僕のヒーローシンフォギア   作:露海ろみ

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三十三話目となります。

あけましておめでとうございます。
今年も今作を宜しくお願い致します。

活動報告欄にも書いた通り『0』の投稿を今年の目標に頑張る所存です。
皆様からのお言葉をお待ちしております。


33.その答えはまだ知らない

暁 切歌は公園のベンチに一人で座っていた。

学校をサボってしまい、親友の調に嘘をつき、部屋にも帰れずに行き着いたのが学校と自室の間のここであった。

・・・それも全部『彼』のせいである。

 

「全部ぜーんぶ、デク君がいけないデス・・・」

 

昨日出久がいかがわしい本を買っていなければ、自分がこんな気持ちにならなくて済んだはずだ。

でもこの悲しい気持ちは一体なんなのだろう。

初めて味わう想いに混乱ばかりが募る。

 

彼の事を考えると嬉しくなる。

彼の事を考えると楽しくなる。

彼の事を考えると切なくなる。

彼の事を考えると苦しくなる。

彼の事を考えると・・・・・・。

 

彼に対して様々な感情が湧き上がる。

だがその答えを切歌は知らなかった。

胸を支配するその想いは切歌を苦しめる。

 

「なんなんデスか?」

 

一人呟くが返事をするものはいない。

答えの出ない感情を理解しようと頑張るが、見つけられなかった。

 

「デク君・・・」

 

だがその複雑な感情も思えば想うほど彼の顔が浮かんでくる。

困った顔の。

驚いた顔の。

嬉しそうな顔の。

笑顔の彼の顔が脳裏を埋め尽くす。

彼の顔が離れない。

その笑顔を想うほど自らの胸が高鳴る。

自分の胸のあたりが締め付けられる。

 

「デース・・・」

 

頬を触るといつもより熱い。

多分顔は真っ赤だ。

これは一体なんなのだろう?

それでも浮かんでくる、彼の顔。

ふと呟く。

 

「デク君に逢いたいデス・・・」

 

曇る空を見上げながら切歌の本心は漏れ出た。

その願いはすぐに叶う。

 

 

調に教えてもらった道をひた走る出久はキョロキョロと辺りを見回しながら切歌を探していた。聞いた話によると彼女は体調を崩しているらしい。

早く見つけて介抱しなくてはいけない。

その思いが出久の脚を走らせた。

 

『切歌ちゃん』

 

心の中で彼女の名を呼ぶ。

街を駆け抜けて住宅地に入る。

調に聞いたところによるとこの辺りに二人の住むアパートがあるらしい。

全速力で途中の公園を通過しようとすると、見知った姿がそこにはあった。

ベンチに座るその姿、それは探していた彼女だ。

 

「切歌ちゃん!」

 

名前を呼ばれた少女の肩がピクリと反応する。

 

 

初めは考えすぎて幻覚を見ているのかと思った。だが息をきらせてこちらに向かってくる彼は紛れもなく本物の彼で、目の前に立ち止まった彼は肩で息をしながらこちらを見下ろしている。

 

「大丈夫!?」

 

心配そうな顔で声をかける彼はいつも通りの彼だった。

 

「調ちゃんから体調崩して部屋に戻ったって聞いて、追いかけてきたんだ」

 

汗だくのその顔を見ていると切歌の中から様々な考えは消え去り、ただただ彼を求めた。彼女は自分でも気づかぬ内に彼に抱きついていた。

いきなり抱きつかれた出久は驚き、両手をわたわたと振り回す。

 

「ちょっ!? 切歌ちゃん!」

 

ギュッと彼を抱きしめて壊れたロボットの様に繰り返す。

 

「デク君! ・・・デク君!!」

 

扱いに困った彼の両手。だがやがてその手は彼女の背に添えられる。背に手を当てられた切歌は温かいその手の感触を感じる。

そのまま抱き合う二人。

先に口を開いたのは切歌だった。

 

「デク君」

「な、なに?」

 

抱きしめ返したはいいが硬直した彼は上擦った声でなんとか言葉を返した。自分の心臓が相手に聞こえるくらい高鳴っているのを感じる。きっと彼女には伝わっているのだろう。何故なら自分も彼女の鼓動を感じるのだから。

 

「デク君は・・・えっちな人デス?」

「あ、あの・・・その話なんですけど・・・。というかその話をしに来まして・・・」

 

切歌は出久の胸に顔を押し付けている。

初めて感じる女の子の感触にしどろもどろになりながらも頑張って言葉を伝えようとする。緊張のあまり、つい敬語になってしまった。

 

「その、あれは、全部、勘違いでして、そのお話に参りました・・・」

「・・・えっちじゃないデスか?」

「その案件については詳細な説明が出来まして、なのでお願いですので少しだけ離れてほしいのですが・・・」

「嫌デス」

 

それを切歌はキッパリと拒絶する。

 

「このまま聞くデス」

「え・・・」

「ちゃんと聞くまでは離れないデス・・・」

 

切歌はその手の力を込めて、出久を離そうとしなかった。そこで出久は彼女が震えているのにやっと気がついた。

それを感じた出久は落ち着きを取り戻し始め、辿々しく説明をする。

 

