僕のヒーローシンフォギア   作:露海ろみ

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五十二話目となります。

お疲れ様です。
続きを投稿させていただきます。

世間では新型肺炎が蔓延しておりますが、皆様はご無事でしょうか。
健やかに過ごされていることをお祈りしております。


52.約束

フルーツパーラー。それは女の子の園。

 

「調! これなんてどうデスかね?」

「待って。こっちも捨てがたい」

 

三人が来たのはお洒落なフルーツパーラーだった。女の子二人はメニューを見ながら、どれを頼むべきかと思案している。

出久はもう一つのメニューを見ながら自分の注文を選んでいた。並ぶメニューの価格は相場よりは少し高目の設定だ。辺りを見回すと他の客の注文品が目に入る。パフェやケーキなどには結構な量の果物が使われており、お値段以上の価値がある様に見受けられた。

 

「わたしは季節のパフェにするデス」

「・・・私は、苺のズコット」

「僕は、フルーツパンケーキにしようかな」

 

各々注文を決め、通りがかった店員さんに伝える。店員さんから「飲み物はどうしますか?」と聞かれて三人は少し迷った挙句、彼女の営業トークに乗っかり、フルーツアイスティーのセットにする事にした。

注文を終えた三人はついさっきまでの出来事を語り合う。

そして一通り話し終えた後、出久は本題に入った。

 

「・・・二人に相談があるんだ」

 

出久は先日の暴走事件後、戦うのが怖くなった事を素直に話した。

新しい力を恐れ、それどころか自分が受け取った力さえも自分が持っていていいのだろうか。この手でまた誰かを傷つけてしまうのではないだろうか、と。

少しずつ、ポツポツと自らの悩みを彼女らに語る。その声は次第に震えだす。いや震えたのは声だけではない。膝の上の両手もだ。出久は震えを抑えるかの様に手で手を覆う。

 

「というわけなんだけど・・・」

 

出久が話し終えると、丁度注文した品々がテーブルに届けられた。彩り鮮やかなフルーツスイーツが並んでいく。

テーブルの上とは対照的な心の中。出久は目の前の綺麗なパンケーキを前にしても、なかなかカトラリーに手が伸びていかなかった。

そんな彼の前に伸びてくるナイフとフォーク。目線を上げると調がそれを差し出していた。

 

「まずは食べよう。冷めちゃうよ?」

「うん、ありがと・・・」

 

おずおずと受け取り、小さく切りとったパンケーキを口に運ぶ。程よい甘さのそれと果実の酸味が広がっていく。ほう、と一息漏れる。

 

「美味しいね」

 

出久は一口、また一口とパンケーキを食べ進める。もくもくと食べる出久に切歌と調は顔を見合わせて笑う。

そのまま三人はそれぞれの品を食べ終えた。

 

 

やがて。

皿が下げられ、フルーツティーを楽しみながら調は質問する。

 

「出久君はどうして戦うの?」

「え・・・」

「出久君がヒーローになるって決めたのはどうして?」

 

問われたのは自分の『オリジン』

出久にとってそれは揺るがない。

 

「僕は、オールマイトみたいなヒーローになりたかったから」

 

ヒーロー。

それは出久にとって目指すべきもの。

その中心にあるのは勿論、オールマイトへの憧れだ。

 

「オールマイトみたいにみんなを救けるヒーローになりたいから」

「それを即答できるなら、大丈夫だよ」

 

出久の答えに満足そうに頷く調はフルーツティーを一口飲むと続ける。

 

「私は戦う理由ってとってもシンプルだと思う。勝ちたいとか救けたいとか、突き詰めていくとそうなるの」

「でも、僕は戦いの中で友達を傷つけた。そんな人間が力を使って戦っていいはずがないよ」

「どうして?」

 

調はどこまでも自分を追い詰めている少年を見遣る。

 

「だって僕の引き継いだ力は誰かを救ける力の筈だ。それなのに、僕は・・・」

「違うよ。出久君はその力を正しく使ってる。だから今、切ちゃんはここにいる」

 

その言葉に切歌を見る。嬉しそうに笑う彼女がそこにいた。

 

「出久君が救けてくれたから切ちゃんは無事でいてくれたんだよ。確かに出久君は人を傷つけた。でもそれは一面でしかない。貴方の根っこの部分は『誰かを救ける』っていう所にしっかり根付いてる」

 

しっかりとした視線で見据えてくる調に出久は目が離せなかった。

 

「もっと自分を、自分の力を信じてあげて。それは出久君の個性なんだから」

 

自分を信じる。

あの時から忘れていた一言を言われた気がした出久は自分の拳を見た。傷だらけのそれはこれまで幾つもの間違いをしてきた証であり、そして乗り越えた証でもある。

この手で今まで幾人の人を救けてきたのだろう。少なくともゼロではないはずだ。その証拠に目の前に一人いる。

暁 切歌はそこにいる。

出久の視線に気がついた切歌は頬を染め、嬉しそうな顔をした。その顔に救いを貰った気がする。

そこで、ふと思いついた質問を出久は調に問うた。

 

「・・・調ちゃんは、どうして戦うの?」

 

調は隣に座る少女をちらりと見る。

 

「私は切ちゃんを守りたい。そしてみんなを守りたいから戦う」

 

偽りない想いを口にする調。

切歌も隣に座る少女を見て、元気よく話に加わる。

 

「わたしも調を守りたいデス! 一緒にたくさんの人を守るのがわたしの戦う理由デス」

 

相方の答えに心からの笑顔になる少女は続ける。

 

「戦うのは怖い。それは私達も同じだよ。でも、それでもしたい事があるから、私達は戦ってこれた」

「わたし達にしか出来ない事があるんデス。なら、勇気を出して戦うデース!」

 

出久は思う。二人には敵わない、と。

自分と同い年の筈なのに自分よりずっとしっかりしている。いつの間にか救けるつもりが救けられていた。

出久は思い上がりを恥じる。

だが、それを嬉しく思う自分がいた。

 

 

会計を終えて店を出ようとした時、出久の端末が着信を知らす。そこに表示されるのは翼の名前だった。

電話を取ると、明日の予定を聞かれる。何もなかった出久がそれを伝えると翼は「連れて行きたいところがある」と言い、時間を告げ電話を切った。

 

「翼さん、なんて?」

「うん。よくわからないんだけど、連れて行きたいところがあるって」

「どこデスかね? ・・・はっ⁉︎ ま、まさかデートデスか!」

「・・・切ちゃん泣かせたら許さないって言ったよね?」

「違うよ!」

 

騒ぎながら帰る道は明日へ続いていく。




ちなみにこのフルーツパーラーはモデルがございます。
作中通りに良いお値段がしますが、味は絶品ですのでオススメの一店です。

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