僕のヒーローシンフォギア   作:露海ろみ

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十話目となります。

長くなってしまったので、ある程度のところで一旦切らせて頂きました。
今回は俗に言う『説明回』です。



10.ノイズの謎 その1

歓迎会の翌日。出久は身嗜みを整えていた。

部屋にS.O.N.G.の制服があり、それを着るように言われていたのだ。

 

「なんか、カッコいいかも」

 

鏡の前で自分の姿を見ながら変なところはないかと確認中である。

ぴったりとサイズがあったそれを纏った自身の姿にほんの少しの自信を持ち、鏡横にかけてある雄英の制服に目を移す。

これを再び着る為に、その日の為に今は出来ることをするしかない。

 

「よし、行こう」

 

出久はあてがわれた自室を後にした。

 

 

発令所には学生組を抜いたいつもの面々が揃っていた。本日は平日なので学生組は登校している。

そこに出久がやってきた。

 

「遅れてしまってすみません」

「いや、定刻通りだ。ではミーティングを始めるぞ」

 

出久を出迎えた弦十郎は司会よろしく、メンバーを見渡した。

本日のミーティングは最近出現した『ノイズ』に関してのものだった。

 

「皆知っての通り、最近になって再びノイズの出現が確認されている。この事についての意見交換を行いたい」

 

弦十郎の一言で会は始まった。

それを聞いたエルフナインがスクリーンに昨日までのノイズ出現場所を表示する。

 

「この様にノイズの出現地点に規則性は無いのですが、ただその頻度は大体五日に一度と明らかに作為的なものを感じざるを得ません」

 

スクリーンに映し出された情報にはノイズの出現地点・日時・時刻が一つ一つ表示されていた。エルフナインの言う通り約五日ほどの期間を空け、六箇所の表記が映される。

直近は出久も戦った日であった。

 

「発生時刻に早朝、もしくは夕方や深夜など日中を避けた時間帯に集中しています」

 

確かに出久が戦ったのも夕方だったと記憶している。

まるでそれは日中ではノイズを出現させることが出来ないと言っているかの様だった。

しかし出久には疑問が芽生えた。

昨日の説明ではノイズが出現し、人類に脅威を与えていると言っていた筈だ。それなのに弦十郎は気になることを言っていた。

 

『再びノイズの出現』

 

その言葉を聞き逃さなかった。

 

「あの、再びってことは最近までノイズは出現しなかったんですか?」

「ん? あぁ、ノイズ自体は過去の事件の際に封印されているんだ」

 

出久のそもそもの疑問に弦十郎は答えてくれた。

話を纏めるとこうだ。

ノイズとは超先史文明期の人間達が作り出した対人間殲滅用の兵器である。

それはバビロニアの宝物庫に保管され、その開け放たれた扉から世界に漏れ出し被害を出していた。

過去の事件(フロンティア事変というらしい)の際にノイズを操る聖遺物『ソロモンの杖』と共にその扉は完全に閉じられた。

 

「確かに今もノイズによる被害はあるが、それは錬金術師が作り出した『アルカノイズ』という個体だ。だから『ノイズ』の被害が出ている事自体が不可解な事なんだよ」

 

あの時装者達が全身全霊をかけて守った世界が再び危機に晒されている。その事実に風鳴 弦十郎は拳を握り込む。

 

「最悪の場合バビロニアの宝物庫が開け放たれた可能性もある。そうなると同時にソロモンの杖も持ち出されたか・・・」

「待ってください。今それが出来るとは考えられません。宝物庫を開けられる程の聖遺物自体が存在しないんですよ?」

 

弦十郎の言葉にオペレーターの友里 あおいは反論を唱える。

 

「仮にあったとしても起動させた時点で僕らなら何らかの反応をキャッチしちゃいますからね」

 

同じくオペレーター、藤尭 朔也もそれに続いた。

藤尭は過去三ヶ月分のあるデータを表示する。

 

「見てください。ノイズ出現時、及びその過去二ヶ月に観測された聖遺物の起動記録です。見事にシンフォギア装者のデータしかありませ・・・いや、待ってください。そう言えば・・・」

 

確かに見るとシンフォギア聖遺物のログしか表示されていない。

いや、二つだけ誤りがあった。

最後と下から四つ目。文字化けした二つの行が存在するのに気がつく。

共に聖遺物名は『O▲▼ ×✖︎r ◼︎▫︎l』

 

「・・・謎の聖遺物があります。日付は前回のノイズ襲撃時、および三日前です」

「その日付はもしかして・・・」

 

藤尭の言葉にハッと気がつく出久。

直近のノイズ襲撃日、それは出久が戦った日である。そして四行目謎の文字列の下は『Ichaival』と『Gungnir』が並んでいる。その二つはクリスと響のシンフォギアだったはずだ。

さらにその下が再び謎の文字化け聖遺物とするとそれは間違いなく・・・。

 

「この文字化けしてるのはもしかして、ワン・フォー・オール?」

「そんなまさか! だって君の力は聖遺物ではないはずよ。自分で”個性”という力だって言ってたじゃない」

 

出久の推理に友里が驚いた様に言う。歓迎会で質問した答えでは自身の力、能力だと言っていたはずだ。

 

「それに君のメディカルチェックで聖遺物を身体からは発見できなかった。もちろん装飾物からもその反応は無かった」

 

