僕のヒーローシンフォギア   作:露海ろみ

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五十七話目となります。

お疲れ様でございます。
投稿ペースが遅くなっておりますが、決して書くのが嫌になったとかではありません。今一度設定におかしなところは無いか、今後の展開はどうしようかと思案を巡らせていたらどんどんと深みにはまってしまっておりました。
今後もペースは落ちるかもしれませんが、更新していきたいと思っております。

あと、月末の絶ステ13が延期になったのは残念デス。
コロナめ・・・。


57.我こそは正義の意志を引き継ぐ者なり

通信機からは次々に様々な情報が飛び込んでくる。

各所に現れたノイズの対処を行う装者達の声。それを統括し、指示を出すS.O.N.G.司令室。

そんな数多の情報が入り乱れる中、出久は走る。

 

宣戦布告してきたショートは『十二時』という刻限を告げると姿を消した。慌てて基地に戻った出久が事情を報告すると弦十郎は緊急対策会議を開き、S.O.N.G.は第一種戦闘配置と相成った。

翌日、午前十一時頃。

市内各所にノイズが出現しはじめる。予想より早い攻撃だったが、既に警戒態勢だった装者と出久は出撃し、戦闘を開始する。

ノイズは散発的に出現しているように見えたが明らかにあるポイントを避けて現れている事をエルフナインが看破。そのポイントとは市内の高等学校だった。

『ここに来い』

そう言っているかのように出久は感じた。

 

出久は弦十郎に轟の待つ場所に向かう事を進言する。だが彼は首を横に振った。

 

『これは明らかな罠だ。君一人だけ行かせるわけにはいかない』

 

至極もっともな司令官としての意見。それでも出久は食い下がる。彼を止めるのは友人である自分の役割だと。

前回の暴走の件もあり難色を示す弦十郎だったが、出久の言葉を後押しするかのような装者達の言葉に遂には折れた。

 

『それならば、やり通してこい!』

 

激励に出久は口の端を上げ、返事をした。

そしてワン・フォー・オールを纏った出久は街を翔る。

彼は決戦の地に辿り着く。

 

 

市内中央に位置する聖心高等学校のグラウンド。その中央に彼はいた。

出久の着地音に合わせて開かれる右眼はクラスメイトでは無く、ヴィランに相応しい冷たさを宿していた。

 

「来たか・・・デク」

 

静かに口を開くショートに荒ぶった息を整えながら、その目で応える。

ここに来るまでにウォームアップは済んでいた。あとは、拳を交えるだけだ。

それが今の自分に出来る、ただ一つの、言語なのだから。

 

「出し惜しみはするなよ。俺も全力でお前を叩き潰してやる」

 

出久は答えない。その身で応える。

両脚を前後に、両拳を握り込み、構えをとった。

全神経を目の前の相手に捧げる。自分の背中は仲間達が支えてくれている。

ならば、自分に出来る事をしよう。

僕に出来る事、それは・・・。

 

「さぁ来い! デクゥゥゥゥ!!」

 

クラスメイトを救ける事だけだ!

 

決戦の火蓋が、開かれた。

—胸に歌が流れ出す。

 

 

まさかの先手をとったのは出久だった。

十八番の氷壁ぶっ放しを何度も喰らう出久ではない。その一撃を放たれる前にこちらの一撃を入れる。

 

【St.LOUIS SMASH !!】

 

跳んだ出久が選んだのはセントルイススマッシュ。右の空中回し蹴りは的確にショートの左側頭部を捉えた。だが当たった右脚が砕いたのはショートの形をした氷の塊だった。

 

「容赦ねぇな」

 

振り抜いた右脚。その言葉を出久は空中で聞いた。首を回して声の方を見る。

そこには左拳を構えたショートがいた。

 

「赫灼熱拳!」

 

【EXHAUST KNUCKLE !!】

 

肘から出る甲高い排気音とともに高速の拳が背後から迫る。恐らくは圧縮した炎を推進力に放たれる拳による一撃。

猶予はない。

出久は強引に左腕を振り、その勢いで宙に逃げた。ワン・フォー・オールだからできる強制機動。眼下で轟の左拳が空気を切り裂くのが見える。

対象を捉えられなかったショートはすぐさまに対象を捉え直すと右手を掲げる。

 

「霧氷冷拳・・・」

 

【JET ICICLE】

 

氷柱が幾重にも重なり上空を跳ぶ出久に襲いかかった。

下から湧き上がってくるそれは前回よりも鋭さを増しながら登り上がった。

 

「同じ技が通じると、思うなぁぁ!!」

 

出久は空中で体を入れ替え、右腕に力を込める。

 

