お待たせいたしました。
投稿させていただきます。
本日はお休みなので、起きたらヒロアカの映画を観にいってまいります。
あれから三日が経過した。
「暇だ」
自室のベッドから天井を眺める出久はポツリと呟いた。
そう、暇なのだ。
ノイズの出現も無く、平和な日常が流れている。無論、爆豪 勝己も現れていない。
異世界ゆえに学校にも行けずにS.O.N.G.基地にいるだけの彼からしたら・・・。
やる事がなかった。
日課の鍛錬もある程度終わらせてしまった。
というよりトレーニングルームで対ノイズ戦の訓練をしていたところ、その様子を見たエルフナインからお叱りを受けてしまう。
曰く。『安静にしてください! まだ身体は本調子ではないはずです』とのこと。
もう少し続けたいところではあったが、心配そうな顔でこちらを見てくる彼女には勝てずにすごすごと自室に引き返したのであった。
「どうしようかな」
自室に一人なので応える声は無い。
勉強しようかと思ったが、もともと勤勉な彼は予習もかなり先まで行っていた。
やる事がない。
「こう考えると僕って、本当に無趣味だな・・・」
そんな事を考え始め、ぐだぐだと変な思考になっていくのを感じて出久は飛び起きる。
「とりあえず部屋を出よう・・・」
このままだとろくでもないことを考えてしまう。そう感じた出久は自室を出る事にした。
一時間後。彼の姿は街の一角にあった。
街を歩く人々。この街には沢山の人が住んでいるようだ。すれ違う人々を横目にアーケードを歩いていく。
歩くそこには店が並んでいる。
本屋や昔ながらの呉服屋。純喫茶らしき店もある。
あの『ふらわー』という店はお好み焼き屋さんらしい。漂ってくる香りから入ってみようかと思ったが、さっき昼食を食べたばかりなのを思い出して、やめた。
沢山の店を通り過ぎながら、すれ違う人々を眺める。
皆が皆、幸せそうな顔で各々の買い物をしていた。
する事もないので近場のコーヒーショップに入る。ブレンドを注文すると窓際の席に座った。
出久は手元の袋から漫画を取り出した。
先程通りかかった本屋に売られていたそれのタイトルは「怪傑⭐︎うたずきん」
初めてこの世界で助けた少女が口にした言葉を出久は覚えていたのだ。
タイトルを見てもしかしてと一巻を購入してしまった。
ブレンドを口にしながら読み進める。
少女漫画を読むのは初めてだったが、そのストーリーに驚いた。
公共事業着手金横領の罪を着せられた地方信用金庫の行員一家を歌魔法で助ける、別世界から来た大天使長候補のうたずきん。
これは本当に少女漫画なのだろうか?
確かに後半だけ考えればわかるのだが、前半が明らかにおかしかった。
思わず本を閉じ、表紙を見つめる。そこに描いてあったのは少女漫画然とした画風の少女。
だが内容が重すぎる。
「でも、面白いな」
違う世界からやって来て、その世界で人々の笑顔の為に魔法を使う彼女をどこか自分に照らし合わせていた。
そのまま一気に読み終える。
正直に思う。面白かった、と。
「あとで二巻も買ってみよう」
ちょうどコーヒーも飲み終わり、出久は席を立とうとした。
その時。
「あれ? 君はこの間の」
背後から声をかけられる。
人懐っこい笑顔で話しかけてくる青年の顔を見て、出久は首を傾げる。
誰だっただろうか?
