僕のヒーローシンフォギア   作:露海ろみ

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四十六話目となります。

前回が前回でしたので癒し回です。
時系列的には43話と44話の間。三人で帰ったあとの話となります。

ちなみに。
44話で出久が起きた時間は深夜一時過ぎ。
そして轟君の誕生日は1月11日と、とってもわかりにくい示唆をしておりました。
私の自己満足でございます。


沢山の閲覧をありがとうございます。
出来うる限りお答えさせて頂きますので、ご感想・ご質問は遠慮なくお気軽にお声掛けください。
皆様の声が私の楽しみです。


46.幕間5

「お、お邪魔します」

「どうぞデース!」

「いらっしゃい、出久君」

 

迎えられた出久は両手に満載の荷物と共に緊張しながらドアをくぐる。

そこは切歌と調の部屋。夕飯に招待された彼は初めて『彼女』の部屋にやってきた。

明らかに自分の部屋とは違う匂いを感じて、ドキドキする出久。

人は自分と遠い匂いにときめきを感じるらしいと何処かで読んだことがあるが、そんな事よりも今女の子の部屋を訪ねていることに心臓の鼓動が荒ぶっていることを自覚せずにはいられなかった。

寮生活に入る時にクラスメイト達と部屋王選手権をして女子の部屋を見たりはしたが、しっかりと訪ねたのは初めての経験だ。

 

「それ、冷蔵庫に入れちゃうね」

「あ・・・はい」

 

言われたままに手にした袋をぎこちなく調に渡した。受け取った袋からテキパキと仕分けて食材をしまっていく調。母さんみたいだと出久は思いながら、調の行動を見守る。その視線に気がついた切歌は少しむくれた顔をしながら彼の腕をつねった。

 

「痛たた・・・」

 

怒った顔をした切歌の顔を見た出久は郷愁を忘れ、目の前の彼女を見つめた。怒ってはいるのだが、そこには寂しさを滲み出した切歌の顔。つい彼女の髪を撫でる。以前の自分なら明らかに出来なかった事だが、何故だか今は自然に手が動いた。撫でられた彼女はというと赤くした顔でそれを受け入れている。

 

「照れちゃうデス・・・」

 

彼女の様子にほっこりとする出久。

そしてその様子を見ながらにっこりとする調。

だがその口調は穏やかではなかった。

 

「二人とも、そういうのは二人だけの時にやってね? 怒るよ?」

「「ごめんなさい(デス)」」

 

静かな笑顔に二人揃って頭を下げる。

 

「出久君は罰として卵無しね」

「それってただのチキンライスじゃ・・・」

「文句あるの?」

「あ、ありません」

 

あまりの迫力に抗う力を失い、縮こまる。美味しいオムライスをご馳走になるはずが、チキンライスにグレードダウンしてしまった。

しょんぼりする出久に今度は切歌の手が伸びる。

 

「わたしのを分けるデスよ」

「切歌ちゃん・・・!」

 

伸ばされた手を握る出久と嬉しそうにその手を受ける切歌。見つめ合う二人。

そんな幸せ空間に調の怒りは頂点となる。彼女の髪が黒いオーラと共にふわりと浮き上がった。顔が笑顔どころか般若である。

 

「二人ともこれ以上邪魔するなら、白いご飯だけでいいよね」

「「本当にすみません(デス)」」

 

怒られた二人は慌ててキッチンを離れていくのだった。

 

 

整頓された二人の部屋。

そのリビングに切歌と出久はいた。同じソファに二人は微妙な距離をとって座っている。

一緒に座るのは初めてではない。しかし前とはお互いの関係性も変わった。

友達同士から、彼氏と彼女。

ふらわーのおばちゃんからアドバイスをもらってはいたが、出久には実行するのは経験が足りない。どこか意識してしまう。

それが大好きな彼女と二人きりなら尚更だ。

隣に座る切歌も何処か所在なさげにもじもじしていたが、先に話を始めたのは彼女からだった。

 

「・・・デク君は今日はなにしてたデス?」

「えっと、走り込みをしてて・・・お昼にお好み焼き食べたかな」

「もしかしてふらわーデスか?」

「そうそこ!」

「あそこのお好み焼きは絶品デスからな〜」

 

緊張していたはずだ。それなのに話し始めるといつの間にか自然に会話している。ころころと表情が変わる切歌の顔を見ていると強張った心が解けていく。

 

「そうだ! デク君、ゲームするデスよ!」

 

そう言うと切歌はテレビの下からコントローラーを取り出してきた。白い一つを出久に渡して、切歌は緑のそれを手に取る。

 

「これ、知ってるデスか?」

 

見せられたパッケージは往年の大乱闘シリーズ。自分の世界にもあるし、クラスメイトの部屋で遊んだ事もある代物だった。

 

「この世界にもあるんだ」

「デク君、勝負デース!」

 

互いにキャラクターを選んで、スタートする。わいわいとゲームに興じているうちに気がつけば二人の距離は無くなっていた。

互いに互いの温かさを感じながら時間は過ぎていく。

 

 

「二人とも、ご飯出来たよ」

「オムライスが、来たデス!」

「僕、机片付けるね」

 

