僕のヒーローシンフォギア   作:露海ろみ

16 / 99
十六話目となります。

相変わらずの不定期更新で申し訳ありません。
しかしながら投稿のたびに皆様からご感想等を頂き、それに御返事をするのが最近の楽しみな私であります。
皆様からの御言葉が私の原動力ですので、どうぞお気軽にお声掛け下さいませ。
出来うる限りにお返事させて頂きます。


16.ゲームセンターXD その1

「ちょせえ!」

「甘いデス!」

「させないよ!」

「・・・ガラ空き」

 

カンカンカンと音を立てるは白い円盤。

赤と青の陣営を高速で行き来するその軌道はなかなかの速度で動きを止めることがない。

 

「獲った!」

 

そんな中、上から押さえつける様にクリスはその動きを強制停止させる。

捕らえた円盤を泳がしながら、クリスは出久に視線を送る。

受けた彼は『お願いします!』とGOサインを出すと、ゴール前に移動した。

それを見たクリス、渾身の力を込めて円盤を打ち出す。真っ直ぐではなく、壁の反射を使ったトリックショットである。

放たれた白き円盤は急角度で敵陣ゴールに滑り込んだ。

 

『ゴール!』

 

電子音声が獲得点を歌い上げる。

 

「先輩、ナイスです!」

「あったり前だ!」

 

ハイタッチを交わす二人。

即席コンビではあるが、息の合ったナイスプレーである。

 

「ごめん、切ちゃん。止められなかった・・・」

「大丈夫デス! 戦いは始まったばかりデスよ、調!」

 

ゲームセンターにやってきた六人がまず最初に遊び始めたのはエアホッケーであった。

クリス・出久組vs切歌・調組。

熾烈な戦いが今まさに幕を開けた所である。

 

「デェス!」

「甘いんだよ!」

 

各前衛は切歌とクリス。

持ち前の動体視力と突破力で動きの緩んだパックを叩き込むべく、隙を窺う。

 

「危なっ!」

「切ちゃん、行くよ!」

 

後衛は出久と調。

それぞれゴール前に位置。飛び込もうとするそれを弾き、前衛にパスを渡す。

一見コンビ力のあるザババ組が優勢かと思われたこのゲームだったが、始めてみるとクリス・出久組は健闘していた。

 

「お願いします!」

「喰らえ!」

 

切歌のショットを受け止めた出久がパスを回す。絶妙な位置に放たれたパックを再度ゴールへ打ち放つクリス。

だがザババコンビは伊達じゃない。

 

「んっ! 切ちゃん!」

「まっかせるデース!」

 

そのコースは読んでいた、とばかりに受け止める調と浮いたパックを真っ直ぐにゴールに打ち込む切歌。

 

『ゴール!』

 

再度電子音声が鳴り響く。

今度は対岸でハイタッチが交わされた。

 

その後白熱した試合が続き、気がつけば双方マッチポイント。

パックはきりしらコンビから。

 

「出久君、負けないからね」

「全力で・・・来い!」

 

調から打ち出されるパック。熱くなり始めた出久はそれを弾く。

壁伝いで弾かれたそれを見極め打ち返す切歌、浅い位置から速攻をかけるクリス。

数合の打ち合いの後、緩んだパックが出久の前に滑ってくる。

『勝機!』と出久が振りかぶり、マレットを振った。

だが高速の打ち合いに目が慣れていた出久は距離感を見間違い、打ち損ねる。そして慌て返した腕でパックを叩いてしまった。

 

「「「「あ!」」」」

 

四人の声が揃う。

カン、と壁を叩いたパックは『自陣』のゴールに入っていく。

 

『ゴール! ブルーチームWIN!』

 

なんとも締まらない結末であった。

 

 

 

「残念だったね。つめたいもの、どうぞ」

「あ・・・つめたいもの、どうも」

 

一戦終わり、ベンチで休憩している出久によく冷えたお茶が差し出される。

見ると未来が隣に座ったところだった。

エアホッケーは敗因の出久が抜け、クリスチームには響が参入して新たな戦いが始まっている。

 

「とぉうぉぉりゃぁぁぉ!!」

 

パワープレイヤーの響のショットは出久の比で無い速度で敵陣に飛び込んでいく。きりしらコンビは防戦に追い込まれていた。

 

「ッ! 重い・・・」

「二人がかりじゃ無いと止められないデス!」

 

二人はゴールから動けなくなっている。

二つのマレットが並びゴールを塞ぐ。だがその間をこじ開けんばかりのショットが毎回の様に飛んでくるので攻撃に出られなかった。

 

「こりゃ楽でいいや。ほれ、もいっちょやってやれ」

 

弾かれたパックを止めて、パスを回すクリス。

 

「最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線にぃぃぃぃ!!」

 

シンフォギアで戦っている時ばりに全力全開な響。言葉通り一直線に滑るパックがザババに迫る。

だがやられっ放しの二人ではなかった。

 

「今デス!」

 

その声を聞いた調が初めて攻勢に出た。

 

「真っ直ぐなら・・・ずらせばいい!」

 

調はマレットでパックの軌道をずらす。

『真っ直ぐ』ということは『読みやすい』ということ。そしてパワーショットなら少しずらすくらいでは勢いは落ちない。

 

「あとはゴールに一直線」

 

反射角を読み切った彼女によりパックがゴールに導かれた。

 

『ゴール!』

 

「なにやってんだよ、バカ一号!」

「クリスちゃん、しっかり止めてよ!」

「お前のだろ? 責任持って拾え!」

「そんなぁ!」

 

