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遅くなってしまいました、申し訳ありません。
続きを投稿させて頂きます。
出久とクリスが四人に追いつくと、まさに響が店内に突撃する直前であった。
「みんな、離して! ごはんが私を呼んでるんだ!」
「落ち着いて、響」
「お願いですから」
「隊長、デク君達が来るまで待つデス」
三人がかりで押さえつけられた彼女はその鎖を引きちぎらんばかりに抗っていた。
追いつきその様子を見てクリスが彼女を静かに叱る。額には青筋が浮いていた。
「・・・恥ずかしいからやめろ」
「響さん、遅れちゃってすみません」
出久はすぐに店内に入ると店員に人数を告げる。
店員はほぼ野生に還っている響に一瞬だけ固まったが、笑顔を作り直すと席に案内する。
幸にして空いていたので窓際の席をあてがわれた。
「当店は120分の食べ放題となっております。食べ残しは別途料金を頂きますので御了承下さ・・・」
「ごはん!」
案内された席で説明を受けるやいなや、野生を暴走させた少女が飛び出す。
「・・・すみません」
「い、いえ。余程空腹だったのですね・・・ではごゆっくりどうぞ」
謝る出久と頬を引きつらせた店員。流石に二回目は笑顔をキープできなかった様である。
説明を終えるとそそくさと持ち場に戻っていった。
「響、待って」
「さて、あたし達も取りに行こうぜ」
「お腹がグーグーへりんこファイヤーデスよ!」
「何があるのかな」
それぞれ立ち上がる彼女達に出久は言う。
「荷物は僕が見てますから、ゆっくり選んできてください」
「そうか、任せたぞ『デク』」
「はい、いってらっしゃい『クリス』先輩」
「デス!?」
「切ちゃん?」
「な、なんでもないデス、調!」
未来を筆頭に席を離れて料理をとりに行く。
残された出久は窓の外に視線を送る。
時刻は十八時過ぎ。夕陽はまさに沈む所であった。
「ここだけ見るといつもと違わないんだよな」
呟いた出久。
自分が知っている様に日が昇り、そして落ちていく。
まるで変わらない日常のはずが今の自分は全く違う世界にいる。
自分がいなくなって騒ぎになっていないだろうか。思えば結構な日数が経過している。
母やクラスメイト、そしてオールマイトはきっと心配しているのだろう。
夕陽を見つめながらこれからの事を考える。
だが自分にはどうすればいいのかわからないかった。
「ずっとこのままかな」
ボソリと独り言が漏れる。
途端、色々な感情が出久を襲う。
オレンジの光が滲んでいく。目の前の光景が形を無くし意味をなさなくなる。
「帰りたい」
顔を伏せると滴が落ちた。
「オールマイト・・・会いたいです・・・」
滴は彼の脚に落ちて染み込んでいく。
「デク君?」
声がかかる。向くと切歌が心配そうな顔でこちらを見ていた。
「泣いてるデスか?」
思えば彼女には前にも泣いている姿を見られていた。
慌てて涙を拭う。
「ごめん、また情けない所見せちゃって」
「・・・いいデスよ」
「え?」
「泣きたい時に泣かないともっと辛くなるデス」
切歌は出久の隣に座る。
そのまま無言の時間が過ぎた。
二人で夕陽を眺める。
先に口を開いたのは切歌だった。
「デク君は・・・」
そこで言葉が止まる。
「デク君は、いつか自分の世界に戻るんデスよね」
「・・・うん。出来るなら」
「そうデスか・・・」
そう言うと切歌は再び言葉を止める。
夕陽は完全に沈み、夜の帳が下りていく。
再びの沈黙が二人を包む。
「きっと戻れるデス」
唐突なその言葉に出久は彼女の顔を見る。
横に座る切歌は彼の手に自らの手を重ね、言った。
「だから諦めちゃ駄目デス。諦めなければきっと方法はあるはずデスから」
重ねられた手から伝わる鼓動。それはそのまま彼女の優しさを分けてもらっている様に出久は感じた。
「わたしも手伝うデス!」
ニッコリと笑う切歌。その顔を見て出久は呆気にとられた。
出逢ってまだ数日の見ず知らずの自分の為に目の前の少女は力になってくれると言ってくれている。
鼓動は頼もしさすら感じる力を持っていた。
「切歌ちゃんは優しいね」
「そうデスか?」
「うん、とっても」
「・・・なんだか照れるデスな〜」
少し顔を染める切歌に出久は微笑む。
「ありがとう」
「どういたしましてデース!」
そんな元気を取り戻した彼の様子を見て安心した切歌はふと辺りを見回す。そして周りに人がいないのを確認すると自分の鞄から何かを取り出す。
「デク君、これ・・・」
出久に差し出されたのは小さな袋であった。
「プレゼント、デス・・・」
突然の事に驚き、受け取ったそれを開けると中に入っていたのは先程切歌が選んでいたネックレスだった。
「これってさっきの?」
「デク君が『お揃い』って言ってくれたのが嬉しくって・・・だから、わたしからプレゼントするデス」
切歌の髪飾りとお揃いのデザインのそれ。
あの時籠に手を入れた彼女の行動にやっと合点がいった。
「・・・いいの?」
「もちろんデス」
言われた出久はそれを身につける。
その胸にXが揺れた。
チェーンがキラキラと光を反射する。
「どうかな?」
「似合ってるデスよ、デク君!」
「ありがとう、切歌ちゃん。大切にするよ」
ネックレスを見つめながら出久は言った。
それを聞いた切歌はえへへと笑いながら嬉しそうに立ち上がる。
「じゃあわたしもご飯を取ってくるデス!」
そそくさと席を離れていく彼女の後ろ姿に感謝の眼差しで見送った出久はネックレスを再度手に取る。
Xのモチーフはそれに応えた様にゆらゆらと揺れた。
そうだ。自分は決して一人ではない。
知らぬ世界でも支えてくれる人はいるのだ。
手と手を繋げるなら、そこには人と人の繋がりも生まれるのである。
それを思い出した出久は心に勇気を取り戻すのを感じた。
『ネックレス』を異性に贈る意味、ご存知ですか?