僕のヒーローシンフォギア   作:露海ろみ

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二十二話目となります。

本当はもうちょっと書き溜めてから投稿するつもりでしたが番外編があまりにも悲しい話なので、お口直しに本編をどうぞ。

皆様待望の『彼』が姿を表しますよ・・・。


22.影

「翼さん! 少しスピードを落として下さい!」

「それは聞けぬ相談だ!」

 

出久は翼の腰に回した手に力を込める。

 

「落ちるぅぅぅぅ!」

「そのまま掴まっていろ!」

 

高速道路の法定速度をぶっちぎって走るそれは、確かにバイクであった。

 

 

ノイズ出現の報を受け、翼が向かったのは車庫だった。

何台か並ぶ同型のバイクから蒼い一台に飛び乗ると翼はヘルメットを被る。

そして手に持つもう一つを出久に投げると叫んだ。

 

「乗れ!」

 

飛んできたそれを受け取り、被る出久。

そのまま翼の後ろに飛び乗った。

 

「しっかり掴まっていろ・・・飛ばすぞ!」

 

出久はその気迫から、慌てて手を回す。

同時に車庫の入り口が開き出す。

開いた瞬間にはバイクは宙を飛び、跳び出していた。

 

 

『現在B-31地区にてノイズの反応を検知。その数100を超えています』

 

出久の耳に装着した通信機から藤尭の声が聞こえる。

 

『避難誘導はまだ完了していません』

 

続けて聞こえるのは友里の声。

オペレーター二人組の声は冷静に現状を伝えてきた。

 

「あと一分で現着します!」

 

叫ぶ様に答えた翼はギアを上げ、右手を捻る。

甲高い音を立てて答えるエンジン。

甲高い声を上げて叫ぶ出久。

彼は今後翼の駆るバイクには二度と乗らないと心に決めた。

 

「跳ぶぞ、頃合いを見て飛べ!」

「えぇぇぇぇ!?」

「はぁっ!!」

 

バイクの前輪が防音壁を捉えるとそのまま壁を走り出す。

そしてバイクは空を跳んだ。

 

「今だ!」

 

翼はシートを蹴り、バイクをノイズ溢れる直下に蹴り落とす。

出久も同じく空に舞う。

 

「Imyuteus amenohabakiri tron…」

 

聖詠を唄う翼はギアを纏いながら、その手で出久の手を取る。

手を握られた出久は混乱しながらも、なんとか体勢を立て直しワン・フォー・オールを纏う。

眼下では落下したバイクが爆散し、炎が撒き散らされていた。

そのまま落下する二人。翼は空いた手にアームドギアを握り、叫んだ。

 

「緑谷。お前には私がいる、私にはお前がいる。ならば、何も恐れるものはない!」

「・・・はい!」

「この戦場、蹂躙するぞ!」

 

雄叫びと共に二人の防人は爆炎に飛び込んだ。

 

 

「翼さん、後ろです!」

「心得た!」

 

【逆羅刹】

 

両脚にブレードを展開して逆立ち、高速回転する翼。

その刃はノイズを次々と斬り裂いていく。

討ち漏らしたそれを拳で、脚で消し去る出久。

 

「すまない緑谷」

「大丈夫です!」

 

先程の模擬戦でお互いの制空圏を理解した二人はその穴を補いながら戦場を暴れ回っていた。

戦闘が始まり数分。敵の約三割を倒し、その背が合わさる。

 

「流石に数が多いな」

 

手の中の剣を握り直した翼が言う。

その数を確かに減らしてはいたが、まだまだ掃討には至ってはいなかった。

背を預けられた出久は拳を握り締め、迫るノイズを睨みつける。

 

「翼さん、僕が敵を一箇所に集めます。その後はお願い出来ますか?」

 

油断すると飛びかかってくるノイズに気を張る。その一挙手一投足に気を配りながら出久は答えた。

 

「考えがあるのか?」

「翼さんが見せてくれた技なら出来るはずです! 僕がそこまでの道を作ります。だから少しだけここで持ち堪えて下さい!」

 

出久は言うと、ノイズの薄い一点に向かい駆け出した。立ち塞がるそれらを撃ち破ると、大外に出る。

外周を走り回りながらノイズを翼を基点とした一点に集める様に攻撃を加え始めた。

敵の数は多い。自分一人の力で倒すには骨が折れるだろう。

しかしながら自分は一人で戦っているのではない。

 

「真ん中に集まれぇぇぇぇ!」

 

雄叫びと共にノイズを吹き飛ばしながら、その形を作り始める。

翼を中心点とした円形にノイズが集まる様に。

・・・徐々にその円が小さくなる。

その数が総数の半分に達した頃、出久が叫ぶ。

 

