僕のヒーローシンフォギア   作:露海ろみ

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四十二話目となります。

皆様、お久しぶりでございます。
新しい話を投稿デス。

リディアン校門パート、その2となります。


42.僕の大切な友達

下校時間のリディアンの校門前。

学業を終えた少女達が三々五々とそこを抜け出してくる。

柱を背にした出久はボーっと空を見上げていた。空には飛行機雲が出来ている。ついさっき通り過ぎて行ったそれが作り上げたものだ。飛行機雲ができるということは数日中に雨が降るのだっただろうか、と出久はうろ覚えの知識を思い出す。

そんな彼の姿はやはりかなり浮いていた。先日の騒ぎを覚えている者もいるようで、出久の姿を見ながらヒソヒソと話していた。

 

「あれって確か雪音先輩の・・・」

「弟さんとか?」

「ううん。彼氏らしい!」

「あんな冴えないのが?」

「らしいよ!」

 

誤解は解けていないようでこの少年はクリスの彼氏なのだと周りは思い込んでいた。

 

「・・・なんか犬っぽいよね、あの子」

「犬耳と尻尾生やしたら似合いそう」

「わかる。忠犬、って感じ」

 

そんな周りの声などつゆ知らず、出久は空を見上げながら恋人を待ち続けていた。

 

『はやく来ないかな』

 

周りの声が聞こえないわけではない。だがそんな事より彼の切歌の事ばかり考えていた。周囲の声など今の出久にとってはどうでもいい。

ただ彼女に会いたいだけだった。

そんな彼に声をかける人物がやってくる。

 

「・・・出久君」

 

出久がその声に振り向くと調が驚いた顔をしている。

 

「どうしてここに?」

「その、切歌ちゃんに会いたくて」

 

照れた様に言う彼。そんな彼に切歌の現状を伝える調。

 

「・・・そう。でも切ちゃんならすぐには来ないよ」

「え!?」

「今日授業中居眠りして、先生に叱られてるの。今は補習中」

「・・・なるほど」

 

出久にはその情景が容易に想像できた。きっと幸せそうな顔で陽の光を浴びながら寝ていたのだろう。その姿を想像して、なんだか彼女らしいと笑ってしまった。

彼の顔を見ながら付き合いの長い自分より切歌を知っているような様子に複雑な顔をする調。

 

「もう少ししたら来ると思うから、出久君は待っててあげて。私はお買い物があるから行くね」

 

そう言ってその場を後にしようとする調だったが、出久は不思議そうな顔をする。

調は彼の反応がよく理解できなかった。恋人を待つのが恋人の役割ではないのだろうか。そこに自分は必要ないはずだ。

だが出久は言う。

 

「・・・ならそれまで調ちゃんの用事に付き合うよ」

「え?」

 

この少年は何を言っているのか。

 

「出久君は切ちゃんを待ってるんじゃないの?」

「そうだよ?」

 

当たり前のように答える出久。

 

「なら、私より切ちゃんを大切にしてあげて!」

「でも調ちゃんをほっとけないよ。それに切歌ちゃんの大切な人は僕の大切な人だもの」

 

その言葉に衝撃を受ける調。

思わず彼の顔を見るが、彼はさも当たり前のようにこちらを見ていた。

 

「なんで・・・」

 

思わず口から漏れる疑問。どうしてこの少年はこんな事が言えるのだろうか。

訳がわからなかった。

それきり言葉を失う調に出久は話しかける。

 

「確かに切歌ちゃんは、その、僕の恋人だけど・・・」

 

少し声を小さくしながら喋る出久。やはり口にするのは照れるらしい。だが次の言葉はしっかりとした強さを持っていた。

 

「君も僕の大切な友達なんだ。そんな悲しそうな顔をしてたら心配になるじゃないか」

 

そう言われて調はようやく自分の事に気がついた。知らず知らずのうちにそんな顔をしていたらしい。顔に手をやると、目を伏せる。

 

やはり自分は切歌が側から離れていってしまう事に心穏やかではいられないらしい。

それだけ自分は彼女の事が好きなのだ。

 

「調ちゃんも切歌ちゃんが大好きなんだね」

 

顔をあげるとそこには微笑む出久。

 

「いつもはクールだけど切歌ちゃんの事になると表情豊かになるから、よくわかるよ」

 

