【完結】害虫生存戦略   作:エルゴ

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 実はこの作品を書く上で一つの縛りを設けてまして、それが『1話に10000字以上書かない』でした。
 なんで急にこんなこと語ったかと言いますと、今回10000超えてるからです。
 というわけで初投稿です。
 


第70話「害虫・虹色」

 

 

「やあやあさっきぶりですねぇ束様ぁ! 随分イラついてるご様子じゃあないですか!」

「とーくん……!」

 

 少々テンション高めでな俺を束様が睨みつける。さすがにあの傷で戻ってくるとは思っていなかったか、綺麗に乱入を決められた。

 

「遅いぞ透! 危うく俺たちだけで勝っちゃうところだっただろ!」

「馬鹿お前、どう見てもボコボコにされてんじゃねーか」

「こっから逆転するんだよ! なぁみんな?」

「あったりまえよ!」

「えぇ……」

 

 強がりもここまで来ると清々しいな。こいつららしいっちゃらしいか。

 実際俺は遅れたわけではなく、タイミングを見計らっていただけなのだが……具体的には千本も手が生えた辺りから潜伏していた。無策に飛び出しても即死するからな。

 

「よくも、私の《権能(コード)》をっ……!」

「ふふふふふ、まぁあなたならどうして使えないかわかりますよね。だが説明はさせていただくっ!」

 

 手段を問わず花を認識させることで対象を完全に支配する脅威の力、《権能行使(コード):束の紫(ヴァイオレット)》。多少の制限こそあれどその力は『神』に相応しいと言えるだろう。

 だが俺の切り札は、『神』すら殺す『災厄』だ。

 

権能歪曲(Code):災厄の黒(Black)》! あなたの《権能》を無効化させてもらった! もう『支配』はできません」

「知ってるよ、全部見てたんだから! 発動に必要な条件もねっ!」

「ええ、それはあなた自身の手で達成されたわけですが」

 

 《権能歪曲》の発動条件は一つ。【Bug】に搭載された対IS用ナノマシンを一定以上付着させること。一夏にかけた時は俺の直接攻撃で達成したが、まだ一度も攻撃していない束様にはどうやったのか?

 

「ちょっとちょっと、私たちだって頑張ったんだけど?」

「わかってますよ楯無先輩。いい芝居でしたよ、お陰でばっちり乱入決められましたし」

「でっしょー!」

 

 その答えはあの黒剣。楯無先輩に託したアレだ。ヤケクソのように先輩が投げ、容易く破壊された『なまくら』だが、その中にはたっぷりとナノマシンを仕込んでいた。

 『適当に投げて』……時間がなかったのもあるが、回りくどい言い方をせずに伝えたのがよかったかな。もしも海に捨てられていたら詰んでいた。

 

「茨を切るついでにも付着させておきました。もう簡単には解除できませんよ」

「そう……ここまで読んでたってわけ?」

「考える限りの最悪を想定したまでですよ、これくらいはやるだろうってね」

 

 ISの開発者たる束様が反逆を想定してないわけがない。単純な武力以外で制御する方法があると見るのが妥当だった。そうくれば最も警戒すべきなのは《権能》、あとはその対策を立てるだけ。

 何年部下やってたと思ってる。いくら天災相手だろうとほんの少しくらいは理解できるさ。

 

「今度は私を裏切るなんてね、蝙蝠のISなんて作った覚えは無いんだけど?」

「いやいやいや、()()ですから。強い光(希望)に向かって飛んでいっちまうんですよ、なぁ?」

「……そうだな、お前はそういうやつだ」

 

 裏切り上等。何せ生きなければならない理由が増えたばかりなんでな、生き汚く行かせてもらおうか。

 他でもない俺のために。

 

「というわけでだ、是非とも俺を仲間に入れて欲しいんだが……ダメかな?」

「ダメなわけないだろう、そもそも来なかったらキレてやるつもりだったからな」

「「「うんうん」」」

「えっ怖……」

 

 来てよかったマジで。

 

「言っとくが今の俺は雑魚だぞ。黒片はギリギリ使えるものをかき集めただけだし、その制御系も大幅に劣化してる。さっきみたいな物量も多彩さもないからな」

 

 合成コアと《CatastroFear》の大半を喪失した上に(2)まで消えた今、俺と【Bug】のスペックはその辺の量産機より多少マシなレベルにまで落ち込んでいる。

 持ってこれた武装は僅かに三種類。使い慣れてて火力のある《Centipede(蛇腹剣)》、単純に生成コストが低かっただけの《Weevil(黒盾)》、そして隠し球が一つ。貧弱だ。

