皆様が気になっている対装者戦。
今回は響との対戦です。
いつもご愛読ありがとうございます。
気になった事などありましたら、御感想欄にて答えさせていただきます。
翌日。
夜通し語り明かし、弦十郎と共に映画を見た出久は寝不足であった。
ふらふらとした足取りで食堂に向かう。
「まさか映画を二本見ることになるとは・・・おもしろかったけど」
食堂の職員に朝食を注文して受け取ると、出久は席を見渡した。
時刻は朝十時。ちらほらと食事を摂るS.O.N.G.の職員達の中に見知った顔を見つけた。
「響さん、ご一緒していいですか?」
「あ! おはよ〜!」
丼飯をかっこみながらにこにこと響は朝の挨拶をする。
それを見て対面に座る出久。
見ると自らの軽く三倍の量を机に広げている彼女は手を休めず、瞬く間にその数を減らしていた。
「緑谷君、昨日は楽しかったね」
「はい。また遊びにいきましょう」
挨拶もそこそこに出久も朝食を摂り始める。
朝食は身体の資本である。身体の最初のエネルギー摂取。身体づくりの基本であった。
今日のメニューは白米、味噌汁、焼き鮭、卵焼き、納豆、漬物と典型的な日本の朝食メニューだ。
それらを味わいつつ腹に納めていく。
自分の中の日本人のDNAが喜んでいるようにも感じられた。
「今日は待機なんですか?」
「うん! 翼さんと交代で朝から夕方までだよ」
手を止めることなく答える彼女。
既に丼は空となり、横に置いてあるおひつから新たに白米をよそっていた。
その白米もどんどんと姿を消していく。
「昨日はノイズが出たみたいだけど大丈夫だった?」
「翼さんと出動して、倒しました」
「はえ〜。緑谷君、やっぱり強いんだね!」
「そ、そんなことないです!」
まっすぐな響の言葉に照れ、手が止まる出久。
その隙を響は見逃さなかった。
「隙あり」
「あっ!」
彼女の箸が出久の卵焼きを奪い取る。
おかずを奪われ、呆然とする出久。
「ふっふっふ・・・油断大敵だよ?」
「・・・昨日見た映画みたいだ」
「え? 知ってるの?」
「朝方まで風鳴さんと映画を見ていまして、師匠が弟子からおかずを取っていました。『如何なる時も修行だ』って」
もぐもぐと奪った卵焼きを咀嚼して白米を減らしていく響。
「あの映画、アクションシーンかっこいいよね」
「中国拳法ってすごいですね。見ていてつい身体が動いちゃいました」
「わかる〜。私も師匠に見せてもらって、今の戦闘スタイルになったもん」
米粒一つ残さず平らげた響はお茶を啜りながら答えた。遅れて食べ終えた出久もお茶に手を伸ばす。程良い熱さにいれられたそれはとても美味しかった。
しばしの沈黙。互いにお茶を楽しむ。
「ふへ〜。やっぱり日本人なら緑茶だね〜」
脱力した顔で幸せそうにお茶を飲む響に、くすりと笑う。戦っている姿と今の姿。同じ彼女のはずなのにまるで違う。その落差はとても不思議であった。
「そういえば昨日。翼さんと組手をしたんです」
「本当に!?」
「はい。負けちゃいましたけど、凄く勉強になりました」
昨日の組手。組手というより指導と言った方がいいかもしれなかった。
戦いの中で自分と相手の領域を意識したのは初めての経験で、詰将棋の様な攻防は未だに事細かに説明できるほどだ。
高揚感。あの時出久を支配していたのはそれだった。
「舞う羽の様な動きに僕も引き上げられる感覚でした」
思わず出た一言。
その一言に反応する少女が一人。
「・・・なら私とも組手する?」
一時間後。二人の姿はトレーニングルームにあった。
「本当に戦うんですか?」
「もっちろん! 折角のチャンスをなんだから生かさないとね!」
「チャンス?」
「男の子と戦えるなんて、そうそうないでしょ?」
柔軟をしながら会話する二人。
「Balwisyall nescell gungnir tron…」
聖詠を唱えギアを纏う響。
黄色のシンフォギアを纏う響。
その拳が握られる。
「さあ、遠慮はなしだよ。ばっちこーい!」
「わかりました!」
構えを取り、こちらに戦意を向けてくる。
