僕のヒーローシンフォギア   作:露海ろみ

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三十八話目となります。

お疲れ様でございます。
あの朝の続きを短いですがお納めくださいませ。


38.朝帰り

日も登り、出久は彼女を連れて基地に戻った。今日は平日だが、もう学校には間に合わない時間だった。

二人は手を繋ぎ歩く。横を歩く彼女は嬉しそうにその手を握っていた。もちろん出久もである。

 

「流石に眠いデスね」

 

普段夜更かしなどしない彼女は眠気に目を擦る。さっきまでは眠気を感じられないくらい目が冴えていたが、今は安心感からかとても眠い。うつらうつらと船を漕ぎ始める切歌。

そんな可愛らしい仕草に出久は微笑む。

 

「もうちょっとだから、頑張ろ?」

「頑張る・・・デス」

 

声をかけるがだいぶ眠そうな切歌を見た出久は手を離すと背を見せて膝を着いた。

 

「ほら切歌ちゃん、乗って」

「デス・・・?」

 

あまりの眠気から判断力の落ちた切歌は言われるがままに彼の背に覆い被さる。普段なら断るのだろうが、今の切歌にとって出久の存在は自分を受け止めてくれた大切な彼。そんな彼に救けてもらうのは自分の特権だ。

 

「よいしょ、っと」

「デク君、あったかいデスね・・・」

 

切歌をおんぶした出久はその軽い体重を感じながら、軽々と立ち上がり歩き出した。その背中に柔らかいものを感じて少し照れたが、口には出さない。

背負われた切歌は広い背中に顔を埋める。少し汗の香りがするが嫌ではない。むしろ安心して身体の力が抜けていく。

 

「デク君、ありがとデス・・・」

 

その一言を最後に切歌は眠りに落ちた。背中で眠る自分の『彼女』を背負いながら彼はどこか誇らしげに基地への道を歩み続ける。

 

 

S.O.N.G.基地の前にとある三人の姿があった。夜中に飛び出した未成年二人を心配した装者大人組の二人とOTONAが一人。

 

「ふむ。緒川からの報告によるとそろそろだな」

 

OTONAが一人、弦十郎は顎に手をやりながら呟く。二人をつけていたNINJAからの報告によれば今二人はこちらに向かっているらしい。

夜中に飛び出した切歌にもしもの時の為にすぐに緒川を向かわせるあたりS.O.N.G.司令として流石の対応といった所だが、あえて出久と切歌を邪魔させないあたり弦十郎もどこか茶目っ気がある。

 

「朝帰り! 切歌が大人の階段を三段飛ばしで登っているなんて!」

「落ち着けマリア」

 

取り乱すマリアは隣の翼の肩を掴んで揺する。ガタガタと揺すられながらも落ち着いた表情で返す翼。

 

「だから言ったじゃない! 出久はロールキャベツ系男子だったのよ。きっと切歌は美味しく頂かれたのよ!」

「だから落ち着け」

 

絶対にあり得ぬ妄想に囚われたマリア。家族同然の切歌を心配するのはわかるが、出久に失礼である。彼にそんな事をする度胸と下心は無い事を理解する翼は冷静に彼女を叱る。・・・これで何度目だろうか。

 

「緑谷はそんな奴ではないと言っただろう。剣と拳を交えた私が言うのだ。一部始終を見ていた緒川さんからの報告にもそんな話はなかった! それに二人が飛び出したのは夜明け前。帰ってくるのが朝を過ぎるのは必然だろう」

 

ぐうの音も出ないド正論に黙り込む彼女。それでも心配なのだろう。眉を寄せて睨み返してくる。

 

「お! 来たな」

 

弦十郎の目に二人の姿が見えてきた。その背に切歌を背負った彼がこちらに歩いてきている。

 

「切歌!」

 

マリアは叫びながら走り出す。その後を翼も追う。二人が迫ってくる様子に驚いた出久は脚を止めた。やがて目の前にやってくる二人に朝の挨拶をする。

 

