【完結】害虫生存戦略   作:エルゴ

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 こっそり修正初投稿です。
 明日はふんどしの日なのにチョコの話題多すぎませんか? ふんどしチョコ作れよ


第69話「継承・群咲」

 

「……う」

 

 波の音が聞こえる。目を開けば曇り空が広がっていて、手足には濡れたような感触と背中に異物感。どうやら海面に浮かんだ何かの上に乗っかっているらしい。ついでに全身が痛い。

 

「…………」

「あー……」

 

 俺を取り囲むように専用機持ち等が並ぶ。起きるまで待ってたのか、それとも死亡確認でもしにきたのか……まず俺はどれくらい寝ていたのだろう。

 

「…………」

「…………」

「なんか言ってくれよ」

「そっちから話すのかなと」

 

 とりあえず黙ってみたら突っ込まれてしまった。何というか、久しぶりの感覚だ。ほんの一月前まで同じノリで話していたというのに。

 とにかく、勝者(こいつら)が対話を求めるなら敗者()は応えるしかないな。俺から聞きたいこともある。

 

「……どうして殺さなかった。俺は敵で、お前ら八人どころか何百人も死体同然に変えようとした男だぞ」

「それは今止めたろ。結局お前は誰も殺してない。だから、俺たちもお前を殺さない」

「『殺してでも止める』とか言ってたのにか?」

「ばっ……それは言葉の綾ってやつだろ!」

「冗談。わかってるよ……はは」

 

 慌てる一夏を見て自然と笑い声が漏れる。何だか張り詰めた糸が切れたみたいだ。……こっちの方が気楽かな。

 こいつらは最初からずーっと俺を止めるために戦っていた。言葉では色々と言っていたが、最後まで殺意が向けられることはなかった。ハリボテの殺意を必死に見せつけていた俺とは大違いだ。

 

「俺の寿命が残り少ないことは知ってるよな?」

「もちろん」

「じゃあこの状況が俺の生存にとって非常にまずいことだってことも知ってるよな?」

「ああ」

「今更聞くまでもないでしょう?」

 

 ま、話したのは俺だしな。覚えてるに決まってるか。

 世界か俺か。二つに一つの選択肢を見せられて、その上で両方を取ると決めた。俺も知らない第三の選択肢。

 

「本気でできると思ってるのか? 最悪世界も俺も失うことになるってのに」

「いいやできるね。()()()()()()()()。……博打だけど」

「……マジ?」

「えっそれ共有されてないんだけど」

「おい!」

 

 自信たっぷりに答えたかと思えば、不安になるような情報が出てきたんだが。本当に任せて大丈夫か……あ。

 俺、もう()に任せてみようって思ってる。

 

「ふふ、はははははっ、くくくく……」

「だ、大丈夫!? 頭打った!?」

「ちげーよ……ただ、色々とわかった気がしてな」

 

 どうして俺が負けたのか、どうして皆が強くなれたのか。一人では勝てない理由をやっと理解できたのかもしれない。

 この結果は必然だったというわけだ。少なくとも俺の中では完敗だ。

 

「つーことで降参。お前らの勝ち。負けでいいでーす」

「なんか言い方ムカつくわね」

「最後から負け惜しみ感滲み出てる……」

「一発いっとく?」

「やめてくれマジで無理」

 

 もう十分だ、文字通り骨身に沁みたからな。これ以上食らったら今度こそ死んでしまう。

 

「なあ、透はこれからどうするんだ?」

「どうするって……とりあえず動けるようになるまで待って、それから学園にでも出頭するさ。()()()()じゃもう戦えないからな」

「……悪い、やり過ぎたか?」

「謝らなくていい。俺は馬鹿だからなぁ、これぐらいしてもらわないと間違いを認められなかったのさ」

 

 合成コアは消滅。腹部の(メイン)コアにも罅が入り、右腕と左足の義肢もほとんど壊れかけ。それが今の俺だ。

 非常に残念だが、これからの戦いにはついて行けそうにない。ここでリタイアするしかないだろう。

 

