僕のヒーローシンフォギア   作:露海ろみ

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四十九話目となります。

朝方まで煙草を燻らせながら書いていると、自分がその場にいるような気持ちになる私です。目の前の彼等の台詞一つ一つが湧き上がってくる感覚が楽しくてたまりません。
おかげで寝不足なのですが・・・知ったこっちゃありません。

仕事・・・?
はて、なんのことやら?


49.弱い心と強い心

目当ての人物は司令室へ向かう道、その途中の休憩スペースの壁に背を預けて待ち構えていた。出久の気配に閉じていた眼を開くと、微笑む。

 

「緑谷君、よく戻った!」

「風鳴司令・・・」

 

出久の覇気のない返答に弦十郎は自動販売機で缶コーヒーを二本買うと、その内の一つを投げてよこす。

 

「あったかいもの、どうぞってな」

「・・・ありがとうございます」

 

投げ渡されたそれをキャッチし、礼の言葉を返す。だが手を温めてくるコーヒーを見下ろす出久の顔は暗い。

そんな出久をよそに弦十郎はコーヒーを開けると口にする。口の中に広がるいつもの味。仕事終わりの一本は格別だ。

 

「お話、とはなんでしょうか」

「・・・俺の話より、先に君の話を聞きたくてな」

 

言いながらももう一口コーヒーを飲む弦十郎。その姿は完成された絵の様だ。

 

「君があの時通信を開いていてくれたおかげで話の流れは把握している。現れた君の友人が自分の父親を殺した、と」

 

その言葉に手の中の缶を握りしめる。出久の力にスチール缶が僅かにへこむ。

 

「・・・僕はそれを聞いた瞬間、信じられなかったんです」

「ほう・・・」

「轟君がお父さんを許せないのは知っていました。でも、それでもエンデヴァーを殺すだなんて・・・」

 

弦十郎はあえて黙り、出久に話を続けさせた。

 

「自分のお父さんを殺した時のことを嬉しそうに話す彼が恐ろしくて、そして憎かったんです」

 

「本当の君は、そんな人じゃないはずだ。僕の知る君はいつもクールだけど内には誰にも負けまいとする熱い人で・・・」

 

「そんな歪んだ彼を認められないと思った時、僕は胸の歌を歌っていました。身体中に力が満ちて目の前が真っ赤に染まったのを覚えています」

 

「その後はただひたすら彼を攻撃しました。ここで倒さなきゃ、ここで止めないといけない。ここで・・・」

 

そこで出久の言葉が止まる。口元が次の言葉を口にするのを躊躇うかの様に震える。

 

「殺さなきゃ、って」

 

改めて自分の心を思い返すといかに恐ろしい事をしようとしていたのかがわかった。出久は缶コーヒーを取り落とし、自分の身体を抱きしめる。

 

「こんな事を考えるなんて自分でも信じられないです。僕の力は誰かを救ける力の筈なのにその力をヴィランみたいに自分勝手に使おうとしていた・・・」

 

「僕は・・・ヒーロー失格です」

 

出久は己が身を抱き、俯いたまま彼は自分を否定する。それきり口を開かない。

話を聞き終わった弦十郎は手の中のコーヒーの残りを一気に飲み干すと、空き缶をゴミ箱に投げ入れる。

そして彼に向き直ると一つの言葉を与えた。

 

「だが、君は彼を『殺さなかった』」

 

それに反応して青い顔をあげる出久。その目は迷いと恐れに塗れ、輝きを失っていた。

弦十郎は出久の前まで来ると年若いヒーローと目線を合わせる。

 

「確かに君は友人の両腕を折り、止めようと攻撃して来たクリス君を倒した」

 

弦十郎のその言葉にビクリと身を震わせる。

 

「だが切歌君の呼びかけでちゃんと自分を取り戻したじゃないか」

「それは・・・」

「結果論かもしれない。だが、事実だ」

 

強い視線と共に投げかけられる台詞。

 

「君は自分で踏みとどまったんだ」

 

「本当にその力を人に害なす為に使う人間なら、制止を振り切って友人を手にかけたはずだ。だが君はしなかった。俺はその強い心に敬意を払うよ」

 

「緑谷君、よく戻って来たな」

 

出久の両肩に置かれる大きな掌。再び顔を伏せた出久の足元に涙が落ちる。

 

「ありがとう・・・ございます」

 

出久はなんとか口にする。

 

自分の誇りを失いかけた少年は認めてくれる存在により再び立ち上がるのに必要な勇気を取り戻す。

ヒーローは頬に涙を流しながら前を向いた。

その瞳に輝きが宿り出す。

弦十郎は彼の様子が変わったのを感じるとニヤリと笑う。彼の真っ直ぐな瞳が帰ってきた。まったくもって良い顔をしている。

 

「もう激情に飲まれるなよ、緑谷君。その感情を制し、全てを己が力にしろ。そうすれば君はもっと強くなれる」

「はいッ!」

 

覇気を取り戻した彼の答え。やはり強い子だと弦十郎は嬉しくなった。そんな彼に出久から更に嬉しくなる言葉が出てくる。

 

「風鳴さん。もしこの後よろしければ、一手御指南いただけませんか!」

「よし! 手加減はしないぞ!」

「お願いします!」

 

再び立ち上がったヒーローと立ち上がらせた大人は肩で風を斬り裂きながらその場を後にする。

 

 

 

「行ったか」

「その様ね」

「ですね」

 

ひょっこりと通路の角から三人の顔が出される。

 

「緑谷の様子から心配していたが大丈夫そうだな」

「司令、やるじゃない」

 

翼とマリアは前例があったので、またも筋肉理論を繰り出さないかとハラハラしていた。だがそれは杞憂だったようだ。

 

「司令は理性的な方ですからね」

 

緒川は去っていく背中を見ながらニコニコと笑う。その手にはビデオカメラを構えていた。

 

「時に緒川さん、それは・・・」

「これですか? 最近S.O.N.G.内では緑谷君のファンクラブが出来まして、彼の活躍をみんなが見守っているんですよ」

「ファンクラブ!?」

 

マリアの声を聴きながらカメラを回し続けるNINJA。

 

「『小動物的な所が可愛い』という女性職員の方々と『その身一つでノイズと戦う姿がカッコいい』という男性職員達が最近結成しまして」

「いつの間にかそんなものが出来ていたのね・・・」

「別名を『緑谷君と切歌ちゃんを見守る会』と言います」

「・・・確かに見守りたくなる二人ですからね」

 

まさかそんな会が結成されていた事に驚く装者達。

 

「もちろんプライベートには配慮していますよ」

「当たり前です・・・」

 

カメラを回す自分のマネージャーに少し呆れた顔をして返す翼は出久の背中に声をかける。

 

「強くなれよ、緑谷」

 

その声は届かない。

だがきっとその願いは届いているのだろう。




※残された缶コーヒーは緒川さんが回収しました。

『緑谷君と切歌ちゃんを見守る会』
主な構成員はS.O.N.G.職員。司令と本人達以外のほぼ全員となります。
なおこの会は自己申告によりすぐ入ることが出来ますので、皆様もお気軽にご参加くださいませ。

会則
温かく見守ること。
しかし間違った道に向かいそうならそれとなく正すこと。
以上となります。

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