僕のヒーローシンフォギア   作:露海ろみ

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三十五話目となります。

前話への皆様のご感想を読んでいて『やりすぎた』と若干反省した私でございました・・・『だが私は謝らない』
などと某ライダーのキャラクターのセリフを言ってみました。

そろそろ出久に次のステップに進んでもらおうと思います。


35.予兆

二人だけの時間。だがそこに現れる姿があった。足音に目を開いた出久はそちらを見る。

 

「いいご身分じゃねぇか、なぁクソデク!」

 

突如迫りくる爆豪の右手。慌てて出久は側の切歌を突き離す。その行動に驚き、倒れながら切歌は叫ぶ。

 

「デク君!?」

「切歌ちゃん、逃げ・・・ぐぅっ!」

 

何とか彼女を引き離せたが、その隙を見逃す爆豪ではなかった。喉元を掴まれ、持ち上げられる。呼吸を制限される。

 

「呑気に女と乳繰り合うとはなぁ!」

「か・・・っちゃん・・・」

「死ね」

 

爆豪の手に力が籠る。このまま爆破するつもりだ。それを感じた出久は無我夢中で膝蹴りを腹に入れる。

それを受けた爆豪の手が緩む。もう片方の足で前蹴りの要領で彼を蹴り飛ばした。飛ばされる彼の手の中で爆発が起こった。

その場に四つん這いになり咳き込む。危ないところだった。

 

「大丈夫デスか!?」

 

尻餅をついていた切歌が駆け寄る。

出久の無事を確認すると、乱入者が飛ばされた方向を睨む。

 

「デク君に・・・なにするデスかぁ!」

 

胸元からギアペンダントを取り出し、聖詠を唱えようとする。

しかしその手は空を切る。

ペンダントが、なかった。

 

「え・・・?」

 

切歌は昨日の一件のせいで朝から集中力を欠いていた。いつもなら忘れない、必ず身につけるそれさえ忘れるほど狼狽していたのだ。

 

「やっちゃったデース!!」

「切歌ちゃん! 掴まって!」

 

起き上がった出久は切歌をお姫様抱っこして、走り出す。ここでは他の人にも被害が出るかもしれない。そして・・・この腕の中の少女を守らなくてはいけない。

それが今できるのは自分だけなのだ。

 

「デェェクゥゥゥゥゥ!!」

 

背後から怒声が追いかけてくる。複数の連続した爆発音。恐らくは両手の爆破で推進力を得て、飛んでいる。

出久は手近な林に駆け込んだ。ここなら木々が邪魔をしてそう簡単には追いつけないはずだ。

しかし出久は自らの考えが甘かった事を知る。

 

「ちょこまかと気持ち悪ぃんだよ! 喰らえ!」

 

その声は上空から聞こえてきた。見上げた葉の隙間から炎が見える。更に迫る声。

脚に力を込めて、後ろに飛んだ。

 

『これはかっちゃんの・・・』

 

【榴弾砲・着弾(ハウザーインパクト)!!】

 

目の前で起こる大爆発。爆風が辺りの木を薙ぎ倒した。

辛うじて直撃は免れたが、衝撃波が二人を襲う。出久は空中で反転し切歌をそれから護ろうとした。だが殺しきれない勢いに二人は地を転がる。

吹き飛ばされ、木に当たりようやく止まる身体。背中から叩きつけられた出久の口から空気が押し出された。

爆煙を纏う爆豪の声が響き渡る。

 

「今日こそ、今日こそお前を殺してやる!」

 

「お前さえいなければオールマイトは死ななかった!」

 

「クソみてぇなお前に“個性”を渡してなきゃ、『あの日』オールマイトは死ななかったはずだ!」

 

地獄の底から響いてくる様なその声を聞きながら、出久は身体を起こす。

腕を支えに立ち上がろうとする。

 

「オレを助けにきて、オール・フォー・ワンと闘って! そして相討ちになっちまった!」

 

「お前さえいなければ、オレの『ヒーロー』は死ななかったんだよォォォ!」

 

オールマイトの死という彼の言葉に震える心。

だがやっと解ってきた。

『あの日』とはきっと神野区での一件。

あの日の顛末が自分と彼では違うのだ。

これが自分の知る彼と目の前の彼の転換点。

 

「そうか・・・だから君は・・・」

 

思った以上にダメージが大きい。

それでも彼は立たなくてはならない。

倒れたままの切歌を守る様に立つ出久。

気を失った彼女をチラリと見て、大きな怪我がない事を確認する。

 

『巻き込んでごめんね、切歌ちゃん。でも僕が君を・・・』

 

出久の拳が握られる。その身体が紫電を纏いはじめた。

目の前にいる爆豪に向けられる視線には強い力が宿っていた。

 

『守るから!』

 

目の前の道を違ってしまった幼馴染を、そして大切な彼女を救けるためにワン・フォー・オールの力を使い、出久は突撃する。

—その胸の内に湧き上がってくる『何か』を聞きながら・・・。

 

 

 

