お疲れ様でございます。
次の話を投稿させて頂きます。
絶唱ステージ12が目前に迫り、カタログを買いに行ったら売り切れておりまして・・・当日買うしかないのですかね。
16日が楽しみです。
「デク君」
「・・・うん」
「大丈夫デスか?」
「・・・うん!」
涙で切歌の服を濡らしながらも彼女から離れられない。その背に手を回す出久は恥も外聞もなく彼女に縋り付く。
自分は一体何を考えていたのだろう。轟の言葉に我を忘れ、この手で彼を殺そうとしていた。それどころかクリスを攻撃し、切歌をも手にかけようとしたのだ。
誰かを救けるために受け継いだ力でとんでもない事をしてしまった自分が許せない。
「僕・・・僕はなんて事を・・・」
泣きじゃくりながら自分を包む彼女の感触を確かめる。彼女は確かにそこにいた。だがもしかしたら、いなかったかもしれないのだ。
そんな出久の様子に嬉しそうな切歌も彼の感触を確かめる。
「それでも。デク君は止まってくれたデス」
「え・・・」
「わたしのお願いを、聞いてくれたデス。それにちゃんと聞こえていたデスよ」
彼の髪を撫でる。癖っ毛のそれはふわふわとした感触が気持ちいい。見上げる彼の顔は涙でぐしゃぐしゃだ。でも、そんなかっこ悪い顔が自分の大好きな顔だった。
「『救けて』って」
「・・・切歌ちゃん!」
感極まり彼女の頬に自分のそれを合わせる。柔らかい感触と温もり。自分が捨て去りそうになったそれはしっかりと自分の側にあった。
「ごめん・・・ごめんね」
「いいんデスよ、デク君」
「救けてくれて、ありがとう!」
「・・・どういたしましてデス!」
彼は自分より背が高いはずなのに、今はとても小さく見えた。幼子の様な彼の涙と想いを受け止めてあげる。
大好き、と心の中で呟く。
だがその言葉は口には出さず、手の力で表現する。
「お前らさ、そういうのは後でやれよ・・・」
そんな二人の、正確には切歌の後方から声がかかる。半ば崩壊しかけた壁に寄りかかりながら立ち上がる呆れ顔の青年がいた。
「ダメか、やっぱり両方ともイッてんな」
折れた両腕をだらん、と降ろしたショートは腕をチラリと見て被害を確認し、ため息をついた。
「また殺せなかったか・・・」
自分自身さえ嘲笑う様に彼は呟くと、爆豪の時の様にその身体が光の粒子とともに消えていく。
「『時間切れ』だ。今度は決着をつけよう、デク」
冷たい目でこちらを見据えるショートに出久は言う。
「轟君、ごめん!」
「・・・は?」
明らかに場違いの台詞にショートの口が開かれた。
「僕・・・君をそんな風に傷つけるつもりはなくって! 自分でもよくわからなくなっちゃって・・・本当にごめん!」
そのあまりに見当違いな言葉を聞いたショートの肩が震えだす。さっきまで殺し合っていたのに、それを謝る出久に轟は笑い声をあげる。
一頻り笑うと、出久が見たことのある顔をした彼がいた。
「お前は、本当にお人好しだな。緑谷」
「轟君」
「でも、俺達の道は違えたんだ、デク」
ほんの一瞬だけ垣間見えた顔は消え去り、ショートの目は鋭く輝く。
「No.1ヒーロー。お前を殺す」
その言葉を最後にショートの姿が消滅する。彼がいた場所には小さな炎が燃えていたが、すぐに力を失い消えた。
残された二人は倒れたままのクリスの元に辿り着く。ギアを纏ったまま気絶する彼女を抱き起こして揺すると彼女はすぐに目を覚ました。
「クリス先輩!」
「よう・・・。やってくれたな、デク」
弱々しく答えたクリスは正気に戻った彼を見て口角を上げた。だがすぐに身体が痛いのか顔を顰める。それを見た出久は改めて自分のしでかしたことの大きさに目を伏せた。
