僕のヒーローシンフォギア   作:露海ろみ

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三十九話目となります。

今回は前回マリアが言っていた出久呼び出しのお話です。




39.呼び出し

音が鳴っている。

寝ぼけながら出久はベッドから手を伸ばすと音を出しているそれ、携帯端末を手に取る。

着信を知らす画面にはマリアの名が表示されていた。

それを見て眠気が吹き飛び、応答ボタンを押す。

 

「もう夕方だけど、おはよう。出久」

「おはようございます! すみません、すぐに取らず・・・」

「大丈夫よ。今から会えるかしら?」

「はい、直ちに向かいます!」

 

落ち着いた声で話しかけてくるマリアに答える。場所を聞き、通話を切るとため息を吐く出久。

もしかして怒られるのではないだろうか。そんな懸念が頭をよぎる。

マリアにとって切歌は大切な家族らしい。その切歌と付き合うこととなった。

それをマリアには思う所があるのだろう。

 

「僕は」

 

出久はこの世界の人間ではない。

そんな彼と大切な家族が恋仲になったら、二人にはいつか別れがやって来る。

出久とてそれはわかっていた。異分子の自分はこの世界にいつまでもいられるとは限らない。もし次に目を覚ましたら、自分の世界に戻っているかもしれないのだ。

それでもあの時の自分はそんなことは忘れて、目の前の少女に気持ちを伝えた。

初めてこの気持ちをくれた彼女に応えた。

大好きな少女の側にいたいと願ったのだ。

その気持ちに嘘は無い。

 

出久は最低限身嗜みを整えると部屋を後にした。

 

 

指定されたのは基地内のとある部屋だった。

ドアの前についた出久は一度深呼吸する。

ここへ来る道中、覚悟は決めてきた。

 

「よし!」

 

両手で頬を叩き、気合を入れた出久は扉を開く。

 

「マリアさん、失礼します」

「早かったわね」

 

そこは会議室のように見える広めの部屋だった。部屋の壁は収納スペースなのだろう、カーテンがかけられ中の物を隠している。

向かい合うように並べられた幾つもの机と椅子。その一つにマリアは座っていた。

 

「とりあえず座って?」

 

優しい口調のマリアは目の前の椅子に着席を促した。言われた通りに出久は座る。向かい合う彼女は微笑み、こちらを見つめてくる。

それを見てどうやら怒られる事はないようだ、と安堵する出久。

マリアは口を開く。

 

「まずは出久。今朝は切歌を見つけてくれてありがとう。あの子は無鉄砲な所があるから・・・。貴方が探してくれて助かったわ」

 

昨夜の件への感謝の言葉。

その言葉に出久も緊張感が緩む。

 

「いえ、そんな・・・。当然の事をしたまでです」

「その当然の事をなかなか出来ないのが普通なのよ。流石はヒーローね」

「あ、ありがとうございます」

 

思いもよらぬ自身への称賛に縮こまる。変わらずニコニコとこちらを見てくるマリア。

だが。次の一言に出久は目を見開いた。

 

「そんなヒーローさんにお願いがあるわ。すぐに切歌と別れて頂戴」 

 

出久の思考が止まる。

 

「貴方は自分の立場をわかっているのかしら。異世界の人間でありながら、この世界の人間を好きになるということがどういう事になるのか理解している?」

「そ、それは・・・」

「ましてや貴方はS.O.N.G.に庇護されている存在。身の程を弁えてる?」

 

マリアは変わらず笑顔だ。だがその笑顔に少しずつ嘲笑が混じってきていた。

 

「出久。今もし自分の世界に帰れると言ったら、どうする? 帰りたいでしょう? でもそうしたら切歌をどうするの」

 

「口で好きと言うのは簡単。貴方くらいの年頃ならそんなものよ。今ならまださっき言った事は勘違いだったと言えるわ」

 

「傷が大きくなる前にやめておきなさい。これは切歌だけじゃない、貴方の事を思って言っているのよ?」

 

最早最初の笑顔は鳴りを潜め、マリアは目の前の少年に問いかける。

鋭い視線が出久を射抜く。

 

「貴方、切歌を不幸にするつもり?」

「切歌ちゃんを、不幸に・・・」

 

その一言に身体が傾いていく様に感じた。ここに来るまでに何を言われても折れない様に覚悟は決めた筈だ。だが改めて口に出されると揺らいでしまう。

あの笑顔を自分が曇らせてしまう?