「まあ心配することはない。幸い移動できるくらいのエネルギーはもらったみたいだしな。篠ノ之さんに」

「ガス欠で沈まれても困るのでな。最低限の修復もしておいたぞ」

「いつの間に……わかった、気をつけて行けよ」

「お前らこそ気をつけろよ、あの人ならとっくに気づいてるだろうからな」

「だよなぁ……」

 

 今頃は俺の敗北を察知して、何かしらのアクションを起こしているからだろうか。……いや、()()()()()()の間違いだったな。

 これ以上引き留めるのは良くない。向こうから来る可能性だってあるわけだし、まだ勢いのある内に攻めて行った方がいいだろう。

 

「じゃあ行ってくる。また──」

「──いや、楯無先輩ちょっと待って」

「えっ?」

「これ、()()()()ください」

 

 前言撤回して差し出したのは、なけなしの黒片を組み上げた剣。さっきまで振るっていたような切れ味も大きさも無く、その辺の量産品と同等か少し劣るくらいの出来だ。

 

「ぶっちゃけ二、三回振ったら壊れるようななまくらです。無いよりはマシだと思いますが……まあ適当に投げといてもいいです」

「……うん、持って……じゃなくて、()()()()()

「覚えてたんですね、それ」

「君もね」

「「「?」」」

 

 皆何の話かわからないって顔をしているな。気にしないでくれ、これは俺と先輩だけの話だから。

 託して、継いで、繰り返し。あの時先輩が言ったこと、俺にはできないと思っていたこと。……本当はこんなにも簡単だった。

 

「行ってこい、応援してる」

「……ああ! 任せとけ!」

 

 今度こそ全員が飛び立ち、みるみる機械の翼が遠ざかっていく。あの分だと束様がいる地点までは数分で着くか。

 ……もうこちらの様子はわからないかな。少なくとも肉眼では見えないし、もういいだろう。()()()()()()()()()()()()()ところだ。

 

「う゛っ……が、げほっ……」

 

 激痛に身体を丸めて吐血する。この血は消化器官か呼吸器、あるいは両方から出たものか、全身痛過ぎてどちらかわからない。

 無茶ばかりしていた時に味わった、骨折や肉が潰れる感覚、それを何倍にも増幅したような痛み。心当たりなんて一つしかない。

 

「不思議とは思ってたんだ……『治癒力を抑える薬』なんて……都合が良すぎる物があるのかって……」

 

 今はっきりした。あの薬は薬品じゃない、ナノマシンだ。治癒力を抑えていたのは本当だろうが、それだけじゃない。

 俺が裏切った時、またはしくじった場合に暴走させて始末する予定だったか。形と説明に惑わされて、体内に爆弾を仕込まれていたってわけだ。

 

「ふぅー……ぅ、痛、あ゛ー」

 

 感覚からして、暴走させられたのは一瞬だけ。既にナノマシンの機能は元の治癒力低下に戻っているだろう。致命傷を与えつつ、再生は防ぐか……これでは学園に戻ることもできない。

 

「やばい……目ぇ、霞む……」

 

 全く起き上がれない。痛くて、寒くて、視界が暗くなってきた。

 

 ああ、駄目だ。俺にはまだ──……

 

 

 

『よう』

「は?」

 

 瞬きした瞬間、どこまでも続く平面に俺はいた。吐いたばかりの血は見当たらず、全身の痛みも感じない。欠けていた手足も戻っている。

 暗闇ではない、しかし黒い謎の空間。そして背後からかかる声……思い出した。ここはISコアの内側だ。

 

「久しぶりだな、俺(2)」

『そうだな。二ヶ月ぶりか? 俺(1)』

 

 後ろにいたのは俺とそっくり同じの見た目で笑う《Bug》のコア人格。その名も九十九透(2)だった。

 

『派手に負けたなぁ、だからこそ分かれて話すことができるわけだが』

「100%に到達してからは、特に分かれる意味もなかったからな……」

 

 100%、過ちを繰り返した結果に得た力。目先の生存を優先していたとはいえ、随分と愚行を重ねた物だ。

 目の前の俺(2)もそれに気づけているらしい。

 