 

「はぁー? 見てみなさいよ私たちのダメージ。あんたの方が何倍も元気じゃない」

「まだまだいけそうね! 引き続き妨害よろしく!」

「過労死しそう」

 

 ……やっぱり来てよかった。いや、脅されているのは関係無く、こんなにも簡単に受け入れてくれるのだから。

 

「『百花繚乱』! これで全員復活だ!」

「『極光至斂』……改めて行くぞっ!」

「「「応っ!!」」」

 

 そして戦闘再開。復活を遂げた八人が最前線で、俺は一歩引いた位置から茨を迎撃する。

 俺は一瞬たりとも妨害が途切れないように努めつつ分析。他は俺に攻撃が行かないように相手を押さえ込む……要は姫プレイだ。何だか情けない気もするが、気にしている場合じゃないな。

 

「『支配』の根源は俺が断ってみせる! お前らそれまで耐えてくれよ!」

「頼んだ! はあぁっ!」

「無駄だよ、私の《権能》は破れない。せいぜい君の紛い物の《権能》で抑え込むのが限界だっ!」

「本当にそうかな、やってみなくちゃわからないっ!」

 

《権能歪曲》はナノマシンを介してプログラムを改竄し、機能不全を起こさせる。しかし向こうも修正という抵抗をするわけで、実際無効化中は改竄と修正の繰り返しだ。

 その繰り返しの中で俺は分析をしているわけだが、ほんの少しだけ引っかかる点がある。

 

 この人はどうやって、《権能》を維持している?

 

 強力かつ複雑なプログラムにはそれ相応の処理能力が必要だ。『自由に指定した対象の支配』なんて『単体を対象としたデータ消去』や『例外を除いて一括弱体化』に比べてもずっと複雑だろうに、どうして平然と扱えるのか。

 いくら束様といえど茨の操作と機体の制御、《権能》の常時発動と修正なんて単独でこなせるのだろうか。仮にできるのだしても、わざわざ自分の負担を大きくするとは思えない。

 そして何より、『支配』という二文字が引っかかる。

 

「もう少し、もう少しで掴める……」

「舐められたものだね、考え事とはっ!」

「やばっ、《Weevil》!」

「大丈夫!?」

「平気、逸らした!」

 

 思考が分析に傾きかけた瞬間、そこを狙って突き出された茨を《Weevil》で弾いて逸らす。危うく直撃するところだった。いくら機体が修復されているからって、まともに入れば一発KOなことは変わらない。

 一瞬の油断が命取り、こんな状況で分析に頭を回すのはかなりきつい。

 

「もう少しでわかりそうなんだがっ……ああもう面倒くせえなクソがっ!」

「おい! 本当に大丈夫か!?」

 

 思考、迎撃、改竄、凄まじいマルチタスクで脳が沸騰しそうだ。今までどれほどもう一人の処理能力に頼っていたかわかるな。

 

「……ん?」

 

 もう一人、もう一人……ああ、理解した。そういう仕組みだったのか。

 

「根源は大輪()の中かっ!」

「っ!?」

 

 わかってみれば至極単純。単独で処理しきれないのなら、単独でやらなければいいだけのこと。そして協力者は本体のすぐ近くにいる。

 答え合わせは反応を見れば十分。あとは実行だ。

 

『全員聞いてくれ。今から俺が突っ込んで、《権能》の完全に無効化する。その間俺に向かってくる攻撃を引き受けてほしい』

『引き受けるのはいいけど、突っ込むのはお前だけでいいのか?』

『正直もう一人欲しいが、二人も近づける隙ができるとは思えない。俺だけで行く』

『……わかった。 タイミングは任せるわよ!』

『はい!』

 

 作戦を共有して準備を整える。仕組みを看破された束様の迎撃はきっと凄まじいものになるだろう。しかしそれを潜り抜けなければ俺たちに勝利はない。

 隙を見つけろ。仲間を信じて突っ込むんだ。

 

「まだだ、まだまだ……」

「これ以上余計な真似はさせない! 蝿のように叩き落としてやるっ!」

「──今っ!!」

「「「了解っ!」」」

「何っ!?」

 