あの時本屋で買っていたのは少女漫画であった事。

つい恥ずかしさから隠してしまい、誤解を生んだ事。

誤解を解く為に来た事。

調の誤解を解いて、切歌の状況を聞き、ここまで来た事。

 

「という訳で僕は来たわけで・・・」

 

説明を聞いた切歌は何にも答えない。

だがその身から震えは消えていた。震えの無い手で今一度彼を抱きしめ直す。

ゴツゴツとしていて、調を抱きしめる時とは違う感触を感じた。

これが男の子なのだろうか。

硬い。

でもその腕に優しく包まれている感じがする。

その安堵感に身を委ねた。

 

「なので、切歌ちゃん、そろそろ離してほしいんだけど・・・」

 

頭の上で彼の声が聞こえてくる。それでも切歌は手を離さない。

いや離したくなかった。

目の前に彼はいるのだから消えはしないはずだ。それでも彼からこの身を離したくない。

そう思いその手は緩めなかった。

 

一方。抱きしめられ続ける出久の頭はオーバーヒート寸前である。柔らかな感触に理性が吹き飛びそうになるが、押し留める。

いつの間にか彼女の震えは止まっていた。

話を聞き、理解してくれたのかもしれない。

それでも彼女は回したその手を離してくれなかった。

 

そのまま数分の時が過ぎる。

 

ようやく切歌の腕から力が失われて、背に回された手が解かれる。その手は出久の胸に添えられていた。

出久の胸がさらに熱くなる。

彼女の指が自分に触れている。さっきより接触点は小さいはずなのに『触れられている』と出久はより感じた。

 

「よかった・・・」

 

胸の中でそう呟く声が聞こえる。同時に二つ、湿り気がTシャツ越しに出久の胸を濡らす。

熱いそれは徐々に広がりはじめていた。

彼女の涙を受け止めながらも彼の手は背から解かれない。

そのまま切歌を抱きしめていた。

 

 

どれほど時間が経ったのだろうか。

一頻り彼の胸で泣いた切歌はようやく顔を上げる。

そうしてやっと自分の状況に気がついた。

 

『デ、デク君に抱きしめられてるデス!』

 

彼の力強い腕に包まれた彼女は先程の彼同様にわたわたと慌てだす。だが一向に彼の拘束は緩まない。

なんとかそこから抜け出そうとするが、そこは男の力。振り解けなかった。

 

「で、デク君!? 離してほしいんデスが・・・」

 

声を上げるも反応せず、彼は切歌を抱きしめ続けた。

自分の顔が熱くなっていく。それと同時に『このままでいたい』という思いが広がる。

初めて感じる感情に困惑した切歌が出久の顔を見ると・・・なんと彼は白目をむいて気絶していた。

 

「デクくーーん!?」

 

 

 

「ハッ!?」

「あ、起きたデスね」

 

一人で変な格好のままフリーズしていた出久が目を覚ます。目の前にはベンチに座り、こちらを見上げる切歌の姿。その顔はニコニコと笑っている。

 

「切歌ちゃん!」

「ハイ! 切歌デス!」

 

元気よく答える彼女は聞いていた様に調子が悪そうには見えなかった。

あれ〜?と疑問符が頭の上に浮かぶ。

そんな彼を見ながら切歌は笑顔のまま立ち上がる。

 

「デク君、来てくれてありがとデス」

「あっ、はい」

 

いつも見せる笑顔で話す切歌。それに比べて自分は今どんな顔をしているのだろうか。ついさっき迄の状況を思い出してしまい、うまく自分の事がわからない。

泣き止まない彼女を抱きしめていたら、様々な感情が溢れてきたのは覚えている。そこから頭の整理がつかなくなり、遂にはオーバーヒートして気を失った・・・はずだ。

目の前の少女はその事を覚えているのだろうか。

 

「ところでデク君」

「な、なんでしょう?」

「わたし今日は学校お休みデス!」

「体調、悪いんだよね・・・?」

「それは嘘デス」

「嘘なの!?」

 

はっきりと答える彼女は悪戯っ子の顔で笑う。切歌は空を指差した。

 

「それにもうお日様もあんなに高いデスし・・・」

 

出久が空を見上げると太陽は既に天辺近く。

切歌に追いついたのは朝の筈が、いつの間にやら昼になっていた。

 

『一体何時間気絶してたんだ・・・』

 

自分の残念さに呆れる。

 

「なので二人でどこかに遊びに行くデス!」

 

そう言うと切歌は歩きだす。

自由奔放な彼女の行動に面食らいながらも出久は切歌を追いかけた。

 

 

出久から見えない彼女の顔は赤い。

朝まであんなに悲しくて、混乱して、何にも手につかなかった。一人になりたくて、大好きな調にも嘘をついた。でも一人になっても、この気持ちは変わらず苦しかった。

だがそんな時彼は来てくれる。

そう。やはり彼はヒーローだ。

 

わたしを救けてくれるヒーロー。

 

抱きしめた彼の胸の中で流した涙と共に負の感情は消え去った。

そしてこの残った感情は何なのだろうか。

その答えはまだ知らない・・・けど。

少しずつ、解ってきた、気がするデス。


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