僕のヒーローシンフォギア   作:露海ろみ

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四十五話目となります。

轟焦凍君、参戦となりました。
もちろん、ただでは済みません。

あと先に言わせて頂きます。
本当にすみません。


45.新たなる敵(クラスメイト)

「轟君・・・」

 

対峙するは苦楽を共にする級友。

だがこちらを見下ろす彼の右眼は鋭かった。

 

「デク・・・。お前、デクだよな?」

 

その問いかけに出久は答えない。もし彼が自分の知る彼ならすぐに答えていただろう。

それでも答えないのは彼の風貌と言動から異世界の轟だと看破したからだった。

 

長く伸ばされた髪。背も少し高い。

左顔面全てを覆う火傷の跡。それ故にか潰れた左眼。

躊躇無く左手の炎を燃え上がらせる彼の姿。

そして何より自分の事を『デク』と呼ぶ。

 

どれをとっても自らの知る彼ではない。

 

「騒ぎを起こせば来ると思ってたよ。お前は正義の味方だもんな」

 

轟の口元が歪む。醜悪な顔をした彼は出久に更なる違和感を与えた。

彼は、そんな顔をしない。

出久は彼に気づかれない様に回線を開く。もしこの後自分が倒れても、誰かが引き継いでくれる様に。それほどに轟焦凍は手強い相手なのだ。

そこまでして漸く出久は口を開いた。

 

「轟君。君は、何をしているの」

「何って、ヴィランらしく破壊活動だよ」

 

彼は事もなげに答える。むしろ今更何言ってんだ?というニュアンスすら感じる。

 

「・・・ヴィラン」

「俺がヴィラン、お前がヒーロー。いつも通りじゃねぇか。ん? お前少し縮んでないか?」

 

長い髪をかきあげながら、目を細めてこちらを見てくる轟。

彼の手が動くたびに身体がピクリと反応する。轟の個性は凶悪だ。

『半冷半燃』

右手から氷結、左手から炎熱を出す唯一無二の力は同年代の中でも最強クラスの制圧力を誇る。

以前戦った時はほぼ右手の氷結能力だけだった。にも関わらず、両腕を犠牲にして精一杯。炎を使い始めてからはあっという間にやられた。

警戒せずにはいられない。

ある意味、爆豪よりも『強い』

 

出久の思考が回る。

自分の想像の通りなら、目の前のクラスメイトはそれだけでは済まないはずだ。

恐らく姿から察するにこの轟は『数年後』の姿。

細かいコントロールが苦手だったはずだが克服している可能性が高い。その証拠に足元の噴水はその水の部分だけを器用に凍らせている。造形の部分は少しも凍っていない。

更に左手の炎。彼の父エンデヴァーへの憎しみを克服して使う様になったその力は、燃え方が美しいと思う位に巻き上がっていた。

 

「まぁ、いいか。それじゃあ俺もいつも通りにするさ」

「待って!」

「待たない」

 

制止の言葉を拒絶したヴィラン『ショート』の右腕が振り降ろされる。

 

「さぁ、今日こそ殺してやるよ。『No.1ヒーロー』!」

 

ショートの右腕から広がり始めた氷結は一瞬の内に出久の視界を覆う程に成長していく。轟お得意の氷壁ぶっ放し。

 

「SMASH!!」

 

ワン・フォー・オールを起動させた出久は左脚で氷壁を蹴り上げる。バキバキと音を立てて二つに割られる氷。

 

「流石だな、デク」

「・・・ッ!」

 

氷壁を蹴り砕いた出久は脚に痛みを感じる。前よりも硬く、冷たい。個性の成長により氷の密度が上がっているのかもしれない。

 

「さっきの奴らはこれだけで動けなくなってたんだけど、やっぱりお前は格別だ」

「それって、もしかして!」

 

突如通信の切れた二人の事だろう。

 

「あいつら知り合いのヒーローか? 心配するなよ、ちゃんと凍らしてある。俺を倒せれば助けに行けるかもな・・・」

「轟君!」

「倒せればな!」

 