「今です!」

 

風圧でノイズを吹っ飛ばしながら、その中央にいるであろう翼にゴーサインを出す。

翼はそれを聞き、彼の行動から自身のやるべき事を導き出した。

それに雄叫ぶ防人。

 

「お前の意志は受け取ったぁぁぁ!!」

 

その場から高く跳び上がる。

天高く跳ぶ翼はその空に蒼い短剣を無数に喚び出した。

 

【千ノ落涙】

 

豪雨のように降り頻る刃は集まったノイズを撃ち抜く・・・が、その全てを倒せなかった。

 

「やはり全ては屠れぬか・・・だが!」

 

僅かに残ったノイズが空を舞う翼に攻撃を仕掛けようとするが、その身体は地に縫い付けられている。

合間を縫い、それぞれの影に突き刺さった短刀がその動きを封じていた。

 

【+影縫い】

 

翼は落涙に影縫いの力を付与しその行動を完全に制御する。

 

「終幕だ!」

 

翼がその手の剣を投げつけ、その形を変化させる。巨大な剣となったアームドギア。

その柄に脚をかけ、残るノイズに蹴り降ろした。

 

【天ノ逆鱗】

 

迫る巨大な剣に為す術なく、ノイズの姿は完全消滅した。

 

ちなみに出久も吹き飛ばされた。

 

 

「翼さん! あんな技あるなんて聞いてないです!」

「む・・・確かにお前との戦いでは使ってなかったな」

「てっきりあの沢山の剣で倒してくれるんだと思ってたんですけど」

「敵の数が多かったのでな。その先の手を打っていたんだ」

「危うく僕も死んじゃうところでしたよ!」

「そ、それはすまなかった!」

 

爆風でボロボロな出久に翼はあたふたと謝っていた。

もしあの時ノイズが倒し切れていないことに気がつかずにいたら、恐らく出久は完全に巻き込まれていたであろう。

翼との最後の攻防。最後の一手の先の一手。

図らずともそれを勉強したことで助けられた出久だった。

それでも直撃しなかっただけで、充分に衝撃波を味わったのだが・・・。

 

「ともかくお疲れ様、緑谷」

 

話を逸らす翼。

それに少しだけ頬を膨らませた出久。

 

「・・・はい、お疲れ様でした」

「そんな顔をするな」

 

困った顔で答えた翼は目の前の少年が年相応なのだと実感していた。

まだ学生として青春を謳歌するべき彼は戦う力を持っているからこそ、今自分の隣で共に戦ってくれたのだろう。

そばかすの目立つ顔を膨らませ、拗ねる彼はやはり可愛げのある弟分であった。

 

「さぁ、今日も遅い。帰るとしよう」

 

そう弟分に告げた翼。

だが、その言葉に応える声は無かった。

目の前の少年の目は見開かれ、その口は言葉も継げずに震えていたからだ。

 

 

出久の視線は一点に集中する。

目の前の翼の後ろ。肩越しに見える建物の影。

 

誰かがいる。

 

その姿は自分のよく見知った姿に酷似していた。

でも『彼』はここにいるはずがない。

でも『彼』を見間違えるはずがない。

しかし赤い瞳が暗闇からこちらを見据えている。

その時、確かに目が合った。

その口が歪み、聞こえないはずの声が聞こえてくる。

 

『デク、てめぇは俺がブッ殺す』

 

確かにそう言った『彼』は建物の影に消えていった。

 

 

「かっちゃん!」

 

翼の横を抜け『彼』がいた場所へ駆け出す出久。

 

「緑谷!?」

 

後ろから聞こえてくる声を引きちぎり、一目散にその場に走る。

『彼』がいたのは建物と建物の間の路地となった場所。出久が着いた時には既に人の気配はなかった。

 

「かっちゃん! ・・・かっちゃん!!」

 

その名を呼ぶ出久。

しかし応える声はない。

 

「どうしたのだ、緑谷!?」

 

追いついてきた翼の問う声。

先程までの拗ねた顔ではなく、泣きそうな顔で振り向いた彼は縋るように叫んだ。

 

「かっちゃんがいたんです!」

 

明らかに取り乱した出久に彼女は努めて冷静に質問する。自分の知る彼からしたら考えられない程、慌てふためいた様子に驚きながらも・・・。

 

「・・・それは、誰だ?」

「彼は・・・」

 

出久は言葉を区切る。

震える唇で言葉を紡ぎ出した。

 

「僕の、友達です・・・」




かっちゃん!

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