その意にワン・フォー・オールを纏い応える。
紫電と共に出久の身体に力が迸った。
互いに得物はその身体。
二人は瞳を滾らせてその距離をつめる。
出久は中国拳法に詳しくなかったが、構えに隙がないのだけはわかった。
じわりと汗が吹き出る。出久の額を一筋の滴が流れ、目に入った。
顔を顰め、瞬きをする。
再び目を開いたときには拳が迫っていた。
【崩拳】
「なっ・・・」
慌てた時には遅く、響の右拳は出久の頬に刺さる。出久の身体が飛ばされた。
『5メートルは先にいたはずなのに!』
「ありゃ? 決まっちゃった」
とんでもない事をしでかしているのに、のんきな声音で話す響。
吹き飛ばされた出久は空中で姿勢を制御して、脚から着地する。
打たれた頬に痛みが今頃やってきた。ズキンズキンと熱を持つ。
『瞬間移動? いや、そんな訳ない!』
すぐさま身体を起こして構えをとる。
出久は頭の中で状況を整理し始める。
それを見た響も再度構えをとった。
「大丈夫?」
「はい! まだやれます!」
「よ〜し、もう一回いくよ!」
先程と同じ構えをとる響。
『今度は見逃さない!』
出久は目を見開き、響の動きに注視した。
僅かに彼女の身体が沈み込む。
次の瞬間。響の左拳は出久に迫っていた。
『そういうことか!』
響を観察していた出久は気がついた。彼女は”一歩”でこちらまで跳んで来ていたのだ。恐らくは歩き方に秘密があるに違いない。
迫る拳を左腕で捌く。身体を流れに乗せ、右の中段蹴りを放つ。
「やるね!」
だが響は崩された左腕を基点にくるりと背後に回り込む。脚を振り切った出久はいつの間にか響が後ろにいる事に驚愕する。
「えぇ!?」
「破っ!!」
【鉄山靠】
今度は背中に衝撃が走る。
なんとか両手で着地するが、勢いを殺しきれず滑ってしまう。それほど響の攻撃には力が乗っていた。
四つん這いに近い姿勢でようやく止まる。
『つ、強ぇ〜・・・』
素直に感想を抱いた。
一撃一撃が必殺に近い破壊力を持ち、こちらを翻弄する歩法を駆使してくる。
個性を使う戦いなら相手の弱点を見つける事で突破口を切り開けるが、ここまで単純な殴り合いだとそうはいかない。
ふと思い出すのはヴィラン連合のマスキュラーだった。彼は筋肉増強の個性を使い、シンプルな戦いを挑んできた強敵だ。
『それなら、それらしく戦うだけだ』
出久は気がつかなかったがその口角が上がっていた。
シンプルな殴り合い。
それはワン・フォー・オールという個性を持つ出久にとって、もってこいの戦術である。
「行きます!」
叫びながら出久は飛び込む。
脚を中心として乱撃を繰り出す。だがそれはなかなか響に届かない。いや、届いてはいるのだが見事な化勁によってずらされていた。
「流石に攻撃が重いね。でも!」
前蹴りを下から跳ね上げられて勢いを殺される。右脚に添えられた腕が上げられ、つれて出久の身体が無防備になる。
「まだまだぁぁぁぁ!」
【攉打頂肘】
響の右肘が出久の胸に突き刺さった。
肺の中の空気が強制的に排出されて、出久の呼吸が止まる。酸素を失い、視界がブラックアウトし始めた。
『翼さんとは違う強さだ。真っ直ぐに力を叩き込む様な潔さを感じる』
胸に響く痛みを感じながら出久の身体から力が抜けはじめる。きっとこのまま倒れたらよく眠れるだろう。
そういえば昨日は夜更かししたからとても眠い。ここで寝たら気持ちいいだろうな。もう寝てしまおう。よし、そうしよう。
出久の心が折れはじめる。
だが。
その時。
脳裏によぎるのは友の姿だった。
『てめぇデク! 諦めてんじゃねぇぞ、クソが!』
幻影の爆豪がこちらを睨んでいる。
明らかな殺意を持ってこちらに敵意を飛ばす彼は手の中で爆発を起こしながら叫びだす。
『そんな奴ぶっ殺せ!』
相変わらず口が悪いなぁ、と笑ってしまう出久。でもそんな彼は自分の憧れの一人である。自分が憧れた”ヒーロー”の一人だ。
出久は既に膝が地についている。だが倒れてはいない。その身に力が再び漲る。
ここで負けてはいけない。
だって自分は。
