僕のヒーローシンフォギア   作:露海ろみ

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五十話目となります。

今日は調ちゃんの誕生日です。
お誕生日、おめでとう!
XDUの誕生日メモリアが素敵すぎて言葉を失いました。
公式が推してくるきりしら・・・尊みが深い。


50.芽

運動後の水分というのは何故こんなにも美味しいのだろうか。出久はミネラルウォーターを一気に飲み干した

 

「ぷはっ!」

 

あの後弦十郎と手合わせをした出久は一人でトレーニングルームの床に座ると、ノートに書き込みをしている。

 

「飛び込むときはもう半歩入り込んで・・・腰の回転を・・・」

 

指摘された点を文章に纏めていきながら自分の動きを思い返す。シュートスタイルは未だ発展途上。まだまだ使いこなせないワン・フォー・オールの力を出来うる限り発揮する為研究に余念はない。ガリガリとペンを走らせながらブツブツと独り言を呟いていく。

一通り書き終わると彼は大の字に寝転んだ。見上げる高い天井のライトが眩しくて、目を細める。手を掲げて光を遮った時、おかしな事にようやく気がついた。

 

「あれ・・・?」

 

上半身だけを起こすと出久は自分の両腕をまじまじと見る。いつも通りの自分の腕。古傷やついさっき出来た傷はあるが『腕がボロボロになっていない』

 

「暴走した時にワン・フォー・オールの制御なんて出来なかったはずだよな」

 

暴走しているという事は恐らく100%に近い運用をしていたはずだ。それなのに何故自分は怪我をしていないのか。本来なら両腕両脚が全て再起不能になる程のダメージを負っていてもおかしくない。一応脚の方も確認してみたが同じ状況だった。

 

「どういう事だ?」

 

出久はいつもとあの時の違いを考える。色々考えた末、決定的な一つの違いを見出した。

 

「歌を歌って、シンフォギアを纏ったから・・・」

 

あの時の出久は漆黒のギアを纏っていた。歌いきった後、身体に力が満ちていくのを確かに感じたのだ。そしていつも以上の戦闘力で轟を圧倒し、今の今まで自分には怪我ひとつない。

そこから一つの仮説が立ち上がりだす。

 

「ギアを纏うと、ワン・フォー・オールを全開で使えるのかもしれない」

 

これは出久にとってメリットしかなかった。通常なら8%での運用が精一杯なのが現状だ。

だが仮説が正しければ全てが覆る。

 

目指すべきヒーローになれる。

それは子供の頃から夢見てきた『彼』の様に人々を救うことが出来るということ。

出久は立ち上がると胸に手を置き、歌を探す。そして、歌を見つけた彼は歌おうとする。口を開き、発声しようとする出久は・・・。

 

声が出なかった。

 

歌は聞こえる。歌詞もわかる。

だが『歌えない』

歌うのが、怖い。

ふと手を見ると震えている。その手を握ると、もう一方の手で包み、震えを止めようとした。だがそれは止まることがない。

遂には膝をつき、祈る様なポーズで固まってしまった。

 

もし歌ったら、また暴走するのではないだろうか。弦十郎は激情に飲まれるなと言っていたが、本当に自分にそれが出来るのだろうか。

彼の言葉に救われたのは事実だ。彼の言葉が無かったら自分はヒーローとして終わってしまっていたかもしれない。

だが今の自分がこの力を制御できるのかはまた別の問題であり、いざやろうとすると自信がなかった。

 

「・・・怖い」

 

その口から漏れ出す弱音。

自分の使う力で誰かを傷つけてしまうのではないだろうか。この力は人を救ける力のはずなのに。

出久は先程の手合わせの途中、弦十郎に言われた言葉を思い出した。

 

『どうした? この前の様に打ち込んでこい! 拳に力が入りきっていないぞ!』

 

その時は上手く立ち回れていないのだと思った。しかし今正しく理解した。

自分は新しく手に入れた力を・・・いや、力を行使する事を恐れはじめている。

胸の歌を初めて聞いた時、出久は驚きと同じくらい嬉しかった。目指す『彼』の様に、もっと強くなれるかもしれないと素直に喜んだ。だが胸の歌は今や出久にかかった呪いだった。

出久はワン・フォー・オールという力が恐ろしい。これは本当に自分なんかが使っていい力なのだろうか。

 

彼の中に恐れの芽が芽吹きはじめていた。




シンフォギアオンリーイベント『絶唱ステージ12』が本日10時から大田区産業プラザPiOにて開催。
もちろん、私も行きます。
もし会場で黒とオレンジのパーカーを着た眼鏡の適合者がいたら、それはきっと私です。
楽しみで眠れなくて多分このまま行くので死にかけだとは思いますが、もし見かけたら気軽にお声がけください。泣いて喜びます。

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