように振れた剣はこちらに矛先を向けた状態で静止し、次の瞬間。

 

「──これから確かめな』

 

 弾丸の様な速度で射出された。

 

「《CatastroFear:Scorpion()》』

「っ速い!」

「ちょっ!?」

「きゃぁっ!」

 

 危うく直撃コースだった黒剣を反射的に《雪片》で弾く。なんて速く重い一撃。皆も何とか防ぐことに成功したようだが、驚きの表情を浮かべている。

 しかし、攻撃はまだ終わっていない。確かに今までは違う攻撃だが、この程度で俺たちに勝てるわけじゃないはずだ。現にこうして防がれている以上、何かがあるはず──

 

「《CatastroFear:Legion(黒軍)》』

()()()っ!?」

 

 透の声と同時に剣が砕け、そのままの形で襲いかかる。バラバラになった分一つ一つの威力は大したことないが速さは変わらず、その上数が多い。これではさっきのように防ぎ切ることは難しい。

 

「ぐ、くぅ──え?」

 

 細かく刻まれるようにシールドエネルギーが減少する。まだまだ戦いに支障はないが、決して無視はできないダメージだ。

 そんな中で俺たちは見た。黒片の形が一つ一つ違うことと、その悍ましさを。

 

「うわぁっ!?」

「お、見たか』

「見たってあんた、これ──」

 

 例えば薄暗い床下、埃っぽいタンスの裏、カビた窓枠、寂れた公園、何年も忘れていた虫かご、煙の立ち上る火葬場で、こんなものを目にしたことはないだろうか。

 甲殻、羽、爪、牙、指、頭蓋、肋骨、背骨……つまり、バラバラになった虫と人骨。俺たちを襲う全ての黒片がその形をしている。

 

「面白い形してるだろ。俺が設計したんだ』

「通りで悪趣味な訳だな、本当に……!」

「くくくっ、酷いなぁ……否定はしないけど』

 

 ストレートな否定に対しても気にする素振りはない。それどころか小さく笑みを浮かべる始末。まるで挑発、余裕を見せつけているかのようだ。

 

「さて、もう少しウォームアップに付き合ってもらう』

「戻っ──!」

 

 黒片が回収され、新しい武装を形成していく。今度は大きく、何でも両断してしまいそうな大鎌。

 

「《CatastroFear:Mantis(蟷螂)》』

「これはマドカの──うわっぶね!?」

「一夏くんこんなのと戦ってたの!?」

「そうですけど──スケールが違う!」

 

 これは嫌というほど見た形。しかし記憶にあるそれは、こんなに大きくも数もない、そして何より回転なんかしない。

 違いは更に一つ。真っ直ぐ飛んでくるだけの剣とは違い、何度弾いても躱してもまた戻ってくること。その度に威力と速度を増しながら。

 

「うっくっ……しつこいですわ!」

「自動照準じゃこんな軌道はできない……全部直接操作してる? でもその負担は尋常じゃないはず!」

「この程度大したことじゃないさ。少しだけ()()()()()けど、な?』

 

 簪さんの問いに応えながら大鎌を戻し、黒片に覆われた右腕を露わにする透。そこにあった義手は大きく形を変えており、掌には鈍い光が見える。

 光の正体は歪な結晶。取り込み同化させたISコアが、それぞれの色を狂ったように光らせている。

 

「そのコアに処理を押し付けてるのか!」

「そういうこと。いい使い方だろ』

 

 推測だが、透自身が行なっている操作はイメージ程度。そのイメージを具体的な形に変え、細かく命令を出しているのはコアが担当している。

 ISの、それもコアとなれば処理機能はそこらのスパコンとは比較にならないほど高い。それをいくつも同時に使っているのならば尚更。だから膨大な数の黒片をこんなにも自在に、苦もなく操ることができているわけだ。

 だけど、それを説明することは弱点を晒すことにだってなる。

 

「ならば、その自慢の右腕を切り落とせばいいわけだな?」

 

 操作をコアに頼っているなら、そのコアを分離すれば実質的に無力化できる。それは俺たちの火力と、位置情報が揃っていれば決してできないことじゃない。

 

「間違ってはいないがな。とりあえずやってみればいいさ、できるものなら』

「今度は何!?」

 

 黒片がざわめき、透の全身を飲み込んでいく。顔も、手も、足も、コアの光どころか、全てが黒一色に蝕まれる。

 

「試運転は終わりだ。ここからが本番……!』

「ちょっとちょっと……待ってよ」

 

 それは個にして群。虫けらのように小さく、しかし山のように巨大な、全てを破滅へ導く『世界の敵』に相応しい怪物の姿。

 

「《CatastroFear:──Abaddon(奈落)》』

 

「冗談でしょ……?」

「これは、でか過ぎる……!」

 