異世界人の自分に知り合いはいないはずである。不思議そうな顔の出久を見て、青年は言った。
「確かゲーセンで会ったよね?」
そこまで言われてようやく思い出した。
角から出て来てぶつかってしまった青年であると。
「あの時の!」
「思い出してくれたかい?」
「あの時は本当にすみませんでした」
出久は反射的に深々と頭を下げる。
90°に下げられる頭を見ながら青年は手を振る。
「いや、いいって。僕も不注意だったんだ」
「でも・・・」
「君は真面目だな。あ、隣いいかい」
言うなり隣の席に座る青年。手にしたトレーをテーブルに置く。
その様子に出久も再び席に着く。
「他の席埋まっちゃっててね。相席、失礼するよ」
少し年上に見える青年はトレーのアイスコーヒーにガムシロップを二つ入れた。
かき混ぜると、ストローに口をつける。
美味そうにコーヒーを楽しむと出久に向き直り、笑顔で語り出す。
「しかしまさかの偶然だね。こんな所でまた会えるなんて」
「そうですね。あの、お兄さんは・・・」
「ん? お兄さんは照れるな。というか自己紹介もまだだったね」
青年は手を差し出して素敵な笑顔で自己紹介をする。
「僕は夢原。夢原 探(ゆめはら さぐる)だ。この近くの聖心高校の三年生」
差し出された手を握り返す。
「緑谷 出久です。雄英高校の一年生です」
「・・・ゆうえい? そんな高校あったっけ?」
「あ、その、少し遠くの学校なんです」
この世界に雄英は存在しない。思わず答えてしまい、慌てて取り繕った。
「でも今日平日だぞ?」
「あ、いや〜その・・・」
本当の事を話すわけにもいかずに口籠る出久の様子を見た夢原はニヤリと笑う。
「はは〜ん・・・サボりだな?」
「ち、違いますよ!」
またも慌てて否定する出久。
自分は決して学校をサボった訳ではない。
ただ通うべき学校が存在しないだけである。
「僕もなんだよ」
「え?」
「僕も今日はサボりなんだ」
そう笑いながら夢原はまた一口、アイスコーヒーを口にする。
「なんだか学校に行く気分じゃなかったからね。今日は街で自主学習さ」
ウインクしながら話す彼。しかし決して嫌味に見えない所に出久は思わず微笑んだ。
カッコいい人だな、そう素直に思う。
「夢原先輩こそ三年生なんですよね。受験じゃないんですか?」
「おっと舐めてもらっちゃ困る。こちとらもう推薦が決まってるんだよ」
「え! この時期にですか?」
「だからこそのサボりさ。出席日数なんて把握済み。卒業しちゃえばこっちのもんだ」
出久は軽妙な彼にいつの間にか心を許していた。気がつくと二杯目のブレンドを飲みながら夢原との会話を楽しんで自分がいる。
「『怪傑⭐︎うたずきん』じゃないか! 僕の妹も好きでね。なかなかユニークな展開が僕も気に入ってるんだ」
「少女漫画なのにそれを感じさせない所がいいですよね」
「それだ。絵柄と話のギャップっていうのかな・・・」
歳の近い彼と話していると、まるでクラスメイトと会話しているような気分になれた。
ついつい話が弾む。
気がつけば一時間ほど話し込んでいた。
夢原は腕時計に目を落として驚いたように言う。
「おや。もうこんな時間か」
「あ・・・そうですね」
「すまない、この後予定があってね。もしよかったらまた話し相手になってくれると嬉しいな。・・・サボる時とか」
そう意地悪そうな笑顔で言う彼に出久は口を尖らせて抗議した。
「だからサボってる訳じゃないんですよ!」
「なら、学校終わりにでもまた遊ぼう」
夢原はそう言うと懐からメモ帳を取り出して何かを書くと千切り、出久に渡した。
「これ僕の携帯の番号。また気軽に声をかけてくれ」
そう言うとトレーを手に立ち上がる。
「じゃあまたね。緑谷君」
ひらひらと手を振りながら歩き出す夢原を出久は見送った。
なんだか不思議な青年だった。
話していると気心が知れると言うのだろうか、とても心地よかった。
「また会えるかな。夢原先輩」
路地裏。
そこを歩く青年が一人。
彼は路地裏から路地裏を経由して一つのマンションに入っていく。エレベーターを降りて、すぐの部屋に入る。
「ただいま」
靴を脱ぎながら帰宅の挨拶を。
「あぁ、みちるにすぐる。すぐ夕飯を作るから待っていてくれよ」
言いながら彼はエプロンを身につける。
「ん? 今日はね、カレーだ!」
朗らかに喋る青年。
「手伝ってくれるのかい、みちる? じゃあ一緒にお野菜を切ろうか」
話しながらも手を止めず、野菜を適度な大きさに切り進める。
「包丁は危ないから気をつけるんだよ。すぐる、冷蔵庫からお肉とってくれるかい?」
言いながら冷蔵庫から鶏肉を取り出す。
「あぁ、ありがとう。もうちょっとで出来るから、お皿を用意してくれ」
コトコトとカレーが煮込まれる音が部屋に響く。
「よし、二人ともご飯にしよう!」
食卓に並べられた三枚の平皿。
三食のカレーライスが青年の前にある。
「じゃあ手を合わせて・・・いただきます!」
食卓に青年の声が流れる。
「すぐる、こぼしてるぞ? みちるはお茶飲むかい?」
食べ進めながらも彼の口からは心配の言葉が漏れだす。
やがて終わる食事。
「ご馳走様でした!」
その食卓には食べ終わった一皿と冷めきった二皿が並んでいる。
そして彼の前に座るのはボロボロになったぬいぐるみと片腕のとれたロボットのおもちゃ。
二つの前に座る笑顔の夢原。
その瞳は暗く鈍く濁っていた。
オリジナルキャラクターがアップを始めました。
夢原 探を・・・よろしくお願いします。