出久の保護時に細かいメディカルチェックを行い、確認した弦十郎も同意する。

だがそれに関し出久には思い当たる節があった。

それは『ワン・フォー・オール』という力にとっての秘密。

オールマイトから特に秘するべきと言われていた事柄であった。

それ故に出久は言葉にするのを躊躇する。

その様子を見、静観を務めていた一人が口を開いた。

 

「緑谷。それは話せない、お前にとって大事な事なのか?」

 

翼の一言に伏せていた顔を上げる。

真っ直ぐな視線が出久に向けられていた。

それは責めるでもなく非難するわけでもない真剣なもの。

ただ問うている、そんな視線だった。

 

「もしお前が『話せない』という事柄なら無理に話さなくともいい。だがもし『話してもいい』というなら遠慮なく言ってほしい。少なくともここにいる者は皆、お前の味方だ」

 

苦しそうな顔をする出久に優しい微笑みで笑いかけながら、翼は膝をつく。

 

「昨日、お前が一緒に戦ってくれるといったとき、私は嬉しかったのだ。共に戦える仲間が増えたと。私はそんなお前の力になりたい」

 

膝をつき、目線を合わせ、かつて抜身の剣(つるぎ)の様だった彼女からは考えられない微笑みを見せる。

 

「だから無理はしなくていい」

 

そのまま優しく出久の手を取る。細く温かいその指が彼の手を包み込んだ。

 

「すみません、翼さん・・・」

「出久、こうゆう時は『すみません』じゃないでしょ?」

 

重ねられた手にもう一つ、手が重ねられる。

その名の通り聖母のような笑みを浮かべた彼女はもう片方の手も重ね、包み込んだ。

 

「ありがとう、でいいのよ」

 

二人の手から温もりを感じる。

出久の目に力ある光が灯る。

自身の力『ワン・フォー・オール』の秘密について話さなくてはいけない。

その決意を、固めた。

 

「皆さん、僕の個性『ワン・フォー・オール』についてお話があります」

 

これを話す事はオールマイトとの約束を破る事になる。

だとしても、今自分に出来るのはこの世界の力になる事であった。

だからこそ、出久は自身の話を始める。

 

「僕は本当は個性を持ってなかったんです」

 

 

 

『個性』

出久の世界において全人口の八割が所有する固有の超常能力である。

だが残りの二割の人間には発現しない。

『無個性』

緑谷 出久もその一人であった。

だが彼は画面の中のヒーローに憧れ、それを目指した。

そして中学三年生の時、彼は運命の出会いをする。

 

No.1ヒーロー『オールマイト』

 

画面の向こうにしかいなかった彼との出会いは出久の運命を加速させた。

一度は無理と言われたヒーローの道を自身の行動により認められ、出久は継承する事になる。

先人達の想いを受け継ぐ正義の個性を。

それが『ワン・フォー・オール』である。

 

 

 

「ワン・フォー・オールには歴代の使い手がいます。人から人に受け継がれてきた力なんです。それを『遺物』と解釈すれば反応する可能性はあると思うんです」

「そうか! 遺物であって聖遺物ではないから正確な反応が出なかった・・・これなら多少無理はありますがある程度の筋は通ります」

 

出久の話を聞いていたエルフナインが声を上げた。

 

「では緑谷さんの体内から反応が無いのは・・・」

「僕はオールマイトの髪の毛を食べて個性を受け継いだんです。確かDNAを取り込むなら何でもいいって言ってました」

「それは個性と身体が融合しているって事ですか?」

「え? う〜ん、そうなるのかなぁ・・・。正直僕自身もこの力を使いこなせてませんし、詳しい事はわからないんですけど」

 

頭を掻きながら出久は言う。

 

「鍛錬を重ねて個性を使う程、馴染んでいく感触はあります。最初は全くコントロール出来なかったのが、今はある程度使えてますから・・・」

「・・・まるで融合症例だな」

 

話を聞いていた翼が呟いた。

弦十郎も続く。

 

「あぁ。俺も全く同じ感想を抱いた」

 

かつての融合症例、立花 響。

彼女はガングニールの欠片を身に宿し、適合者で無いのにシンフォギアを纏った。

しかし聖遺物の力はその身を蝕み、彼女は死の淵に立たされた。

だが神獣鏡の力によりその身から欠片は消滅、長期の融合の結果として適合者となった経緯を持つ。

 

「だが響君と一番違うのは生命活動に支障をきたしていないところだ。無論扱い切れずにダメージを受けた事がある様だが、今は自分の意思で完全に制御が出来ている点も違うな」

「・・・理想的な形の融合症例ね」

 

マリアは出久を見ながら言った。

だが先程見た出久の腕はそんな生易しいものではなかった。腕があの状態なら、彼の身体にも無数の傷が残っているのが想像できた。

きっと彼は何度もその身を削りながらもこの力を振るい、戦い抜いてきたのだろう。

 

「出久」

「は、はい! なんですかマリアさん?」

「貴方は、頑張ってきたのね」

 

唐突に今までの自分を褒められる出久。

あまりに突然なそれにすぐに言葉を返す事が出来なかった。

 

「・・・僕は、まだまだです」

 

絞り出す様にそれだけを返す。

それが出久の精一杯だった。

彼の目指す理想は高い。何故なら目指す所はあのオールマイトなのだ。今の自分はそこに足をかけただけである。

だが、その努力を認めてもらえるのはとても嬉しく、誇らしかった。

彼の視界が滲む。

伏せた顔から涙が床に零れ落ちた。

 

「でも・・・『ありがとうございます』」

 

涙に震える声で出久は礼を言った。

そんな出久をマリアも翼も、そこにいる全員が暖かく見守っていた。

 


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