お待たせいたしました。続きでございます。
色々とバタつく年末が迫ってはおりますが、ストック+1が出来たので投稿させて頂きました。
ご感想、ご意見、ご質問等、いつも通りお待ちしております。
出来うる限り答えさせて頂きます。
「あ痛てて・・・」
「はい。これで終わりです。組手とはいえ、やりすぎには注意してくださいね」
医務室にて治療を受ける出久は目の前の少女、エルフナインから叱られていた。
出久よりだいぶ年下の彼女は治療道具をしまい、白衣をはためかせ向き直った。
「響さんもですよ! やりすぎはいけません。だいぶボロボロなんですから・・・」
「たはは・・・面目次第もございません・・・」
苦笑いしながら答えを返す彼女は左腕に包帯を巻いていた。出久の一撃を防いだそこは今や白い布に包まれている。
「幸い骨には異常はありませんから、暫く安静にしてくださいね」
「了解だよ、エルフナインちゃん!」
そう言うと応えるように左腕を上げようとする。
それを見て慌てたエルフナインは、そっとその腕に手を置いて行動を制限する。
「ですからダメですって!」
しっかり者の妹とうっかり者の姉。
その姿は年離れた姉妹のようで、兄弟のいない出久には羨ましいやりとりであった。
「緑谷さんも全身に軽度の打撲が見られます。派手な動きはしないようにしてください」
「ありがとう、エルフナインちゃん」
「ボクに出来るのはこれくらいですから」
そう言って謙遜する彼女は照れた様にはにかむ。その様子に響が食いつく。
「エルフナインちゃんは謙遜しすぎだよ。いつも誰よりも頑張っているのに!」
「そ、そんなことないですよぉ・・・」
「今だって賢者の石を解析して、新しい武装を作ってくれてるんでしょ?」
「アマルガムの事ですか?」
「そうそれ!」
出久にはわからない話が始まってしまった。
賢者の石? アマルガム? 確か錬金術に関する言葉であったはずだが、まさかこの世界には存在するのだろうか。
目の前で繰り広げられる話にやはりここは別世界なんだなぁ、と実感した。いや既に色々と実感はしていたのだが・・・。
「とはいえまだ実用段階には程遠くて、もう少し研究しないといけません」
「エルフナインちゃんならきっとできるよ! 私も協力するから、手伝える事があったら言ってね」
「ありがとうございます! ではさっそくて恐縮なのですが、この後お願いしたい事があって・・・」
「まっかせて!」
どうやら二人のこの後の予定は決まったらしい。その様子を見て、出久は立ち上がる。
「じゃあ僕は一度部屋に帰ろうかな」
残念ながら自分はシンフォギアについて専門外である。あまり役には立てそうもなかった。
それを見た響はぐっ、と拳を握る。
「緑谷君、手合わせしてくれてありがとね。また戦(や)ろう!」
つられて出久もそれを返した。
「はい、是非。またご指導お願いします」
「くれぐれも今日は無茶をしないでくださいね」
エルフナインの言葉に頷き、改めて礼を言うとそのまま医務室を出た。
さて部屋に戻るとは言ったが今日は何にも予定がない。加えて予想外の事でトレーニングも出来ないときた。
「どうしようかな・・・」
考えたがなんにもする事がなかった。
「・・・勉強でもするか」
真面目な出久が行き着いたのは学生の本分。
状況故、学校の勉強が遅れてしまうだろう。
少しでも予習をするべくその足を自室に向けた。
そんな真面目な学生が自室に向かう途中、声をかけられる。
「あら出久、どうしたの?」
「あ、マリアさん」
振り向くとそこにいたのは私服に身を包んだマリアであった。
彼女は出久の姿を見て驚く。
「怪我してるじゃない!」
「ついさっきまで響さんと組手してまして・・・」
「あぁ、なるほどね・・・」
ほっとしたように息を吐くマリア。
「また司令が無茶したのかと思っちゃったわ」
「あはは・・・」
彼女の言葉に乾いた笑いが出る。
もし弦十郎とまた戦っていたらこんなものでは済まなかったろう。
「それで、今は何をしているの?」
「実は今日はやる事もないので勉強でもしようかと思いまして」
「出久は頑張り屋さんなのね」
「あ、ありがとうございます」
年上の女性に褒められてむず痒い気持ちになる。つい視線が泳いでしまった。
そんな出久を見ていたマリアは思いついた様に告げた。
「その勉強は今しないとダメ?」
「え? そんなことはありませんが・・・」
「なら、私とドライブに行かない?」
まさかのお出かけの誘いであった。
マリアの運転する車内。
助手席に座った出久は落ち着かない様子でいた。左にはサングラスをかけてハンドルを握る美女。