切歌の端末からのエマージェンシーコールを受信したS.O.N.G.司令室は声が飛び交っていた。

 

「ワン・フォー・オールの発動を確認」

「GPSから座標確認しました。A-24区です」

「音声情報から推測するに爆豪 勝己との戦闘状態に突入」

「切歌ちゃんはギアを纏っていません。緑谷君、戦闘を開始しました」

 

矢継ぎ早にされる報告を脳内でまとめ、弦十郎は指示を飛ばす。

 

「よし! 待機中の装者に連絡、動ける者から二人の救援に向かわせろ。同時に周囲を警戒、負傷者がいないかを確認を。ノイズの出現時は装者に撃破を命じる。サポート班は現地でこれ以上被害を広げない様に展開しろ」

 

弦十郎はモニターを睨みつけながら、流れてくる音声に耳を傾ける。聞こえてくる爆豪の話は出久から聞いた話と食い違っていた。

 

『やはり彼も異世界の人間。しかも緑谷君とも違う世界か』

 

「踏ん張れよ、緑谷君・・・」

 

弦十郎は異世界の少年へ激励の言葉を送る。

 

 

 

爆速ターボを駆使して縦横無尽に襲いかかってくる爆豪は高く飛ぶと構えをとる。

 

「くたばれ!」

 

【徹甲弾 機関銃(APショット・オートカノン)】

 

無数の爆炎弾がその名の通り、機関銃の如く降り注ぐ。だが出久もやられるままではない。

 

「遠距離攻撃はもう君だけのものじゃないぞ!」

 

両手でエアフォースを使い、出来うる限り撃ち落とす。だが手甲が無いためにその威力と精度は落ちていた。撃ち漏らした幾つかが身を掠める。

痛みに顔が歪む。だがそれでも出久は両脚を強く踏ん張った。

 

『これは単なる目眩し。かっちゃんなら・・・』

 

上から落下の勢いを込めて飛び込んでくる爆豪に出久の左手が合わせられる。伸ばされた爆豪の右腕に拳を当てて、その体を逸らした。

 

『絶対に自分の手で僕を倒しにくるはず!』

 

「甘ぇんだよ、コラァ!」

 

逸らされた体を爆破で再回転、更に加速した爆豪の拳が出久の腹に突き刺さる。

出久はそのまま殴り飛ばされた。

爆豪は吹き飛ぶ出久にオートカノンを追撃する。空中で躱す事が出来ずに何発かが着弾した。衝撃に呻く。

 

『くそ! 僕の知ってるかっちゃんより強い!』

 

—胸がざわつく。

—何か聞こえる。

 

『このままだと・・・!』

 

迫る地面に手をつき、跳ねる様に体勢を直す。無事に脚から着地。

—ノイズがかった言葉が胸の中に流れてくる。

 

「それでも!」

 

痛む身体を動かして前に進む。ガードはしたが諸に着弾した左腕が痺れている。

だがそれがどうした。そんなもの、今はどうでもよかった。

痺れを振り解く様に左腕を振る。

爆豪へ一気に距離を詰める。右脚を振り絞る。

今しなくてはいけないことは。

 

「君を倒すんだ!」

 

【St.LOUIS SMASH !!…】

 

だが放ったセントルイススマッシュが彼の手甲で止められる。

瞬間、ニヤリと笑う爆豪の顔が見えた。

だとしても出久の脚は力を失わない。

 

「Plus・・・Ultraぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

【PURSUIT !!】

 

いつも以上の脚力で蹴り抜け、その力を使いもう一撃の蹴りを打ち込んだ。その一撃は手甲を巻き込みながら爆豪の顔にぶつかり、今度は彼をぶっ飛ばした。

 

「ぐうぅッ!」

 

身体に走る痛みに悶える出久。気がつかぬうちに許容上限を超えてしまった様だ。

脚は折れていない。だが筋肉にかかった負荷は大きかった様で力が入らなかった。

着地に失敗して無様に倒れ伏す出久。

 

『まだだ! かっちゃんはこんなもんじゃない!』

 

彼の強さを知っているからこそ、立ち上がらなくてはいけない。こんなもので彼は止められないのはよく知っている。

だから今! この両脚を叱咤して、無理にでも立ち上がらなくてはいけなかった。

しかし・・・。

 

『脚が・・・動かない』

 

絶望的なその事実。

倒れたまま視線を送ると、爆豪はまさに立ち上がるところだった。

このままではやられる。

 

『動け! 動け! 動け!』

 

その顔に怒りを湛えて歩み寄る爆豪。

—さっきから胸の内に何かが浮かび上がる。

彼の手から絶えず細かい爆発が起こっている。

—内容はわからないが、聞こえてくる『何か』がある。

両手が揃えてこちらに向けられる。トドメを刺す気だ。

—これは・・・一体なんだ? 知らぬ様でよく知っている気がする。だが聞き取れない。

 

「いい加減、死ねや・・・」

 

その手から爆炎が放たれる。

必殺のその炎が出久に迫っていた。




『この世界』で胸に流れるものとは・・・。

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