またやってしまいました。
前にもやらかした書いた話を間違えて消してしまうという、愚かな行為を・・・。書き直して参りましたが、相変わらずどちらが良かったのかわかりませんね。
このお話は以前少しだけ存在を匂わせた『0話』に連なる話となります。そして『14.幕間2』にも関係するお話です。
少しでも皆様を驚かせる事が出来たなら、嬉しいです。
ご感想、ご質問などありましたらご遠慮無くご感想欄にお書き下さいませ。
翌日の車庫。出久が着くと既に翼はバイクのメンテナンス中だった。
「おはよう、ございます」
「お早う、緑谷」
朝の挨拶を交わすと翼はいつかの様にヘルメットを彼に投げてくる。
「早くから済まないな。さぁ行こう」
「・・・」
受け取ったヘルメットを見ながら立ち尽くした出久は冷や汗を流す。もしかしてまた乗らなくてはならないのだろうか。
「どうした」
「あの、電車じゃダメなんですか?」
「こちらの方が速いからな」
「うぅ・・・」
きっと今回も法定速度を無視した挙句、壁を走ったりするのだろう。それを思い、だらだらと汗が流れていく。
そっと翼を伺い見ると不思議そうに首を傾げた彼女がいた。
出久は腹を括り、ヘルメットを被る。
出久の懸念とは裏腹にバイクは街から少し離れた場所に無事到着した。
「よかった・・・生きてる」
「待て緑谷。どういう意味だ!」
珍しくむくれた顔をする翼。その顔に驚きながら出久は慌てて言葉を返す。
「あの、その、この前みたいに振り落とされそうになるのかと・・・」
「この間とは状況が違うだろう」
「そうですよねぇ・・・」
翼は少し怒ったようにバイクを駐車場に停めた。
「全く。お前は私を何だと思っているんだ」
鍵を抜きながらヘルメットを脇に抱える翼。出久も同様にしながら、目の前の白い建物を見上げた。
「翼さん、ここって・・・」
「あぁ」
翼の目が細まる。そして建物に向かい歩き出していく。出久は置いていかれないようにその後を追った。
受付を終えてエレベーターに乗り、七階に向かう。その間、出久は声をかけられなかった。声をかけてはいけない様な雰囲気を感じた為である。
やがて辿り着いたエレベーター。翼はそこから二つ目の扉の前で脚を止める。
彼女は扉を開けると中にいる人物に挨拶をする。
「久しぶり」
出久は彼女に次いで部屋に入る。
その部屋は七階ということもあるが眺めの良い部屋だった。窓からは街が一望出来る。部屋にはベッドが一つと来客用であろう椅子が二つほど置いてある。
陽光の差し込む部屋でベッドに横になる一人の女性がいた。
「今日はこの間話した新しい仲間を連れてきたよ」
椅子に腰掛けた翼は彼女に語りかける。出久も促され、椅子に座った。
「彼が緑谷 出久。なかなか凛々しい顔をしているだろう? 今、私たちと一緒にノイズと戦ってくれているんだ」
眠ったままの女性の手を取り慈愛に満ちた表情で喋り続ける翼は出久の方を向くと眠り姫の名を教える。
「緑谷、紹介しよう。彼女は『天羽 奏』」
「私の相棒だ」
眠り姫の名は天羽 奏。
彼女は今日も眠り続ける。
「三年前の事だ」
翼は語り出す。
三年前。翼と奏は『ツヴァイウィング』というユニットを組み、音楽活動をしていた。
そして運命のライブの日。何事も無く終わるはずだったそれは惨劇と化した。
大量のノイズが出現したのだ。
シンフォギア装者でもあった二人はギアを纏い戦った。だが次第に押され始める。
「そこで奏は『絶唱』を使ったんだ」
「絶唱・・・?」
