【完結】害虫生存戦略   作:エルゴ

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まだ十分に書き溜めできてないけど初投稿です。


第8話「二組・姉妹」

 

「「転校生?」」

「そーそー。中国の代表候補生なんだって」

「ふーん」

 

 朝。教室にて一夏と雑談中、クラスメイトから噂を聞く。あのパーティー以来何人かの女子に話しかけられることが増えた。布仏さんのお陰だろうか。

 にしても転校生とは。この時期に来るなんて普通の学校でもなかなか無いだろう。知らないけど。

 

「あら、わたくしの存在を危ぶんでの──」

「それはないでしょ」

 

 またまたいつものポーズを決めるオルコット。一日二回は見てる気がする。

 

「隣のクラスの話だろう? それに、今のお前はそんなことを気にしている場合ではあるまい」

「確かに……今はクラス対抗戦だよなぁ」

 

 対抗戦は来月に迫っている。学年全体がここ数日その話題で持ちきりだ。

 

「まあ、やれるだけやってみるさ」

「やれるだけでは困ります! 代表として勝っていいただけませんと!」

「そうだぞ。男たるものいつだって勝利を目指せ」

「勝ったら学食デザートフリーパスなんだからね!」

 

 楽観的な言葉を口にした瞬間一斉に詰め寄られる一夏。好き勝手言われてるな。

 

「気ぃ抜けてんなぁ。こないだの威勢はどうした」

「いやあれは……テンションがこう、わかるだろ?」

「ちょっとはな、油断してると足下掬われるぞ、俺みたいに」

「その通りですわ! そこでこのわたくしと実践的な訓練などいかがでしょう。()()()()()で」

 

 二人っきりのところ強調するなぁ。俺は混ざる気ないし構わないが。

 

「織斑くん頑張って!」

「目指せ優勝&フリーパス!」

「でも専用機持ちって一組と四組だけらしいし、余裕かも」

 

「──その情報、古いよ」

 

 教室入り口から聞き慣れない女子の声。

 

「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう、この凰鈴音(ファンリンイン)がね!」

 

 なんだあのツインテ。腕組みしてドアにもたれかかっているが全く似合わない。

 

「鈴!? お前、鈴か?」

「そうよ。今日は宣戦布告に──」

「その格好付け方全然似合ってないぞ」

「なんで今言うのよアンタァ!?」

 

 一夏も俺と同意見らしい。いや本当に似合ってない。テイク2を推奨する。

 しかしこの気安い話し方。知り合いらしい。

 あ。

 

「おい」

「何よ!? って千冬さん!?」

 

 織斑先生の登場だ。怒られる前に席に着こう。

 

「もうSHRだ、さっさとクラスへ戻れ」

「失礼しましたっ! ……一夏、また来るから逃げないでよ!」

 

 すたこらさっさと退散する凰だったか。また騒がしそうな奴が来たものだ。

 

 ババシィン! 今日も出席簿の音が鳴る。ログインサービスって感じだ。頭を押さえる一夏と妹様とオルコット(いつも叩かれてる三人)を眺めながら、教科書を開いた。

 

 

 

 

 放課後。一夏の誘いを華麗にスルーしながら購入した間食のパンを持って廊下をぶらつく。目的地は整備室。【Bug】の整備がてらここの設備に慣れておこうとここ数日通っている。

 

「さーて今日はどこ弄るかなーっと」

 

 うぃーんと自動ドアが開き、適当な場所で整備を──おや、先客だ。リボンの色を見るに一年生かな。なんだか見覚えのある髪色をしている。

 

「…………」

「こんにちは」

 

 一応挨拶をしておく。こういうのは大事だとまともに挨拶できなさそうなあの人が言っていた。

 

「……どうも」

「ここ使っても?」

「……ご自由に」

 

 ……シャイなのかな。まあ普段から五月蠅い環境にいるし、これぐらいが丁度いい。

 

「よし、始めよう」

 

 黙々と作業を続ける隣で作業を開始する。ここは使いやすい設備ばかりで助かる。束様の所も色んな設備があるが。何世代先かわからなかったり原始的すぎたりと幅が広すぎるため混乱する。なんでろくろがあるんだ。

 

 機体を目の前に展開し、先ずは数値の点検……異常なし。続いて各部の点検、調整と移っていく。

 そのまま日が落ちるまで作業を続けていた。

 

 

「ふぅー、こんなもんかな」

 

 どこにも異常は無く、調整も済んだし。もう今日は帰ろう。

 

「あの……」

「ん?」

 

 お隣さんから声をかけられる。そういえば作業中にも何度かこちらを見ていた様な気もする。

 

「あなたって、()()九十九透?」 

「そんな有名人みたいになった気は無いけど、そうだよ」

 

 急にどうしたのだろう。まさか俺のファン? いやないか。そんなくだらないことを考えてるとがしっと手を掴まれ──掴まれ?

