僕のヒーローシンフォギア   作:露海ろみ

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五話目となります。

生まれて初めての作品投稿でメッセージを頂いて、震えている今日この頃・・・。


5.漢の語らい

翌日の医務室。

緑谷出久はその両腕に堅固な手錠を嵌められ、椅子に座っていた。

無論、初めての経験である。

 

「あの、暴れたりしないので外してもらえないですか?」

「すまないがそれを外すのは話を聞いてから判断させてほしい。こちらとしても『万が一』の保険がほしいのでな」

 

弦十郎は正面に座る少年と目を合わせながら言う。

 

「単刀直入に聞こう。緑谷君、君は一体何者だ? なぜノイズと素手で戦うことが出来るのか、教えてほしい」

 

真剣な表情で聞いてくる大人に出久はどうしたものかと考える。

恐らくだが本当の事を話して信じてもらえるわけがない。

自分でさえ半信半疑、信じたくないのだ。

思わず顔を伏せる。

 

「なにか言えない理由があるのかな?」

「・・・違います。自分でも今の状況に混乱していて、何から話していいのかわからないんです」

 

その言葉を聞いた弦十郎は少しの沈黙の後、椅子から立ち上がった。

 

「緑谷君。少し身体を動かさないか?」

「え?」

「何か悩みがある時は適度な運動が良い。ただ考えているだけでは駄目だ。そうゆう時こそ無心に身体を動かす。そうすれば見えてくるものもあるはずだ」

 

とんだ脳筋な台詞である。

弦十郎は取り出した鍵で手錠を外す。

 

「ここは男同士、拳で語ろうじゃないか」

 

 

案内されたのはトレーニングルーム。

その中央で出久と弦十郎は対峙していた。

出久は自身のヒーロースーツ。

弦十郎はいつもの服装のまま。

そしてその空間には二人以外の姿もあった。

 

「あの姿は何かのコスプレなんデスかね、調」

「切ちゃん、流石にそれはないよ」

「切歌。人様の服装に色々言ってはダメよ。彼にとって大切な事かもしれないから」

「マリア、それはある意味フォローになっていないぞ・・・」

「てかなんでこんなことになってんだ? あのおっさん何考えてんだよ」

「師匠! 頑張ってくださいね〜!」

 

壁際にいる少女達は目の前の催し物にそれぞれ声をあげる。

その中に先日会った二人の姿を見つけた。

出久の視線に気がついたのか黄色の少女が大きく手を振り叫んだ。

 

「緑谷君も負けないでね〜!」

 

屈託の無い笑顔に出久は気恥ずかしくなり、少し頬を赤くした。

そんな出久に弦十郎は言う。

 

「遠慮はしなくていい。全力でかかってこい」

 

目の前の大人はそれが当然のごとく言い放つ。

 

「はっきり言って俺は、強いぞ」

 

そう言うと彼は拳を握り、構える。

瞬間。目の前から闘気が溢れ出し、空気が変わった。

一気に出久の精神は切り替わる。

相手が構えただけでここまでなったのは初めてかもしれない。

頭の中の警報が一斉に鳴りだした。

無意識にワン・フォー・オールを身に纏い、拳を構える。

冷や汗が止まらない。

 

「なぁ先輩、どっちが勝つと思う?」

「・・・残念ながらそれは賭けにはなり得ないと思うぞ」

「だよなぁ」

 

壁際からそんな声が聞こえてくる。

だがその声さえどんどん遠くに感じる。

それほど目の前の大人は強大に感じた。

 

「よし。ハンデをやろう。一発入れることが出来たら君の勝ちでいい」

 

弦十郎はほがらかに出久に提案をする。

慌てる出久は言葉を返す。

 

「ま、待ってください。どうして戦わなくてはいけないんですか!」

「男が・・・戦場(いくさば)で弱音を吐くな!」

 

全て言うより速く、彼の拳が出久の頬に刺さる。そのまま吹き飛ぶ出久は床をバウンドして壁に叩きつけられる。

 

「全力で来いと、俺は言ったぞ!」

 

一撃。

たったの一撃で意識が刈り取られかけた。

そのまま寝てしまいたいと思うほどの衝撃が頭を揺らしている。

『なんでこんなことに・・・』と思った刹那、声が聞こえてきた。

 

 

「まったく。君は男として情けないな。いやこれは師が悪いようだ。ちゃんとした稽古を積ませなかったらしい。情けない奴だ」

 

 

今なんと言った?

