僕のヒーローシンフォギア   作:露海ろみ

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三十話目となります。

ついに三十話を迎えました。
これも皆様がご感想を書いてくださるおかげです。
本当にありがとうございます。

先日、劇場版ヒロアカを観てまいりました。
ネタバレは許されざる蛮行をですので内容については語れませんが、是非ともスクリーンで観てほしいと思う作品でしたね。
堀越先生が「今回の映画は、ある種ヒロアカ最終回とも言えます」と言った理由がよくわかりました。


30.迷探偵☆調ちゃん

コーヒーショップを後にした出久はうたずきんの続きを買うために本屋に向かっていた。

日は傾き、オレンジの光が辺りを照らしはじめている。

人の間を歩きながらアーケードを進んでいると目当ての本屋が見えてきた。話の続きが気になっていた出久は気持ち歩みを速める。

店内に入ると本屋特有の香り。

先程も来た店なので真っ直ぐに漫画コーナーに向かい、目当ての本を手に取るとレジに向かった。

無事うたずきん二巻を手に入れて、重くなった袋を手に店を出る。

 

「およ〜? デク君デス」

「本当だ」

 

制服姿の切歌と調がいた。

見ると調の手にはスーパーらしき袋が握られている。買い物した後のようだった。

 

「切歌ちゃん、調ちゃん!」

「デク君もお買い物デスか?」

「うん。そんなとこ・・・」

 

手の中の袋を掲げて答える出久。

しかし買ったものが少女漫画である事を思い出し、ちょっとした恥ずかしさからその手をゆっくりと背の方に隠してしまう。

 

「?」

「?」

 

その奇妙な動きを見た切歌は首を傾げる。

隣の調も同様にだ。

 

「どうしたデス?」

「え、いや、なんでもないよ」

「・・・怪しいデス」

「あ、怪しくないよ!」

「ムキになる所がもっと怪しい・・・」

 

訝しげな二人の視線を受けながら彼の視線が泳ぐ。

出久のそんな様子を見ていた迷探偵☆調ちゃんはハッと気がついた。

 

出てきた店は本屋。

背後手に隠した本屋の袋。

明らかに挙動がおかしい出久。

そして彼は年頃の男の子。

そこから導き出される推理とは・・・。

 

「出久君・・・えっちなのはいけないと思う」

「デス!?」

 

明らかな勘違いであった。

 

「ち、違うよ!」

「そういう本は大人になってからだよ」

「だから違うって!」

「じゃあなんで隠したの?」

「う・・・それは」

 

はっきりとした答えを出せない出久をじーっと見る調は、これまで見たことのない位に冷たい目で言い放つ。

 

「出久君、最低」

「えぇっ!?」

「行こう、切ちゃん」

「で、デース・・・」

 

あまりの事にショックを受けた切歌を半ば引き摺りながら調は歩き出す。その頬はぷくー、と分かりやすく膨れていた。

そして手を引かれる少女は呆然といった様子で力無く歩いて行った。

手を伸ばした格好のまま歩み去る二人を見送る出久。二人の姿が見えなくなった辺りでその腕は力を失う。

 

「だから違うんだって・・・」

 

その言葉は残念ながら届かなかった。

 

 

とぼとぼとS.O.N.G.基地に戻る。

はっきりしなかった自分が悪いとは言え、二人に勘違いされてしまった。

彼女達の中で自分は『えっちな人』になってしまっている。

 

「どうやって誤解を解けばいいんだろう」

 

肩を落とし、なんとか自室に辿り着く。

とりあえず今日は寝て、明日話をしに行こう。そう思い自室のドアを開こうとする。

だがそんな彼に第二ラウンド幕開けのゴングが鳴った。

 

「いいぃぃずぅぅぅくぅぅぅぅぅ!!!」

 

自分の名を呼ぶ絶叫。

びっくりして振り向くと廊下の先から般若の形相のマリアが走ってきている。その後ろには翼の姿もあった。

 

『あ、これ僕死んだかも』

 

彼に、今まで以上の修羅場がやってきた。

 

 

出久は自室の床に正座させられていた。

手にしていた袋はマリアの手に。

その横には顔を赤らめた翼が立っている。

 

「調から話は聞いているわ!」

 

仁王立ちで宣言するマリアは手にした袋を高々と挙げ、叫ぶ。

 

「貴方がいかがわしい本を買っていたと!」

 

ここまで来ると出久もなんと返していいか分からず、微妙な顔で目の前で激昂する彼女を見つめるしかなかった。

その中身を見てもらえば誤解は一瞬で解けるのだが、ヒートアップした彼女を見ていると口にしていいものかと逡巡してしまう。

 

「貴方ね! まだそんなものを買っていい歳ではないでしょう?」

「マリア・・・その、緑谷も年頃の男なのだ。そういう事に興味があって当然なのではないか?」

 

翼はもじもじと出久を擁護してくれる。

だが・・・。

 

『翼さん! それはフォローになってないです!』

 

内心ツッコミを入れる出久。

事態はどんどんと悪い方に転がっていた。

 

「何言ってるの! この子はまだ子供なのよ。こういったものはまだ早いわ!」

 