本物(オリジナル)複製品(コピー)、人と機械の違いはあれど、俺たちはどちらも九十九透だった。つまり二人して同じ間違いをしていたわけだ」

『全くだ。捻くれすぎだぞ搭乗者(マスター)?』

「勝手にコピーしたのはお前だろう」

「『…………』」

「『どっちも馬鹿だったな』」

 

 結局何言っても自分に返ってくるだけだな。

 

「で? わざわざ呼び出してするのが反省会か? 本体(俺たち)死にかけなんだぞ」

『そうだな。事態は一刻を争う──その上で話さなきゃいけないわけだが』

「……だろうな」

 

 俺の専用機であるのなら、今がどういう状況かはよくわかっている。その上で話すべきことなんてある程度の予想がつく。

 

『わかってると思うが、今の本体は生体維持機能で補えないほど傷ついてる。本体の治癒力が相殺された今の俺たちじゃ、どう頑張っても耐え切れない』

「この調子じゃ戻る前に死ぬし、そもそも治療できる人がいるのかも怪しい……詰んでね?」

『なら諦めるか?』

「いいや、諦めるものか」

 

 負けたって、可能性が低くたって、思考放棄して死ぬなんてことはありえない。いつだって生きるために、それが俺の信念だ。

 第一ここで死んだら、何のために戦ってたのかわからないしな。

 ……けれども、信念だけで生きれたら苦労はしない。

 

「詰みかけなのはマジなんだよなぁ、うーん……」

『確かにな。だがそれは、『今の俺たち』の話だ』

「はっ!? 何をして……」

『治癒力が相殺されたなら、上乗せしてやればいい。上乗せする(生体再生)機能がないなら作ればいい……わかる?』

 

 突如目の前に立つ俺(2)の姿が、爪先から少しずつ黒い粒子に変換されていく。何かの異常か? それとも……

 

『生体再生機能は【白騎士】コアに内蔵された特権だが、その気になれば普通のISに後付けできないわけじゃない。今どの国もやっていないのは、再現する技術力と他機能と両立できるだけの容量がないからだ』

「それは『最強の兵器』たるISの搭乗者が、ここまで傷つく想定なんてしていないだろうから……待て、それとお前が消えることに何の関係がある?」

『まあ続きを聞けよ。逆を言えば、その二つが揃っていれば使える。そして今の俺には束様(あの人)から受け取ったものと【白騎士】を解析したデータを持っている……あと必要なのは容量だ』

 

 解析データさえあれば完全ではなくとも、それに近いものは作れる。どれほどの性能に仕上がるかは不明だが、今よりは遥かにマシだ。

 だが、容量は? こればかりはどうにもならない。ただ一つの方法を除いて。

 

「……だからお前が消えるのか。足りない容量を確保するために」

『そうだ。必要なデータを入れるために、不要なデータを削除する……当然のことだろ?』

 

 理屈はわかる。『九十九透』という一人の人間を模倣した人格データ、消えれば相当の容量が空くだろう。確かに他に取れる手段はないし、仕方のないことかもしれない。だがそれでも、目の前にいるのは『俺』なんだ。

 こうしている間にも変換は進み、下半身はもう消えている。俺は、何を言えばいいのだろう。

 

『勘違いするなよ。元より俺の存在理由なんて本体(お前)を生かすことだ。そのためならこうして消えることに何の恐れもないし、納得してる』

「でも、俺は……」

『いいから。ほら、もう忘れたのか? これも『託す・継ぐ』ってやつだよ』

「……あー。そうか、そうだったなぁ……」

『自分に託す、自分から継ぐ。これも悪くないだろ?』

 

 俺はまだまだ馬鹿だったらしい、さっき気づいたばかりなのにな。

 託されてしまったのなら、俺はもう止めない。余計なことは言わないでこの想いを継いでいくだけだ。

 もう胸元まで消えた。残された時間はあと僅かだ。

 