 

「私は更識簪。一度あなたと話してみたかった」

「はあ?」

 

 え、マジでファン?

 

 

「えーと、更識さんは楯無先輩の妹で、あの新聞の記事を見て俺に声をかけたと」

「そう、あと、簪でいい。名字で呼ばれるのは好きじゃない」

「じゃあ簪さん。あの記事ってそんな大したこと書いてあったっけ?俺は一言ぐらいしか載ってなかったような……」

 

 完成した新聞は俺も見たが……特に捏造も無かったし、『会長ぶっとばす』もバッチリそのままだった。妹さんなら寧ろ反感買いそうなものだが……まさか。

 

「その一言、感動した。この学園であんなこと言える人間そうそういないから」

 

 そう俺を見つめる目は本気で、嘘は言っていないようだ。変なの。

 

「それで、本気なの? あの言葉」

「もちろん本気だよ。俺は絶対に楯無先輩をぶっ飛ばす。……まあこれまでずっと負け通しなんだけど」

 

 ほんとあの人強え。何度も挑んでるがその度に転がされてる。生徒会長は最強の称号だとか言っていたがそれも納得だ。

 

「で、簪さんは? もしかして君も打倒会長とか──」

「その通り。私も、いつかあの人をぶっ飛ばすと決めている」

「お、おう……」

 

 意外と強そうな人だな。初めの気弱そうな雰囲気が嘘のようだ。

 

「ところでさ。俺は負けっ放しなのが気に入らないからだけど、簪さんはどうして先輩に勝ちたいんだ?」

「っ! ……それは」

「それは?」

 

 言い淀む簪さん。聞いたらまずいことだったのだろうか。気を悪くしないといいが──

 

「証明したいから。私を」

「え?」

 

 証明?声が小さくてよく聞き取れなかった。

 

「……何でもない。話せてよかった。さよなら」

「あっおう。さよなら」

 

 そう言い残して去って行く簪さん。何だったんだ?少なくとも、悪い奴じゃなさそうだが。

 ……先輩()に聞けばわかるか。帰ろう。

 

 

 

 

「ただいまでーす。突然ですけど妹さんに嫌われてるんですか?

「帰りが遅いと思ったら急に精神攻撃されてるんだけど何これ?」

 

 おっと、説明する前に質問してしまった。完全に面食らっている。

 

「すいません。さっき整備室で妹さんに会って、少し話したら先輩の話題も出たんですよ」

「ほんと!? 簪ちゃんは何て言ってたの?」

「ぶっ飛ばしたいそうです」

「」

 

 白目を向いて固まる先輩。そんなにショックだったのだろうか。放っておくのも面白そうだがこのまま死なれても困る。正気に戻してあげよう。

 

「起きてくださーい」

「はあっ!? 裸の簪ちゃんが服着て(ダンス)ってたわ……」

「そこは三途の川じゃないんですか?」

 

 さてはこの人もシスコンだな? そんなこと言ってるから嫌われたんじゃないだろうか。

 

「で? 嫌われてるんですか? 嫌われてるんですよね?」

「何で嬉しそうなの?」

 

 つい喜びを隠せなかった。やっとこの人を攻撃できるネタが見つかったんだ、全力で使っていくぞ。

 

「……そうよ。()()()()()()()()()()()ね、私はあの子に……嫌われてはっ、ないけどあまり……ほんの少し……小指の先くらいよく思われてはいないわね」

「現実逃避お疲れ様です」

「やめて」

 

 必死に事実を認めまいとしている先輩だが。少なくとも現状いい関係ではないことは間違いないな。詳しい事情は聞けなさそうだ。

 

「とりあえず、あなたの差し金とかじゃないならいいです。友達になれそうですし」

「えっほんと? あの子人見知りする方なのに」

「あの新聞でシンパシー感じたみたいですよ、やっぱ嫌われて「ないから!」

 

 面白いなぁ。普段はなかなか余裕を崩さないのに妹のことではこうもアタフタするなんて。このネタはしばらく使えそうだ。

 

「にしても俺より前から整備室にいたみたいですが、整備科志望なんですかね? 勉強熱心だなぁ」

「あー……。それが……」

「どうしたんです?」

 

 歯切れの悪い表情を浮かべる先輩。まさかこれにも何か事情があるのだろうか。

 

「あの子ね、日本の代表候補生なんだけど、専用機を持ってないのよ」

「はぁ」

 