 四方から俺をはたき落とすような軌道で接近する茨。その間にできた小さな隙間を目指して瞬時加速する。最速最短でいこう、割り込む邪魔は仲間が防いでくれる。

 目標は、束様が下半身を取り込ませたあの大輪。その中にあいつがいる。

 

「うおおおおっっ!!」

「このっ……ひっつくなっ!」

「直ぐに離れますとも。こいつを引っ張り出してからねっ……《Centipede》!!」

 

 抵抗する本体には目もくれずに《Centipede》を振るう。硬い花弁を二枚、三枚と切り裂いて、()()の中身が見えた。

 

「見つけたぞ、クロエ!」

「透さま……!」

 

 大輪の中身、協力者の正体は束様の娘にして自称俺の妹のクロエ・クロニクル。もっと早く気づくべきだったんだ、この戦いにクロエが参加していないことに。一夏を俺のところまで案内した後からずっとここにいたんだから。

 

「『解離世界(ワールドパージ)』を使うお前なら《権能》の膨大な情報量を処理できるだろう、用は後付けCPUか」

「くっ……」

 

 ISとその操縦者を夢の世界へ堕とし、操ることができる単一仕様能力『解離世界』、そして『支配』の力を持つ《権能行使:束の紫》。似ているとは思わないか?

 それはきっと意図的なもの。クロエをこうして使うために近い能力を与えていたのだろう。

 

「それじゃあレッツ親離れタイムだ。お兄ちゃんが手伝ってやるよ!」

「やめなさいっ! 私は、束さまのためにっ!」

「ぐぅぅぅ……くーちゃんから手を離せっ!」

「邪魔はっ!」

「させないよっ!」

 

 だがその協力もここまで。その場から動けないでいるクロエを掴み、あちこちに繋がっている配線から強引に引き剥がしていく。

 束様から入る邪魔は全て簪とデュノアが撃ち落としてくれる。

 

「ぐぬぬぬぬっ……おらぁぁぁっっ!!!」

「あっ……! ぐうぅっ!?」

「捕まえ──「返せっ!!」──よし離脱っ!」

 

 全ての配線を引きちぎり、完全に分離させた。もうこれで《権能》と茨を併用することはできない。

 そうなればこれ以上止まる理由はない。取り返される前にすぐさま距離を取った。

 

「よくも裏切りましたね、束様は命の恩人だということをお忘れですか!?」

「忘れるわけねーだろ。その倍は殺されかけたことも含めてな……けど、それとこれとは別。俺は俺が正しいと思うように生きることにした、だからこうする」

「何を馬鹿なことをっ」

「いつか教えてやるよ、今は……寝てな」

「あっ!? ……ぅ」

 

 どうにか束様の元へ戻ろうとするクロエ。せっかく捕まえたのに逃すわけにはいかないため、優しく小突いて気絶させる。わざわざ花の中に隠していた時点で、こいつに戦う力がないことはわかっていた。こうすればただの人間と変わらない。

 

「ボーデヴィッヒと篠ノ之さん! あとよろしく!」

「え? あー、わかった!」

「拘束と保護だな?」

「そうそう」

 

 この二人ならワイヤーで縛りつつ、展開装甲の応用で守ってやれるだろう。というかもう篠ノ之さんが背負う形でやってくれた。

 

「やっと全力が出せるぜ……!」

「もうサポートはいらないか?」

「ああ。世話かけたな」

 

 ここからは分析と《権能歪曲》に割いていたリソースの全てを戦いに回すことができる。()()()()まで、思いっ切りやろう。

 

「よっしゃあ! もっともっとギア上げていくぞ、できるよなお前らぁっ!」

「こっちの台詞だ! 中々本気出さないからこっちは待ちくたびれてんだ!」

「全員スーパーハイテンションッ! 今ならいける!」

「もう一度、今度は九人でっ!!」

「「「『共鳴現象(レゾナンス・エフェクト)』ッ!」」」

 

 全員の叫びと同時に光が溢れ出し、限界を超えた力が漲っていく。これが『共鳴現象』、響き合う心が与える未知数の力。

 なんていい気分だろう。不可能なんて毛程も感じない、今なら何だってできそうだ。

 

「『支配』できないなら正面から叩き潰すまで! 所詮は有象無象、無駄な足掻きだってことを思い知らせてあげるっ!」

「それはどうかなぁっ!」

「無駄かどうかは、これからですっ!」

「何っ!?」

 

