僕のヒーローシンフォギア   作:露海ろみ

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三十七話目となります。

やっと書き上げる事が出来ましたので投稿させて頂きます。
今までで一番時間をかけた話となってしまいました。
遅くなってしまい申し訳ありません。
お読み頂ければ嬉しいです。


37.『愛おしい』暁の君

「僕、よくここに来てる気がする」

 

見慣れてしまった医務室の天井を眺めながら呟く。思えばこの世界に来てからというものこの部屋にお世話になりすぎている。

相変わらずの無鉄砲さに溜息が出てきた。

 

「・・・かっちゃん、強かったな」

 

自分の知っている彼よりずっと強かった。

戦闘スタイルも個性自体の破壊力も、あの闘争心も。

そして聞く事ができた彼のヴィランのしての『オリジン』

それは予想はしていたが、出久にとっても辛い内容だった。

 

「オールマイトが死んだ世界、か」

 

あの神野の事件は出久にとっても生涯忘れられない記憶である。師であるオールマイトが残り火を使い切り、宿敵を打ち倒した瞬間を自分も爆豪も見ていた。

 

『次は君だ』

 

正義を託すその一言は出久の中に深く刻み込まれている。

だがその一言が無かった世界の爆豪は目指したヒーローが斃れる瞬間を目撃したのだろう。そして罪の意識と力を継承した出久への憎しみによってヴィランに『堕ちた』

 

「だとしても、僕は・・・」

 

爆豪 勝己は緑谷 出久の幼馴染である。それは変えようがない事実だった。

なら自分のすべき事は。

彼を、救ける。

きっとあの時のように拒絶するだろう。差し伸べた手を爆破されるかもしれない。

それでもこの手は離さない。

出久は天井のライトを目掛けて掌を突き出した。

それとほぼ同時にベッドを囲うカーテンの向こうから声がする。

 

 

「デク君、今いいデスか?」

 

 

聞こえてきたのは知った声。

 

「切歌ちゃん!」

 

出久が身体を起こしてカーテンを開けると所々に包帯を巻いている切歌がそこにいた。

彼女は出久の姿を見ると安心した様に笑いかける。

 

「起きてたデスね」

「うん」

 

何故だろうか。彼女が自分に笑いかけてくれているのがとても嬉しい。自然と出久は手を伸ばして彼女の手を握った。

 

「デ、デク君?」

「ごめん・・・つい」

 

自分らしからぬ行動に慌てる。自分から女の子の手を握るなんてした事が無かった。しかしその手を取られた切歌は驚きはしたが振り払うことはしない。むしろその手に力が入る。二人はそのまま言葉を交わさず、見つめ合った。

 

「・・・」

「・・・」

 

徐々に顔が熱くなってくる出久と対照的に切歌は微笑みのまま彼の目を見つめ続ける。

 

「救けてくれてありがとう、デク君」

 

切歌は一歩彼に近づくと手を握りしめ直した。近づく彼女の顔に言葉が出ない。こちらを見据える緑の瞳に吸い込まれていく。出久は映る自分の顔が見えた。その顔は惚けたように口を開いている。

 

「わたしを守ってくれた・・・それがとっても嬉しいデス」

 

次の瞬間。出久は彼女の柔らかな胸の中にいた。それに驚く間も無く彼は切歌に包まれる。

 

「・・・わたし、わかった事があるデスよ」

 

つむじの上から声はゆっくりと降りてくる。抱きしめられているその感触に身体が熱くなるが、同時に心も熱くなっていく。

このまま身を委ねていたい。心が熱いのに気がつくと目が閉じていた。ここはなんて心地が良いのだろうか。彼女の心臓の鼓動を聞きながら出久は言葉の続きを聞いた。

 

「デク君が一人で飛び出して行った時、『行かないで』って思ったんデス。離れていくのが寂しくって、傷つくのが悲しくって。もし、死んじゃったりしたらどうしようって」

 

震える切歌の腕。

それでも言葉を吐き出す彼女の手は今ここにいる彼を確かめるように出久の頭を撫でる。

幼子のようにあやされながら出久は動けなかった。

 

「わたしはこんな気持ちになった事がなくて・・・。どうしてこんな気持ちになるのかわからなかったのデス」

 

「クリス先輩と響さんが助けに来てくれた後にデク君が無事なのを見て、気がついたら抱きしめていたデス・・・」

 

「デク君が無事なのが嬉しい。わたしを助けるために無茶して戦ってくれた事が嬉しい。でもわたしのために・・・傷ついているのが辛くて」

 

胸の中の出久は更に速さを増す鼓動を感じる。ドクンドクンと自らの脳髄に響くその音はいつの間にか自分の音とリンクしていく。別々の人間のはずなのに一つになっていく感覚。出久は彼女と自分が溶け合っていくように感じていた。

 

「わたし、デク君が好きデス」

 

唐突な短いその言葉に心が震えた。

同時に切歌の身体に熱を感じはじめる。

 

「大好きデス」

 

頭に顔を押しつけられる感触。腕が強く、でも遠慮がちに力を込められた。それは彼女の心境を表しているようだった。彼女にしたら勇気を持った告白なのだろう。

吐息が出久の髪を濡らす。

 

「切歌ちゃん・・・」

 

・・・・彼女の名を呼ぶ。

切歌が自分の事を『好き』だと言ってくれている。これは夢なのだろうか。

身体が離される。温かな彼女が離れていく。

それに寂しさを感じる自分がいた。

 

「勝手な事を言ってごめんなさい。でも我慢が出来なかったんデス・・・」

 

離れた彼女の目には涙が溜まっている。その一雫が落ちると共に切歌は震える声で言った。彼女は踵を返して走り出した。

 