ショートはその両腕を振りかぶりながら飛び込んできた。

スローモーションにも感じる接敵に出久の胸が熱く燃えだす。

 

—胸にノイズ混じりの歌が奔る。

 

 

 

「調ぇ! しっかりするデスよ!」

 

下半身を凍らされた調に駆け寄る切歌は氷を鎌で切り裂いていく。そんな相棒に調は冷え凍る腕を伸ばして隣を指さした。

 

「私より、響さんを・・・」

「立花! しっかりしろ、立花ッ!!」

「先輩ッ! あたしがやる!」

 

そこには全身氷漬けの響がいた。

こちらに手を伸ばした姿のまま凍りつく彼女は咄嗟の判断で調を突き飛ばし、氷結のメインルートから外したのだ。

 

「こいつが一瞬でやられるなんて・・・!」

 

ガトリングで氷を砕きながら怒りをあらわにするクリスはグリップを強く握り込んだ。

銃弾により氷が薄くなっていく。

 

「あとはまかせて!」

 

マリアが左腕を振りかぶりながら叫ぶ。その一撃で残りの氷を砕ききる。気を失った響が倒れる所を翼が抱きとめた。響の身体は砕いた氷より冷え切っている。

 

「しっかりしろ、立花!」

 

それとほぼ同時に調を捕らえていた氷も砕かれた。こちらも力を失い倒れそうなところに切歌の腕が回される。

 

「調!」

「切ちゃん・・・」

 

その冷えた身体を温める様に抱きしめる。自分の家族にここまでされたのだ。切歌の中で怒りの炎が巻き起こった。

 

「許せないデス・・・」

「あぁ・・・あたしもだ!」

 

その炎は隣に立つクリスにも燃え広がる。

二人の明らかに我を忘れた様子に翼が止めに入る。

 

「待て、雪音!」

「ここまでされて冷静でいられるかァ!!」

 

言うやいなや、怒りを撒き散らしながらクリスは飛び出していく。

 

「・・・あいつというやつは!」

「翼さん、調をお願いするデスよ!」

「貴様もか、暁!」

「私の大切な調を傷つける奴は許せないんデス!」

 

手の中の鎌を握りしめ、目に涙を溢れさせ、その目の内に黒い炎を燃え上がらせている。叫ぶ姿に翼は気圧された。

だがそんな切歌の腕の中で調が言う。

 

「切ちゃん、行って。出久君を救けてあげて」

「調!」

「この先に向かった奴は出久君の名前を呟いてた。きっと彼を狙ってる」

 

身を襲う寒さから息も絶え絶えになりながら切歌に、彼の『彼女』に伝える。

貴女が持つべきものはそんな醜い炎ではないと。

 

「切ちゃんの『大切な人』を、救けに行って!」

「調・・・」

 

彼女を翼に預けた切歌は胸に燃える炎を燃やしなおす。

炎の色が変わる。

黒く醜い炎から明るく照らす炎へと。

 

「翼さん、ごめんなさいデス。・・・でも行ってくるデス!」

「全く。お前といい雪音といい、仕方のない奴らだ。・・・無理はするな?」

「デス!」

 

やれやれ、といった顔の翼は先程とは違う炎を宿した切歌を送る。

今の彼女なら大丈夫だろう。

 

「切歌! 私もできるだけ早く合流するわ。クリスが暴走してたら、殴ってでも止めなさい!」

「暁。緑谷を頼んだぞ」

「了解デース!」

 

二人の言葉に元気よく答えた彼女は空へ飛び出した。

目指すのはこの道の先。そこに彼はいる。

 

 

 

左の拳が炎を纏う。その構えを見て出久の目が開かれる。その技を自分は知っている。それは君のお父さんの・・・。

 

「赫灼熱拳・・・」

 

エンデヴァーの技!

