僕のヒーローシンフォギア   作:露海ろみ

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十二話となります。

沢山の方にご感想・ご考察・ご質問・誤字脱字のご指摘を頂き、ありがたい次第であります。
まだまだ書く事に未熟でありますので今後もお見苦しい点が出てしまうとは思いますが、その際はご指導頂けると幸いです。

タイトルの通り、クリスによる出久いじりの回となります。
短いですが、お楽しみくださいませ。


12.雪音 クリスはいじめっこ

緑谷 出久は好奇の視線に晒されていた。

 

「誰だろう、あの人?」

「誰か待ってるのかな?」

「もしかしてうちの学校に彼女がいて、待ち合わせしてるとか?」

「それすっごい気になる!」

 

彼がいるのは私立リディアン音楽院の校門横である。

授業が終わり、下校する女学生達が横を通るたびにヒソヒソと話しながら通過していく。

 

『い、居心地が悪い』

 

学生組と合流するためにここに来たのだが女子校とは露知らず、彼は学生達の話題の的となっていた。

今の出久は緑のパーカーにハーフパンツを穿く、カジュアルな出立をしている。

自身の私服は一着もなかったのだが、自室に戻ると何故かクローゼットに追加されていた。

不思議に思いながら手に取るとメモがついている。

『こちらでコーディネートしてみました』

いつの間に?とは思ったがS.O.N.G.の制服で行くわけにもいかず、それを身につけた。

 

落ち着かない様子でキョロキョロと辺りを見回すと、先程校門を出た生徒の何人かは少し離れた場所で足を止めて自分を観察している。

女子校故に男子学生が珍しいのはわかる。

わかってはいるが好奇の視線に晒されてはや30分。そろそろ限界である。

出久が場所を変えようと移動を始めると、声をかけられた。

 

「おい、どこ行くんだ?」

 

振り向くとそこにはクリスが『何やってんだこいつ』といった表情で、いた。

 

「雪音先輩!」

 

地獄に仏とはこの事である。

パァッ、と顔を輝かせ歩み寄る。

 

「お疲れ様です」

「いや、別に疲れてねぇけどさ。どうしてどっか行こうとしてたんだよ。此処で集合って話だったろ」

「その・・・流石にジロジロ見られていると恥ずかしくって・・・」

「ま、リディアンは女子校だし男とか珍しいからな」

 

などと会話を始めると周りから黄色い声が上がった。

 

「嘘! まさかの雪音先輩!?」

「雪音先輩、彼氏いたんだ・・・」

「ショック・・・」

「あんな地味なのがタイプなんだ」

 

無慈悲な言葉の暴力が出久を襲う。

『地味』の一言に若干傷つく。

無論その声はクリスにも届いていた。

クリスはその性格も相まって、後輩達から人気がある。ちなみにバレンタインではチョコを貰う側の人間であった。

そんな周りの声を聞いたクリスの口角が上がる。

そして放たれる一言。

 

「『彼女』のあたしを置いてくなんてひでぇじゃねぇか」

「えっ!?」

 

その一言で周りが静まり返る。

 

「まさかあたしじゃなくて別の奴のとこに行くつもりか?」

 

さらに次の一言で辺りは騒然となる。

前言撤回。地獄から閻魔様が来たようだ。

 

 

切歌と調は走っていた。

HRが長引き、出久を待たせてしまっていると慌てていた。

 

「先生はいつも話が長いデス・・・」

「今日は特に長かったね」

「きっとデク君、待ちくたびれてるデスよ!」

「うん。早く行こう」

 

そんな事を話していると合流場所の校門が見えてくる。なんだか騒がしい。

近付くと騒ぎの中心には見覚えのある二人がいた。

一人は楽しそうに笑う先輩。

一人は狼狽する男の子。

そして周りには色めくギャラリー達。

 

「雪音先輩!? 何言ってるんですか!」

「そんな他人行儀な呼び方やめろって言ったろ? 『クリス』って呼べよ、『出久』」

 

クリスが出久をからかっていた。

しかも顔を赤らめ、乙女の顔をして。

ただその口元は今にも笑い出しそうに震えている。当の出久はそれに気がつく余裕をなくし、アワアワと泣き出しそうであった。

現場に辿り着いた二人はその様子を確認し、ため息をつく。

 

「クリス先輩、いじめっ子デスね・・・」

「出久君は純粋そうだから、いじめがいがあるんだよ」

「このままだとデク君、泣いちゃうデス?」

「止めよっか、切ちゃん」

「デース!」

 

言うなりザババコンビは人混みをかき分け、二人の元へ向かう。

 

「クリス先輩! 何してるデスか!」

「おう、おまえら! 聞いてくれよ。出久の奴、彼女のあたしの名前呼んでくれないんだぜ?」

「いや、その・・・」

 

二人が来ても悪戯を継続するクリス。

しどろもどろになりながら、出久は今度こそ助けが来たと視線で救いを求めた。

恐らく彼を助けてもクリスは反省しないであろう。

それを受けた調は一計を案じる。

 

「・・・出久君、ダメだよ。クリス先輩の彼氏なんだからしっかりしないと。ほら、いつもみたいに手を握ってあげて」

 

そう言うなり彼の手を掴み、クリスの手に繋がせる。

しかも恋人繋ぎである。

 

「はぁっ!?」

「調ちゃん、なんで!?」

 

これに一番驚いたのはクリスだ。

まさか後輩がこんな手を使ってくるとは思っておらず、急な展開に慌て始める。

視線を下げると無骨な出久の手が自分の手を握っている。正に『男の子の手』といったそれは緊張からか少し汗ばんではいたが、嫌なものではなかった。

そして男の子と手を繋いでいる、その事実が頭を埋め始める。

 

一方の出久もまさかの裏切りに頭が真っ白になる。

繋がれたクリスの手は『女の子の手』であり、自分のそれとは違いとても柔らかかった。思わず力が入ると、それに反応したのか彼女の方にも力が入る。

そのままクリスの顔を見ると、ちょうど彼女もこちらを向いた所だった。

目と目が合う。

瞬間、二つの顔が真紅に染まる。

 

その様子を見ていたギャラリーから甲高い悲鳴にも似た声があがった。

 

「ゆ、雪音先輩可愛いっ!」

「初々しくて、尊い・・・」

「こんなの無理。死んじゃう」

「てかあの子もよく見ると可愛い反応してる〜!」

「写真撮らなきゃ!」

「後で送ってね!」

 

流石は女の子の集団。

色恋沙汰が大好物である。

 

パシャリパシャリと撮影音が周りから聴こえ始め、真っ赤な顔のまま辺りをぎこちなく見回すクリス。

そして・・・アニメの様に『ボンっ!』と頭から煙を出した。

どうやら処理限界を超えたようだ。

出久の手を振り払い、その場から一目散に逃げ出す。

 

「お、おお、覚えてやがれぇぇぇぇぇぇ!!」

 

悪役らしく捨て台詞を残すのも忘れなかった。

 

 

「調って、たまにとんでもない手を考えるデスね・・・」

「大勝利」

「デク君も大ダメージ受けてるデスよ?」

「コラテラル・ダメージだから仕方ないよ」

 

しれっと調は言い放った。

 

 

当の出久は真っ赤な顔のまま地面にへたり込んでいる。

だがその内心は珍しく『もう少し繋いでいたかったなぁ』と、少しだけ男の子っぽい欲を見せていたのであった。

 




調ちゃん、やる時はやる子です。

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