そんな事が許されるはずはない。

 

「貴方のその想いはあの子を傷つけていくわ。想えば想うほどにね。だからわかるでしょう?」

「でも僕は!」

 

出久は言葉を返そうとする。返そうとするが・・・。

 

「僕は、何?」

「僕は・・・」

 

言葉が出てこなかった。

彼女の言う事はわかっている。自分でも考えた事だからだ。違う世界の者同士が好きになったら、その隔たりが障害になることなどわかっているのだ。

わかっているからこそ続けられない。

どこまでも異分子の自分。今はそれが恨めしい。

爪が掌に食い込み、血が出るくらい拳を握りしめる。

 

「反論できないならこの話は終わりにしましょう。私は言いたい事を伝えたわ。あとはわかるわよね?」

「・・・」

「全く。切歌も好きになる人は選んだ方がいいわね。貴方を好きになるなんて、愚かしいわ」

 

ここまでは我慢できた。

理解しようとした。

だって、自分のことだから。

 

だが、貴女が。

切歌の家族の貴女がそんな事を言うのか?

 

カッ、と頭の中が煮え滾ってくる。

 

「・・・待ってください」

 

席を立ち、出口に向かおうとするマリアを呼び止める。

 

「まだ何か足掻くつもり?」

「最後の言葉だけは、駄目です・・・」

「何の事?」

「『切歌ちゃんが僕の事を好きになった』事を愚かしいと言う事です」

 

「切歌ちゃんは愚かではありません」

 

「彼女はどこまでも優しい子です。僕の何気ない一言に喜んでくれて、弱音を吐いた僕を励ましてくれました」

 

「プレゼントしたネックレスをつけている事だけで喜んでくれる」

 

「そして、こんな僕を好きだと言ってくれた!」

 

「その優しい気持ちを愚かと言わないでほしい!!」

 

椅子を蹴り飛ばす勢いで立ち上がりながら、去り行こうとするマリアの前に立ち塞がる。

 

「マリアさんは切歌ちゃんの家族なんでしょ? その貴女が何でそんな酷いことを言うんですか!」

 

挑む様な視線を浴びながらも動ずる事のないマリアは冷ややかに出久を見る。

 

「だから? それを撤回して、貴方の境遇が変わるというのかしら」

 

売り言葉に買い言葉。

出久はヒートアップしていく。

 

「確かに僕は違う世界の人間です。帰れるのなら自分の世界に帰りたいとずっと考えてます」

 

それは紛れもない本心だった。

だが今の出久にはそれ以上に譲れない事がある。

 

「それでも! そんな僕を好きと言ってくれた切歌ちゃんの事が好きです。この想いだけは違えない!!」

 

「これ以上は、いくらマリアさんでも許しません」

「許せなければどうするの?」

「そんな事を言う貴女の元に切歌ちゃんは置いておけません。実力行使で・・・ 」

 

彼の感情に応えるように身体に紫電が奔る。

 

「『僕の彼女』は頂いていきます!」

 

想いを貫く為に拳を握り締めすぎる。拳を固め切った彼は覚悟を完了させた。

絶対に、この人から、彼女を、奪い獲る。

その瞳に、向けてはいけない決意を搭載した。

睨み合う出久とマリア。

頭に血の上がった出久はワン・フォー・オールを輝かせると、ゆっくりと構えをとりはじめる。

相手はシンフォギア装者だ。その破天荒な戦闘力の高さはよく知っている。

だが今の自分は負ける気がしなかった。

高揚する心根は『やってやる!』と鼓舞さえしてきた。そしてそれを行えるだけの力が沸き出て来る。

愛する人の為なら、目の前の障害は全部倒してみせるさ、と。

それが出来ると信じられた。

ギラついた決意の瞳。それを受け止めるマリアの瞳もそれに応える。

冷たく決めつけるようなそれは、譲らないという決意に満ち溢れてただ、ただ彼を見つめ返す。

 

そんな触れるだけで皮膚が切れそうな空間が狭い室内を蹂躙した。

 

 

 

 

 

一触即発の空気の中、マリアは自分の背後のカーテンに呼びかける。

 

 

「ですって、切歌!」

 

 

声をかけられたカーテンが揺れる。

 

「え?」

 

その言葉に出久の身体からワン・フォー・オールが抜け落ちた。

 

「みんなも聞いたわね!」

 

その声を合図に閉められていたカーテンが次々に開かれる。そこから顔を出したのは切歌をはじめとした装者達と未来だった。

 

「マリア、お前やっている事が叔父様と一緒だぞ・・・」

「あら、本心を見抜くには良い方法じゃない。私は『やり方』には気をつけたわ」

 

呆れ顔でやってきた翼が苦言を呈すが、飄々と言いのけるマリア。

 

「男らしい熱い言葉だったね! あの告白シーンを軽く越えていく名シーン誕生だよ〜」

「ふふ。切歌ちゃんは幸せ者だね。私もいつか響に・・・」

 

響と未来が仲睦まじく出久を見ている。

 

「デク・・・。お前、やるなぁ・・・」

 

自身のギアくらい顔を赤くしたクリスはもじもじとしながら言う。

 

