答え合わせと新しい謎を放り込ませて頂きます。
なお、こちら再投稿となります。
同日に58話を投稿しております。
「おい死ぬな! 目を開けてくれ!」
自身の砕けたガングニールによって怪我をした少女に駆け寄る。奏は幼い少女を抱き起こすと叫ぶ様に声をかけた。
「生きるのを諦めるなッ!!」
少女から流れ出る血溜まりが奏の膝を濡らした。少女の目がゆっくりとだが開かれる。
生きている。
その事実に奏は喜び、決意する。
一度決意すれば心は落ち着くものだ。
少女を横たえるとアームドギアを手に立ち上がる。
「いつか、心と身体、全部空っぽにして・・・思いっきり歌いたかったんだよな」
ゆっくりと迫るノイズに向かい歩き出す。
その顔に決意はあれど、悲壮はない。
晴れやかな笑顔である。
迫るノイズを見渡す。
「今日はこんなに沢山の連中が聴いてくれるんだ。だからあたしも出し惜しみなしでいく・・・」
掲げられた槍が崩壊を始める。
LiNKERを使う事でしかこの力を纏えない自分には限界が近づいていた。
その前に、決着をつけなくてはならない。
「とっておきのをくれてやる・・・『絶唱』」
不思議と涙が流れた。
きっとこの『歌』を最後に自分は死ぬのだろう。
だがそこに後悔はない。
奏は歌いだす。
「Gatrandis babel ziggurat edenal
Emustolronzen fine el baral zizzl…」
絶唱。
それは命を燃やす、最後の歌。
だがその力と引き換えに反動も大きい。
LiNKERの投与をしていない自分が今それを使えばどうなるかなど、よくわかっていた。
それでも。
今この場にいる人々を、あの少女を、そして翼を救う為に彼女は歌う。
禁断の歌を、歌いはじめる。
「いけない、奏! 歌ってはダメェェッ!!」
遠くから翼の叫びが聞こえた。
それでもこの歌は止めない。
決意を新たに歌いあげようと歌詞を紡ぐ奏。
だが。その歌詞の続きは、歌われない。
この世界の神様が、知らない光を連れてくる。
絶唱によって高まったフォニックゲインが目の前に集まりだす。それは奏の目の前で形を成していった。それは人の形に収束すると、眩い光と暴風と言っても過言ではない風が辺りに吹き荒れる。
その二つに思わず歌うのをやめて、奏は後ろに横たわる少女を守る様に抱きしめた。
やがて風が収まる。
奏が目を開けると気づけば身体をぴったりと包むスーツを着る大柄な男性が立っていた。
その広い背中。
逞しい腕。
大木の様な脚。
そして特徴的な髪型が目を引いた。
「おおっと!? どんな状況だ、これは?」
男は自分に起こったことがわからないかの様に周りを見回している。そして自分の後ろで血塗れの少女を抱きしめる奏に気がつくと、すぐに駆け寄ってきた。
「大丈夫かい?」
「あ、あんたは・・・?」
男は驚いた顔でこちらを見ながら膝をつく。
「その子は怪我をしているのか。それに君もボロボロじゃないか!」
だが、すぐにその顔に自信を漲らせた笑みが溢れる。それは見ると勇気が湧いてくる笑顔だった。
「”ヴィラン”の攻撃かい?」
「ヴィラン? いや、これはノイズの・・・」
なんとか説明しようとする奏だったが、あまりの事に混乱してなんと言っていいかわからない。
その時。
男の肩越しに飛び込んでくる一匹のノイズを見た彼女は叫ぶ。
「危ないッ! 避けろ!」
ノイズが彼に向かって攻撃を仕掛けていた。このままでは炭になって彼も死んでしまう・・・。
しかし。
その声に反応する男はすぐさま振り向き、迫るノイズを”殴り飛ばした”
空中で炭素分解するノイズとそれを見て言葉を失う奏。
『ノイズを素手で倒した!?』
人が触れるだけで炭化し、命を失うノイズである。そんな事が出来る人間が存在するなど考えた事もなかった。唖然とした顔でその背を見つめる。
「よくはわからんが、あいつらは君たちを傷つけるヴィランの様だな」
「それなら安心したまえ! もう大丈夫だ・・・何故かって?」
「私が来た!!!」
男は宣言と共にノイズに向かっていく。
そこからはあっという間の出来事だった。
「【TEXAS SMASH !!】」
左の一閃。凄まじい風圧が多数の小型ノイズを巻き込みながら消滅させる。