 最初に力を示したのは一夏と篠ノ之さんだった。本来のスペックからさらに上乗せされた速さの前に、捉える術など存在しない。先程まで一本ずつ破壊するので精一杯だった茨を、次々と輝く刃で薙ぎ払っていく。設計以上のベストパートナーだな。

 

「次はわたくしの番ですわっ!」

「あ・た・し・も・でしょっ!!」

 

 次はオルコットと凰。数え切れない茨には数え切れないレーザー、レーザーで貫けない壁には衝撃砲で破壊する。手数と火力、長所と短所を補い合えるのは、日頃の衝突でお互いのことを知り尽くしていたからこそだろうか。

 

「合わせろ、シャルロット!」

「オッケーラウラ! 何でもいけるよ!」

 

 デュノアとボーデヴィッヒが続く。実弾とレーザーが織り交ぜられた弾幕の中を飛び回り、AICが止めたところからプラズマ手刀が斬り裂く。ほんの少しでもずれれば同士討ちになりかねないこの動きを容易く行える連携は凄まじい。

 

「透くん! 簪ちゃん! 私たちもっ!」

「三人で!? ……いいね、やろう!」

夏休み(あの時)振りですねぇっ!」

 

 そしては俺、いや俺たちの攻撃。《ラスティー・ネイル》でこじ開け、《山嵐》で吹き飛ばし、《Centipede》で斬りつける。三人でやるからには二人の連携に負けてはいられない。全員最強、守られるだけの足手まといなんてもういない。

 もはや競走じみた勢いで茨を刈る。刈って、刈って、刈り続けて──ついに生成と破壊の天秤が釣り合った時、花の奥に光るものを見た。

 

「! そこだぁっ!!」

「しまっ──くうぅっ!!」

「チィッ! 外した!」

 

 目標を切り替えて向かわせた刃は即座に弾かれたが、その反応は確信を得るには十分なものだった。

 通常のものより大きいが間違いない。あの結晶こそが核にして最大の弱点、【総天機神 群咲】のコアだ。

 

「一夏、見えたな?」

「バッチリ。あれさえ壊せば──!?」

「剥き出しのままにするわけないでしょう? こっちだって再生持ちなんだから……!」

「そりゃそうだ、どうしようか──う゛う゛っ!?」

 

 しかしコアはすぐさま花弁の奥に隠され、分厚い茨の壁で補強されてしまった。もう一度引っ剥がして、超強力な一撃を叩き込むしかないか──と思考を巡らせたところで、耐え難い痛みが身体に走る。

 

「ごぽっ、あ、う゛えっ……」

「透くん!?」

「あー……さっき口切ったのが開いちゃいました。奥の方だったんで、ドバッとね」

「……本当に? 大丈夫なのね?」

「本当ですよ。心配症だなぁ」

 

 もちろん嘘に決まっている。これは口どころか傷付いてはいけない内臓、それも複数からの出血。紛い物の生体再生機能が限界を迎えている証拠だ。残り時間はあと僅か。

 けど余計な心配はかけられない。こんなことで士気が落ちて『共鳴現象』が解けようものなら全てが水泡に帰す。せめて時間切れまでは隠し通そう。

 

『透、お前……』

『別にお前らの攻撃が効いてこうなったわけじゃない……だから気にするな。今は戦いに集中しろ』

『……わかった』

『よし、それでいい』

 

 残念ながら一夏にはバレてしまったが、秘匿回線(プライベート・チャネル)で確認してくる辺り空気が読めているな。もし直接喋ろうとしたらぶん殴って黙らせなきゃいけないところだった。

 実際こうなったのは束様の仕業だからな。そこに至るまでの過程がどうという考えもあるんだろうが、少なくとも俺は気にしちゃいない。

 さて、まだ喋る余裕はあるな。

 

「あなたは言いました、『世界は醜く、人間とは不完全な存在である。だからこそ変わらなければならない』と」

「……何、また否定するつもり?」

「いいや、それは正しいと思います」

「はぁ?」

 

 だって、そうだろう? 別に共感しているわけじゃないが、この人が見続けてきた世界の汚点は紛れもなく存在する現実なわけで、そのほとんどは人によって生み出されたものだ。そもそも俺の存在自体がそうやって作られたようなものでもある。

 

「確かに変革は必要です。けれど、誰かに強いられて行うことじゃない。それで変わるのは表面だけ、本質は変わりません」

「…………」

「世界が、人々が自ら選び取ってこそ真の変革。何度も間違いながら、少しずつ正しい道へ……その選択の果てできっと、『理想の世界』は実現する。それが、この世の醜さから生まれた俺が思う答えです」

 

 ほんの一時間前の俺ならば絶対に辿り着けなかった。皆と戦って、もう一人の自分が消えて、やっと得た答えだ。束様には届くだろうか?

