活動報告に書いた通り、ストックを使い切りました。
遅筆で申し訳ありません。
前回の続き、ゲームセンター回+αでございます。
出久に関しての独自設定がありますが、お許しいただければ幸いです。
新たな戦場が幕を開けた。
「きぃえぇぇぇぇぇぇ!」
「こいつうるせぇぇぇぇ!」
気合一閃、ボタンを押す響と耳を押さえるクリスがいるのはUFOキャッチャーの前だった。内部には太々しい顔をした猫のぬいぐるみが置かれている。
横、奥と操作されたアームが降りていく。
ぬいぐるみを無事掴んだそれは持ち上がっていくが、途中で力を失い取り落としてしまった。
「これ壊れてるよ〜!」
「壊れてんのはお前の方だ!」
「もう、クリス!」
スパンといい音を立てて叩かれる響の頭。
叩かれた所を押さえながら彼女は異を唱える。
「だったらクリスちゃんがやってよ!」
「は! こんなもん楽勝だ」
クリスは電子マネーを使い、プレイを始める。
「持ち上げるとこが間違ってんだよ。こいつは後ろ側を上げてだな・・・」
と操作するが少し持ち上がるだけでポトリとその身を落とすぬいぐるみ。
「ダメじゃん!」
「なんでだ!?」
「ほら、もう一回頑張ろう?」
ゲットまでの道のりはなかなか遠そうである。
「デク君、これはどうすればいいデスか?」
「これはね、あの角っこを爪で押してあげればいいと思うよ」
「なるほど」
一年生トリオは比較的取りやすいお菓子コーナーで獲得を続けていた。
足元にある袋にはそこそこの量のお菓子が既につまっている。
言われた通りに動かしたアームが良い仕事をし、繋がった竹の子型のチョコ菓子が取り出し口に落ちる。
「やった!」
「当分おやつには困らないデスね、調」
「出久君には感謝」
新たな景品を袋に入れながら、その重さにニコニコするきりしらコンビ。
それを見て出久の顔も綻ぶ。
実は彼はUFOキャッチャーが得意である。
オールマイトのグッズを手に入れる為にゲームセンターに通ってはプレイを繰り返していたのでなかなかの腕前を誇っていた。
「出久君。今度はあれ」
「甘いのの後は塩っぱいものデス!」
言われるがままに攻略法を伝授していく出久。嬉しそうに遊ぶ二人と共に景品を乱獲していく。
その時彼に声がかかった。
「緑谷! これどう獲るんだ?」
「緑谷く〜ん、助けて〜!」
声の方を向くとクリスと響が手を振りながら自分を呼んでいるのが見えた。
「ちょっと行ってくるね」
夢中な二人に一言残し、出久は歩き出す。
UFOキャッチャーが並ぶ通路を歩いていると、その角から学生の集団が出てきた。話に夢中で周りを見ておらず、あまりに急だった為に出久はその中の一人とぶつかってしまった。
ぶつかった青年は衝撃で床に倒れてしまう。
「痛っ!」
「ご、ごめんなさい。大丈夫ですか?」
ぶつかった拍子に尻餅をついてしまった男子学生に手を差し出す出久。学生はその手を取る。
握った手を支えに立ち上がる青年はまじまじと出久を見てきた。
「・・・」
「あの・・・?」
「いや・・・こちらこそごめんね。君こそ怪我はない?」
ニコニコと笑いながら答える青年。
それに対して申し訳なさそうな顔で答える出久。
「僕は大丈夫です。本当にごめんなさい」
「まぁ、こっちも周りを見てなかったからね。おあいこだよ」
そう言うと彼は手をひらひらと振り、口々に心配する友人達と歩いて行ってしまった。
その背中を見送る出久は思わずペコリと頭を下げると先輩の待つ場所へ再び歩き出した。
そんな彼を入れ替わりに振り向き見つめる青年。
その目は先程と違い薄く開かれ、その口端は歪んでいた。
「君は・・・面白い事知ってるんだね、『緑谷出久』君」
去りゆく出久の耳にその一言が入ることはなかった。
六人はゲームセンターを後にし、早めの夕飯を摂るため店を探していた。
「お腹空いたよ〜ごはん〜」
先頭を歩く響のお腹からは盛大に空腹を主張する音が鳴り響いている。
「でもどこにするデス?」
「お腹いっぱい食べられるところ!」
「ざっくりしすぎだろ・・・」
呆れ顔のクリスの声も何処へやら、ふらりふらりと歩く響は既に限界を迎えておりエネルギーゲージはレッドゾーンである。あと数分もしないうちに活動限界を迎えるであろう。
ちなみに彼女はおおよそ年頃の女の子が発してはいけない音を奏でているため、隣を歩く未来と出久以外は少しだけ距離をとっていた。
そんな中、館内パンフレットを見ていた出久がとある店を見つける。
「響さん、一つ上の階に食べ放題のお店が出来たみたいですよ」
「食べ放題!」
ギラリと響の瞳が輝く。
しかも気持ち前傾姿勢だ。
どうやら空腹のせいか野生に近づいている様だった。
「はい。オープン記念で割引もされてるみたいです」
「そんなこと聞いたら行くしかないよ! みんなもそこでいいよね?」
凄い勢いで振り向いた響は後ろを歩く三人に詰め寄る。
真っ先に反応したのは切歌。
「どれだけ食べてもいいデスか!?」
「そうだよ! 時間の許す限り好きなだけごはんが食べられる素敵空間、それが『食べ放題』!」
「そんな所行かなきゃ損デース!」
キャッキャとはしゃぐ二人。
「切歌隊員! 目標地点に向かうよ!」
「了解! 吶喊するデース!」
言うが早いが彼女達は駆け出す。その姿はあっという間に見えなくなった。
「もう、響ったら」
「未来先輩、追いましょう」
未来と調もその後を追いかける。
そしてその場にポツンと残される出久とクリス。
その時クリスが出久の肩を叩く。
「緑谷、よくやった」
「え?」
「あのバカとんでもない量食うんだよ。下手な店だと大変な事になる」
「確かにこの間も結構食べてるのは見ましたけど・・・そんなにですか?」
「歓迎会の時だろ? あれな、かなりセーブされてた」
嘘だろ、と出久の表情が凍りつく。
あの時でさえ用意された二十数人分の料理の大半を食べていたはずである。
それがセーブされていたとすると響の本気とは・・・。
「とりあえずあたし達も行くぞ」
「そうですね、雪音先輩」
言われ歩き出した出久を呼び止める声があった。
「・・・なぁ」
振り向くとクリスがジト目で睨んでいる。
「あたしだけ苗字で呼ぶな。『クリス』って呼べ」
「え・・・?」
「名前で呼べって言ってんだ」
「その、いいんですか?」
「逆に聞くがなんで悪いと思ってんだよ」
両の手で景品袋を握り締め、怒ったように言うクリス。
「あたしが『いい』って言ってんだ。これからは名前で呼べ!」
「わ、わかりました。クリス先輩・・・」
「・・・よし!」
戸惑いながら言われた通りにする彼を見てクリスの顔は綻ぶ。
「あ。ちなみにあたしは『デク』って呼ぶから異論は無いな?」
「そこは『出久』じゃないんですか?」
「『出久』より『デク』のが呼びやすいからな」
「そんな理由ですか!?」
「そんな理由だ!」
答えたクリスは出久を追い越し、少しだけ先に行くと振り向き言った。
「ほら、あいつらに追いつくぞ。デク?」
その顔は彼が初めて見る、彼女の少女の様な笑顔であった。
そろそろ物語を動かす準備に入って参ります。