僕のヒーローシンフォギア   作:露海ろみ

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ニ十話目となります。

この間報告欄に書きました『消してしまった話』はこの話でございます。
最初は出久は翼に一方的にやられる(対武器、対初シンフォギア戦の無知さ故に)展開だったのですが・・・。
所々最初に書いた方と展開が違うので、どっちがよかったのか未だに悩んでおります。

謎です。


20.模擬戦(翼)

「なにも殺し合おうと言っているのではない」

 

そう言いながら木刀の切先は確かに出久を捉えていた。

その見えぬ圧力にたじろく出久。

 

「安心しろ。これはあくまで『手合わせ』だ。だが・・・」

 

そこまで言うと聖詠を唱える。

 

「Imyuteus amenohabakiri tron…」

 

自身のギア、天羽々斬を纏う翼。

 

「刃は潰したが、力は本物。だからお前も力を纏え、緑谷」

 

木の剣から真の剣へ持ち替える彼女は正眼に構え、目の前の少年に闘気を飛ばす。

その力を受けて彼の中でスイッチが入る。

両の手を前へ。

両の脚を前後に。

そして叫ぶ。

 

「ワン・フォー・オール!」

 

紫電と共に力を見に纏う。

 

「それでいい」

 

にっこりと笑顔になる翼の瞳にはあの時自分に向けられた優しげな光が溢れていた。

 

「さぁ、共に舞おうか」

 

言うが速いが振り上げられた剣が出久に迫る。真っ直ぐ振り下ろされる剣を半身ずらして躱す。

ほぼ倒れかける体勢を起こしながら右拳を繰り出す。

 

「まっすぐだな!」

 

くるりと回り、拳を回避する。薙ぎ払いでの追撃も忘れない。

 

「くっ!」

 

バク転で避ける出久。滑るように後ろに下がる。翼のいた方を見ると姿がない。

 

「いくぞ!」

 

声は上から。空に飛び上がった翼は光の短刀を呼び出し、雨霰の如く降らせた。

 

【千ノ落涙】

 

「嘘だろ!?」

 

慌てた出久は両腕を前に突き出す。

その動きに合わせ、手甲が前にスライドする。

 

【DELAWARE SMASH AIR FORCE DOUBLE !!】

 

放たれた二つの空弾が刃を次々に相殺する。

死地の中に安地を作り出すが、土煙が辺りを包む。

そこで出久は気がつく。これこそが翼の狙いであると。

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

気合と共に蒼き斬撃が土煙を切り裂き飛来する。

 

【蒼ノ一閃】

 

だが目前まで迫った斬撃に怯むような彼ではなかった。

 

「そんなものぉぉぉ!」

 

タンっとジャンプすると上から下へ右脚を蹴り下ろす。

 

【St.LOUIS SMASH !!】

 

出久を両断するかに見えた蒼ノ一閃は出久の放つセントルイススマッシュにて消滅する。

ここまで防戦一方の出久は、ここで初めて攻勢にでた。

土煙を吹き飛ばしながら突破。剣を振り下ろした翼に迫る。そのまま蹴りを中心に連続技を繰り出した。

 

だがその一撃一撃は翼に当たらない。

 

驚いた事に剣の側面にて蹴りの軌道をずらされていた。

ワン・フォー・オールの力を使い、速度の上がった出久の蹴撃を翼は見事に捌ききった。

大振りをいなされ、出久は大きく滑る。

 

「そんな!」

「お前は私のように真っ直ぐだな。よく視れば何処を狙っているか判り易い」

 

体勢の崩れた彼に翼の袈裟斬りが襲い掛かった。出久は横に転がりそれを回避する。

 

「避けてばかりでは勝てんぞ! 攻めてこい、緑谷!」

 

更なる斬撃が次々に飛来する。

だが出久に反撃に転じる事が出来ない。

彼には避ける事で精一杯だった。

徐々に剣が身体に擦り始める。

痛みに顔を歪め、反攻の隙を探る。

 

『攻撃が鋭すぎる。どこか、どこかに攻める隙を探さないと!』

 

高速で思考を回す出久。

だが考えがまとまらない。

そんな彼に発破をかけるように翼は叫んだ。

 

「お前に出来るのは無様に避ける事だけか!!」

 

その言葉に翼を見た。

その視線の先には彼女の顔があった。

その顔は何かを期待していた。

 

出久の脳裏にこれまでの攻防が、やり取りが瞬時に流れる。

 

迫る高速の突き。

それが出久の胸に届く・・・かと思われた。

 

だが翼の突きは”横に逸れる”

 

否。出久の拳によって”逸らされた”のだ。

彼は自身がやられた事を『やり返した』

 

『そうだ。避けなくてもいい』

 

その勢いのまま下段蹴りで足払いをかける。

それを掬い上げる剣で絡めとる翼。

更に加える脇構えからの横一閃。

それを宙に浮いたまま上から蹴り潰す出久。

 

『翼さんは言っていた』

 

斬撃が蹴撃に打ち消され、蹴撃が斬撃にいなされる。

 

『お前は私のように真っ直ぐだな、って』

 

上へ下へ、右へ左へ。

左へ右へ、下へ上へ。

 

『あれはメッセージだ』

 

二人の動きが陣地取りの様になってくる。

 

『僕にも同じ事が出来るっていう翼さんからのメッセージなんだ』

 

いなし、いなされ互いの攻撃は当たらない。

だがその拳速は、剣速は速度を増していく。

 

『よく視ろ、緑谷 出久』

 

出久の目には相手の攻撃範囲が視覚的に感じられた。

自分はその只中にいたが、それは相手も同じである。

 

『まだ、戦える!』

 

二人は舞うように踊り狂った。

 

 

そんな打ち合いが数合、十数合、数十合。

互いを弾き飛ばす瞬間がやって来る。

時間にしたら五分も経っていない。

だが二人からしたら濃密な時間だった。

 

「やるな、緑谷」

 

翼は八相に構え直した天羽々斬を向けながら、笑う。

 

「翼さんのおかげです」

 

拳を構えた出久がにこやかに答える。

 

「では、行くぞ?」

「はい!」

 

その言葉でお互いに最後の一撃だとわかる。

次の瞬間。二人は正面からぶつかり合った。

 

 

翼の一手は最上段からの唐竹割。

だが僅かに先手を取ったのは出久だった。

 

「・・・まさか柄頭を蹴られるとはな」

 

無手になった翼は呟いた。

振り下ろされるかに見えた天羽々斬は宙を舞い、彼女の後方に突き刺さっている。

出久は懐に潜り込み、振り上げる左脚にてその剣を彼女の手から弾き飛ばしたのだ。

 

「私もまだまだ甘いということか・・・」

「でも翼さん」

 

彼は『動けなくなった身体』を見ながら言う。

 

「僕の負けです」

 

彼の影には短刀が突き刺さり、動きを封じていた。

 

【影縫い】

 

悔しそうに出久は返す。

天羽々斬を弾かれた瞬間、翼は短刀を投げていた。

緒川直伝の忍術により、この手合わせは決着となった。




影縫いは地味に強いんですよね。
個人的にとっても覚えたいです。

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