調の呼び声にそれぞれ反応した二人はテキパキと手伝いを始める。三人の前にはオムライスが並べられていく。

献立はオムライスとコンソメスープだ。

出久が並べられたそれを見ると、調と切歌のものにはケチャップで書かれたハートが可愛く描かれている。

だが・・・。

 

「調ちゃん、これは・・・」

「ハートだよ?」

「いや、確かにハートなんだけどさ」

 

出久のオムライスにだけ二つに割られたハートが描かれていた。これにはなんらかの意思を感じざるを得ない。

調の方を見ると彼女は当然でしょ?と笑いかける。

 

「あ、あはははは」

 

もう出久は乾いた笑いしか出てこなかった。

 

 

調のオムライスは絶品だった。トロトロの半熟卵をスプーンで割るとしっかり炒められたチキンライスが顔を出す。

一匙掬い口に含むと卵の甘みと鶏の旨味が口中に広がり、ミックスベジタブルのシャキシャキとした食感が楽しい。下手な解凍をするとベシャベシャしてしまうはずなのに、これにはそれがなかった。

 

「美味しい!」

 

心からの感想が口から出る。匙が止まらない。次から次へと口に運ぶ。

時折スープに手を伸ばす。具は蕩けた玉ねぎだけのそれは胡椒の辛味が静かに効いていた。甘さの際立つオムライスに対照的な味わいのコンソメスープはベストマッチだ。

 

「調のお料理は絶品デース!」

「ほら切ちゃん、ほっぺにお弁当がついてるよ」

 

はぐはぐと食べ進める切歌を気遣う調はその米粒を取り、ぱくりと食べる。それを見つめる出久にドヤッ、と誇らしげな調。だがそんな彼女の気も知らず『仲良いなぁ』とニコニコ笑顔の出久なのであった。

 

 

「は〜。お腹一杯デース」

「調ちゃん、ご馳走様」

「お粗末様でした」

 

オムライスはあっという間に無くなり、空の皿がテーブルに並ぶ。出久は立ち上がると皿をまとめはじめる。

 

「出久君はお客さんなんだから座ってて」

 

調が止めるが、出久はその手を止めない。

 

「こんなに美味しいご飯を作ってもらったんだ。せめて後片付けはやらせてよ」

「でも・・・」

「寮でやってるから大丈夫!」

「・・・こっそり切ちゃんのスプーン舐める気でしょ?」

「何言ってるの!?」

 

とんでもない事を言い出す彼女にツッコミを入れる。見ると調の言葉に真っ赤な顔をしている切歌と目が合う。

 

「しないよ? ホントだよ!?」

「慌てるところが怪しい」

「しないってば!」

 

まとめ終わった出久はすぐに流しに向かうと食器に水をかける。

 

「もう・・・」

 

出久は火照る頬をそのままにスポンジに洗剤を塗すと食器を洗いはじめる。

 

 

洗い終わりリビングに戻ると切歌と調は先程まで遊んでいたゲームをしていた。

出久の見る限り優勢なのは調だ。ピンクの悪魔を使う彼女は切歌のキャラを吸い込むと諸共画面外に落ちようとする。だが自滅するに見せかけて途中で吐き出し、自分だけ悠々とエリアに戻る。その繰り返しだ。

実にエゲツない戦法だった。

 

『うわぁ・・・』

 

切歌の惨状に思わず心の中でドン引く。あそこまであからさまなピンクの悪魔使いを初めて見た。瞬く間に切歌の残機は無くなりゲームセットとなる。

 

「私の勝ち」

「調ぇぇ!」

 

脚をバタバタさせながら叫ぶ切歌を尻目に自身の勝利に満足そうな顔をする調は出久を見るとニヤリと笑った。

 

「やる?」

 

その挑発にコントローラーを握る事で答える。切歌の仇は自分がとらなくてはならない。

 

「ゲームだからって、負けないよ!」

「完膚なきまでに負かしてあげる」

 

切歌を挟んで座る二人の戦いが始まる。

その結果は出久の惨敗だった。

なお。切歌とタッグを組んでも調には勝てなかった。

 

 

「じゃあ、そろそろ帰るね」

 

時刻は九時を回る頃、出久は玄関で二人に告げる。出久を(ゲームで)ボコボコにしたのが嬉しいのか満足げな顔をした調と寂しそうな切歌が見送る。

 

「オムライス、ご馳走様でした」

「また食べに来てね」

 

ひらひらと手を振る調。

対照的に何か言いたげな切歌。

だがその言葉は口に出されることはない。

 

「切歌ちゃん。また明日」

「また、明日デス・・・」

 

その言葉を最後に扉が閉じられる。

ドアの向こうからは遠ざかる足音が聞こえた。それを聞きながら離れていく彼の気配に切歌はさっきまで感じていた彼の存在が薄れていくのを感じる。

明日になればまた会えるはずなのに、それなのに、今の自分はそれが許せない。満たされていた自分の半身が消えていくように感じていた。

 

リビングに戻り、彼の座っていた場所に座る。ほんのりとまだ彼の温もりが残っているように感じた。

伝わってくるそれを残さず味わう。それだけで彼を感じられた。

 

今はこれで我慢しよう。

また明日。彼の声を、姿を。

自分いっぱいにしっかりと受け止めよう。

その明日を想い切歌は微笑む。




平和回を挟んだのは私自身の精神安定のためです。

次回こそは切歌・クリスが出久と対面します。

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