 代表候補でも専用機がない。しかしこれだけなら特別おかしなことではない。一国が持てるコアの数には限りがあるし。研究・開発用や、量産機に回されている分を考えれば「候補」に過ぎない者に与えるコアがなくなることだってあるだろう。実際他の国ではそうなっているところが多い。

 

「正確には専用機はあるんだけど、未だに完成してないの。開発元が倉持技研っていう……織斑くんの白式と同じ所」

「なるほど、大方そっちに人員取られて開発がほったらかしになったと」

「そういうこと。もちろん織斑くんは悪くないんだけど……。で、待ってられなくなった簪ちゃんが未完成の機体を引き取ってここで開発を進めているの。一人で」

「一人で……それはなんともまあ、無謀な挑戦では」

 

 普通新しい専用機の開発は国や大きな企業の一大プロジェクトとされるものだ。たった一人で行うなんて聞いたことがない。それこそ束様の様な天災でもないと不可能だろう。

 

「実はねぇ……私に対抗してるみたいで、一人でやるって聞かないの」

「対抗って、まさか楯無先輩一人でIS作ったんですか?」

 

 だとしたらすごいことだ。この人も天災レベルなのか。

 

「違うわよ。私は機体(ガワ)だけ。それも一から組み上げたわけじゃなくて、既存の機体をカスタムしたの。アドバイスももらってね。システム(中身)は普通に協力して組んだわ。きっと誇張されて伝わったのね」

「あ、そうなんすね。じゃあそこまで対抗心燃やすことではないのでは……?」

「ええ。でも、あの子にとっては違うみたいで……」

「ふーん……」

 

 ますます謎が深まった。ちょっと前に起きた何かと専用機の開発。これらが二人の状況に関わっていることは間違いなさそうだが……。うーんわからん。

 

「とりあえず、簪ちゃんをお願い。無理にとは言わないけど、あの子友達少ないから……。でも私の名前は出さないでね」

「怒りそうですもんね」

「うん。できれば、毎日何話したとか写真とか送ってもらえると嬉しいわ。……だからって万が一にでも手出したりしたらどこまでも追いかけてケジメつけさせるからね」

「こわいこわい」

 

 一応、こちらからは仲良くしたいと思っているらしい。これはあちらから話を聞いた方がよさそうだ。

 あれ? また面倒ごとに首突っ込もうとしてないか俺。……気のせいだ。きっと。

 

 

 

 

 次の日。俺達は──正確には学年のほとんどが、生徒玄関前廊下に集合し、大きな張り紙に注目する。

 『クラス対抗戦(リーグマッチ)日程表』。注目の一回戦、一夏のお相手は凰鈴音。専用機持ち同士の対決となった。

 当の一夏はというと、俺の隣で複雑な顔をしている。

 

「……」

「どうした? 組み合わせに不満でも?」

「いや、実は昨日鈴を怒らせちゃってさ。たぶん俺が悪いんだけど」

 

 喧嘩でもしたのだろうか。よく見たら頬がうっすら赤い。ビンタでもされたらしい。

 

「じゃあさっさと謝ったらいいんじゃねーの?」

「ごもっともなんだけど……ほら」

「ほらって……ああ」

 

 手で示す先には凰。全身から黒いオーラじみた何かを発しており、周りも察してか少し離れている。こちらに気づいて……『近づくな』と言わんばかりに睨み付けてくる。

 

「ご立腹で会話もできんと」

「そうなんだよ、どうすりゃいいんだ……」

「知らーん、頑張れ」

「くそう……」

 

 悪いな一夏。さすがにまた巻き込まれるのはごめんなんだ。

 

 

 

 また放課後。昨日の話が気になる&一夏の訓練に付き合いたくないため今日も整備室へ向かう。

 

「失礼しまーす。お、簪さんいた」

「? 何か用……?」

 

 怪訝な顔でこちらを見る簪さん。俺HR(ホームルーム)終わってすぐ来たんだがもういるってことは授業出ているのだろうか。それか俺より足が速いのか。

 ともかく今は専用機の話でも聞いてみようか。昨日も弄ってたあの機体かな。

 

「いやあ、俺も簪さんとお話ししたくなってさ。()()()()()()()()とか」

「っ!? 誰に聞いたの?」

()()()()()()だよ。不本意ながら同室なんだ」

 

 悪いね楯無先輩。名前出すなって言ってたけど、まどろっこしいのは嫌いなんだ。隠したところでどうせバレるしな。

 

「それで? あの人の頼みで話にきたの?」

「頼まれはしたけどね。でもここへ来たのは俺の意志だよ。話がしたいのも本当」

 