その言葉に頬が熱くなる。顔にやった手からも熱を感じた。何気に恥ずかしい事を言われた調は熱くなった頬を膨らませる。

むー、とした顔のまま言い返した。

 

「・・・出久君のいじわる」

「え! そ、そうかな?」

「絶対、そう!」

 

いじわる、と言われて狼狽する彼は目に見えて慌てだした。そんな様子を見て、今まで胸の中にあった蟠りが解けていくのを感じる。

 

そしてどこまでも優しくて友達思いの彼を困らせてやろうと、とびきりの笑顔をする。

 

「出久君、ちょっと屈んで?」

 

いきなりの事に出久は言われた通り、彼女と目線を合わせるくらいまで屈む。

 

「こ、こう?」

「うん。そのままでいて」

 

調は携帯端末を取り出すと彼の側に寄る。彼の顔に自分の顔を近づけて、カメラモードで自撮りをする。画面には出久と調、二人の顔が綺麗に写っていた。

写真を撮り終えた彼女は端末を操作するとポツリと呟いた。

 

「そんないじわるな出久君には修羅場をプレゼント」

「え?」

 

画面を見せる調。そこには切歌宛に送信された写真と文面があった。

 

『出久君とデートしてくるから、切ちゃんは補習がんばって。 二人で仲良く待ってるから!』

 

「なんてことを!?」

「出久君が悪い」

「なんで!?」

「しーらないっ!」

 

そう言うとさっさと歩き出す。後ろからは自分を呼ぶ声と追従する気配。

それを感じながらクスクスと笑う調は大好きな彼女を奪っていった彼を今後どうしてやろうかと作戦を巡らせるのであった。

 

 

 

 

そのやり取りを見ていた周りの人々。

 

「え・・・あの子、雪音先輩の彼氏じゃなかったの?」

「ていうか、二股?」

「見てた限りだと、三股かもだよ?」

「あんな顔して、肉食系・・・」

「女の敵・・・許すまじ」

 

調の作戦通りに自分の評価がどんどんと落ちていくのを彼は知らない。

 

 

 

 

その頃。

補習中の切歌はしょぼくれた顔で板書をノートに書き写していた。

今朝、チラシを見た調が「今夜は切ちゃんの好きなオムライスにしよう」と特売の卵を指差しながら言った事を思い出す。

 

『本当なら調とお買い物に行くはずだったのに・・・』

 

これも全部太陽が悪いのだ。あんなに暖かな光に昼食後の自分が抗えるはずもなく、それこそ自然な流れで眠りに導かれてしまった。

あの暖かさに勝てるものがあるだろうか。いや、無い!などと自分を正当化した所で結局授業中寝たのはまずかったらしい。担当教師から大目玉を喰らい、今やこのザマである。

 

『およよ・・・。兎にも角にも早く終わらせて、調と合流するデスよ・・・』

 

粛々と補習を受ける切歌のポケットで振動が起きた。こっそりと端末を見ると調からのメッセージだ。教師にバレないように確認したその内容に驚愕する。

 

『出久君とデートしてくるから、切ちゃんは補習がんばって。 二人で仲良く待ってるから!』

 

仲睦まじく赤い頬を寄せる二人の写真と添えられた一文。

 

「なんデスとぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

衝撃のあまり端末を手に立ち上がり、叫んでしまった。

そんな切歌に青筋を浮かべながらも担当教師はあくまで冷静に声をかけた。

 

「暁さん?」

「調ぇ! 裏切ったデスかぁ!?」

「・・・暁さん?」

「デク君もデク君デス! わたしとゆーものがありながら・・・!」

「暁さん? 聞こえていますか?」

「デデデデース!!」

 

一人盛り上がる彼女に遂に教師は声を張り上げた。流石はリディアン音楽院の教員であり、窓ガラスが震えるほどの声量だ。

 

「あ・か・つ・き・さ・んッ!!!」

「はいッ!デスッ!」

 

流石の切歌もその背を伸ばして、声の主を見る。そして今が何の時間だったのかを思い出し、冷や汗を流し始める。目の前の教師はかつて無いほどの笑顔でこちらを見ていた。

 

「先生の授業は退屈ですか?」

「そんな事ないデス!」

「それなら携帯を見る余裕は無いはずですよね?」

「その通りデス!」

「なら授業に集中しなさいッ!!」

「ごめんなさいデース!」

 

残念ながら切歌の補習は延長される事になった。




調ちゃん・・・。

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