『いいか、この生体再生機能は所詮紛い物、無いよりマシな延命措置に過ぎない。くたばる前に何としてでも希望を掴み取れ』

「了解。猶予さえあれば何とかしてみせるさ。……実は『仕込み』もあったりして」

『流石は本物だ。用意がいい』

 

 首元まで消えた。……もう、お別れだ。

 

『死ぬ気で生きろよ。お前の生存戦略で』

「……ああ。じゃあな!」

 

 全てを変換した粒子が俺の中へ入ってくる。温かくて、少し寂しくて、それ以上に心強い不思議な感覚。

 そして、俺は。

 

 

 ばきり。

 

 

 

 

 

 

 透と分かれてから数分。レーダーに映る紫色の点を目指して到着したところには、宙に浮かぶ人影が一人。

 篠ノ之束だ。

 

「見つけた! 束さん!」

「待ってたよ。来てほしくはなかったけど」

 

 返された態度は拒絶。かつて興味の対象だった俺は、怪しい笑顔を向けられたことは数あれど、ここまで不機嫌な表情を直接向けられたことはない。その対象以外には日常茶飯事だったけれども。

 当たり前と言えばそうだが、明らかに俺たちが来ることを、もっと言えば俺たちが透に勝ったことを知っていたらしい。

 

「正直なところ結構驚いてるんだよ。私は十中八九とーくんが勝つだろうと踏んでいたから。そう思えるくらい力の差があった」

「一対一なら何度戦っても勝てなかったでしょう。けど俺たちは八人で、透は一人だった」

「そうだね。結束と共鳴の力を甘く見過ぎていた……私も、とーくんも」

「貴女にしては随分あっさりと認めますね、姉さん」

「真に間違っていたことを意地張って否定するほど私は馬鹿じゃないよ、箒ちゃん」

 

 本当に別人のようだが、これが素の束さんなのだろう。今までのふざけた態度の裏に隠していた本当の表情と声。透もこの姿を見ていたのかな。

 

「久しぶりに会ったところだけど、無駄話で時間を潰すつもりはないよ。()()()はほとんど準備できてる」

()()……? って、いつの間に!?」

「最初からだよ。隠してただけ」

 

 ぱちり。束さんが指を鳴らすと、背後に巨大な紫の花々が咲いた。その花こそが束さんの専用機。世界、そしてを救うために戦わなければならない俺たちにとって最後の敵。

 

「これが最後の仕上げっ──」

「何だあれ……同化してるのか!」

「う、ああ、あ……」

 

 一際大きな花の中心から伸びる緑の触手が束さんに絡み付き、飲み込んでいく。その光景はどこか美しく、そしてグロテスクだ。

 下半身が花の中へ取り込まれ、上半身のみが外に出ている。どうやら透とは違い、あくまで本体と機体の接続が目的の同化らしい。

 

総天機神(そうてんきしん) 群咲(むらさき)──さあ始めようか、全てを賭けた最終決戦を」

「──やるぞ皆っ!!」

「「「了解っ!!」」」

「…………はぁ」

 

 始まった。まず溜息と共に襲いかかるのは束さんに絡み付いたものによく似た触手。花と一緒に生えていることと、刺々しい見た目からするに茨と呼ぶべきか。

 単純なパワーで叩いてくるのか、それとも物量で押してくるのか、直に触れたらアウトなパターンも考えられる。

 

「だがどれも経験済みだっ!」

 

 パワー、物量、接触禁止、俺たちにとっては初見の攻撃じゃない。現状の戦力で十分に対応できる。

 

「……『網』」

「──セシリア、シャル!」

「お任せください!」

「迎撃するよっ!」

 

 俺たちを包囲するように展開された茨を二人が撃っていく。耐久力はそこそこ止まりなのか、完全破壊には至らずとも包囲網は容易く穴だらけになった。

 

「箒! 鈴! 楯無さん!」

「「「はああぁぁっ!!」」」

「『盾』」

「硬った!?」

 

 穴を縫って飛び出した三人の斬撃は茨を集めて作られた盾が塞ぐ。その表面には深く傷がつけられたものの、シールドバリアに届いた様子はない。

 