 

「……認めない。認めない認めない認めない! 『自ら選び取る』? それを繰り返してできたのが今の世界だ!! 正しさなんて選べない、何千、何万、永遠に愚行を積み重ねたところで理想なんて生まれないんだっ!!」

「いいですよ認めなくたって、それも選択の一つだ……けど、こっちも引き下がる気はありませんがね」

 

 結局のところ、どちらの考えも単なるエゴに過ぎない。世界のため、人のため、自分の正しいと思う方法を押し付けているだけ。

 一人が変える、皆で変わる。どちらも一長一短で、理屈で優劣を判定できない。ならばどうする?

 

「戦うっきゃないでしょう。お互いのエゴで殴り合って、勝った方が最強! 採用! シンプルでしょう?」

「つまり、やることは何一つ変わらないってわけね?」

「はい」

 

 どうせ議論を続けても平行線なんだ。口よりはまず腕で、力の理解さ(わから)せ合戦しかないだろう。心から認めてもらうのはその後でいい。

 

「あなたの土俵だ。受けてくれますよね?」

「上等だよ、後悔させてあげる……!」

 

 再生と増殖。全てのリソースを使った幾千もの茨が、捻れて絡み合い形を成す。束様の怒りと悲しみ、そして絶望という負の感情の体現。それが今、俺たち倒すためから殺すために牙を剥こうとしている。

 なんて恐ろしいんだろう。あんなものに攻撃されたら死んでしまう。

 

「やろうか」

「ああ」

 

 だが俺たちは恐れない。前へ進む。それが正しい選択だと信じて。

 長ったらしい作戦会議は不要、互いに一言交わせればそれだけで十分。あのコアをぶっ壊すのは俺たちだ。

 

「私たちは、二人に力を!」

「ありったけ持っていきなさい!」

「これで元気百億倍ね!」

「負けたら今度こそ女子の制服だね?」

「勝っても着てくれないか?」

「上に同じ……あ、頑張って」

「後半!? ……えーっと、信じてる!」

 

「なぁ」

「言うな」

 

 ……それは皆もわかってくれているようだ。相変わらず揃わない激励と共に手をかざし、回復と共鳴を繰り返して膨れ上がったエネルギーが光となって流れ込む。

 

「「うおおおぉぉぉぉっっ!!」」

 

 二人の器には収まりきらない幾万の光は背を割り、虹色の翼となって飛び出す。この輝きこそ愛、勇気、友情、そして希望という正の感情の体現。負を打ち消す証。

 さぁ名乗りを上げよう。

 

「織斑一夏。守りたいものを守る!」

「九十九透。死に物狂いで生き延びる!」

「「「女子一同。頑張る男の子を応援する!」」」

 

「篠ノ之束。今を終わらせて未来を創る!」

 

 名乗りを合図に最後の攻防が始まった。先に仕掛けたのは束様。夥しい数の茨が、まとめて俺たち二人に向けられる。

 

「「はぁぁぁぁっ!!」」

 

 白と黒。重ね合わせた二つの刃を真正面から叩きつける。回避はしない、全速力で突き進む。

 

「これならどうっ!?」

「散った!?」

 

 続いて茨が散り、あらゆる角度から襲いかかる。最も攻撃の密度が大きいのは進行方向の正面。それ以外は然程でもない……なら!

 

「俺は正面をやる!」

「側面は任せろ!」

「何っ!?」

「「ぃよっしゃぁ!!」」

 

 俺は《Weevil》で、一夏は分割した光剣で茨を打ち払う。何も驚くことはない、この攻撃はさっきの俺がやったこと。使用者と経験者ならこれくらいできて当然だ。

 ……残念ながら《Weevil》は壊れてしまったが、まだ失速することなく距離を縮められる。

 

「させないっ!! これ以上近づかせてたまるかっ!!」

「あの軌道はっ……」

 

 今度は密度を落とした代わりに複雑な軌道で攻撃が迫る。盾が無い以上受けることはできず、分割した光剣は躱されるだろう。

 ならばこうしよう。

 

「俺がやる!!」

「わ、わかった!」

「ぶった斬れ、《Centipede》ッ!!!」

 

