最近、とある事柄で執筆が遅れてしまっております。
誠に申し訳ございません。
次の投稿の頃にはお話しできると思います。
夢原と別れた出久は帰路についていた。
手には楽しみにしていた本。
だがその心は晴れてはいない。
夢原の目が忘れられないのだ。
あの何処かで見た瞳。光を拒絶して消し去ろうとする目に身震いする。
気がつけば真っ直ぐ帰るはずが彼の足は切歌に告白した公園に向かっていた。
ブランコに座るとゆらゆらと揺れながら、自分の足元を眺める。日は既に暮れ、肌寒い空気が辺りに漂い始めていた。それでも出久はその場に居続ける。
そんな独りの時間は終わりを告げた。
「だーれだ?」
目の前が真っ暗になる。誰かの手が出久の目を覆い、遮っていた。いきなりの事でびっくりした出久は背筋が伸びて身体を強張らせるが、声の主を察してすぐにその力を抜いた。
彼女の声を聞き間違えるはずもない。出久はその名を呼ぶ。
「・・・切歌、ちゃん」
「おぉ! 正解デース!」
パッ、と手が離される。視界を開かれた出久が首だけ振り向くと、当てられたのが嬉しいのか笑顔の切歌がそこにいた。
「デク君を大発見デス」
私服の切歌は愛しの彼を見つけてご満悦のようで手に持った買い物袋を振り回す勢いではしゃいでいる。
「どうしてここに?」
さも当然の疑問に切歌は難なく答える。
「調に頼まれたおつかいの帰りにデク君がいたんデスよ」
袋の中にはいくつかの食材が入っているようだ。彼女はそのまま空いているブランコに座るとギコギコと漕ぎ出した。
隣で遊ぶ彼女の姿に出久も同調して、漕ぎ出す。暫し童心に戻り揺れる遊具を楽しむと、切歌はピタリと動きを止めた。
隣の出久をビシッと指差す。
「デク君、眉間にシワが寄ってるデス。あのばくごーって人みたいデスよ?」
「え⁉︎」
「こーんな顔してるデス」
いー、っと作られたしかめっ面を見て出久は吹き出さざるを得なかった。切歌の可愛い顔がとても愉快な事になっている。
「あははは! 切歌ちゃん、その顔は反則だよ」
動きを止めた二つのブランコ。そこに座る二人は顔を見合わせて笑い出す。
切歌の笑顔に心にかかる靄が晴れていった。表情が変わったのを察した彼女はブランコから立ち上がる。
「デク君は悩みすぎデス。もっとわたしみたいにお気楽に考えればいいんデスよ!」
S.O.N.G.一のお気楽ガールは出久の前まで来ると彼と視線を揃えた。淡い緑の瞳は彼の離さない。近づく彼女に出久の胸が高鳴った。
「困ったときはそばにいるデス。悩みの一つや二つ、わたしが背負ってみせるデス!」
頼もしい彼女の言葉を聞いた出久の腕は伸びていた。自分のもとへ彼女を引き寄せる。切歌はそれに身を委ねた。
「・・・そんな事言われたら頼っちゃうよ」
「どんとこいデース!」
静かに目を閉じ、切歌を感じた。腕の中の彼女も自分の背に腕を回してくる。
彼女とならどんな困難も平気なのではないだろうか。それほどに彼女からはエネルギーを感じた。
それは人を信じる力。
それは人を信じさせる力。
心を癒す二つの力が出久の胸の蟠りを砕いていった。
それからゆっくりと離れる身体。でもそれと対照的にいつの間にかその手は一本一本で相手を感じるかの様に指は絡み合っている。
自然と互いの名を呼び合う二人の熱を帯びた緑の瞳は近づいていく・・・。
「・・・すまん。お取り込み中だったか?」
突如かけられる声に慌てた二人は寄り添ったその身を離す。そして声の主に聞き覚えのある出久はその方向に顔を向けた。
「いや、なんか悪ぃ・・・」
どこかバツが悪そうな顔をして後頭部を掻きながら、轟 焦凍がそこにいた。
「まさかお前がこんな状況だとは思ってもみなくてな・・・」
「轟君!」
出久は切歌を庇い、自分の背に回す。そのまま目の前のクラスメイトから目を離さない。そのヒーロー然とした姿にショートは呟いた。
「まぁ、そうなるよな」
その両手に炎と氷を携えたヴィランは一歩ずつ二人に近づいてくる。熱と冷気が辺りを包みだす。そんな彼の様子を見た出久は彼の両腕が治っている事に気がついた。
「その腕・・・」
「あぁ、仲間に治させた。まだ少し動かし辛いが、問題は無ぇ」
戦意高々に個性を沸き上がらせる轟。
だがそれを聞いた出久は笑顔で喜ぶ。
「よかった!」
「よかったって・・・」
敵対関係であるはずなのに敵の負傷を心配する出久に複雑な表情になったショートは毒気が抜かれた様に個性を消す。
「もともとはお前が原因じゃねぇか」
「ごめん。そうだった・・・」
「・・・まったく。この前も思ったが本当にお前は変わらないな、『緑谷』」
自分の呼び方が変わり、出久は驚いて彼を見る。そこにはヴィランではなくクラスメイトの顔をした轟 焦凍がいた。表情が薄い彼だが、困った様な顔をした轟は微かに笑う。
「お前のそういう所、嫌いじゃなかったよ」
懐かしむ様な顔で話す彼に出久はもしかしたら、と期待を抱く。もしかしたら彼と戦わずに済むかもしれないと。
轟はゆっくりと二人のそばまでやってきた。出久が庇う少女を一瞥する。その視線を感じた切歌は気丈に睨み返した。
「そいつはお前の彼女か?」
「・・・うん。彼女は僕の、大切な人だ」
それを聞いた轟は悲しげにヒーローの彼女を眺める。強くこちらを見続ける少女は首から下げたペンダントを握り締めて、変わらず轟から視線を外さない。もし彼が出久に攻撃をしようものなら自分も戦線に加わると暗に告げていた。
「僕達が戦わない選択肢は無いの?」
「無いな。お前はヒーローで、俺はヴィランだ。ヒーローを根絶やしにすると決めた」
轟 焦凍は出久の質問に迷う事なく答える。それはエンデヴァーに手にかけたあの日、ショートが決意した事柄。彼は自分の様な存在を生み出す『ヒーロー』を殺し尽くすと心に決めた。今更それは変えられない。
「エンデヴァーだけじゃねぇ。それ以外にも沢山のヒーローを葬ってきた。ヒーローなんて、存在しちゃいけないんだよ」
「それは違う! だって君は・・・」
「違わねぇ!」
地面に叩きつけられた右手が多数の氷柱を地面から生えさせた。その一本が出久の喉元で止まる。ひやりと迫る冷気に出久は言葉を飲み込む。あまりの展開速度に二人とも反応さえ出来なかった。
「今日の所はそいつに免じて退いてやる。俺はヒーローを殺したいだけだ」
こちらを見ずに地面に視線を送る轟。
まるで出久に膝をつくかのポーズだが、現状はまるで逆だった。
「明日また来る」
静かに顔を上げた轟の顔はヴィランの顔になっていた。ヴィラン『ショート』は殺意を抱き、ヒーロー『デク』を見上げる。
「邪魔する奴は女だろうと容赦はしない」
切歌にも同様の眼を向ける。これ程までに明確な殺気を感じた事のない彼女の身が竦む。
「明日は殺す、必ずだ。だから・・・」
立ち上がるヴィランは叫んだ。
「全力で来い、『デク』!!」