僕のヒーローシンフォギア   作:露海ろみ

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二十三話目となります。

皆様、お久しぶりです。
お待たせしてしまい申し訳ありません。

今回は爆豪の影を見た出久とOTONAの会話回となります。



23.覚悟

「緑谷君の様子は?」

「戦闘後、辺りを少し捜索したようですが現在は帰還して自室に戻っています」

 

場所は司令室。

席に座る弦十郎と話すのは友里。

その表情には影があった。

帰還した出久と翼を出迎えた彼女はその時の彼の顔が忘れられなかった。

自分達との共闘を申し込んだときとはまるで別人。年相応の、いやもっと年下の幼子のような弱りきった表情。

翼に連れられて部屋に戻っていく背は小さく、とても小さく見えた。

 

「・・・無理もない」

 

知らぬ場所に一人放り出されて、それでも自分の思いに従い気を張っていた。

そこに見知った友人を見つけたのだ。

喜び。困惑。期待。不安。

様々な感情が入り乱れているのだろう。

 

「見間違い、という線はないのか?」

「シンフォギアに付けられた観測用カメラにも短い時間ですが姿が映っていました」

「であれば緑谷君が幻覚を見た線は無しだな」

「映像を精査したのですが、その人影は確かに前に彼が見せてくれた写真の人物によく似ています」

 

スクリーンに映し出される二つの映像。

一つはシンフォギアからの映像。

もう一つは出久の携帯に入っていた一枚の写真。

闇に消えていく寸前の姿と、目付き鋭く他の級友達と話している姿。

二つの姿を解析すると映った人物は80%超の確率で同一人物であると結果が出ていた。

 

その結果を腕を組み見つめる弦十郎。

重い沈黙を払うように彼の口が開く。

 

「彼は自室にいると言ったな」

「はい」

 

立ち上がると出口に向かい歩き出した。

 

「話をしてくる。引き続き警戒と映像の解析を進めてくれ」

「・・・司令、まさかと思いますがこの間の様な事をするつもりではありませんよね?」

 

背に友里の声がかかった。

先程の姿を見たからこそ、彼女は出久の事を心配する。

 

「そんなことはしないさ。話をする。それだけだ」

 

S.O.N.G.総司令は振り向くと頼もしげな笑みを見せる。

『まかせておけ』と言わんばかりの彼に友里は頷いた。

 

ドアが開く。

だがその先に進めなかった。

司令室の扉前には翼が立っていたからだ。

 

「叔父様」

 

心底心配した表情で佇む翼。

 

「緑谷の所に行くのですか」

「あぁ。話をしてくる」

「そうですか・・・」

 

てっきり翼からも同様に注意されるかと思ったが、それっきり彼女は顔を伏せる。

 

「緑谷は探し人の名を叫びながら駆け回っていました」

「・・・らしいな」

「しかし見つからず、消沈した彼は見ていられませんでした」

「わかっている」

 

弦十郎の手が翼の頭に乗せられる。

 

「あとは俺にまかせておけ」

 

その手が離れ、彼の気配が後方に消えていった。その姿を見ることができず、立ち尽くす翼だった。

 

 

出久は部屋に戻るとその身をベッドに投げ出した。

着替えることさえできずに今はただその身体だけでも休ませたかった。

 

かっちゃんがいた。

 

その一つの真実だけが彼の頭を占めている。

もしかしたら自分と同様にこの世界にやってきたのかもしれない。

心配で堪らなかった。

彼は自分がそう思うことで激昂するのかもしれない。

『てめぇと一緒にするんじゃねぇ!』と敵意を飛ばしてくるのかもしれない。

だがそれでも。

やはり彼の事が心配で堪らなかった。

 

「かっちゃん・・・」

 

漏れる彼の名。

幼馴染を心配する。そんな単純な感情が彼を支配していた。

その時ドアが開く。

 

「緑谷君」

 

声がかけられる。聞き知った声。

 

「風鳴さん・・・」

 

胡乱な目で彼を見る。

部屋の扉を開いた弦十郎はいつものように真っ直ぐな瞳を向けていた。

 

「大丈夫か?」

 

その言葉に出久の中の何かが軋む。

だが激情に至る前に次の言葉が紡がれた。

 

「話をしに来た」

 

言うと出久の伏せるベッドに座る弦十郎。

そのまま言葉を続けた。

 

「緑谷君」

 

こちらを見ずに自分の視線の先を見ながら彼は言う。

 

「『かっちゃん』ってのはどんな奴なんだ?」

 

座るその背に目をやる。

 

「君とその彼はどんな関係なんだい?」

 

加えて質問をする大人に出久は言葉を選び出す。

ゆっくりと起き上がり、弦十郎の隣に座る。

そのまま少しずつ喋り出した。

 