 ギリギリまで延長させた蛇腹剣が片っ端から斬り裂いていく。複雑な軌道なら慣れっこ、寧ろ十八番と言ってもいいくらいだ。だが……

 

「ちっ……!」

 

 びし、ばきん。限界を迎えた《Centipede》が、音を立てて砕け散った。お気に入りだったんだけどな……役に立ってくれた。

 

「一気に行くぞ!!」

「おうっ……!?」

 

 目標まではあと数十メートル。ISならば一秒もかからないような距離、あと少し、あと少し……そこで、背後に気配を感じた。

 それが何なのか、何をするつもりなのかは振り返るまでもなく理解できた。俺が何をするべきかも。

 

「っ一夏ぁっ!!」

「ぐあっ……何、を……!?」

 

 ほとんど反射のような勢いで俺は一夏を突き飛ばした。コアを破壊するには一夏の力が必要だ、失うわけにはいかない。

 気配の正体は細い茨。太い方の内側に隠されていたのか、完全に破壊したもんだとばかり……

 

「ぁ、……ぐ……ぅぅ」

「お前……!」

「透くん!!」

「ごぶっ……っ」

「……とーくん」

 

 おかげで穴が増えてしまった。ただでさえ限界の来ている生体蘇生機能ではこれ以上の傷は塞げない。『死』が急速に近づいているのを感じる……でも、守れた。

 そんな心配そうな顔で見るなよ。よそ見している暇なんてない、あとちょっと届くんだ。ほら……

 

「っ……!」

「いっけぇぇぇーー!!!」

「……うおおぉぉぉーーーっっ!!」

 

 ついに到達した目標。《群咲》のコア。絶叫と共に輝きを増した刃が突き立てられる。もうこれ以上茨が追加されることはない。が、

 

「こんなものっ!!!」

「ぐうぁっ!!」

「一夏っ!?」

 

 しかしそこで身を乗り出した束様の直接攻撃が入る。コアに意識を集中させていた一夏の手は、半分ほど刀身を突き刺したところで離れてしまった。

 絶体絶命? ……いや、まだだ。

 

「止めた……勝った!!!」

「よーし、来い!!」

「!?」

 

 俺はまだ『諦める』なんて一言も言っちゃいない。()()()()()()はここからだ!

 

「透ーーっ!!!」

「《Grasshopper(・・・・・・・・・・・)》ッッ!!!」

「っ!?」

 

 勝ちを確信した一瞬。束様でさえも油断するその隙を突き、一夏が残した光剣目掛けて全力の蹴りを放つ。

 穴が空いたくらいで脱落(リタイア)するとでも思ったか? もう『死』からは逃げない。俺は今、『死』を蹴っ飛ばすためここにいる!

 

「おおぉぉぉぉっっっ!!!」

「こんな蹴り、また墜としてっ……嘘っ!?」

 

 全身が痛い、気を抜けば身体が引き裂かれそうだ。けれどこの勢いは緩めない。最後まで、全力で、貫くんだ。

 虹色の翼が、皆の想いが俺を押してくれる。もう誰にも止められない。

 

「なんで、どうして止められない!?」

「知りませんね。けど、これだけは言える」

「「「いっけぇぇぇーー!!!」」」

 

 皆の声が響く。短く息を吸って、告げた。

 

「──俺たちの、勝ちだ」

「ぐぅ、う、ううううう………」

 

 宣言と同時に、光剣が深々と突き刺さり、貫通。貫かれたコアは砕け、光を放ちながら崩壊を始めていく。

 眩しさに目を閉じながら聞こえたのは──

 

 

「──うえぇぇぇぇんっ……!」

 

 ──まるで、子供のような泣き声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

「……勝っ、た?」

 

 

 戦いは終わった。束さんと《総天機神 群咲》の敗北、俺たちの勝利という結果で。

 目の前には束さんが気絶し、機体の残骸が浮かんでいる。

 

「っ透くんは!?」

「あちらですっ!!」

 

 だが俺たちに勝利を喜ぶ暇はない。あいつは相当のダメージを負った状態で戦い、さらに重傷を重ねていた。無事なわけがないのだから。

 束さんから少し離れた位置に浮かぶ透の元へ駆け寄った。

 

「酷い怪我……急いで手当てしないと!」

「ど、どうやって!?」

 