言いながら翼に袋を突きつける。

それを受け取りながら赤い顔で反論する。

 

「年頃の男とは『そういった事』に興味を持つものだと聞いたことがあるぞ! 寧ろ無い方がおかしいそうだ。なら緑谷は健全なのではないか!?」

 

『だからそれはフォローになってないんです!!』

 

手で顔を覆い、再びツッコむ出久。

 

「ダメです!」

 

キッパリと言い放つマリア。

流石は装者におけるオカンポジションである。

 

「私の目が黒いうちはえっちなことは許しません!」

「え、えっちなことって・・・」

 

その言葉に真っ赤になり黙り込む翼。

そして出久はもうどうしていいかわからない。

 

「と・に・か・く! これは没収するわ!」

 

断固たる口調で宣言するマリアに出久はなんと切り出そうか泣きそうである・・・というより泣きたかった。

 

『いやむしろ一思いに殺して欲しい・・・』

 

顔を手で覆ったまま、そんな事を考えていた。

そんな彼の姿を見て、反省していると勘違いしたマリアは激情を削がれたのか優しい口調で語りかける。

 

「あのね出久。確かに翼の言う事はわかるわ。それでも、こういったものは貴方にはまだ早いの」

 

座る出久と目線を合わせてマリアは続けた。

 

「人が生きていく中で『そういった事』を行うわ。でもそれは成熟した大人が理解をした上での事なの。だから分かって頂戴?」

 

はたから聞けばとても素晴らしい事をマリアは語っていた。

だがそれは今ではない。

そう、今ではないのだ。

 

「分かってもらえたかしら?」

「あの〜・・・」

 

マリアの激情が収まりかけている。

 

言うならば今しかない!

 

そう決意した出久はこの後起こる展開を予想しながらも勇気を出して、意見を述べる。

 

「僕そういった本買ってないんですけど」

「「え?」」

 

見事なユニゾンを披露する装者大人組。

 

「ですから、その袋の中身は漫画です・・・その、買ったのが少女漫画だったので恥ずかしくて、つい隠してしまいまして・・・。そしたら勘違いされちゃったんです」

 

彼の言葉に思わず翼が袋を開くと中にあるのは、もちろん『怪傑⭐︎うたずきん』の一、二巻だけである。

 

「あ〜・・・マリア?」

 

翼は袋を広げて中身を見せる。

それを確認し、取り出したマリアはパラパラとページをめくる。

そのまま最終ページまでめくり終えた彼女は本と出久を交互に眺める。

 

「えっちな本は?」

「買ってません。というか僕じゃ買えませんよ」

 

緑谷 出久は童顔である。

そばかすの残る顔でそんな本をレジに持っていっても、お断りされるのが目に見えていた。

 

「え〜と・・・もしかしなくても勘違い?」

「・・・はい」

 

出久はいたたまれない顔で頷く。

マリアの額に汗が流れる。

翼は片手を当てた顔を背けた。

三者三様のリアクションの後。

 

「ほんっとうにごめんなさい」

 

流れる様な土下座をきめるマリアであった。

 

 

 

「調と切歌には私からちゃんと話しておくから・・・本当にごめんなさい・・・」

 

意気消沈といった様子でマリアが部屋を出て行く。部屋に残された出久と翼。

 

「なんだか悪いことしちゃいましたかね?」

「最初に話を聞かなかったマリアが悪い」

「そ、そうですか・・・」

 

騒動に巻き込まれた翼は腕を組み、うんうんと頷いた。

 

「だがマリアも悪気があったわけではない。だから許してやってほしい」

「勿論です」

 

何にも思っていなかったらあんなにも自分の事を叱ってはくれない。相手の事を考えているからこそ人は人を叱るのだ。

 

「ふふ・・・緑谷の懐は中々に広い様だな」

 

出久の言葉に笑う翼。

 

「さて、私も戻るとしよう」

「翼さんもありがとうございました」

「私は何もしていないぞ?」

「そんなことありませんよ」

 

出久の言葉に不思議そうな顔をする翼であったが真剣な彼の顔を見て、再び笑う。

 

「では、そういう事にしておこう。おやすみ、緑谷」

「はい。おやすみなさい、翼さん」

 

その言葉を最後に部屋に一人となる。

出久はベッドに仰向けに倒れ込んだ。

 

「あ〜よかった・・・」

 

口から漏れたのは安堵の言葉。

 

「でも二人には僕からも謝らないとなぁ」

 

思えば自分の態度が勘違いの要因である。

あの時はっきりと言えていればこんな事態にはならなかった。

 

「調ちゃん怒ってたから・・・許してくれるといいな。切歌ちゃんはショック受けてたし」

 

胸からネックレスを取り出す。

指に引っ掛けるとXのそれを見つめた。

 

「悪いことしちゃったよな」

 

すごく悲しそうな顔の切歌を思い出して、出久自身も胸を締め付けられる様に感じた。

あの顔を思い出すと罪悪感が沸いてくる。

 

「ごめんね、切歌ちゃん」

 

そこにいない彼女に対して思わず謝る出久だった。




えっちなのはいけないと思います!(誤解)


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