 本当の『災い』は、ここから始まる。

 

 

 

 

 

 

「《ブルー・ティアーズ》ッ!!」

「──はは』

 

 青いビットからレーザーが飛んできた。小さな小さな穴が空いて、右腕を振り挙げたら無くなった。

 

「掻っ捌いて引き摺り出してやるわ!」

「はははっ』

 

 繋げた青龍刀が巨体の腹へ突き立てられた。しかしそこには何もなく、身を震わせれば凰諸共抜けた。

 

砲撃(これ)ならどうだっ!」

「少しでも拡散させるっ!」

「ははははははははっ』

 

 何発かの砲弾と、沢山の銃弾が撃ち込まれた。ほんの少し黒片が散ったが、右腕を振り下ろしたら直ぐに止んだ。

 

「『清き熱情』ッ! ……だめ、効いてない」

「《春雷》! 《山あら」

「あははははははははははははははははははっ』

 

 左腕の表面が爆発された。右足がミサイルに狙われた。更に黒片が散ったが本体()には掠りもせず、瞬きする間に元に戻った。

 

「一夏、合わせろっ!」

「応っ!」

「はははは──うざいんだよ』

 

 赤と白が息を合わせて切り込んだ。……蚊を潰すように、両手で挟んでやった。

 

 あっという間に一周した。何も怖くなかった。

 

 

 

「ぁ……う……」

「こんなの、どうしろってのよ……」

「さぁ? 俺にもわからん』

 

 こいつらが選択した行動は間違っていない。俺の弱点はさっき見せた合成コア。しかしそこを叩くには黒片が邪魔で、それを無視して一気に特攻するか、攻撃を広げて散らすのが有効だ。

 けどこれは学校のテストとは違う。戦いに、間違っていなければ通る道理なんてない。

 

「足りないんだよ。火力も、手数も……だから容易に退けられる』

 

 まず無数の黒片に身を隠せた時点で難易度は跳ね上がっている。『25mプールいっぱいの砂の中からたった数cmの石を探せ。ただし石は自由に動き回る』とでも例えれば少しくらいその困難さが伝わるだろうか。

 一点突破をしたければ、本体()の位置を把握した上で一夏が二十人。散らしたければ楯無先輩が五十人は必要だ。そしてそれと同等の戦力は、有象無象のISを何体掻き集めたって揃いはしない。

 

「どんな気分だ? 理不尽な逆転劇を喰らうのは』

「最悪っ、だな……」

「そうだろうそうだろう、()()()()

 

 積み上げてきた経験が、考え抜いた作戦が、確実にとったはずの有利が、たった一つの予想外で崩壊していく。

 やられる方は堪ったもんじゃないだろうが、それは俺が何度も何度も味わった感覚だ。

 

「だからお前らも、もっと味わえ』

「……また変形っ!?」

 

 再び攻撃態勢へ移行。全身を包む黒片を組み合わせて次の武装を作り出す。

 その源は害意。どうすれば躱せないか、どうすれば防げないか、どうすれば壊せるかを追求する。本当に必要なのはそれだけだ。

 

「《CatastroFear:Arachne(王蜘蛛)×Ant()×Centipede(百足)×Longicorn(髪切)×Hornet(雀蜂)》』

「────ッ!!」

 

 【王蜘蛛(アラクネ)】の装甲脚をベースに、内部機構を改変してパワーを向上。格闘用ブレードや機関銃はオミットし、新たに蛇腹剣に大顎、針を再現。

 勿論、サイズは再現元から十倍や百倍どころではない。

 

「殺す気で行くが、死ぬなよ?』

「来るぞみん──」

 

 ずがぁん。と金属同士が衝突する音が響いて、一夏が吹き飛んでいく。『みんな避けろ』とでも警告したかったのだろか。まずは自分から避けるべきだろうに。どうせ全員狙われているのだから。

 

「一夏っ! 今助けに……」

「待って箒ちゃん!」

「ですが!」

「まだ一夏くんは墜ちてない! 追いかけたら逆に後ろから墜とされるわよっ!」

 

 飛ばされた一夏を追おうとした篠ノ之さんを楯無先輩が引き止める。確かにまだ一夏──【白騎士】の反応は消えていない。直ぐにこちらへ戻ってくるだろう。

 それよりも、思いの外先輩が冷静を保っている。吹っ切れたせいか経験の差か、そう簡単には取り乱さないか。

 この人がいる限り余計なチームワークを発揮される可能性がある……うん。

 

「なら次はあなたから──』

「狙いがこっちに!?」

 

 ばらけさせていた狙いを集中。前後上下左右から同時に先輩を潰しにかかる。

 【霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)】は純粋な力押しは不得手。つまりこの攻撃を真っ向から受け止める術はない。