「待って!」

 

その背に声は届いていたが彼女の脚は止まらず、そのまま部屋を出て行ってしまう。

出久は慌てて彼女の後を追い始めた。

痛めた脚がうまく動かない。それでも無理矢理動かした。今はこんな事を気にしている時ではなかった。彼女に遅れて部屋を出るが既に切歌の姿は見えない。

 

「切歌ちゃん!」

 

叫ぶ声が人の気配の消えた通路に反響する。答える声はない。出久は走り出す。部屋を飛び出した切歌は左に走って行ったはずだった。その後を追い始める。

だが出久にわかるのは『部屋を出た瞬間』だけ。この広い基地の中、彼女はどこに行ったのだろうか。

 

行き先はわからない。

それでも走る。

胸の内を占めるのは彼女の事ばかり。

切歌の様々な顔が浮かんでは消えていく。

出久の胸が苦しくなっていった。

 

道中会った人々に切歌の行方を聞くが誰も見ていないと言う。艦内のあらゆる場所を探したが見つからないのだ。

 

『もしかして、外に出たのか?』

 

そう思った出久は基地を飛び出した。外に出ると既に夜半を迎えて、星々が空を覆い、傾きかけた月がそこにいた。

もしかしたら家に帰ったのかもしれない、そう考えて出久は彼女が住む部屋の方角に向かう。

 

街は深夜を過ぎて人の姿は疎だ。誰もが自分の帰るべき所へ向かっていた。

その人の中を出久は走る。

彼女の通う学校を通り過ぎて、更に街中を走り抜けていく。

 

気がつけば同じ場所。今朝彼女を見つけた公園に自分はいた。何故かはわからない。でも『いるのではないか』と思い、此処に来ていた。膝に手をついて息を整える。汗が流れるままに地に落ちていった。

一息ついた出久は朝と同じベンチを目指す。

 

するとやはり・・・彼女はそこにいた。

 

顔を伏せ、小さく縮こまった・・・・彼女の姿を見つけて出久は微笑んだ。近づいた彼は切歌の前に立つ。

それでも気がつかない彼女に声をかけた。

 

「切歌ちゃん」

 

ビクッと声に震える肩。

ソロリと上げられる顔。

ボロボロと涙を流す瞳。

その全てが・・・・と出久は感じた。

 

「みーつけた」

 

子供の頃、かくれんぼをした時のように出久は言った。

 

「デク・・・君?」

「うん!」

 

出久は一番の笑顔で応えた。唖然とした顔になる切歌を見ながら出久は隣に座った。

 

「急に飛び出して行っちゃうから探したよ」

「・・・ごめんなさい、デス」

 

横に彼女の熱を感じる。さっきまで味わっていたはずのその感覚は再び出久の身を燃やしはじめた。普段の自分なら考えられないそれに戸惑いながらも、その熱を身に受ける。

それでもこの身を焦がす感覚が今は・・・・。

秋の夜は冷えるはずなのだが、彼女のそばにいるとそうは思えなかった。寧ろ熱いくらいだ。そしてこれまでで一番の勇気を出した出久の手が切歌の手を覆う。

 

「あのね・・・」

 

震える切歌の手を握る。その感触を感じながら出久は続けた。・・・・彼女に自分の言葉を伝えるために。

 

「僕、今まで誰かを好きになった事がなかったんだ。目の前の目標を越える事にいっぱいいっぱいでね」

 

空に輝く星を見上げる。

少しずつ辺りは明るくなっていく。

夜明けは近い。

 

「切歌ちゃんが僕の事を好きって言ってくれた時すごく驚いた。それに、同じくらい嬉しかったんだ」

 

自分の声が震えている。

想いを言葉にするというのはなんて難しいのだろうか。きっと彼女もあの一言を言うのに勇気を出したのだと今ならわかった。

その勇気に応えたい。

 

「僕の事を好きになってくれて、ありがとう」

 

冷たくなった彼女の手を温める。

 

「ここまで来る途中、ずっと切歌ちゃんの事を考えてた。嬉しくって、恥ずかしくって、心配で、気がついたら君の事で頭がいっぱいになってた」

 

それは出久にとって初めての感覚。

胸を熱く締め付ける彼女の存在。

・・・・暁 切歌という少女。

この感覚を出久は言葉にする。

 

「だから、僕もきっと、切歌ちゃんのことが好きなんだ」

 

その告白に切歌の瞳が驚き、見開かれる。

繋いだ手を振りながら赤い顔をした切歌は隣にいる彼に言う。

 

「本当デスか!?」

「本当だよ。だってこんな気持ちになったの初めてだもん」

「そうデスか・・・」

 

切歌は笑う。泣きながら笑った。

この想いは一方通行ではなかった。向こうからも彼は想ってくれていたのだ。こんなに嬉しい気持ちがあるなんて知らなかった。

 

「ほら切歌ちゃん、これ使って?」

 

あまりにも涙を流す切歌を見かねて、出久はハンカチを差し出した。受け取ったそれで涙を拭くがなかなか止まらない。

出久はもう一つ勇気を出した。

彼女の肩に手を回し、自分に引き寄せる。されるがままに切歌は彼の肩に頭をのせた。

切歌を抱きながら空を見た出久が声をあげる。

 

「切歌ちゃん、見て見て!」

「・・・デス?」

 

夜が明ける。太陽が登り出す。

朝の光は寄り添う二人を明るく照らしはじめた。




『暁』の意味
→夜明け
→知る、悟る


やっと・・・やっと書きたかったこの話が書けました。
皆様からの御意見・御感想、お待ちしております。

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