「お、おはようございます。マリアさん、翼さん」

「出久、切歌は!?」

「疲れちゃったみたいで寝てます」

「疲れちゃった!?」

「待て待て」

 

曲解気味のマリアにツッコミを入れてどうどう、と宥める翼。

 

「緑谷、お帰り」

「はい。ただいま戻りました。マリアさん、切歌ちゃんをお願いできますか?」

「え、えぇ・・・」

 

背負った切歌をゆっくりと降ろし、マリアに預ける。そのやりとりの中でも起きない切歌はマリアの背に無事収まった。安心しきったその寝顔が可愛らしい。出久は彼女の髪を撫でる。

その様子を見たマリアは驚いた。あのすぐに赤面していた彼が自分から女性の髪を撫でている。しかもあんなに優しい顔で。

それを見たマリアは立ち上がり言った。

 

「・・・ちょっと切歌をベッドに届けてくるわね。それと出久。あとで話があるわ。夕方にでも連絡するから空けておいて」

 

そこまで言うと切歌と共に基地内に消えていった。二人を見送った出久はゆっくりと翼と弦十郎に振り向く。

 

「僕、何かまずい事でもしてしまいましたか・・・?」

「いや。問題ないと思うぞ、多分」

「そうね。大丈夫よ、多分」

「多分!?」

 

含みを持たせて答える二人。これから自分になにが待っているのだろうか。出久は不安になってきた。

 

「それはそうと、一晩で良い顔になって帰ってきたな。見違えたぞ緑谷君」

「え?」

 

唐突な弦十郎の褒め言葉に呆けた顔をしてしまった。

 

「男の顔になったな。『男子三日会わざれば刮目してみよ』とは言うが、君には一日でも充分すぎるらしい」

「ええ。まるで逞しい武士の顔ね」

 

続いて頷く翼も自分の顔をまじまじと見ながら言う。思わず顔に手をやるが、特段いつもと変わったところはない。

 

「守るものが出来た男は強くなる」

 

その言葉にドキリとした。

弦十郎を見ると彼はニヤリと笑う。その反応に出久は察した。この人は自分と切歌の関係が変わった事に気がついている、と。

 

「しっかりと切歌君を守ってやれ。それは君の特権であり、男として最大の幸福でもあるからな」

 

呵々と笑いながら照れた顔をした彼の肩を叩く。一人の少年が今まさに男となった。同じ男として応援せざるを得ない弦十郎だった。

やりとりを見ていた翼も話に加わる。

 

「私からも頼もう、緑谷。暁を大切にしてやってくれ。お前なら、心配は要らないと信じている」

 

この人も気がついている!

その事実に驚きながらもなんとか質問を口にした。

 

「な、なんでご存知なんですか? 僕と切歌ちゃんの事・・・」

「君たちを尾けていた緒川から報告をもらっている」

「僕達尾行されてたんですか!?」

「夜中過ぎに未成年の君たちが外を出歩いて何かあったらどうする。当然の配慮だ」

「てことは・・・一部始終を見られていたと・・・」

 

地面に手と膝をつき項垂れる。

まさか一世一代の告白を見られていたとは思いもしなかった。しかも口ぶりからすると見ていたのはこのOTONAだけではない。もしかしてと翼の方を向く。その視線を受けた翼はいい笑顔で返した。

 

「緑谷、なかなか男らしかったぞ」

「そうですかぁ・・・」

 

出久は恥ずかしさのあまり地面に穴でも掘って、埋まっていきたかった。




ちなみに。
司令所の大画面で二人の姿は映し出され、告白の瞬間には当直のスタッフ全員が歓声をあげましたとさ。

弦十郎と翼(若干顔が赤い)は力強く頷き。
マリアは唖然とし。
藤尭は眩しいものを見るように目を細めて。
友里は切歌の笑顔を見て、微笑む。
エルフナインは真っ赤な顔を手で隠しながら、手の隙間からしっかりと見ていました。

きょうも、そんぐのきちはへいわです、まる

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