僕のヒーローシンフォギア   作:露海ろみ

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四十話目となります。

UFOキャッチャーのプライズでXV仕様の切歌のぬいぐるみが登場しましたね。勿論、二つともお迎えして参りました。
今は私の部屋で前にお迎えした未来さんと共に飾られております。

私、もう沼から出るつもりがありません。


40.その胸に流れるものは

出久はベッドに腰掛け、読み損ねていたうたずきんを読み進めていた。

今読んでいるのは生活苦から闇金に手を出してしまった青年がヤクザに追い込みをかけられ、止むを得ず銀行強盗をしている。そこに現れたうたずきんが彼を救うといった話。

相変わらず少女漫画らしからぬストーリーだが、ページをめくると歌魔法で救われていく青年。彼を救い『しあわせのかけら』を手にしたうたずきんはまた一つ、大天使長へ近づくのだった。

 

「歌魔法か。なんだかシンフォギアみたいだ」

 

実は的を得ている事など露知らず、読み終わった本を閉じる出久。

歌で変身するうたずきん。

歌で変身するシンフォギア。

よく考えずともそっくりである。

 

「・・・歌」

 

シンフォギア装者は歌によってその力を得ているという。歌えば歌うほど増していくその力。模擬戦をした時も、ノイズと戦った時も装者達は歌を歌っていた。

 

あの時。爆豪と戦っている出久の胸には何かが流れてきたのを思い出す。雑音まじりではあったが確かに聞こえるものがあったのだ。

それはまるで歌の様であった。

目の前の爆豪に集中していた為に気にする事が出来なかったそれはなんだったのだろうか。

今思い返すと途切れ途切れで聞こえてくるそれの中には出久に聞き覚えのある単語がある。

ワン・フォー・オール。

自分が使う個性の名。

その単語だけはしっかりと聞き取れた。だが前後の言葉が聞き取れない。

今までそんな事はなかった。歴代の継承者の声とも違う。ならば、これはなんなのだろうか。

 

「わからない事だらけだ」

 

うたずきんの表紙を眺めながら呟く。

 

「なにがわからないんだ?」

「はい。胸に聞こえるものが・・・ッ!?」

 

いつの間にか目の前にクリスが立っていた。訝しげな顔でこちらを眺める彼女。

 

「よう、暴走色男! いるなら返事しろよ。ノックしたんだぞ?」

「す、すみません」

「勝手に入ったあたしも悪かったけどよ」

 

出久の顔を見て笑う彼女は手近の椅子を引き寄せて座る。

 

「で、どうした?」

「どうしたと言われましても・・・」

「悩み事なら先輩のあたしが聞いてやるぞ」

 

自信満々といった風に腕を組み、脚を組み、「なんでも来い!」とクリスはふんぞりかえる。出久は相変わらず主張されるその胸にほんの一瞬だけ目を奪われたがすぐに逸らす。切歌を思い出して、罪悪感を感じた。

 

「だから、お前どこ見てんだよ」

「ち、違いますよ!」

「見・た・だ・ろ? 切歌にチクるぞ〜」

「・・・すみません、許して下さい」

「相変わらず素直なやつだな」

 

ケラケラと笑うクリスに対し、顔を赤くして伏し目がちな出久。弟の様な彼をもっとからかいたい気持ちを抑え、クリスは彼の目を見た。その目は真剣だった。

 

「で、なんかあったのか?」

 

それを受けた出久は胸の中の疑問を口にする。

 

 

「実はこの間の事なんですけど・・・」

 

先日の対爆豪戦の話をし始める。

無我夢中で戦う途中に胸に流れ始めたものがあった。自身の個性の名を呼ぶその歌のようなもの。それが何なのか分からなくて、困っている事を。

 

「クリス先輩が助けに来てくれたあの時。僕は確かに胸の中に何かを感じていたんです」

「お前、それってまるで・・・」

 

聞いた話に言葉を失うクリスは眉間に皺を寄せて目つきを鋭くする。この現象にクリスは心当たりがあった。だが同時に『有り得ない』と思う気持ちもある。

何故ならそれはシンフォギアを纏う者にしか聞こえぬ歌のはずだ。

 

