彼らにはしばしの間、平和な日常を謳歌してもらうつもりです。
リディアンでの騒動の後、出久・切歌・調の三人は繁華街まで来ていた。
本当なら響を待つはずであったが、あのままあそこに居たら面倒な事になってしまうと逃げ出した次第だ。
「え? そうなんデスか? あ〜わかったデス。先に遊んでるので、あとから合流するデス!」
『とほほ・・・まさか補習のプリントがあるとは一生の不覚だよ〜』
切歌が携帯で話しているのは響である。
校門で合流出来ない事を伝えようと電話すると、泣きそうな声が返ってきた。
どうやら宿題を忘れたのが原因で先生に捕まってしまったらしい。
『緑谷君もごめんね。すぐに終わらせてそっちに行くから』
「はい! 補習、頑張ってください!」
『うぅ・・・未来〜、これどういう事〜?』
『はいはい。これはね・・・』
スピーカーから聞こえてくる響と未来と呼ばれる少女の声。それを最後に通話は終了した。
「あちゃ〜。まさかまさかの展開デース。調、クリス先輩には連絡ついたデス?」
先程逃げ出したクリスにメールを送っていた調は返ってきた画面を二人に見せる。
そこには。
『ちょっと経ったら合流するから、時間くれ。追伸 緑谷、あとでぶっ飛ばす』
と返答があった。
「・・・理不尽すぎない?」
「「クリス先輩だから仕方ない(デス)」」
二人の言葉に肩を落とす出久。
自分が一体何をしたのだろうか。本当なら被害者のはずだが、これでは逆恨みである。
「響先輩も一時間位でこっちに来れるみたいだから、先に遊んでいよう」
「それまでデク君を二人占めデース!」
二人による街の案内が始まった。
「デク君は普段、どうやって遊んでるデス?」
「う〜ん、そんな変わったことはしてないよ。服を見たりとか、ゲームセンター行ったりとかかな」
「じゃあ、まずは洋服を見に行こう。切ちゃん、出久君をプロデュース勝負だよ」
「受けて立つデスよ、調!」
三人は大型ショッピングモール内を歩きながら、話の流れで近くの男性洋服店に入る。
出久が店名を見ると自分の世界にもある店だった。世界は違えど知っている店なのはどこか安心するものがあった。
店に入るなり、二人はそれぞれ服を物色し始める。
あーでもないこーでもないと入れ替わり立ち替わり洋服を持ってきては出久に合わせ、再び服を探しに動き回るきりしらコンビ。
出久も出久で気にいる服はないかと店を回っていた。
三十分後。三人は試着室の前に勢揃いしていた。
「まずは私の選んだ服から」
そう言うなり調は籠に入った服を彼に渡す。
「えっと・・・じゃあ着替えてくるね」
いそいそと試着室に入る出久は渡された籠の中身に着替え始めた。
調が選んだのは黒のチノパンに鮮やかな空色のシャツ、そして黒のベストと中折れハット。
黒ベースの中に明るい青を差し色とし、柔らかなベージュを添えるオーソドックスなスタイルだった。
着替えてカーテンを開くとそれを見た調は満足そうに頷く。
「出久君はシンプルイズベスト。やっぱりよく似合う」
「むむむ! 流石調デス!」
パシャパシャと写真を撮る二人に照れながらも自身の格好を見る。
普段あまりしないスタイルの為、正直どうかなと思う所はあったが着てみると意外と様になっている。
自分から見る姿と人から見える姿はやはり違うものだ。
「今度はわたしのターンデス!」
切歌に渡された籠を受け取り、再びカーテンを閉める。
彼女が選んだのは緑のカーゴパンツに、シンプルデザインのTシャツ、白いキャスケット帽が入っていた。
よく見ると底にキラリと光る物が見える。
ネックレスの様だ。
着替え終わった出久がカーテンを開けると、切歌が目を輝かせる。
「デク君、とっても似合ってるデス!」
「切ちゃん、侮れない・・・」
ラフ感のあるカーゴにどちらかというと可愛さの目立つキャスケット。一見ミスマッチかと思われるが、間にシンプルなTシャツを合わせる事によって調和をとっていた。
そして胸元にはXをモチーフにしたネックレスが揺れている。
またもや写真を撮る二人に言われるがままにポーズをとらせられる出久であった。
一通り撮影を終え、調が問う。
「それで、どっちが好み?」
「きたんなき意見をしょもーするデス!」
「・・・選ばなきゃダメなの?」
「「勝負だから(デス)!」」
困った。非常に困った。
どちらもコーディネートとしてとても綺麗に整っている。それぞれにそれぞれの良さがあり、一概に決められない。
だが悩みに悩み、出久は答えを出す。
「・・・どっちかというと、調ちゃんの方、かな?」
「なんデスと!」
「僕、元々ラフっぽい服多いから、新鮮で」
「やった!」
「うぅ・・・まさかの敗北デス・・・」
出久の答えにガッツポーズを取る調と崩れ落ちる切歌。
その姿に慌てて出久はフォローを入れる。
「き、切歌ちゃんの選んでくれた方も好きだよ。キャスケット帽って普段被らないから、合わせ方わからなかったんだ。だから凄く勉強になった! それに・・・」
「?」
「このネックレス、切歌ちゃんの髪飾りとお揃いのデザインでカッコいいよね」
「・・・デス?」
『お揃い』
その一文に顔をあげる切歌。
言われてみれば彼の胸元には自身の髪飾りと『お揃い』のデザインのネックレスが光っている。
選んでいる時にはそんなに意識していなかったが、無意識にそれを選んでいたようだ。
