しくった!
たかがノイズと侮っていた。驕っていた自分に腹がたつ。
ノイズは目前に迫り、こちらの攻撃はままならない。
あのバカが走って来るのが見えるが、その距離では間に合わないだろう。
万事休す。
だがその視界にありえないものが映る。
「間に合、えぇぇぇぇ!!」
雄叫びと共に現れた少年がノイズ相手に『生身』で殴りかかっている姿を。
ノイズは触れた生命を炭化し、消滅させるというのに。
そんな相手に殴りかかっている。
自分が油断したせいで正義感ある少年が命を散らそうとしていた。
無謀な命が今まさに消え去ろうとしている。
しかし現実は違った。
ノイズは少年の”拳”により炭化したのだ。
驚愕に目を見開く。
シンフォギア装者でもないただの人間がノイズを打ち倒す。
それはあの人間を超越した風鳴 弦十郎でさえ出来ない事だ。
あり得ない事が目前で起きていた。
出久はヴィランを殴り消し紅い少女の横に並び立つ。
残る敵を睨み、構えながら声をかける。
「大丈夫ですか?」
驚いた顔でこちらを見つめる少女は絞り出すように返事をする。
「あ、あぁ・・・」
「よかった!」
と笑顔になり彼女をチラリと見た出久はすぐに視線を戻す。
「僕もヴィランを倒すのを手伝います!」
「お、おい待て! ってか敵(ヴィラン)って⁈」
静止と疑問の声を聞かず、出久は残る敵に突撃をかけた。
この数ならすぐに倒してみせるとばかりに一体、一体と消滅させていく。
「こいつで、最後だ!」
そして最後の個体を蹴り消した。
出久がノイズに向かっていった直後、駆けつけた響が問いかける。
「クリスちゃん! あの人一体・・・」
「わかるわけねぇだろ。 生身でノイズを倒す奴なんて知らねぇよ」
「師匠でさえ出来ないのに、なんでどうして!?」
「だからあたしが知るかってーの!」
会話を交わす二人の視線の先には最後の一体を倒す同年代の少年が映っていた。
ノイズ災害後、その後処理をするのがS.O.N.Gの仕事の一つである。
出久の目前で多数の職員が炭化したノイズの後片付けをしていた。
先程助けた少女も保護され、母親と再会できたようだ。
それを彼は眺めていた。
無事助けることが出来た。
自らの力が誰かの助けになった。
顔が綻ぶ。
「よかった・・・」
その時。
「おい、そこのお前」
背後から声をかけられる。
出久が振り向くと先程戦ってた少女達がこちらに近づいてきた。
紅い少女がその速度を増し、腕を伸ばす。
出久の胸倉を掴むと叫ぶ。
「ノイズ相手に何考えてやがる! てめぇは自分の命が惜しくないのか!」
突然の恫喝に目を丸くする。
「あたしたちはな自殺志願者を助けてやるほどお人好しじゃねぇんだ!」
「え、その、すみません・・・」
「すみませんじゃすまないんだよ!」
問答をしているともう一人の少女が会話に入ってくる。
「だめだよクリスちゃん。助けてもらったのはクリスちゃんなんだよ?」
痛い所を突かれたようで押し黙るクリスと呼ばれた少女。手の力も緩む。
「・・・悪かった。そうだな。助けてもらったのはあたしの方だ」
とバツが悪そうに言う。
いきなり怒り出すから怖い子かと思ったがそうでもないようだ。
立ち変わって黄色の少女が出久の手を握る。
「クリスちゃんを助けてくれてありがとうございました。私が間に合わなかったばっかりに・・・」
可愛い女の子に手を握られ顔を赤くする出久。彼も年頃の男の子である。
赤面しながらもなんとか返事を返す。
「僕も無我夢中で、その・・・」
「でもシンフォギアも無しにどうやってノイズを倒したんですか?」
「それは僕の個性を使ってだけど」
「個性?」
「ほら君達と一緒で個性の力を使ったんだよ」
「個性・・・なんですか、それ?」
その言葉を聞いた瞬間。
出久の身体が硬直する。
『個性』を知らない?
世の中の大多数の人が持っている力、『個性』を。
じゃあこの子達が使っているのは一体なんなんだ。
それにこの子達はヴィランのことを『ノイズ』と呼んだ。
なにかが噛み合っていない。
震え出す声で言う。
「オールマイトとかエンデヴァーとか、ヴィランと戦うヒーロー達は個性を使って戦ってるじゃないか」
動悸がする。
嫌な予感がする。
「おーるまいと? えんでばー?」
『誰ですか、それ?』
少女の返答に出久は足元が消えたように感じた。
トップヒーロー達の名を知らない。
個性を知らない。
出久の足から力が抜け、膝をつく。
「おい、いきなりどうした! 大丈夫か?」
クリスが慌ててしゃがむ。
覗き込む少年の顔は青く、汗が滝の様に流れている。
ゆっくりと顔を上げてクリスと目を合わせた出久は絞り出す様に問いかける。
「ゆ、雄英高校はどこにありますか?
「ゆうえい? そんな学校あったかな・・・」
今度こそ出久の身体から全ての力は抜け、意識さえも手放した。