 

「……はぁっ!」

 

 この巨体の前では、自慢の槍もまるで爪楊枝。しかしそのサイズ比ですらアクア・ナノマシンの操作によって全ての攻撃を弾き、逸らし、流している。

 

「流石の捌きだ。だがそれも──長くは続かないっ!』

「速さが増したっ!?」

 

 ならばギアを上げていこう。黒片の連動性を強化、更に速く、重く、反応すら困難な勢いへと更新していく。

 まだ直撃には至らないものの、少しずつ攻撃が掠り出し、エネルギーを削っていく。

 

「お姉ちゃんばかり……狙うなっ!」

「我々はまだやれるっ!」

「たかが一周分防がれたくらいで諦めませんわっ!」

「チッ、無駄な真似を……あ』

 

 しかしここでミサイルとレーザーが装甲脚にヒット。さっき同様この程度の攻撃にダメージなんて喰らわないが、直撃した部分は別だ。その衝撃によって結合が外れれば武器の形は保てず、再結合する時にはもう先輩には距離を取られている。

 ……なるほど、今のは攻撃じゃなくて迎撃だったか。切り替えが早いな。

 

「やはり一人ずつは邪魔が入りやすいな……ならそれができないように、だ』

「! 全員退がって!」

「はああぁぁっ!』

 

 全体の約一割。表面の黒片を振動させ、全方位に向けて一気に射出する。

 回避するなら距離を取るしかない。そして距離を取るということは、自然と全員の位置がバラけてしまう。

 

「そうすれば、連携は取れないよなぁ?』

「くっ……」

「カバー急いで!」

「間に、合わないっ!」

 

 孤立し、回避で体勢が崩れた先輩にはもう一度この攻撃を防ぎ切る余裕は無い。再構築した装甲脚を、今度こそ直撃コースで襲わせる……はずだった。

 

「させるかぁーーーっっ!!!」

 

 割って入ったのは遥か遠くからすっ飛んできた一夏。自身を遥かに上回るサイズの武器を受け止めた《雪片弐型》はギリギリと悲鳴を上げる。

 

「ぐっぬぅ……おらぁぁーーっ!!!」

「折っ……!?」

「やば……」

 

 叫びとともに振り抜かれ、見事に装甲脚がへし折れる。

 力では確実にこちらが上回っているはずなのに。どんな馬鹿力で──いや、『神』のISなら当然引き出せるか。

 

「よくもあんな遠くにぶっ飛ばしてくれたなぁ! おい!」

「そのまま戻って来るなってことだよ! 馬鹿が!』

 

 そしてこのタイミングで一夏はキレキレだ。ぶん殴られたショックで調子を取り戻したのか、その双眸は、金色の輝きを増している。

 

「お前はでかくて力が強い! しかも手数があって速い! わかってる弱点はコアだけで、それも動き回るせいで場所が不明だ!」

「急にどうしたっ! 今から負ける言い訳か!?』

「違ぇよっ!」

 

 何やら叫びながら、連続して繰り出される攻撃を切り落としていく一夏。さっきのように不意を突かなければクリーンヒットは難しい。

 しかしこいつは何を言っている? 今になって特徴の確認なんてする必要はないだろう。油断でも誘っているつもりか?

 

「どれだけ形が変わろうと、複数コアを取り込もうと、それがISであることには変わりないっ! なら《権能(この光)》はよく効くはずだよなぁっ!?」

「!!』

 

 ガギィンッ! 今度弾かれたのは俺の攻撃。全ての装甲脚が回転しながらの斬撃であらぬ方向へ向けられる。

 ああ、そうだ。どれだけ姿が変わろうと、化け物になろうと、確かに【Bug-CatastroFear(災恐蟲)】はISのまま。ただ本体と繋がる場所へ触れるだけでデータを消去してしまうこの光に対しては無力。

 

「《権能行使(コード):皇の白(ホワイト)》ッッ!!」

 

 散らばったままの黒片では突撃する一夏は止め切れない。止められるだけの量を集めて再構築するのは間に合わない。黒片から出れば他に狙われる。

 

「っっやめろっ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──なんて、そう簡単にいくと思うか?』

 

「……え?」

 

 ぱしゅん。と、あと数ミリで俺に触れようとしていた光が一瞬にして霧散する。一夏は集中を切らしてなんかいないし、【白騎士】が消したわけでもない。

 ただ一つの異常は、【Bug-CatastroFear】から放たれる黒い瘴気。それが、《権能》の光を打ち消している。

 これが『正解』。神をも殺す破滅への力。

 

「《権能歪曲(Code):災厄の黒(Black)》』

 

 怪物は、神の領域へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

第66話「黒片・歪曲」

 

 

 

 




 流行り病より寒さで死にそうなんですけど
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