聖詠。

それは戦意や願い、祈りに反応して聖遺物適合者の胸に流れるコマンドコード。これを歌うことによりシンフォギアシステムは起動する。

 

だが目の前の少年はシンフォギアシステムを持ってない。それどころか男である。生物学上で下位にある男性にはシンフォギアは適合しないはずなのだが彼には聖詠が聞こえるという。

 

「先輩?」

 

押し黙るクリスにもしかして変な事を言ってしまったのかと心配になり声をかける。怖い顔をした彼女の迫力に怯えながら返答を待つが、クリスはなかなか答えない。

ようやく口を開く彼女。

 

「お前、この事誰かに話したか?」

「まだ誰にも・・・」

「・・・」

 

考え込んだクリスは携帯端末を取り出すと連絡先の中から一人の人物を選び、電話をかけた。すぐに相手は応答する。

 

『クリス君か?』

「おっさん、デクの件で話がある。あとエルフナインも呼んでくれ」

『いきなりだな』

「わりぃな、でも大事な話だと思う」

『・・・わかった。十分後にブリーフィングルームで落ち合おう』

 

通話を終えたクリスは出久をジッと見る。彼は目の前でおろおろと慌てていた。

 

「なんでビビってんだよ・・・」

「僕、どこかおかしいんですかね?」

 

別に何にもしていないのだが、顔を青くして眉を下げた彼は叱られた子犬の様だ。

クリスはその様子に笑い出した。

怒られていると思っていたのが今度は笑い出したクリスに困惑してしまう出久。

一頻り笑うとクリスは彼を促す。

 

「デク、とりあえずついてこい。お前の胸に流れるやつを解明しにいこうぜ」

 

 

 

「まるで聖詠だな」

「はい。聖詠ですね」

 

四人はブリーフィングルームに集まっていた。出久が話した内容に口を揃えて弦十郎とエルフナインは言う。

 

「聖、詠・・・?」

「簡単に言えば装者がシンフォギアを使う為の起動キーだな」

 

出久に噛み砕いた説明をする弦十郎にエルフナインが続ける。

 

「強い想いに対し共振・共鳴した聖遺物が適合者に反響させるもので、これが無いとシンフォギアは起動しません」

「もしかして翼さんや響さんがシンフォギアを使う時に口遊んでいる、あれのこと?」

 

出久は二人との模擬戦を思い出す。確かに二人はギアを纏う時に歌っていた。しかしおかしな事がある。

 

「でも僕はシンフォギアを持っていない・・・」

「その通りです」

 

頷くエルフナイン。

 

「緑谷さん。前にあなたの力について聞いた時の事を覚えていますか? ボク達は緑谷さんのお話を聞いて『理想的な融合症例』と言いました。そして以前にも融合症例の人がいたんです」

「かつての響君は聖遺物との『融合症例』だった」

 

弦十郎はその例外、かつてその身にガングニールの欠片を宿してシンフォギアを纏った少女の事を語り出す。

 

「彼女はギアペンダント無しで聖詠を聞いた。今の君の様にな」

「それと不思議なのは、聖遺物が強い想いに反応して聖詠を返す。これ自体はシンプルなものです。問題はそのキッカケなのですが・・・」

 

う〜んと首を傾げるエルフナイン。聞いていた出久は爆豪と戦っていた時の事を思い出す。あの時自分は何を想っていたのだろうか。

その答えはすぐに出た。

 

「僕は・・・救けたかった」

 

ポツリと呟いた言葉。

 

「別の世界のかっちゃんを、そして切歌ちゃんを。僕は二人を救けたかったんだ・・・」

「君らしい答えだな」

 

弦十郎は出久の頭を力強く撫でる。

しかし力が強すぎてぐらんぐらんと頭が揺すられる。

 

「おっさん、デクの首がもげちまうぞ」

「おっと、すまんすまん」

 

弦十郎はクリスの言葉に笑いながら手を離した。出久は若干痛む首を押さえる。

和んだ雰囲気の中、エルフナインが出久に言った。

 

「緑谷さん。その胸に流れる歌はきっとあなたの力になってくれるはずです。だから今度それが聞こえた時は恐れずに歌ってください」

 