 実際各国の代表候補生についても知りたかったとこだ。交友関係も広げたいし。

 それより、勢いで話しているが大丈夫だろうか。機嫌損ねて追い出されるのは勘弁願いたいんだが。

 

「……わかった。一応、信じる」

 

 セーフみたいだ。これで追い出されたら先輩に暗殺されかねない。

 

「じゃあ教えてくれるってことでいいのかな?」

「別に隠してるわけじゃないし、ご自由に。でも邪魔はしないで」

「わかってるって」

 

 許可は得られた。早速作業を始めた簪さんの後ろに座り。質問を投げかける。

 

「そのIS、なんて名前なの?」

「【打鉄弐式】。打鉄の発展型で、機動重視にカスタムされてる」

「ほうほう」

 

 そう言われるとどことなく面影のある見た目だ。しかしそれぞれの部位に注目してみれば、腕部装甲はスマートに、肩部ユニットはシールドから大型のウイング・スラスターと小型の補佐ジェットブースターが搭載され、より機動性を高められるようになっている。シルエットはなんとなく白式に通ずるものがある。

 

「あれ? もう機体はできてんの?」

「武装がまだ。あとシステムと、稼働データも……」

「そうか……ここまでは簪さんが?」

「設計とパーツの製造は……倉持がやってた。私は……組み立てただけ」

 

 驚いた。いくらパーツや設計図が揃っているとしても、ここまで組上げるのは並大抵のことではない。ISの組み立ては超難しいプラモデルの様なものと束様は言っていた。ほんの僅かなズレで鉄屑になるとも。それを一人でやったとは。しかもこのクオリティ、彼女の技術力の高さが窺える。

 

「すごいな……いや本当に。俺じゃ無理だ」

「そ、そう? 褒めても何も出ないよ……?」

「謙遜するなよ。誇っていいと思うぜ」

「もうっ」

 

 照れているのかそっぽ向かれてしまった。しかしコンソールを操作する手は止まらない。

 にしても本当にすごい。語彙力が馬鹿になるほどに。だからこそ、今まで放置されていたことが残念でならない。

 

「システムはどうなってるんだ?」

「最低限は組めてる。どちらかと言えば、実稼働データの不足が問題……」

 

 そこまでいけてるのか。やっぱ代表候補生は優秀なんだなぁ。俺? できるわけないだろ。

 

「武装は?」

「荷電粒子砲と……マルチ・ロックオン・システムによる高性能誘導ミサイル」

「ふーん……」

 

 これ以上は邪魔になりそうだったので質問をやめ、しばらく簪さんの作業を眺めていた。どの作業も丁寧で、何度も何度も状態をチェックしながらほんの少しずつ進められていた。しかしまぁ、なんという表情()で作業しているんだ。鬼気迫るとはまさにこのこと。束様はもっと楽しそうにやっていたものだが……比べるのもおかしいか。

 ……あれだな。こうも必死になっているところを見ると、本当は聞いてはいけないんだろうが()()()()が気になってしょうがない。……いいや。聞いてしまおう。

 

「なあ……」

「……何?」

「なんで、一人でやってるんだ? 手伝いでも呼んだ方が早くできるじゃないか」

「…………」

 

 手が止まり、顔を伏せて黙り込む。この反応を見るに、気づいてないわけじゃなさそうだ。

 

「……わかってる。でも、一人でやると決めてるの」

「先輩に対抗してるつもりか? でも先輩だって、一人でやり遂げたわけじゃないぜ」

「それも知ってる。だからこそ、私は一人でやらなきゃいけない」

「無理だな。この調子じゃいずれ破綻する」

 

 間違いない。顔を見ればろくに休んでいないことぐらいわかる。目には隈ができていたし、食事もちゃんと摂っているか怪しい。命でも削っているようだ。今は平気でも、このままでは……。

 

「そんなこと、やってみなくちゃわからない」

 

 ……意志は固い様だ。なら今は止めまい。どうせ後から嫌でもわかるだろう。今日のところは嫌われる前に帰るとしよう。

 

「悪い、邪魔になっちゃったな。また今度」

「……うん」

 

 再び作業に集中したことを確認して整備室を出る。このことは楯無先輩に伝えるべきか……悩むな。あの人が出てきても余計にこじれそうだ。今は話を聞きつつ距離を縮めて、説得できる様にした方がいいな。

 ……なんで俺こんなことしてるんだ? いつの間にか完全に面倒ごとへ足を突っ込んでいるじゃないか。遅すぎる後悔を感じながら、先輩の待つ寮へ戻るのだった。

 

 

 

第8話「二組・姉妹」

 

 

 




簪書くのクッソむずい

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