【完結】害虫生存戦略   作:エルゴ

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一夏アンチだと思われてたので初投稿です。

一夏が怒ったのは透くんの暴言に対してです。武器が気持ち悪いとかブレード折ったとかは何とも思ってません。
送り出すまではずっと「いいやつ」だと思っていたのにあの口の悪さでちょっと幻想が壊れたというか、まあ本気で怒ってたわけではないです。
高校生特有の勢い。


第6話「決闘②・一次移行」

 

 見事完勝し喜ぶのも束の間。あれよあれよと一夏と決闘することになって移動しましたBピット。ぶっ潰すと言ったものの、この戦い自体はオルコットに勝つより数段楽だ。

 データによればあいつのISは近距離格闘型の機体。武装は近接ブレード一本のみ。特殊機能も無ければ出力も大したことはない。勿論これは初期設定の話で、一次移行すれば多少の変動はあるだろうが、劇的な強化は望めない。

 束様が手を加えていることが少々気がかりだが……それはこちらも同じ。問題にはならない。

 

 ……フラグっぽいから余計なことを考えるのはよそう。

 

「……何しに来ましたの?」

「あ、敗北者」

「~! あなたはっ、もう!」

 

 不意に声をかけられ辺りを見渡せば先ほど圧倒したばかりの金髪。そういえばこっちのピットにいるんだった、忘れてた。

 

「次は俺と一夏と決闘するんでな。お前こそ国へ帰ったのかと思ったぞ」

「このっ……わたくしはティアーズの整備待ちですわ、()()()()()ひどくやられたもので」

「お前が弱かっただけだろ」

 

 負けて苛ついてるかと思ったが、案外落ち着いてるな。皮肉を言う余裕まであるとは。

 

「どうした、意気消沈って感じだな」

「あなたわかって言ってるでしょう? あれだけ酷い負け方をすれば何が悪かったかぐらい理解できますわ」

「ふーん。後の祭りだな」

「……ハァ、もう怒る気にもなれませんわ。それで? 総当たりですしあなた方が戦うのはわかりますが、どうして決闘に?」

 

 そうだこいつこっちの決闘のことは知らないんだな。まあ経緯的に無関係というわけでもないし、説明ぐらいしてやるか。

 

「それがさぁ、一夏のやつ俺のやり方が気にくわないとか抜かしてな? じゃあISで白黒付けようって話になったのさ」

「ず、随分と急な話でしたのね……。わたくしの言えた話ではありませんが」

 

 先週の自分にも思うところはあったのか、若干困惑気味のオルコット。賭けの内容は説明するか……いいやしちゃえ。

 

「で、俺たちも賭けをしてな。何だと思う?」

「さぁ? まさか負けた方が奴隷なんてことは無いでしょう?」

「自分からネタにするのか……。まあ、俺が勝ったら俺のやり方に口出ししない。あいつが勝ったら……お前に謝れだとさ」

「え?」

 

 全く意味がわからんね。古い友人でもなく、たかが一週間の同じクラスで過ごしただけの、言い争いまでした相手に情を向けるとは。これも失敗作()成功作(あいつ)の違いだろうか。それとも教育の差か。

 

「織斑さんが……何故?」

「さあね。本人に聞いてみればいいさ。この後でな」

「言われなくとも、そのつもりですわ」

 

 そう言う彼女の目は僅かに残っていた敵意は消え、何かを確かめんとする興味が宿っていた。

 

「ま、もう少し待たないと始まらないがな。俺は補給しなきゃならないし、あいつのISまだ届いてないし」

「え? まだISがないのに決闘を?」

「馬鹿だよなぁ、無理に決まってるのに」

「……そう、ですわね……」

 

 それで会話は終わり、俺は消耗したエネルギーの補給へ、オルコットは考え事を始めた。さっさとISを届けてもらって、サクッと終わらせたいものだが。あの様子だともうしばらくかかるだろう。

 早く始まらないかなー。

 

 

 

 

「いや恥っずかしい殺してくれ」

「さっきまでの威勢はどうした? あれだけ啖呵切っていたではないか」

「あれはさすがに許せないと思ったからで……決闘とかはただの勢いというか……」

「今のお前最高に情けないぞ」

「ああああああああ殺せぇ!」

 

 本当にもうあの時はどうかしていた。いくら頭に来ていたからと言っても限度があるだろ! 完全にあいつ困惑してたし! 一応乗ってくれたけど「ぶっ潰す」とか言ってたし!