このシチュエーションをクラスメイト達、峰田や上鳴に話したら血涙を流しながら問い詰められそうだ。
所在なさげにしているとそれに気がついたマリアが語りかける。
「付き合ってもらってごめんなさい」
「いえ、本当に予定ありませんでしたから」
「・・・ちょっと行きたい所があってね」
その若干の間から出久は何か違和感を感じた。
「少し寄り道するわ」
そう短く言ってマリアは路肩に車を停める。
彼に待つ様に告げると車を降りて、道沿いの店に入っていった。
そこは・・・。
「花屋さん・・・?」
窓から見ているとマリアは手慣れた様子で店主であろう女性に注文をしていた。
数分程でマリアが花束を手に戻ってくる。
「申し訳ないけど、これをお願い」
「はい・・・」
手渡された花束を受け取る。
白い花束。生花の香りが出久の顔までのぼってきていた。
そこから二人は無言だった。
車の走行音だけが響く。
やがて車は動きを止める。
小高い丘の上。そこは霊園であった。
車を降りたマリア。それに続く出久。
やがて二人の脚は一つの墓の前で止まった。
「久しぶり、マム・・・」
墓石に刻まれた名は、
『Nastassja Sergeyevna Tolstaya』
「なかなか来られなくってごめんなさい。本当は切歌と調も連れてこようと思ったんだけど、急に思い立ったものだから」
そう言うと出久から受け取った花束を墓前に供える。何も語らずに膝をついたまま墓石を見つめるマリア。
ゆっくりと口を開く。
「この子はね。この間私達の仲間になったの。違う世界から来たヒーロー志望の男の子なのよ」
「こんなに大人しそうな子だけど、あの風鳴司令に一撃入れたのよ。戦う時は真っ直ぐな瞳で相手に向かっていくの」
「私達は相変わらず元気にやっている。だからマムも心配しないで。新しい仲間と必ず生きて、生き抜いて、そして私がマムと同じくらいお婆ちゃんになった頃に会いに行くわ」
静かに語るマリアの後ろで出久は拳を握っていた。まるで自身の胸を握りしめる様に。
その背から溢れる想いを感じるかの様に強く握り締めた。
「今度は二人も連れて来るわ。またね、マム」
立ち上がるマリア。だが動こうとしない。彼女はそのまま墓前で立ち尽くしていた。
ポツリと雨が一滴、彼女の足元に降った。
その背中を出久は無言で見つめていた。
「時間をとってもらってありがとう、出久」
「いえ・・・」
出久は少し俯き、歩くべき地面を見ながら答えた。他に何を言えばいいのかわからなかった。
だがあの墓はマリアに、そして切歌や調にとって大事な人物なのだけはよくわかった。
そして、今はいない事も。
「・・・どうして僕を連れてきてくれたんですか?」
ふと口から出たのは疑問だった。
何故自分は共をさせてもらったのだろう。
その質問に彼女は寂しそうな声で答える。
「・・・本当は一人で来るつもりだったの。でも、一人で来る勇気がなかったのよ」
先を歩くマリア。どこかその背は小さく見えた。
「そんな時に貴方が目の前にいた。これ幸にと貴方を引き込んだ。・・・酷い女ね、私は」
更に小さくなる背中。肩が少し震えている。
それを見た出久は自然にマリアの右手を握った。
突如握られた手に驚く。彼の暖かい右手が自分の手を包んでいた。後ろから声が届く。
「僕はあのお墓に眠る人が誰なのかはわかりません。でもマリアさんにとって大切な人なのはわかります」
「まだ大切な人を亡くした事の無い僕はマリアさんの辛さがわかりません。それでも、仲間として一緒にいます」
「だから今度ここに来るときには、僕にも声をかけてください」
精一杯の誠意を込めて。
出久は彼女に言葉を届ける。
握られる手からは彼の心が流れてくる。
震える声でその手を握り返す。
「頼っちゃうわよ、いいの?」
「もちろんです。それでマリアさんを助けられるなら」
「貴方は本当に“ヒーロー”ね・・・ありがとう」
雨は強くなり、彼女の足元に降り注いだ。
やがて雨は止み、二人は本部に戻るべく車に戻る。
「さぁ、帰りましょう」
「はい」
車が二人の視界に入る。
だが、爆音と共に足は失われた。
爆風が二人を包む。
「よぉ、約束通り殺しに来たぞ、クソデク」
爆煙から現れる少年。
それは確かに爆豪 勝己であった。
ナスターシャ教授のお墓参り回でした。
やはりこの人はF.I.S.組の三人にとってとても大事な人ですよね。
原作でもお墓参りしているシーンがありましたし。
三期一話は教授の救出シーンから始まりますし。
RADIANT FORCEは名曲だと思います。
私も「光あれぇぇぇぇ!!」って歌いながらスペースシャトルをぶん投げたいです。