【TEXAS SMASH !!】

 

氷柱の僅かに側面。そこを狙ったテキサススマッシュは削岩機の如き破壊力で氷を砕く。

一気に削られた氷がキラキラと辺りに撒き散らされる。

瞬間の攻防。二人は最初の位置とは真逆の場所に降り立っていた。

 

「流石だ、No.1」

 

ニタリと口を歪め称賛するヴィラン、ショート。両手を引き絞りながら飛びかかる。

 

「それでこそ、倒し甲斐がある!」

「こんッのぉぉぉぉ!!」

 

 

強い。本当に強い。

たった一合のやり取りで力の差を感じ取ってしまった出久は焦る。

一見拮抗している様に見えるがそうではない。出久は全力を持って臨んでいるが轟はそうではないのだ。どこか余裕を持っている。

轟の話す未来の自分ならそうではないのかもしれない。だが今戦っているのは紛れもない自分自身。

一手一手を合わせるたびに少しずつ傷を負うのは出久。どんなに攻めても彼へ拳が届かない。

 

「デク」

 

何度目かの攻防を終えたショートは苛立った様子で地面を蹴りつける。

 

「俺は『全力で来い』って言ったよな。あの時みたいにやってみせろ!」

—胸に歌詞が流れる。

 

「『あの姿』のお前を倒さないと意味がねぇ!」

—溢れ出るものがある。

 

「俺を失望させるな! No.1ヒーロー!」

—今こそ、その聖なる詠を・・・。

 

だが。

 

出久は震えていた。

胸に手を置き、声を出そうとする。その喉から聖詠を唱えようとする。

 

声が出ない。

 

もしまた暴走してしまったら、止めてくれる者はいない。今度こそ彼を死に至らしめてしまうのではないかと恐怖する。

それこそが出久の詠を縛る鎖。

大人に、仲間に、恋人に乗り越えられる様に言葉を貰った。

それでも一歩目が踏み出せない。

ギュッと目を瞑り、膝をつきかける。

 

『やはり、僕には歌えない・・・』

そう思った時、自分の耳を震わせるものがあった。

 

『なにをしている、緑谷!』

 

そこに聞こえてきたのは防人からの言葉。

 

『友を救うと息巻いたさっきまでの自分を思い出せ、緑谷君!』

 

大人の声が畳み掛ける様に。

 

『出久君ならきっと大丈夫! もしこの間みたいになったとしても・・・!』

 

仲間の声が後押しする。

 

『わたし達が救けるデス!』

 

恋人の声が響き渡る。

 

『だから、『歌って!!』』

 

重なる声に出久の瞳が開かれた。

 

 

 

己の原点を思い出す。

—さぁ、詠え。

それこそが自分がヒーローたる所以。

—この詠の名は・・・。

 

 

 

戦意を失ったヒーローを見下ろす彼の視線は失望に溢れていた。

もう、どうでもいい。終わらせよう。俺の勘違いだったんだ。

そう考え、構えられた右手に創り出される氷槍は彼を遥かに超える大きさに成長する。

 

「じゃあな・・・デク」

 

ショートは槍投げよろしく、その手の中の必殺の一撃を出久にぶん投げる。

 

【BLUE TRIDENT】

 

真っ直ぐにその心臓を貫く為の三叉槍が迫る。

ゆらりと立ち上がる出久。だがもう遅い。次の瞬間には決着だろう。

これで、俺の復讐はまた一つ遂げられた。

ショートは踵を返し、その場を後にする。これから聞こえるのは肉を貫く音だけ。

 

・・・のはずだった。

 

いつまで経ってもその音は聞こえてこない。怪訝に思い、振り向くとブルートライデントは宙に停止していた。

驚きに目を見開く。鋒は確かに出久に届いているはずだ。それなのに貫けていない。

彼の胸の前で槍は殺意を殺されていた。

 

「ごめん、轟君・・・。僕には覚悟が足りなかった。君を救けるという、覚悟が!」

 

目の前のヒーローが謝罪を述べる。先程まで震えていたとは思えない力強い言葉。

 

「だから、全力で詠うよ。僕の歌を!」

 

彼の右手が胸から離れていく。触れられた槍の穂先は崩れていった。彼を貫くはずだった槍はもう原型を留めていない。

全てはただの氷となり、地面に転がる。

 

「Symbolize One for All tron...」

 

出久は聖詠を唱える。

その意味は「我こそは正義の意志を引き継ぐ者なり」

受け継がれてきた正義の個性『ワン・フォー・オール』

その九代目継承者は新たな扉を開く。




胸の歌を、信じなさい

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