 マジでどうしよう。セシリアにすら勝てるか怪しかったのにらそのセシリアに圧勝した透に勝てるビジョンが見えない。そもそも俺の専用機はいつ届くんだ。このまま日を改めてとか絶対嫌だぞ! どういう顔で明日あいつに会えばいいんだよ!?

 

「織斑く~~~ん!!」

「山田先生!」

 

 山田先生本日二度目のダッシュ。今度はこけていない。

 

「はぁ、はぁ、織斑くん!」

「は、はいっ!?」

 

 走ってきたものだから息を切らしている。というか近い。年頃の男にとってこの距離で顔を赤らめ息を荒げた女性はなかなか破壊力が強い。

 

「来ました! 織斑くんの専用機!」

「本当ですか!?」

「本当です!」

 

 これで今日中に決着を着けられる。少なくとも訓練機で出ることにはならずに良かった。

 

「よし、では織斑。次の試合もある、ぶっつけ本番で何とかしろ」

「えっ」

「すみません、もうこちらに運ばれてるので……」

「ちょっ」

「この程度の障害、軽く乗り越えて見せろ一夏」

「おいっ」

 

 待て待て待て、まだ届いたばかりだろ? 心の準備ぐらい……。

 

「「「早く!!」」」

「はいわかりました!!」

 

 ごぉん、ごぉん、と鈍い音を響かせながら搬入口が開く。徐々に広がる扉の向こう側が晒される。

 

 ──そこには『白』がいた。

 白。飾り気はなく、僅かにくすんだ様な白いIS。それが装甲を開き、こちらを待ち構えたように座していた。

 

「これが俺の……」

「はい。これが織斑くんのIS。【白式(びゃくしき)】です。」

白式(びゃくしき)……」

 

 初めて見るはずなのに、それが自分の為に作られた、自分だけの物だと理解できる。専用機なのだから当然とも言えるが、理屈抜きにこれが俺のISなのだと心で感じていた。

 

「では私は、向こうに準備するよう伝えてきますね、後は織斑先生、お願いします」

「任された。──では織斑、時間がない。すぐに装着しろ。諸々の設定は戦いながらやれ」

「あ、ああ……」

 

 促されるまま。目の前の白に触れる。

 

「背中を預けるように──おい、聞いているのか?」

「うん──うん。大丈夫。もう理解し(わかっ)た」

「は?」

 

 説明は要らない。これは俺のIS。一度触れたら、後はただ身を任せればいい。

 

 白い装甲が繋がっていく。視界が開け、様々な情報が映し出される。

 

「……よし、装着は問題ないようだな。()()、気分は悪くないか?」

 

 呼び方が名前に戻っている。いつも通りに見えて、ちゃんと心配してくれてたんだな。

 

「大丈夫だよ千冬姉。いける」

「そうか……」

 

 ISでなければわからないほどの声のブレ。きっと安心したのだろう。それに気づかないふりをしながら、ハイパーセンサー越しに箒へ意識を向ける。

 何か言いたげな、しかし言うべきか迷っている、そんな顔。やっぱり素直じゃないな。

 

「箒」

「な、なんだ?」

「行ってくる。応援頼むよ」

「……! ああ、頑張れ一夏!」

 

 首肯で応え、ピットゲートへ進む。僅かな体を感知して白式はふわりと移動する。

 視界の隅で数えられないほどの情報が整理されている。きっとこれが初期化(フォーマット)。それが終われば最適化(フィッティング)一次移行(ファースト・シフト)と続くのだろう。しかしそれを待つ暇はない。今はただ、この向こうにいる()と戦うのみだ。

 

 開放まであと3,2,1──0。

 

 ゲートが完全に開け放たれる。そして、アリーナへと飛び立った。

 

 