「先輩、すみませんでした・・・」
「はッ! まったく手のかかる後輩だ」
クリスは切歌に肩を借り、立ち上がるとギアを解除する。ギアのサポートが消えると軽減されていた痛みが増したのか彼女の身体が悲鳴を上げた。
「ほんっとにやってくれたな!」
「すみません、すみません!」
もうこのまま土下座まで移行するかの様にペコペコと頭を下げる出久。その姿にしょうがないやつだなと彼を小突き、笑う。
「さぁ、帰るぞ!」
「はいデース!」
「・・・はい」
「いつまでもしょぼくれてんじゃねぇ、暴走ヒーロー!」
今度は出久の尻を蹴り上げる。
その痛みに彼はクリスが生きてくれている事を実感するのだった。
基地に戻った彼らは真っ先に医務室に向かう。クリスからの情報で先に搬送された響と調の容態が気になる。
だが心配した三人が医務室の扉を開けると、そこには驚きの光景が広がっていた。
「あ! 三人とも、おかえり〜!」
両手におにぎりを持った響が元気よく彼らを迎える。自身が氷漬けであった事実などなかったかの様に手にしたおにぎりに口をつける彼女。
それを見て凍りつく三人は美味しそうにおにぎりを食べる響を見て、次にベッドの上の調を見て、もう一度視線を響に戻した。
やっと言葉を取り戻した出久はここまで一緒にやってきたクリスに質問する。
「・・・響さん、全身氷漬けだったんじゃなかったんですか」
「あ、あたしは嘘は言ってないぞ!」
それに慌てた様に答えるクリス。彼女自身、響の惨状を目にしていただけに目の前でピンシャンしている彼女が信じられなかった。
「デース・・・?」
普段お気楽な切歌でさえも眉間にシワを寄せて訝しげな顔になる。
そんな目の前の光景に困惑する三人にエルフナインがやって来る。
「皆さん! ご無事で何よりです」
「おい待て。あいつどうなってんだよ」
医務室の主人に湧き出る疑問をぶつけるクリス。それを受けたエルフナインも困った様な顔をした。
「それが、ここに来て目を覚ますなり『お腹が空いた! 何でもいい! じゃんじゃん持って来て!』と申されまして・・・」
「いや、そうじゃねぇ!?」
至極真っ当なツッコミを入れた。
「調がベッドの上なのに、あいつ元気すぎるだろ!?」
「一応検査はしたのですが、どこにも異常がなかったんです」
「化け物か・・・」
目の前のごはんモンスターに驚愕の視線を向けたクリスは響に歩み寄るとその頭をひっ叩いた。
「あいたぁ! クリスちゃん、なんで叩くの!?」
「こちとら心配したのに、呑気に握り飯かっ喰らいやがって!」
「だってお腹空いたんだもん・・・」
言いながらも食べ終わり、もう一つ手に取る響にツッコミを入れる気さえ失せたクリスは項垂れる。
「もういい・・・あたしは休む」
そして辛うじてそれだけ言うと空いているベッドに倒れ込む。彼女自身怪我人であり、そろそろ限界だった。それにエルフナインが慌てて看護を始める。
エルフナインが走り回る中、響は咀嚼し終えて、新しいおにぎりを手に取りながら出久に告げる。
「あ。出久君!」
「は、はい」
「師匠が話があるって呼んでたよ?」
それを聞いた出久は後ろめたい気持ちになる。十中八九暴走の件だろう。
思わず暗い表情になる彼の手を切歌が握った。彼女を見ると大丈夫、とその顔が語っていた。
それに何とか笑みを作って、返す。
だが出久の心は晴れなかった。
調についているという切歌と別れて出久は一人、弦十郎のもとへ向かう。彼は今、司令室にいるらしい。
一歩ずつ進める脚が重い。だが進むしかなかった。
音を立てるくらい歯を噛みしめながら、出久はその脚を進め、目的地を目指す。