僕のヒーローシンフォギア   作:露海ろみ

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二話目となります。


2.この世界のヒーローたち

出久は攻めあぐねていた。飛び込んだのはいいものの、ヴィランの数が明らかに多い。

これまで側に仲間がいる事が多かったので戦力が自分だけ、敵は多数という状況は皆無に等しい。

更に言えば少女の存在が大きかった。攻撃の為に離れれば襲われてしまう。かといってこのままではジリ貧である。

 

ヴィランが少しずつ包囲を狭めてくる。直後、右の二体が飛び出した。

出久はこれを右ハイキックにて迎撃、同時に葬る。

同胞がやられたからか、敵の動きが一瞬止まった。

この隙に逃げるしかない。

 

「掴まって!」

 

少女を抱えると出久は上に跳んだ。背後の壁を蹴り、敵を飛び越える。

安全な場所を探し、彼は駆け出した。

 

 

 

『二人とも、準備はいいか?』

 

通信機から弦十郎の声が響く。

立花 響、雪音クリスはヘリの中にいた。

 

「心配すんなよ、おっさん。 今更ノイズなんてあたしにかかれば朝飯前だ!」

「え? クリスちゃん、もうお昼過ぎてるよ?」

「お前ほんとのバカなのな・・・」

 

まるで緊張感のないやり取りに弦十郎は咳払いをすると、

 

『ノイズの数は少ないが、被害が出ている。迅速に殲滅するんだ。他の装者もすぐに向かう。決して無理はするなよ』

 

OTONAらしく、司令らしく、指示を出す。するとクリスはニヤリと口を歪めて言い放つ。

 

「他の奴らが来る前に片付けてやるさ」

『重ねて言うが無茶はするなよ。 それと・・・』

 

弦十郎が何かを言いかける。

 

「だからまかせとけって! ほら行くぞ!」

「え? うわわわっ! 」

 

弦十郎の言葉を聞き終える前に彼女は響の首根っこを掴みヘリから飛び出した。

ここは上空300メートルである。ただの人間が飛び降りたら無事では済まない高度。

そう、ただの人間なら。

 

空を二人の少女が翔ける。

 

「Killter Ichaival tron...」

「ひどいよ、クリスちゃ〜ん!・・・Balwisyall nescell gungnir tron...」

 

二人の少女は詠う。

聖なる詠をその口から紡ぎ出す。

 

二人はただの人間ではない。

 

過去の聖遺物を歌の力を使い、形として身に纏える戦姫。彼女達はその装者。

その鎧の名を『シンフォギア』という。

 

 

 

「あいつら、しつこいっ!」

 

出久はかなりの距離を走破していたが、ヴィランは疲れを知らず追ってきていた。上に横にとワン・フォー・オールの力を使い逃げるが、迫り来る脅威は延々と追いかけてくる。

特攻の如く飛びかかってくる敵がいることから細かく後ろを確認せずにはいられない。

腕の中の少女は離されまいとぎゅっと彼にしがみついている。それを感じ、少女を離すまいと腕の力を込めた。

 

「もう少しで逃げられるから、安心してね」

 

笑顔で声をかけるのも忘れない。

今この子を救えるのは自分だけ。不安にさせまいと自らを鼓舞する。

誰かを助けるのがヒーロー。

それに憧れた自分がいる。

それを目指す自分がいる。

そして今。自らの腕の中に助けるべき人がいる。

なら、やるべき事はひとつ。

 

「絶対に君を助ける!」

 

 

 

出久の上空100メートル。

二人の装者はノイズの姿を捉えた。

 

「見えた! あたしが先制する。その隙に突っ込め!」

 

クリスは空中で体勢を直すと自身の纏う聖遺物、イチイバルの小型ミサイルを展開する。

 

「群れ雀共が、喰らいやがれ!」

 

【MEGA DETH PARTY】

 

小型ミサイルが縦横無尽に広がったかと思えば次の瞬間、各々に意思があるかのように眼下のノイズめがけて飛んでゆく。

その後をガングニールを纏う響は突撃する。

 

「うおおおぉぉ!!!」

 

 

 

駆ける出久が後ろに目を向けると沢山の何かが空中から迫り来るのが見えた。

慌てて脚に力を込め、一気に前方に跳ぶ。

直後。後方で多数の爆発が起きた。

爆風で地面を転がりながらも腕の中の少女を抱き、守るように転がる出久。

その後に大きな物体が落ちた音がする。それも二つ。

新手かと振り向くと土煙で視界は遮られていた。徐々にそれが晴れていく。

 

 

「クリスちゃん! 行くよ!」

「言われるまでもねぇ!」

 

響は巻き上がった土煙を吹き飛ばしながら手近なノイズを殴り消す。

クリスは両手にガトリングガンを呼び出し、目につくノイズを撃ち抜く。

敵の数はもう僅かの掃討戦である。

 

「ちょせぇぇぇぇぇ!」

「てりゃぁぁぁぁぁ!」

 

歌い、そして踊る様に次々とノイズを消滅させる二人。

あらかた倒し終えたその瞬間に油断が生まれた。

お互いがフォロー出来ない一瞬。

一体のノイズがクリスの死角から襲いかかる。

先に気がついたのは響。

 

「危ない! クリスちゃん!」

 

響の声に慌てて銃を向けるが、長物にしていたのが災いし間に合わない。

 

 

何かが自分たちに襲いかかっていた敵と戦っている。土煙が消え去り、その姿が露わとなる。

そこにいたのは二人の少女。

一人は黄色を主色とした鎧を纏い、徒手空拳で敵を殴り倒す少女。

一人は紅色を主色とした鎧を纏い、両手の銃で敵を撃ち倒す少女。

連携を取りながら数いる敵を減らしてゆく。どうやら新手ではないようだ。

 

「一体、何の個性なんだろう?」

 

あんな鎧を纏う個性など見たことがなかった。そしてもう一つ。

 

「歌いながら戦ってる・・・」

 

出久の耳に届くのは紛れもなく『歌』である。二人は歌に乗せて拳を、弾丸を叩き込んでいる。

 

「歌う事で強くなる個性か? いやでもそしたらあの鎧は? もしかして歌を歌う事で鎧を維持しているのかも。 そもそも個性は人それぞれのはずなのにあまりにも似た個性の人間が二人もいるなんて・・・」

 

ブツブツと独り言を呟きながら情報を整理する。

そんな中少女は声をあげた。

 

「『うたずきん』だぁ!」

「うたずきん?」

「お兄ちゃん知らないの? うたずきんはね、歌の魔法を使ってみんなを助けてくれる正義の味方なんだよ!」

 

『うたずきん』なるヒーローを出久は知らなかった。

古今東西あらゆるヒーローを調べてきた出久が知らないのだ。

だが現にこの少女はそのヒーローの名を、能力を知っている。

 

「どういうこと・・・?」

 

そう呟いた矢先、紅い少女の死角からヴィランが飛びかかるのが見えた。

黄色の少女の位置からでは、間に合わない。

 

「マズいッ! ・・・ここにいて!」

 

出久は少女を下ろすや、飛び出した。

 

「間に合、えぇぇぇぇ!!」

 

誰かがピンチなら、それを全部助ける。

 

【5% DETROIT SMASH!!!】

 

最高のヒーロー、オールマイト曰く。

『ヒーローは命を賭して綺麗事を実践するお仕事だ』

その力を受け継ぐ少年はその意思も受け継ぐ。


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