 

 

「よう。さっきぶり」

「……ああ。そうだな」

 

 まだ機嫌が悪そうだな。しかしやる気は十分って感じだ。勝てる見込みでもあるのだろうか?いや無いだろう。だがこう睨み付けられてるのも癪だ。ちょっとおちょくってみるか。

 

「おいおい、まだ怒ってんのか? あのことは水に流してさ、仲良くやろうぜ」

「俺もそうしたいんだけどな。でもそれは…決着を着けてからだ」

 

 騙されないか。もう言葉で揺さぶりをかけるのは無理だな。思っていた以上に意志が強い。

 潰し甲斐がある。

 

「仕方ないな、じゃあ始めようか。賭けの内容は今更確認する必要もないだろ?」

「ああ、ちゃんと守れよ」

 

 ……全く、この自信はどこから来てんだか。俺からすれば意志が強かろうと関係ない。淡々と、確実に、一手ずつ詰めて行けば俺の勝ち揺るがない。まずは──

 

「先手はやるよ、かかってきな」

「わかった、じゃあ──行くぞ」

 

 一瞬あちらの手に粒子が集まり、近接ブレードが形成される。武装はそれ一本、軽く捌いてやれば完封できる──

 そこまで思考した瞬間、一瞬にして目の前に移動した一夏がブレードを振りかぶっていた。

 

「はああああ!」

「──っっぶねぇ!?」

 

 一閃。かろうじて躱す。いつの間に、いやどうやって? 警戒はしていたはずだ、これは楯無先輩の無拍子よりも早い。

 

「『零拍子』、だっ!!」

「零!? くそっ!」

 

 零拍子だと? なんだその技は、無拍子の発展か? まさかこいつがそんな高等技術を身につけているとは。だとしてもそれは生身での技術のはず、それをいきなりISで使うとは、こいつどんなセンスしてやがる。

 

「はっ! ぜああっ!」

「うっ、このっ!」

 

 生じた隙を見逃さず、最初の勢いのまま斬撃を繰り出す。今度は避けられず、少なくないダメージが通る。本気でやばい。このままでは完封どころか押し切られる!

 

「調子っ、乗るなぁ!」

「うわああああ!」

 

 大きく身を引き、《Centipede》を展開、薙ぎ払うように振り抜く。が、素早い機動で躱される。

 

「はぁ、はぁ……。さっきの余裕はどうしたよ、随分慌ててたみたいだったぜ?」

「っ!!」

 

 さっきまでとは逆の、一夏からの煽り。こいつ、意趣返しのつもりか?それとも天然か。どちらにしろ腹が立つ。

 一夏にじゃない、俺自身にだ。人から得たデータとたかが一週間で立てた対策に胡座をかいて、本番ではこの体たらく。それで「潰し甲斐がある」だと?自惚れも大概にしろと言うもの、自分の愚かさに怒りが込み上げる。

 

 ……いや、落ち着け。俺がこうして押されたのは、こいつの実力を機体性能だけで過小評価して、一夏自体の思考、技術を甘く見ていたから。つまりは俺の自滅だ。

 頭を冷やせ。こいつは強い。使えない対策なんて捨てろ。本当の敵は、慢心だ。

 

「悪いな一夏。俺はお前を舐めていた」

「そうみたいだな。それで?」

「ああ、だから……これからは本気でいく」

「!」

 

 《Centipede》を収納。懐まで高速接近。零拍子ほどじゃないが、限りなく模倣した動きだ。

 

「《No.6 Ant(アント)》」

「早っ!?」

「砕けろ」

 

 両腕に展開された(Ant)の拳。対応される前に無防備な腹へ叩き込む。加減はしない。どうせ絶対防御がある。肋骨でも折るつもりでやろう。

 

「がっは……」

「次だ、《No.8 Spider(スパイダー)》。そのまま止まれ」

「は!? 網ぃ!?」

 

 腕を抜き、《Ant》を消して《Spider(ネットランチャー)》を展開。何重にも包み込むように連射する。最初の数発以外は避けられたが、それでも至る所に絡みついている。

 