やいのやいのと対岸で争いが勃発したのをみて、きりしらはニヤリと笑う。

 

「切ちゃん、これはチャンスだよ」

「デスデース!」

 

まさかの反撃により調子を崩されたクリス・響はその後もミスを連発。

切歌・調は攻守を切り替える撹乱戦法で点数差をどんどん埋めていく。

またも迎える両者マッチポイント。

 

「・・・ミスんなよ?」

「もちろん!」

 

対し。

 

「あと一点・・・」

「押し切るデース!」

 

それぞれが集中力を高めていく。

そして・・・放たれる第一打。

 

「デス!」

 

切歌のショットがゴールに飛んでいく。

 

「激甘だ!」

 

クリスのカットが決まり、勢いを失ったパック。

 

「えいっ!」

 

調の狙いすました反撃のショット。先程の出久とは違い、しっかりと打ち抜く。

これ以上無い完璧なコースであった。

 

「・・・だとしてもッ!」

 

だがそれさえも覆すのが立花 響。

パックの軌道に割り込み、渾身の一撃を打ちかます。

長き戦いに、決着がついた。

 

『ゴール! レッドチームWIN!』

 

 

「響・・・かっこいい・・・」

「・・・」

 

未来が瞳を輝かせる一方、出久は無言であった。というより顔を背けていた。

戦いを終えた四人が互いの健闘を称えながらベンチまでやってくる。

 

「負けちゃったデス・・・」

「残念だったね・・・」

 

肩を落とし凹んでいる切歌と調。

対照的に先輩コンビは嬉しそうである。

 

「ま。あたしにかかればこんなもんよ」

「でも私の方が得点数多かったよ?」

「なんだと?」

「クリスが4点、響が8点だったね」

「か、勝ったんだからいいだろ! 大体こいつが馬鹿力すぎるんだよ!」

「またバカって言った!」

 

そんな楽しい会話に参加しない少年が一人。

 

「・・・僕、これ捨ててきますね」

 

手にした缶を掲げるとそそくさとその場を立ち去った。

 

 

少し離れたゴミ箱前。

出久は缶を捨てると横の壁に背を預けてへたり込むと両手で顔を覆った。

 

「みんな・・・もうちょっとその・・・」

 

実は出久、二戦目が始まってすぐに気がついた事がある。それは自身が遊んでいる最中は気がつかなかった事。

試合を客観視することによって見えてきた・・・否、それは見えてしまった。

 

実は、遊んでいる四人のスカートが動く度にふわりと翻るのである。

 

リディアン音楽院の制服はスカートが短い。

四人はそれに構わず台の周りを所狭しと暴れまわっていたのだ。

するとどうなるか?

黒だったり紫だったりピンクだったり緑の縞々だったり、色とりどりの『それ』がチラチラと見えてしまうのである。

気がついた出久は慌てて下を向き、手の中のお茶に全神経を集中したのであった。

 

「僕、男として見られてないのかなぁ」

 

ボソリと独り言が漏れる。

確かに自分は切歌や調と同じく一年生である。自分の顔が童顔なのは自覚があるし、背もそんなに高くない。

側から見たら『男』というよりは『男の子』である。

だがそんな出久にも『男』としてのプライドが少なからずあった。

 

「なんだか少しヘコむな・・・」

 

そう言うと立ち上がった出久はみんなに飲み物でも買っていこうと自販機の方向を向いた。そろそろ戻らないと心配されてしまう。

と、その時・・・。

 

「緑谷君」

 

その背に静かな、だがしっかりと呼びかける声がかかる。

思わずビクッとする。恐る恐る振り向くと笑顔の小日向 未来がそこにいた。

 

「大丈夫?」

「・・・小日向先輩、どうしてここに?」

「なんだか様子がおかしかったから」

 

出久は思わず一歩後ずさる。

目の前の先輩は笑顔なのだ。だが何故だか彼の身体は逃げ出そうとしていた。

まるで絶対に勝てない相手と対峙したかのような・・・。

 

「うふふ・・・どうしたの?」

「いえ・・・」

 

もう一歩後ずさる。

だがそれ以上身体が動いてくれない。

自分はまるで蛇に睨まれた蛙だ。

そんな中、未来は距離を詰めてくる。

 

「私ね。緑谷君と『お話』をしなきゃいけないなって、思うんだ」

 

一歩、また一歩と歩み寄る未来。

 

「何の事かは、わかってるよね?」

 

遂に出久の眼前までやってくる。

そこでようやく気がついた。

光の無い真っ黒な瞳が自分を見据えているのを。

 

「じゃあ・・・ちょっと『お話』しよっか?」

 

そう言うなり彼の手首が掴まれる。

驚く程強い力が出久に伝わってくる。

振り解こうにも、振り解けない。

 

「え? 先輩? 先輩!? ちょっと待ってください・・・」

「うふふふふ・・・響に色目を使うなんて悪い子・・・」

 

ズルズルとゲーム機の間の暗がりに引きずられていく出久。

 

「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

悲鳴を残し、出久は人目のつかない所に連れて行かれた。

 

 

 

その後。

戻って来た出久の瞳から光は消え、壊れたロボットの様に言葉を繰り返していた。

 

「ごめんなさい見てません本当です見てないんですだからそれはやめて下さいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・」

 

「・・・デク君、どうしたんデスか?」

「うふふ、どうしたんだろうね?」

 

にっこりと笑う未来が、それに答えた。




XDUのキャラクターソングアルバム2のジャケットが公開されましたね。
スーツ姿の響達のカッコ良さが溢れるものとなっておりますので、まだ見てない方がいらっしゃいましたら是非ともご確認を。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。