出久にはそろそろ戦場(いくさば)の空気を思い出してもらいたいと思います。
少し短めですが、お楽しみ頂けたらと思います。
「いや〜食べた食べた。流石にお腹いっぱいだよ〜」
「もう、響ったら。お腹ぽんぽんじゃない」
幸せそうな顔でお腹をさする響。
その隣を笑顔で歩く未来。
「おい。あたし達は何を見せられてたんだ?」
「食べ物が消滅していく様子ですかね・・・」
その後ろを歩く出久・クリス。
前の二人と対照的にげんなりとした顔をしていた。
それもそのはずである。
響は食べ放題だということをいいことに、リミッターを完全解除した。
結果。並べられていた料理のほぼ全てが彼女の胃袋に消えるという結果が残った。
「どう考えてもあいつが食べた量と胃袋の容量が釣り合ってねぇぞ」
「この世界に物理法則ないんですか?」
「ンなわけねぇだろ」
「ですよね・・・」
最終的に店長を名乗る男性がやって来ると「今日の所はもう勘弁してください」と若干泣きそうな顔で告げた。
おまけをつけると厨房からコック姿の数人も同じ顔をしてこちらを見て頷いているのが見えた。
「美味い店だったのに当分顔出せねぇぞ、ありゃ」
「僕たちが『帰る』って言った瞬間の店長さんの顔ですよ・・・」
ため息がユニゾンする。
なお、当の響は食べる事に完全集中しており周りの苦労に気がついていなかった。
余程空腹であったのだろう・・・。
「響さんの胃袋は宇宙・・・」
「宇宙というよりブラックホールデスね・・・」
きりしらコンビは後方を歩きながら先ほど見てしまった響の本気に感想を述べる。
彼女が箸につかんだ食べ物が『消える』のを目の当たりにしてしまったのだ。
比喩表現ではない。文字通り掴んだ瞬間には『消える』のである。
それはさながら光さえ飲み込むブラックホールそのものであった。
「未来〜、今日の晩ご飯な〜に?」
「まだ食べるの? 今日は肉じゃがにするつもりだけど」
「やった〜! 未来の肉じゃが、大好き!」
先頭でそんな会話をする二人を見て、四人は愕然とする。
「この話、やめませんか?」
「同感だ」
「デス」
「うん・・・」
夕飯を食べに行っただけなのに途方の無い徒労感に囚われた四人は考えるのをやめた。
S.O.N.G.基地に戻った出久は荷物を置くとトレーニングルームに向かう。
柔軟をして身体を暖めるといつも通り鍛錬を始める。
まだまだ自分はワン・フォー・オールを使いこなせていない。ここが未知の戦場である以上、油断は出来なかった。
「ここはこう、隙をなくして」
蹴りを繰り出しながらそのフォームを一考する。シュートスタイルは未だ発展途上であった。
できるだけ早く自分のものとする為に確認は怠らない。
その時。
「緑谷」
声がかけられて、振り向くとペットボトルが迫っているのが見える。
飛んできたそれを受け止めて声の方向を見ると、そこにいたのは翼であった。
「精が出るな」
見事に受け止めた出久を見て翼はニコリと笑う。
「翼さん、お疲れ様です」
ペコリと頭を下げる出久。
律儀なその様子に翼は改めて彼の真面目さを感じる。
「今日は休みだったのに鍛錬か?」
「はい。というかやらないと鈍ってしまいますので」
「手入れを忘れた剣はすぐに鈍となる。お前は良い業物の様だ」
見れば翼もトレーニングウェアに身を包んでいた。
「もしかして翼さんもですか?」
「今日は深夜番でな。折角だから軽く汗を流そうと思っていたら、先客がいた」
言いながら柔軟を始める。
「『常在戦場』を常とする私だが、鍛錬は欠かせない。日々の鍛錬があるからこそ、いざという時に力を発揮できる。私もお前と同じだ」
そこまで話すと柔軟を続ける翼。
出久はその姿に少し距離をとり、自身の鍛錬を再開した。
それぞれが鍛錬を開始して、半刻ほど経過する。
出久は自身の稽古を続けながらも、近くで同じくする翼から目を離すことが出来なかった。
抜身の様でありながら荒々しさの無いその姿。まるで舞う様な剣が側で展開されるのに目を奪われていた。
気がつけば出久は動きを止め、その姿に魅入ってしまっていた。
そしてその視線は翼も気がつくところとなる。
「緑谷、動きが止まっている様だが?」
「あ! その、すみません・・・」
「いや、責めているわけではない。どうしたのだ?」
「その・・・凄く綺麗だと思って・・・つい」
「・・・そ、そうか」
素直な感想を述べる出久に言葉詰まる彼女。
そんな翼はふと思ったことを返す。
「なぁ緑谷。お前も幾つもの修羅場を潜って来たのだろう」
その問いに自分の戦歴を思い出し、出久は答える。
「そうですね。戦いは何度もありました」
「では・・・」
手にする木刀を構え。
「貴方と私、戦いましょうか?」
翼は手にした剣に意志を乗せて、彼を見据えた。
皆さんからご要望頂きました、対装者第一弾は翼戦となります。