「出し惜しみはなしだ、《Centipede》」

「さっきの剣か! それならもう──」

 

 《Centipede(蛇腹剣)》の名を呼び出しながら、構えるは(ニードルガン)。これが意味することは、

 

(ブラフ)だよ」

「──くそっ!」

 

 針の弾丸。これなら折角の拘束を傷つけることなくダメージを与えられる。文字通り蜂の巣だ。

 

「こんなのっ……よし切れた! 「だろうな」!?」

「だったらこうだ、《Centipede》《Cockroach》」

「またブラフか!?」

「いいやマジさ」

 

 今度こそ蛇腹剣と、ついでに爆弾を展開。飛ばしつつ逆袈裟に切り上げる。もう隙は与えない。やるなら徹底的にだ。

 

「これで、トドメッ!」

「ぐっ、こ、のぉ…負けるかぁ!!」

 

 渾身の力を込めて振り下ろした一撃、一夏はそれを受け止め、ブレードが悲鳴を上げるのにも構わず弾き返す。しかし既に機体に張り付いていた《Cockroach(爆弾)》は止められない。

 

「爆ぜろ」

 

 かちり。

 小さな起動音。一拍遅れて、強烈な光と黒煙に白のISは包まれた。

 

 

 

「一夏っ!」

 

 モニターに映し出された戦い。優勢が崩され、爆発に飲み込まれた幼馴染を心配しながら見つめる箒。

 千冬も、真耶も、真剣な面持ちで画面を埋めた黒煙が晴れるのを待つ。

 

「──ふん。機体に救われたな、馬鹿者め」

 

 突如煙の中から光が漏れ、内側から弾けるように吹き飛ぶ。

 煙が失せた後に残るは純白の機体、【白式】。その真の姿。

 

 

 

 決まった。そう確信した瞬間奴がいたところから光が溢れ、新たな──いや、本当の姿へと変じた機体が現れる。

 

「一次移行かっ……!」

「ああ。これで本当に俺専用の機体になったらしい」

 

 くすんだような白と貧相にも見えた装甲は、より純粋な、輝くような白さを持った滑らかかつシャープなデザインへと変化。そのシルエットは中性の鎧を彷彿とさせる。

 

「俺は、世界で最高の姉さんを持ったよ」

 

 小さく笑みを浮かべ、新たな武装──日本刀型のブレードを構える。

 

「《雪片弐型》。これが白式の──俺の武器だ」

「そうかよ。それで?ただ姿形が変わっただけじゃないんだろ?」

 

 姿が変わるとは性能が変わったこと同義だ。日本刀の如きブレードと、大型化したウイング;スラスターは近接格闘型ISとして更に尖った性能へ進化した証。

 雪片の名も、かつて織斑千冬(ブリュンヒルデ)が振るっていた武装と同じ。

 

「勿論。何もかも、さっきまでとは一味違う。──遅れるなよ」

「っっ!!」

 

 疾い。さっきよりも格段に、こちらの性能では追いつくのが精一杯だ。

 だが、一次移行したところでシールドエネルギーが回復するわけではない。まだ勝ちは消えていない。

 

「勝つのは俺だ! 九十九透!」

「いいや返り討ちだ! 織斑一夏!!」

 

 理由はわからない。しかし()()()()()()()()()()()()()と心が叫んでいる。集中しろ、本気だけじゃ足りない。負けたら死ぬと思え。

 《雪片弐型》が割れ、強い光を放つエネルギーが刃を形作る。対する俺も確実に撃ち落とすため《Centipede》を構え直す。

 

「いくぞぉっ!!」

「来いっ!!」

 

 スラスターを全開。爆発的な加速力を得て突撃する白と、迎え撃つ黒。両者がぶつかり合い、互いの刃が首元へ食い込む。そして、

 

 

『試合終了。両者シールドエネルギー残量0(empty)。──引き分け』

 

 ブザーとアナウンスが決着を告げる。いや待て()()()()()()()()()()? ()()()()? え?

 

「「は?」」

 

 は?

 

 

 

第6話「決闘②・一次移行」

 

 

 




透くんも思春期なので情緒が不安定だぞ

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