 

震える脚に力を込めて、立ち上がる。

目の前の弦十郎を睨むように叫ぶ。

 

「お、オールマイトは情けなくなんかない・・・撤回してください!」

「ほう。君の師匠は『オールマイト』と言うのか」

 

睨む出久を彼は冷ややかに見ながら続けた。

 

「もう一度言わなくてはいけないようだな。『オールマイトは腰抜けだ』と言ったんだ」

 

それを聞いた出久の中で何かが切れる。

いつもの彼ならこんなことにはならなかったかもしれない。

だが今の彼には余裕がなかった。

 

「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

脚の力を更に込め、一気に接近する。

右のミドルキックをワン・フォー・オールの力を使い繰り出す。

だがその右脚を払う左腕で軽々と止めた弦十郎はそのまま掬い上げるように体勢を崩しにかかった。

出久は残った脚で流れに乗るように跳び、後方に着地する。

 

「オールマイトは!」

 

両手を使い素早い突きを連続で繰り出す。

 

「僕を!」

 

それは全て片手で叩き落とされる。

 

「みんなを!」

 

拳を引いた隙に崩拳が胸に突き込まれる。

 

「がはぁっ! ・・・みんなを、助けてくれた立派な、ヒーローなんだぁ!」

 

口の中に鉄の味が広がる。

そんなことはどうでもいい。

 

「そんなオールマイトを!」

 

出久は踏ん張る。

ここで倒れてはいけないから。

 

「情けないなんて言わせない!」

 

ここで自分が倒れたら、それはオールマイトを否定したことになってしまう。

緑谷出久にとってそれは何よりも耐え難い事であった。

いつもの彼からは想像できない強い力を持った言葉が響き渡る。

 

「僕のヒーローを侮辱するなぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

その様子を見ていた装者達はいつもと違う司令の姿に驚いていた。

普段の彼からは想像出来ない程冷酷な台詞と行動。

四人の少女が戦慄し言葉を失う中、大人組の二人だけが意図を察していた。

 

「風鳴司令、本当に優しい人ね」

「あの人はどこまでも優しいのだ。だからこそいつでも全力でぶつかってくれる」

「全く。男って暑苦しいわ」

「だが羨ましくもあるだろう?」

「・・・少しだけね」

 

 

弦十郎の繰り出す前蹴りが顔に迫る。

何合も打ち合えば出久にも少しは動きが見えてきた。

両腕を交差し、それを防ぐ。

だが勢いまでは殺せず追撃の中段蹴りで後ろに身体をくの字に曲げながら飛ばされる出久。

空中で痺れの残る右腕を突き出し、その指はデコピンの形。

 

【DELAWARE SMASH AIR FORCE!!】

 

空気の塊を撃ち出した。

不可視の弾丸が弦十郎に真っ直ぐ襲いかかる。

 

「飛び道具とは味な真似を!」

 

不可視のはずのそれを正確に拳で叩き消す。

圧縮された空気が霧散し、周囲に撒き散らされた。

 

「君の力はその程度なのか! 男なら譲れぬものは自らの力で勝ち取ってみせろ!」

 

弦十郎の震脚で地面にヒビが入る。その衝撃は指向性を持ち、出久に迫った。

このままではやられっぱなしだ。

上に飛べば避けられるが空中では体勢を変えられず、次の一手に制限がかかる。

横に避ければダメージは負わないだろうが、衝撃がブレた身体にはキツい。

そんな中、出久の脳内はシンプルな思考を貫いた。

 

『オールマイトならどうするだろうか?』

 

「オールマイトなら、迷わない!」

 

彼ならこんな攻撃は意に介さず、真正面から貫き通すはずだ。

それが出久の見てきたヒーローの姿だった。

 

着地した出久は迷わず正面に跳んだ。

迫り隆起する地面にタイミングを合わせ、地が起き上がった所を起点に更に跳ぶ。

自身の力を振り絞り、目の前のOTONAを蹴り飛ばす為に右脚を振り絞った。

 

力を込めた蹴りを弦十郎の左頬に狙いをつけた。

 

「オールマイトはぁ!」

 

ボロボロになりながらシュートスタイルを全開に使う。

 

「世界最高のぉ!」

 

その彼の姿を見て弦十郎は

 

「僕のヒーローなんだぁぁぁぁ!」

 

ニヤリと笑い、”さり気なく”腕のガードを下ろす。

 

「それでいい! 来い、緑谷出久!」

 

渾身の一撃を左頬で受け止めた。




これだからOTONAは・・・(白目)

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