「かっちゃん・・・爆豪勝己は僕の幼馴染です・・・」

「幼馴染。というと幼少の頃からの付き合いという事だな」

「はい。でも僕は彼によくいじめられていました」

「いじめられていた?」

「僕には個性がありませんでした。でも彼には凄い個性があった。だからこそ彼は上下をつけたんです」

 

そこから出久は爆豪との記憶を語り出した。

幼馴染であったこと。

個性の有無で優劣をつけはじめたこと。

自分が個性を得た事で敵意を剥き出しにした事。

自分の個性の原点に気がつき戦いを挑んだ事。

戦いの後、ぶっきらぼうながらも分析して自分の良かったところを話してくれた事。

様々な『彼』の姿を司令に話した。

そんな昔の話を弦十郎は黙って聞いていた。

 

「かっちゃんは今一人です。僕が助けたら怒ると思うけど、それでもかっちゃんを助けたいんです」

「・・・」

 

話を聞きながら弦十郎は懸念している事について話すべきかを考えていた。

 

「風鳴さん。もしかっちゃんを助けられたら僕みたいにS.O.N.G.の協力員にして頂けませんか?」

「それは構わない」

「よかった!」

「だが・・・」

 

彼の口が止まり、眉間に皺がよる。

やはり彼は優しすぎる。

最悪の想定をしていない。

 

「もし彼が『敵』だった時はどうする?」

 

弦十郎の懸念。

それはもし爆豪が敵だった場合。

どう足掻いても味方になり得ない敵となり立ち塞がる時、この少年は戦えるのだろうか。

 

「え・・・?」

「爆豪君が装者達と戦いになったら、どうする?」

「そんなことありえません!」

 

立ち上がり弦十郎に叫ぶ出久。

怒りに震えながら弦十郎と対峙する。

 

「かっちゃんはヒーローを目指してるんですよ!」

「らしいな」

「そんな彼がヴィランになるわけがない!」

 

怒りの視線を受け止め、弦十郎は静かに言う。

 

「彼は君に『殺す』と言って姿を消した」

「かっちゃんは僕のことを目の敵にしてるから言ってもおかしくありません!」

「君の語る彼からそうかもしれない。だが姿形、個性さえ同じ敵・・・『ヴィラン』だった時に君は戦えるか?」

「それは・・・」

 

言い返そうと言葉を探す。

しかしどんなに考えても言葉が紡げなかった。

仮想敵として、組手の相手として彼と戦ったことはある。だが『ヴィラン』として戦った事はない。

どんな状況でも彼は幼馴染で、自分の大事な友達なのだ。

それが覆る事など考えられなかった。

 

「俺が考えている状況はいくつかある」

 

出久の目を見ながら弦十郎は指を立てる。

 

「一つ。爆豪君が君と同じ様にこの世界に迷い込んでいる。これが最良の状況だ。だがそれなら姿を消す必要はない。」

 

二つ目の指が立てられる。

 

「二つ。彼が迷い込み、何らかの影響を受けて敵として君の前に現れた。姿を消した理由も説明がつく。だがこれはやり方によっては彼を救う事ができる」

 

そして三つ目の指。

 

「三つ。彼は君の知る爆豪君とは『違う存在』であり、君の敵として現れた。これが一番厄介だ。君の知るようで知らない彼が襲いかかってくる可能性が高い」

 

そこまで話すと彼は手を下ろす。

 

「これはあくまで予想だ。だが俺はS.O.N.G.を率いる者として様々な状況を想定しなくてはならない」

「はい・・・」

「厳しい事を言っているのはわかっている。だが彼をよく知る君だからこそ、いざという時の『覚悟』が必要だ」

 

弦十郎の手が出久の髪を撫でる。

大きな手の重みがかかる。

 

「大人になると理不尽が付いて回る。昨日まで信じていたものが今日には信じられなくなったりする。『昨日の敵は今日の友』って言葉があるが逆もあるのさ」

 

「君はまだ若い。考えが追いつかないこともあるだろう。だとしても、その時判断を下すのは自分自身だ」

 

「その『覚悟』だけは忘れるな」

 

頭に乗せられた手から体温が伝わってくる。

じんわりと広がるそれがたまらなく心地よかった。

 

「判断を下すのは僕自身・・・」

「人生は選択と判断の連続だ。それを忘れずに生きていけ」

「・・・僕に、出来るでしょうか?」

「出来るさ。なんたって君は俺に一撃入れた男だぞ?」

 

その言葉に彼の顔を見る。

さっきまでの厳しい顔ではなく、頼もしい笑みに溢れた彼がいた。

 

「自分の信じる道を行け、緑谷 出久」

「はい!」

 

重く身体に巻き付いていた鎖が砕けていったようだった。出久に笑顔が戻る。

その顔を見て、弦十郎は話を変えた。

 

「それはそうと。今日は響君達と遊びに行ったろう。どんな事をしたんだ?」

「今日はですね・・・」

 

出久と弦十郎は遅くまで語り明かした。

 




・・・これでよかったのか、少し迷っております。

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