「『槍』」

「うわあっ!?」

「カバー行くぞ!」

「「了解!」」

 

 三人に向けられた攻撃は俺とラウラ、簪さんで止める。

 鋭く重い茨の槍、直撃すればただでは済まないだろうが、特別恐ろしい威力ではない。その証拠に俺は弾き返し、ラウラは『AIC』で止め、簪さんは受け流している。

 

「へぇ……うん。とーくんを倒しただけはある」

「余裕ですね。それともこの程度で終わりですか?」

「まさか。今のは肩慣らしだよ。私がISに乗って(こうやって)戦うのは今日が初めてだから」

「開発者なのに……?」

 

 初めてでこれほどの操作技術。逆に考えれば、ここから慣れていくことで更に精度は上がっていく可能性が高い。そして『天災』と呼称される彼女なら、その考えは軽く超えてくるに違いない。

 それも、遥か斜め上の方向で。

 

「『()()』」

「……せ、せん?」

 

 唐突に出た大きすぎる単位に理解が遅れた瞬間、目の前に広がったのは緑の壁。正確には壁ではなく、茨が絡み合って形作られた幾つもの手だ。

 数えるのも嫌になる数だが、『千手』と束さんが言ったからにはその通りだろう。手一つに使われている茨の本数を考えると万に到達するかもしれない。

 

「数はこれで限界か。とーくんの倍は用意したけど……足りるといいな」

「いやいやいや、足りるとかそういう次元じゃない!」

「そっか。ならいけるね」

「──ッッ!!」

 

 夥しい数の手が一瞬で周囲を覆い尽くす。どうにか通り抜けられそうな隙間は──無い。

 

「うっ、ちょっと! 多過ぎるんだけど!」

「一つ一つは透くんのより弱いわっ! とにかく捕まらないことに集中してっ!」

「はいっ! ……あれ、捌ける」

「『百花繚乱(パワーアップ)』のお陰だな!」

 

 確かにとてつもない量だ、多少透に劣るとはいえパワーもある。けれど『百花繚乱』のバックアップがあれば捌き切れる。

 幸い箒の精神が続く限りエネルギーは半永久的に持続する。このまま粘り続けて、僅かな隙に反撃を捻じ込めれば……。

 

「すごいね、『発展仕様能力(ネクスト・アビリティー)』。自分が設計してない力がこうも活躍するのは腹が立つな」

「首洗って待っててくださいよ! その腹立つ力にあなたは負けるんですからっ!」

「負ける? 何を言っているのかなぁ……だって、()()()()()()()()()()()()()

「……え?」

「ほら、ごらん」

 

 言葉と共に眼前に差し出された掌。その中心には紫色の花が咲き、ほんの一瞬だけその鮮やかさに気を取られる。

 

「《権能行使(コード):束の紫(ヴァイオレット)》」

「しまっ──」

 

 暗転。

 

 

 

 

「あ゛……え゛……?」

「な、んで」

 

 謎の暗転が終わり、激痛と意識の混濁を堪えて目を開く。何が起きた。何をされた? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「共鳴現象が解けてる、『百花繚乱』も、『極光至斂』も発動してない……」

「私は瞬きすらしていなかった。何も感じずにここまでやられるわけがないっ!」

 

 そうだ。あの瞬間俺は瞬き一つしていていなかった。きっと皆もそう、油断なんてしていない。

 まるで時間が飛ばされたような感覚。()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

「……気づいてたと思うけどさ、私と【群咲】はとーくんと【Bug-CatastroFear】に比べたら数段弱い。あり得ないことだけど、正面からぶつかったら間違いなく押し潰されてる」

 

 気づいてはいた。この茨だって相当の脅威だが、あの黒片に比べるとまだ何とかできる武装で、事実さっきまでは対応できていたはず。

 

「とーくんに勝った君たちなら負ける理由なんて無かった。それでも私は『勝てる』という確信があって、事実こうして追い詰めている……何でか、わかる?」

「《権能》があるから、でしょう……う゛っ」

 