しかし辛うじて耐えた大型ノイズ。
「ほう、今のを耐えるのか! だが!」
男の右腕が振りかぶられる。奏にはその腕が膨れ上がるように見えた。
「いつだってヴィランはヒーローに倒されるものさ!!」
【DETROIT SMASH!!!】
数いたノイズは最後の一匹まで彼に殴り飛ばされ、広い会場にいるのは自分達だけとなる。
「HAHAHA! 歯応えのないヴィランだったな!」
高笑いする彼を茫然と見つめる。
こんな奇跡が存在するのだろうか。
ノイズを倒せるのは自分達が使うシンフォギア以外にないはずなのに、その理を打ち破った男。
「あんたは・・・一体・・・」
「おお! 無事だったか、お嬢さん」
ニカッと笑う男は力強くポーズをとりながら名乗る。
「私はオールマイト。No.1ヒーロー、オールマイトとは私のことさ!!」
「オールマイト・・・」
聴いたその名を噛み締めるように反芻する。
それを聞いた彼女の口から出るのはシンプルな感謝の言葉だった。
「ありがとう、オールマイト・・・」
「なに、容易い事さ! 救いを求める人がいたら救ける。何故なら私はヒーローだからね! 」
その言葉に奏は涙を流す。
奇跡ってのは本当にあるんだ。
家族がノイズに殺された日。そんなものはないと捨て去ったはずのもの。
しかしそれは確かにあった。
今まさに目の前にいる彼、オールマイトこそがそのものなのだ。
その奇跡に涙する奏。
そんなオールマイトの身体が光に包まれる。
足元から少しずつ光の粒子となり空に消えていく。
「おや? これは?」
自身の状態に驚きながら身体を見るオールマイト。消えていく彼に叫ぶ奏。
「待ってくれ、オールマイト!」
「待てと言われても私自身なんともできなくてね」
大袈裟なポーズをとりながらオールマイトはおどける。
もはや下半身は消え去り、残った所も半透明になっている。彼の消滅は近かった。
奏はせめてもの感謝の言葉を叫ぶ様にヒーローに届ける。
「救けてくれて、ありがとう!」
「・・・その言葉が聴けるのが”ヒーロー”冥利に尽きるってもんさ!」
サムズアップしてオールマイトは包み込むような笑顔で答えた。
「じゃあな、ええと・・・」
「奏! 天羽 奏だ!」
「天羽少女、いつでも私は救けにくる! だからそんなに泣くんじゃない!」
「オールマイトォ!!」
その言葉を最後にオールマイトの姿が消える。残されたのは自分と怪我をした幼い少女。
溢れる涙をそのままに彼の消えていった先を見上げる。その頬に涙とは違う水滴が落ちてくる。
雨だ。
先程まで晴れていた空から雨が降ってきていた。オールマイトの放ったパンチの風圧が天気を変えたのだ。
『とんでもない、ヒーローだな・・・』
中途半端に使用した絶唱のバックファイアがその身を襲い始める。激痛が走る身体。だがそんな痛みも忘れた奏は腕の中の少女が雨に濡れない様に強く強く抱き締める。
視界が狭まってきた。もう、よく見えない。
それでも思う事がある。
『私は、今、生きている』
その身に降る雨の感触を頼りに自分の生を実感する奏。満身創痍だが、確かに自分は生きているのだ。
だんだんと意識も薄れてきた。
「奏!」
相棒の声が聞こえてくる。
声を聞く限り泣いているのだろうか。
『相変わらず泣き虫だな、翼は』
「しっかりして! 奏!」
倒れた奏と少女を抱き起こす翼。
絶唱を使った彼女の身を案じ、泣き叫ぶ。
『おいおい。疲れてるんだ、今は寝かせてくれよ』
「奏ッ! かなでぇぇぇぇ!!」
『少し眠るだけだ、大丈夫だよ。・・・またな、翼』
そう思いながら天羽 奏は長い眠りについた。
正史なら天羽 奏は絶唱を使い、死ぬはずであった。
だが世界は彼女の歌の力で人々の願いを叶え、『オールマイト』というヒーローを喚び出し、彼女達を救う。
そしてその奇跡により影響を受けた者がもう一人いた・・・。
世界の分岐と交差はここから始まった。
数年後。
一人の少年がこの世界に喚ばれる。
“個性”を使い、この世界を襲う危機を救うために。
偉大なヒーローの力を受け継ぐ、少年の名は・・・。
ずっと前に書き上がっていた話を少しだけ修正して投稿させて頂きました。
正解は「No.1ヒーローが、来た」でした。