「絶唱とはシンフォギア装者最大最強の奥義。歌唱により高めたフォニックゲインを解放して放つ一撃はその名にふさわしい攻撃力を持つ。だが・・・」
翼の手が眠り姫の頬を撫でる。
「それ相応にバックファイアが身を襲う。それを受けた奏はあの日から目を覚まさない。もう三年も経つのに・・・」
眠る奏の痛みを受け止めるかの様に顔を歪ませる彼女はその頬に涙を流し始める。顎まで伝ったそれはベッドに染みを作っていく。
「あの日から奏の時は止まってしまった。私は・・・待つ事しか出来ないんだ」
「翼さん・・・」
ただただ涙を流し続ける彼女の名を呼ぶ事しか出来ない出久はその横顔を見つめ続ける。
その視線を感じた翼は流れる涙を拭おうともせず、出久に語りかけた。
「緑谷。お前、戦うのを恐れているな」
突然の心中を射抜く言葉に凍りつく。だがその気配を感じながらも翼は動じずに言葉を繋げていく。
「拳と剣を交えた私だ。すぐにわかった」
「・・・仰る通りです」
痛い所を突かれた出久は口籠る。そんな彼に翼は質問する。
「何故私がお前をここに連れてきたと思う?」
「え?」
「答えてみろ」
「・・・もっと真剣に戦いに臨め、って事ですか?」
「違う!」
翼は断言する。そこには殊更強い意志が絡んでいた。
「戦うとは身を削る行為だ。傷つくのは当たり前。それでも・・・」
その手が触れる奏の頬を愛しげに撫でる。今すぐにでも目を覚ましてほしい。そんな思いを乗せながら。
「それでも、その身を大事にしろ。お前が傷付けば私の様に涙を流す者がいる筈だ。誰の事だか・・・解るだろう?」
その言葉に胸に浮かんだ少女の笑顔を包む様に拳を握る。今出久の胸中を占めるのは・・・切歌だ。
「一人で無茶をするのは簡単だ。でも残された者が悲しむんだ。お前には私の様な者を作ってほしくない」
振り向いた翼の頬を流れ続ける涙は悲しみを流しても流しても流しきれない。
「緑谷。もし一人でどうしようもないなら、頼れ」
「頼る・・・」
「お前には仲間がいる。それを忘れるな。緑谷、お前は決して一人ではない」
その頬に涙を流しながら告げる防人は目の前のヒーローに道を指し示した。
彼の腕の傷跡を見た時、翼は感じたのだ。彼はいざとなったらその身を限界まで削り無理をする。そうでないならあんな腕にはならないと。
だからこそ。彼女は目の前のヒーローにその存在を伝えた。
「私達は仲間だ。だから『信じろ』」
力強いその言葉は彼の心に広がっていく。涙ながらに言葉を送る彼女の瞳には一人のヒーローが映る。
その小さな姿は命の煌きを確かに受け取った。
その後。泣き止んだ翼と共に奏に沢山の話を聞かせた。主に出久の世界の話ではあったが、話の中の『とある単語』に眠り姫の瞼が反応したのを二人は気がつかなかった。
山間にあるこの病院の面会時間は短い。日が傾きかけた頃、二人は駐車場に戻っていた。
「さぁ、帰ろうか」
「はい」
ヘルメットを被り、翼の後ろに座る。自然に彼女の腰に手を回して、そこでやっと出久は気がついた。
『あれ? 僕、女の人に抱きついてる?』
最初はノイズが現れ、それどころではなかった。今朝はその時の苦い記憶から必死であった。だが今はそのどちらでもない。
「つ、翼さん! ちょっと待って・・・」
出久のその言葉は無情にもバイクのエンジン音に掻き消される。前輪が僅かに浮き、すぐに着地するとバイクは加速していく。
出久の顔は赤くなるが死にたくはないのでその体勢のままバイクに揺られていくのだった。
この世界の奏さんは生きています。
それでは問題です。
『何故彼女は命を落とさなかったのでしょうか?』