 他でもない開発者を相手取るのだから、きっと何かあるだろうとは思っていた。だがまさかここまでとは思わなかった。

 《権能》の力で暗転させられたとして、花がきっかけになっていることは間違いない。このダメージは明らかに直接攻撃によるもの、茨で殴られたのか。つまり暗転とダメージに直接の関係は無い……。

 

「洗脳……いや、支配か」

「正解。『ISの強制支配』、それが【総天機神 群咲】の《権能行使:束の紫》の力だよ」

「まためちゃくちゃな……!」

「君には言われたくないかな」

 

 飛んでいたのは時間ではなく意識。情報が遮断されてしまったのを誤認していただけ。支配をかけた側からすれば、無抵抗の相手を甚振っていた様なものか。

 

「『強制』でも『無制限』なわけじゃない。トリガーとして花を認識させることが必要だったり、機体のコンディションだったり、搭乗者の意識レベル、対象の数……今は解除されているのもそのためだよ」

「解説どうもっ……はっ!?」

「まあ、目覚めたなら繰り返せばいいんだけど」

 

 暗転、覚醒、暗転、覚醒。何度も意識を奪われ、その度に茨が襲う。元々『百花繚乱』の力で強引に戦闘を継続させていた分、それが切れると一気に戦力が落ち、このループから抜け出すのが困難になる。

 目を閉じればいいのかと思ったが変化はなし。きっと認識させることとは視覚だけではないのだろう。五感を潰せばいけるか? ……結局戦えなくなるだけだ。

 

「本当は、《皇の白(ホワイト)》と《后の赤(レッド)》と合わせて使うはずだったんだけどね。467ものコアを一気に支配するためにはそれくらいじゃないと」

「残念でした、協力なんてしませんよ……!」

「……違うね、君がするのは服従だっ!」

「あ゛っ! ……ぐ、ふぅ……」

 

 ガラ空きの腹に茨がめり込む。反撃しようにも動きを封じられ、エネルギー切れで剣も作れず、形態移行もできない今の俺にはどうすることもできない。

 そう、俺には。

 

「やあっ!」

「!」

 

 楯無先輩が何かを投げる。隠し持っていた武器か、軌道は束さん目掛けて一直線。しかし束さんは一瞬反応しただけで、慌てる様子もなく破壊した。

 

「これは……とーくんの剣か」

「そうよ。私たちが継いだ、透くんの心」

 

 砕かれた破片を見れば、透から託された『なまくら』だ。元々楯無さんの武装でないそれは量子化されておらず、暗転中の攻撃にも当たらなかったらしい。

 

「本当に『ただのなまくら』。何の意味もないゴミを託すなんて、そんな愚かな真似をするとはね」

「……それは違うわ」

「ああ、大違いですよ」

 

 性能や形は重要じゃない。大事なのは込められた意志の強さだ。託していた時はわからなかったけど、意味なんていらないし、愚かかどうかなんて関係ない。

 

「神様気取りのあなたにはわからないでしょうね! 凡人の理解が足りないんじゃないですかっ!?」

「だけど現に壊れているっ! 私に傷の一つもつけられず、粉々にっ……こなごな、に?」

「そう、()()()()()()()()()わね」

「あーあ」

 

 よく似た光景をさっき見た。それは束さんも見ていたはずだ。

 さて、その後はどうなったっけ?

 

「眠れっ!《権能行使(コード):束の(ヴァイオレ)──」

 

 慌てた様子で蕾が展開される。これが開いた瞬間また暗転するのだろう。そうすればもう目覚めることはないのかもしれない。

 最後の開花が始まって、そして……何も起こらない。

 

「来たな……!」

「──遅かったか!」

「はーーーーっっはぁっっっ!!!」

 

 支配に失敗したことで反応が遅れ、その隙に乱入した黒い影が茨を斬り刻む。

 突然の加勢、その影の正体は──

 

「俺! 大・復・活っ!!!」

 

 ──元裏切り者の九十九透だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第69話「継承・群咲」

 

 

 




 ドシリアスパートは終わりました
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