「出久君」

 

とててて、と歩み寄ってくる調は出久の元に来ると彼にだけ聞こえる様に呟く。

若干目が怖い。そして頬を膨らませている。

 

「もし切ちゃんを泣かせたらButtagiriにするから覚悟してね」

 

その目以上に怖い事をさらっと言ってきた。

そして・・・。

 

「で、デク君」

「切歌ちゃん・・・」

 

カーテンを握りしめる様に隠れる切歌は誰よりも顔を赤く染めていた。その姿を見て出久は自分の言葉を思い出す。激情に任せて何と恥ずかしいセリフを言ってしまったのだろうか。彼の顔も彼女に負けず劣らず真っ赤になった。

 

「あう・・・」

「その・・・」

 

二人の様子に周りはニヤニヤが止まらなかった。いや、一人だけ怖い顔の人物いると訂正しておこう。目からハイライトを消しかけて、その口から「切ちゃん切ちゃん切ちゃん・・・」と漏れ出していた。

状況を作り出した本人が意地悪い顔をしながらこちらを見ているのに気がついた出久。

 

「マリアさん!」

「はろはろ、ヒーローさん。御機嫌いかが?」

 

ひらひらと手を振る。明らかに楽しんでいた。

 

「どうしてこんなことを!」

「あら。切歌の家族として、その恋人を確認するのは当たり前でしょう」

 

彼女は胸を張って答える。

 

「でも他の皆さんを呼ぶ必要はないですよね!」

「私は止めたのよ〜? でもみんながどうしてもって〜」

 

明らかな棒読みで喋っている。絶対にマリアからみんなを集めたに違いないと出久は確信した。その証拠はニヤニヤとこちらの反応を伺っているからだ。

怒ればいいのか、恥ずかしがればいいのか、そろそろ出久はこんがらがってきた。

そんな彼の下に彼女はやって来る。

 

可愛い顔を染めた彼女は自分の服の裾を掴むと、言った。

 

「デク君は、私の事を連れ去っちゃうデスか? でもその・・・わたしにも心の準備ってものがあってデスね? だから、ちょっとだけでいいデスから、待ってほしいデスよ・・・」

 

何この可愛い生き物。

頭がショートしそうになる。思わず抱きしめそうになるが周りに人がいる為に自制した。

 

「あらあらヒーローさん、大丈夫?」

 

煽り足りないのか、けしかけて来るマリアを非難の目を向けるが彼女は涼しい顔をしていた。

そして指をとある方向に向けた。その人差し指は部屋の片隅の天井を指している。出久がそこに視線を送ると、そこにあったのはこの基地の天井によく見るものだった。

監視カメラだ。

S.O.N.G.は国連直属の組織故、その防犯体制は完璧。基地の至る所にカメラがある。

それに気づいた出久の顔が青ざめた。

 

「ま、まさか・・・」

「『みんな』がどうしてもって〜」

 

やられた。

今朝に続いて、今回までとは夢にも思わなかった。

全てに気付いた出久は今朝と全く同じポーズで項垂れる事になるのだった。

 

 

装者達に散々にからかわれて質問攻めにされた出久は部屋を出ようとしていた。

今日はこれからパーティーらしい。その主賓は自分と切歌。切歌達は一足先に会場に向かった。

僕たちの事を祝ってくれるのは嬉しい。嬉しいが、こんな大々的にやらなくてもいいのではないかとこの後の事を思うと気が重い。

ため息を吐きながら扉を潜ろうとしたとき。

 

「出久」

 

最後に部屋に残っていたマリアが声をかけた。

今回の主犯に流石の彼も不貞腐れた顔で振り向く。だが向いた先にいた彼女はさっきまでの顔ではなかった。

真剣な表情をしたマリア。

その顔に自然と自分の顔も引き締まった。

 

「どうする?」

 

短い問いかけ。

 

「さっき話した事よ。自分の世界に帰れる時、切歌を貴方はどうするの?」

 

先程と同じ問いかけ。だが籠もっている意味が違った。極めて真剣な質問だ。

それを感じとった出久は改めて考えた。

そして自分の考えを伝える。

 

「さっきは怒りに任せてあんな事を言いましたが、あれには切歌ちゃんの考えがありません。僕だけの考えです。だからその時になったら二人で決めます」

 

真っ直ぐな瞳で言葉を伝えてくる目の前の少年は初めて会った時とはまるで別人、一人前の男に見えた。

その答えに満足そうにマリアは笑う。

 

「100点満点!」




出久と切歌の事をS.O.N.G.一同は応援しています。

やはり私は戦闘パートよりこういった話の方が書くのが得意なのだと実感しました。
書いていて、とても楽しいデス。

世界が違う二人はどうするのでしょうね・・・。
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