 どうやら意識を失っているらしい透の身体は、検査(スキャン)するまでもなく瀕死の状態だとわかった。まだ息はあるが、それもいつまで持つかわからない。

 しかし俺たちは医療器具なんて持っていない。まずは最速で学園まで運ぶしか無いだろう。

 

「学園なら、治せるの?」

「っ、それは……」

 

 確かにIS学園には最新の医療設備がある。その辺の病院に連れていくよりは百倍マシだ。けれど、今の透は傷つきすぎている。学園の医師が手術したくらいで治せるかも怪しいほどに。胸に埋め込まれた機械の問題もあるわけで、その両方を解決できるのは……

 

「束さんを起こして、束さんにやってもらおう」

「えっ!?」

「ちょっと、それって……」

 

 驚くのも無理はない。俺だってめちゃくちゃなことを言っているのはわかっている。けど、この際方法は選んでられないんだ。

 

「今俺たちが知る限り、これほどの傷を手術でどうにかできるのは束さんだけだ。そして本人は目の前に生きて──気絶はしてるけど──いる。手段にカウントするには十分じゃないか?」

「なるほど……」

「うん、確かにアリね。問題は……」

「素直にやってくれるか、だね」

「ああ……」

 

 束さんからしてみれば、たった今負かされた相手に『あなたを裏切ったやつが死にそうだから治してください!』と頼まれるわけで、『はいやります』なんて言えるわけがない。拒絶されるのはまだマシで、最悪は……考えたくない。

 やっぱり他の人を探すか? ……いや、そんな時間はない。やはりこれ一択だ。

 

「とりあえず説得するか、首根っこ掴んでやらせるか、最悪土下座でもしようか」

「勝ったのに土下座って変な感じ……」

「とにかく、二人とも連れていかなきゃ、諸々は途中でやりま──え?」

 

 学園まで運ぶため、楯無さんが透を抱きかかえようとしたその時。気絶していた筈の透が動き出して、束さんの下へ歩み寄った。

 動いたと言っても傷だらけなことは変わらず、至る所から流れ出した血が足跡のように残る。

 

「透くん!? 傷が開いちゃう!」

「動いちゃダメだ! 今俺たちが学園までっ……」

「ごめん、それはできない」

「え?」

 

 申し訳なさそうな表情で、こちらの提案を拒絶する透。どうしてだ? 確かに躊躇されるのはわかるが、今は一刻を争う状況なのに。

 

「俺は、俺たちは犯罪者だ。学園の周りには沢山待ち伏せがいて、近づけば即座に捕縛される。今の俺たちじゃそれに抵抗もできない」

「あ、そうか……」

「もし捕まれば、束様(この人)の治療は受けられずに死ぬ。……だから、俺たちは学園には行けない」

 

 忘れていた。いくら透が味方になったと言っても、世間はそんなこと知るわけもなく。今も二人は世界の敵だ。……そう簡単に許されはしない。

 

「じゃあ私が透くんについて行く! それなら……」

「それも駄目なんですよ。ほら、皆は()()()()()だから」

「あっ……」

 

 企業や国が管理しているISには盗難防止用の発信機能がある。これがある限りどこへ逃げても居場所はバレてしまう。無効化はそう難しくはないが、今すぐにできるようなことでもない。本来安全のためにある機能だが、今はただの足枷と同じだ。

 ……楯無さんも、本当はわかっているはずなのに。

 

「がふっ……もう、行かなきゃ」

「そんなっ、折角仲間に戻れたのに、さよならなんて……」

「さよなら、じゃないですよ……また逢えますから」

「……うん!」

 

 『また逢える』。今にも泣きそうな楯無さんを宥めるように透が言った。涙を止めるには、それで十分だった。

 

「おい、透!」

「一夏……」

「絶対、生きろよ」

「……ああ、またな!」

 

 黒い機虫が飛んでいく。傷ついてもIS、あっという間に肉眼では見えない距離まで行ってしまった。

 どこまで行くつもりなのだろうか。確かあいつの機体は隠密(ステルス)機能に優れていたから、そう簡単には見つからないと思う。

 

「帰りましょうか、俺たちにもやることがある」

「うん。早く済ませて、透くんを待ちましょう!」

「……はい!」

 

 事情聴取に事後処理、その他諸々。俺たちも、きっとこの世界も当分忙しくなりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どわぁっ!?」

 

 某国某州。森の奥深くに、ガラクタ同然の機体が間抜けな叫び声を上げながら不時着する。

 派手な音を立ててしまったが、幸い近くに人が住むような場所はない。

 