切歌はぽかーんと口を開ける。
「切歌ちゃんが好きなデザインを勧めてくれたんだよね? ありがとう!」
ニカッと笑う出久。
それに釣られて切歌も笑顔になる。
「そこに気がつくとはデク君、やるデスなぁ!」
「ネックレスもしないから、切歌ちゃんには教わってばっかりだよ」
「む。それでも勝ったのは私。勝者は敗者にスイーツをご馳走してもらえる」
二人の会話に割り込む調。
勝者が受けるべき称賛が貰えないためか、心なし頬が膨らんでいる。
その言葉を聞き切歌は声をあげる。
「聞いてないデスよ、調!」
「今決めたの」
「そんなぁ!」
「決定事項」
「調が優しくないデス・・・」
再び崩れ落ちた切歌を見ながら出久は笑い出す。なんだか目の前の光景がコミカルで笑いを堪えられなかった。
「じゃあ、僕着替えるから」
元の服装に戻る為にカーテンを閉める。
着替えているのとカーテンの向こうからは二人が騒いでいるのが聞こえてくる。
いつもこうやって仲が良いんだろうな、と容易に想像が出来た。
元の服装に戻り、カーテンを開けると膝を抱えて座る切歌とそっぽを向いた調がいた。
どうやら切歌の訴えは届かなかったようだ。
「・・・レジに行ってくるね」
そう声をかけると籠を二つとも持ち、歩き出す出久。
その様子を見た調が驚いた。
「両方とも買うの?」
足を止める出久。
振り向きながら両手の籠を持ち上げる。
「うん。せっかく二人が選んでくれた服だから」
「でも全部買うと結構な額に・・・」
「あ〜、それは大丈夫。実はね・・・」
出久はついさっきの件を話しだす。
自室で着替えた後、弦十郎から渡された封筒を手に取った。言われた通り、出かけるからにはある程度現金は必要だろう。
『少し、使わせて頂きます』
と感謝の気持ちでそれを開いた出久は驚きのあまり、封筒を落としそうになる。
中には諭吉さんが十人いた。
「え? ・・・え?」
出久はそんな大金を手にしたことがなかった。それを手にしたまま硬直する。
そのまま暫しの時が流れた。
ハッ、と意識を取り戻した彼は再び手の中のそれを見、叫びをあげた。
「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「どうしたの!」
扉を開けて飛び込んできたのは基地の外まで道案内をする為に待っていたマリアであった。
「ま、マリアさん! こ、こここれって!?」
ガタガタ震えながら手を前に突き出す。
彼の震えに呼応する紙幣たち。
その様子からマリアは彼の言いたい事を察した。
「出久。それなら使って大丈夫よ」
「こんな大金、使えませんよ!」
「遠慮なんかしなくていいわ。私も貰ってるもの」
マリアは携帯を取り出し、操作すると画面を見せてくる。
それは銀行の口座画面のようだ。
彼女の見せるそこには0がいくつも並んでいる。出久の目が飛び出しそうな額である。
「日々命懸けで戦う私達装者はS.O.N.G.からお給料を貰ってる。これは対価に頂いているの。貴方も同じよ。戦うのなら相応の見返りが発生するわ」
「でも僕、こんなに頂けるだけの事は・・・」
「何言ってるの。貴方すでに戦っているでしょう? それでも少ないくらいよ」
そう言いながらマリアは固まった出久の手を取ると優しく解く。
「司令がね、前に言っていたわ。『こんな形でしか返せない』って。あの人、本当は私達を戦わせたくなんてないのよ。でもノイズに対抗できるのは装者だけ・・・。だからせめてもの穴埋めにちゃんとお給料を払うしかないって」
彼女の哀しそうな表情を見て、出久は言葉につまる。
「貴方が戦うと言った時、司令は拳を強く握っていた。本音は貴方を巻き込みたくは無いのよ。それでも戦うと言った貴方を見て、それをお願いするしかない自分に怒っていたのね。だからこれは彼なりの誠意。受け取らないのは失礼にあたるわ」
出久は手中の現金に目を落とす。
「風鳴さんの、誠意・・・」
「そ! でも無駄遣いしちゃダメよ?」
「はい!」
出久の答えに笑い、マリアは付け加えた。
「あ。もし良かったら切歌と調に美味しいものでもご馳走してあげて? あの子たち同じだけお給料貰ってるのに全然贅沢しないのよ。これも”人助け”でしょ、ヒーローさん?」
「友達の二人が僕のために選んでくれた服を買うのは、無駄遣いではないでしょ?」
「マリア・・・」
「切歌ちゃん、そういう訳だからスイーツは僕が二人にご馳走するよ。選んでくれたお礼って事で」
「・・・いいんデスか!?」
「もちろん!」
「やったデース!」
飛び上がり、喜ぶ切歌。
相方のその喜び様に調も優しく微笑む。
二人の顔を見てから彼は言う。
「じゃ、ちょっと待ってて」
「デク君、待つデス」
と歩き出した出久に切歌が待ったをかけた。
近づいてきた彼女は自身が選んだ籠に手を突っ込み、何かを取り出した。
「はい。これでいいデスよ」
「え・・・?」
「いいから行くデス!」
「う、うん」
促されるままにレジへと向かわされる。
会計を済ませていると、二つ隣のレジで会計をする切歌がいた。
その横顔は、満面の笑顔であった。
話を書いていると、後輩組の可愛さにやられそうになっている私がいます。
私の推しはクリスのはずなのですが・・・切歌が可愛くて仕方がない。