エルフナインのその言葉に力強く頷き返す出久は自分の手を胸に置く。

胸に響き渡る歌をしっかりと離さないように。

 

 

 

基地の通路を歩く弦十郎とエルフナインは司令室に向かう。

その途中でエルフナインは声をあげた。

 

「・・・風鳴さん。ボクにはまだ疑問があります」

「何故ワン・フォー・オールから聖詠が流れ始めたか、だろ?」

「気づいていたのですか!」

 

見開かれるエルフナインの目。

 

「俺も同じ疑問を抱いたさ。別の世界の力がこの世界の理を追従しているのは明らかにおかしい」

「はい・・・」

 

弦十郎は立ち止まると真剣な顔でエルフナインを見下ろした。

 

「だが、俺にはなんとなくだがわかる気がする」

「えぇっ!?」

 

驚くエルフナインに彼は言う。

 

「エルフナイン君。ウェル博士の残したLiNKERレシピの事を覚えているかい?」

「勿論です。それを解析したのはボクとマリアさんですから」

「そうだ。君たちが解明してくれたLiNKERのレシピには重要なファクターがあった」

「それって・・・」

「『愛』の要素だ」

 

ウェル博士のLiNKERレシピを解析する中で脳の『愛』を司る領域を活用する事で負荷を減らすことが出来ることを解明したエルフナインはハッと息を飲む。

これは愛こそが適合に不可欠な要素ともいえる。

 

「緑谷君は人を愛する様になった。その結果彼の力は胸に聖詠を流す様に応えた。彼は『愛する人』が出来た事で成長したのさ」

 

真顔で愛について話す弦十郎を真っ赤な顔で見上げるエルフナインは自分のことの様に照れながら、言った。

 

「それはもしかしなくても、切歌さんの事ですか?」

「だろうな」

 

弦十郎は嘆息する。ゆっくり見守るつもりだったが、若者達は自分の知る以上の速度でその想いを紡ごうとしているようだった。

 

 

 

「そういえば先輩。僕に何か用事でもあったんですか?」

 

胸の歌の答えを得た出久はそういえば、と思い出す。クリスが用もなく訪ねてくる筈がない。

 

「んあ? 待機してて暇だったからな。少しからかってやろうと思って、来た」

「それだけですか?」

「・・・なんだ文句でもあんのか!」

 

昨日のパーティーで散々にからかってくれたこの先輩はまだ足りないと言うのだろうか。

あれこれ質問攻めにされ、誘導尋問により言わなくていいことまで喋らされた昨日の事は思い出しても恥ずかしい。

それにやきもきしているとそれを見透かしたようにクリスは笑う。

 

「ま、嘘だけどな」

 

あっけらかんと言い放つクリスに思わず振り向く。

 

「嘘なんですか?」

「あぁ、本当はお前に頼み事をしに来た」

 

声のトーンが落ちるクリス。

先程での様子は形を潜め、頭を下げながら彼女は言う。

 

「切歌は素直でいい奴だ。どこまでも純粋であたしの自慢の後輩の一人だ。だから・・・側であいつを笑顔にしてやってくれ。先輩として、頼む」

「先輩・・・」

「こんな事あらためて頼む事じゃ無いことはわかってる。それでも大切な後輩なんだ」

 

初めてこんな声で喋りかけるクリスに面食らいながら、彼女の願いを自らの心に刻みつける。この人は大切な人の為に願う事の出来る素敵な先輩だ。その願いを聞き入れない選択肢は出久には無かった。

 

「先輩って、優しい方ですね」

「う、うるせー!」

 

急に褒められたクリスは吠えながら顔を上げる。照れた顔でこちらを睨むが、とても可愛らしい顔だった。

クスッと笑った出久はクリスに自分の言葉を返す。

 

「大丈夫です。切歌ちゃんは僕が守ってみせます。先輩、『頼まれました』」

「あぁ『頼んだぞ』」

 

二人の拳がぶつけられた。

 

「・・・あいつ泣かしたら、お前蜂の巣にしてやるからな」

「いぃっ!!」

「覚悟しとけよ、デク!」

 

この人なら本当にやりそうだと、冷や汗を流す出久であった。




愛、ですよッ! by ウェル博士

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