「ヒーロー・・・だから・・・負けられない」
崩れ落ちそうな身体を叱咤して、再び大地にその両脚を打ち立てる。
その瞳は新たなる闘志を宿していた。
立ち上がる出久。その姿に響は子供の様に喜んだ。まさか攉打頂肘を打ち込んで立ち上がるとは思ってもいなかったのだ。
「緑谷君、まだ戦れる?」
「はい」
シンプルに返答をする。
ダメージからフラつく身体を起こした彼は拳を固めて構えをとった。
どう見ても満身創痍。しかしながら闘志は揺るいでいない。
「なら、いくよ!」
「はい!」
出久の精神が燃え上がると同時に深く静まりかえる。
昨晩翼と戦っている時に感じた感覚を手繰り寄せる。
『あの時。僕は目で見るのではなく、体全体で翼さんの動きを感じていた』
自分の手と脚の届く範囲を意識する。
ここからここまでが僕のエリアだ。
『あの感覚を、使いこなせ!』
やられたままではいられない。
もっと強くならなくてはいけない。
なら今できることは全て試さなくてはならない。
そんなことさえできなければ、ヒーローになんてなれやしない。
しなくてはいけない事が沢山ある。
でもだからこそ、全てを乗り越える決意を固める。
響は目の前の少年の変化に気がついた。
戦闘開始時の彼と今の彼は比べ物にならない。
彼の心持ちが変わっている。
不安定な揺らぎを払拭し、その瞳に決意を乗せて相対する少年は戦場に立つ戦士となった。
同じく徒手空拳。似た戦闘スタイルの響は知らずのうちに獰猛な笑みを浮かべる。
なんだか楽しくなってきた。
響は拳を固め、一直線に飛びだした。
初手と同じ崩拳が出久に迫る。
だが今度は喰らわない。エリアに入るやいなや撃ち落とす。空いたもう片方の手を振りかぶる。
一歩内に入る出久の拳が響を吹き飛ばした。
飛ばされた響はすぐさま着地し、再び飛び込んだ。
「真っ直ぐに、ラッシュの速さ比べだ!!」
両の手をフルに使いラッシュを叩き込む。
「負けるかァァァァァァ!!!」
それに合わせて拳をぶつける出久。さっきの様な乱撃ではない。正確に響の拳に自分のそれを合わせる。
双方の拳がぶつかる衝撃であたりに風が起こりだす。
力は互角。次の一手が重要。
出久は突如その身を沈ませて足払いをかける。ラッシュに夢中になっていた響は見事にひっかかり、その身が浮く。
「うわっ!」
払った勢いを使い中段蹴りを彼女の脇腹めがけ蹴り出した。
しかしこれは防がれる。
「もう一発!」
コスチュームγによる改造によって追加された兵装、アイアンソールが打ち出された。
もう一段の衝撃が響を襲う。
『私のパイルバンカーみたいだ!』
思った時には響の身体は壁にぶつかっていた。強化壁にめり込む。
予想外の一撃に彼女は自身の負けを悟った。
響を蹴り飛ばした出久は壁に突き刺さる彼女を見て・・・正気に戻った。
「響さん!」
慌てて彼女のもとに駆け寄る。
彼女を壁から引っ張りだす。
「ごめんなさい、大丈夫ですか!」
「いや〜すっごい一撃だったね〜」
出久の心配をよそにケロッとした様子の響はその身についた埃を払いながら立ち上がった。怪我はない様である。
「防いだと思ったんだけど、甘かったな〜」
「僕も無我夢中で・・・本当にごめんなさい・・・」
「・・・なんで謝るの?」
「だって、その・・・組手といえ女の子を全力で蹴っ飛ばすのは・・・」
その言葉にポカンとした顔になる。
心底心配している顔でこちらを見てくる目の前の少年。
先程までの闘志を剥き出しにした彼とは同一人物とは思えない言葉。
「あははは! 出久君は不思議だね」
あまりのギャップに笑い出してしまう。
出久は笑われているのだが、どうして笑われているのかわからなかった。
そしていつの間にか自分が名前で呼ばれているのも気がつかなかった。
響はなんちゃって八極拳をおさめているとのことで、その技を使わせてみました。
しかし功夫を大事とする中国拳法を映画見て覚える響・・・。
やはりとんでもない娘ですね。
出久の戦闘状態はお気付きの方もいらっしゃるとは思いますが、とある格闘漫画から着想を得ております。