「痛てて。あー、セーフ」

「…………」

 

 不時着の衝撃で束様が傷ついてないかを確認。元々頑丈な人だが、今は気絶してるしな。とりあえず無事のようだ。

 

「【Bug】は……ダメか」

 

 ここまで俺たちを運んでくれたISはもう起動しない。単なるエネルギー切れではなさそうだ。相当無茶させてきたからな。最後まで、よく動いてくれた。お前がいなきゃここまでこれなかったよ。

 

「ありがとう……ごほっ」

「ぅ……ここ、は?」

「あ、起きましたね」

「とー、くん……?」

 

 感謝の言葉を口にしたところで束様が目覚めた。丁度よかった、そろそろ本格的に身体が動かなくなってきてたし、起こす手間が省けたな。

 頭のいい人だ。説明なんかしなくても、どうしてこんな場所にいるのかはわかるだろう。

 

「どうして私を殺さなかったの?」

「あいつらが俺を見逃したのと同じですよ。『まだ誰も殺してない、だから俺たちも殺さない』……それだけです」

「……そっか」

 

 俺とこの人が行ってきたことは、そう簡単に許されるようなものじゃない。法に則って裁くなら死刑が妥当だろう。でもあいつらは『殺すことはない』と決めた。だから俺もそうする。

 

「そんなことより、起きたんなら俺の治療をお願いしたいんですがね。見てくださいよこの血の量」

「……治せと言われてやると思う? この私が、裏切り者の君を。トドメを刺したっていいんだよ」

「はっ、やってくれなきゃどの道終わりですよ……その代わり、あいつらが黙ってないですけど」

「…………」

 

 もう起き上がっているのも苦痛だ。仰向けに寝転がって治療を依頼する。正直やってくれるかどうかはわからない。他にできる人がいないから頼んでいるだけ、断られれば死が確定する。

 

「わからない。どうして簡単に人を信じられるの? この醜い世界で……教えてよ!」

「さぁ? 信じたくなったから信じた……他に理由なんてありませんよ。きっと、あいつらも」

 

 理屈を述べようとすればいくらでも続けられるだろう。しかし結局『信じたいから信じる』、これに集約されるんじゃないだろうか。少なくとも俺はそう思うことにした。

 

「でも、私は……」

「何も全人類を信じる必要はありませんよ、そんなこと誰にもできやしない。何人かを信じて、またそれぞれにも信じる人がいて……そうして世界は繋がっている」

「私にも、その繋がりができると?」

「その気になれば、ですけど」

 

 あくまでこれは俺の考えで、それも今日の戦いを経て気づいたことだ。世間ではどうとかなんて知らない。

 納得してくれるかな……うーん。

 

「じゃあこうしましょう。束様、俺を信じてください」

「……はぁ?」

「まずは俺を信じて、次に俺を信じる人を信じて……どんどん繋いでいけば、いつかわかるでしょう?」

「そんなこと言って、助かりたいだけじゃないの?」

「助かりたいことは否定しませんがね、それだけじゃないですよ。……まぁ、乗るかどうかはあなた次第です」

 

 かなり怪しいことを言ってるのはわかってる。今の束様には難しいことだとも。けど、信じてくれれば何かが変わるかもしれない。

 

「がぶっ!?」

「とーくん!?」

「……あー、そろそろダメですね」

「ぁ、ああ……」

 

 痛みはほとんど感じない。けど寒い、そして眠い。頭がぼーっとして、世界のピントがずれていく。

 外の世界……は見た、海で泳いだ、空も飛んだ、色んな物を食べて、学校にも行って……友達ができた。願いはほとんど叶っていた。あとは一つだけだ。

 

 ……ああそうだ、先にこれを伝えなきゃ。

 

「俺はあなたを信じます。だから、あなた……も……」

「っ!!」

 

 参ったなぁ。もう、声が出ない。

 

「このっ……最後まで言えっ!!」

 

 がちゃがちゃと機械音が鳴る。どうやら何か展開したらしい。この音は確か、《吾輩は猫である(名前はまだない)》……だっけ?

 

「死んだら許さないからなっ!!」

「はは、は……」

 

 薄れゆく視界の中で、マゼンタの髪が揺れていた。

 

 その光景が、とても懐かしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第70話「害虫・虹色」

 

 

 

 




 次回完結です。三月中旬までには出したいと思ってます。(出すとは言ってない)
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