 

【JET BURN !!】

 

炎により加速した拳が自分の首をもぎ取ろうと襲いかかってくるのを既のところで頭を横に倒して躱す。熱が顔の横を焼いていくのを感じた。

距離をとり、間合いを調整する。

出久の知る轟はこの技を使えなかった筈だ。それなのにこの彼はまるで自分の技の様に使いこなしている。

背筋が寒くなる。ただでさえ強い彼が更に強いヴィランとしてこちらを狙ってきている。

 

「ほら、余所見すんな」

 

右腕を掲げながらショートは叫んだ。

その掌に冷気が集まっていく。

 

「『霧氷冷拳』・・・」

「そっちも使えるのかよッ!?」

 

【JET ICICLE】

 

多数の氷柱が我こそが串刺しにしてやろうとその手から生まれ始める。出久が調整した間合いは最悪だった。近すぎる。避ける場所が後ろ以外ないのだ。

後ろに飛びながら歯を食いしばり、拳で、蹴りで氷柱を砕いていく。だが数が多すぎた。

 

『追いつかないッ!』

 

捌き切れないそれが身体を傷をつけていく。血が吹き出る側から凍りついていった。

氷柱に撃ち抜かれた出久は地面を転がる。

 

「おい、デク。手を抜かれても困るんだよ。本気のお前を殺さなきゃ、意味がないんだ」

 

ジェットアイシクルを撃ち終わったショートは倒れるヒーローに投げかける。

 

「さっさと立て! No.1!」

 

身体が、痛い。あれだけ喰らえば当たり前だ。しかしさっきから何故彼は僕の事をそんな風に呼ぶのだろうか・・・。

だってNo.1ヒーローは僕じゃない。

無理やりに身体を起こす。力を込めた腕の氷が溶けて血が吹き出すが構ってはいられなかった。

 

「さ、さっきから訳の分からない事を言うな! 今のNo.1はエンデヴァーじゃないか!」

「・・・お前、何言ってるんだ?」

「君のお父さんがNo.1ヒーローだって言ってるんだよ!」

 

そんな出久にとっては当たり前の疑問。だがショートは額に手を当て、ため息を吐く。

 

 

「もう殺した奴がNo.1なわけがない」

 

 

出久の思考が真っ白になる。

『殺した』

誰が? 誰を?

 

「あの糞親父はもう死んだろ。自分の炎に焼かれて芋虫みたいな姿になってな。流石は俺の下位互換だ。持久戦に持ち込んだら、最後はあっという間だった」

 

目の前の青年は何を言っているのだろう。

自分の父を殺したというのだろうか。

エンデヴァーと彼の確執は聞いていた。

だがそれでも轟は自分の目指すヒーローに向かう為に父と向き合っていこうとしていたのではないのか?

 

「嘘・・・だろ?」

「お前もあの時、あいつの死体見たろ」

「嘘だ・・・」

「爆豪と一緒に縋り付いて泣いてたじゃねぇか」

「嘘だッ!」

「嘘じゃねぇ。事実だ」

 

ただ淡々と事実だとばかりに話すショートに胸の疼きが高まる。

 

—胸に歌が流れる。

—だがその歌はノイズだらけで聞こえない。

—聞こえていた筈の言葉さえ今はかき消される。

—ただ、ノイズだけが、流れ出す。

 

「ふざ、けんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

出久の絶叫にその力が呼応する。

だが、間違った方向に。

 

「AAAAaaaaaあぁAaaAaaaaaaaa!!!!」

 

思考が塗りつぶされていく。

真っ暗に、漆黒に、暗澹に。

憎しみが、悔しさが、怒りが出久の全てを書き換えていく。

 

そして唱える。ノイズだらけのその歌詞を。

 

「Sy—o-i-e -n- f-r A-- tro-...」

 

呪いの旋律を唄う出久は新たなる力に目覚める。

 

漆黒のギアに支配された獣が、現れた。

 




轟君の右腕技は私の創作です。

あと轟君の扱いについては陳謝します。

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