僕のヒーローシンフォギア   作:露海ろみ

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五十九話目となります。

お疲れ様です。
本編、少しだけ進みます。


59.二つの戦場

許容上限15%を迎えた出久はその身に迸る力を稲妻の様に輝かせ、それを握り潰した。

静かに立ち上がるワン・フォー・オールギアはその身体から紫電を消す。

そして、ショートの目からヒーローは消えた。

見失った相手を探す様に辺りを見回すショートだったが、その姿は見つけられない。だが音がする。高速移動する彼の音が。

 

「させるか!」

 

ショートは自分を中心に炎の結界を敷く。三重に張られた結界が彼を護る。燃え盛る炎が至る所で揺らめいて相手の存在を告げるが、姿を捉えられない。

それ程までの高速移動を仕掛けてくるヒーローを感じた彼の口が笑う。

そうでなくてはいけない。

No.1ならこれくらいやってのけて当然だ。

その時、一際揺らめいた炎を突き破り、彼の敵が姿を現した。

 

「おおぉぉぉ!!」

 

右拳を構えながら飛び込んでくるヒーロー。

それを迎え撃つ為、自らも右拳を構えた。

 

「霧氷冷拳!」

 

右腕に全ての冷気を集め、高硬度の氷で放つ右ストレート。当てた相手を冷却粉砕する必殺技。

 

「【ICE HAMMER !!】」

 

二人の右拳が打ち合わされる・・・かに見えたがそれは叶わない。出久の先の手がショートの右腕を打ち払い、自らの右拳だけを叩き込む。胸に重い一撃を入れられたショートはそのまま後ろに弾き飛ばされた。

 

半ば激情のまま飛び込んだ出久に見えたが、彼は冷静だった。戦いながらも翼や響と模擬戦をした時の様に感覚を研ぎ澄まし、広い視野で相手を見据えていた。もし二人と戦っていなかったら出来なかった芸当である。

 

『ありがとうございます、翼さん、響さん』

 

心の中で礼を言いながらも、決して目は離さない。出久は着地し、更に飛んだ。

乱れた呼吸を整えながらもショートは追撃を防ぐ為に炎と氷の盾を交互に何重も重ねた。出久の連撃はそれを真っ直ぐに貫いていった。

 

 

「緑谷君、ワン・フォー・オールのギア化に成功。状態安定しています」

「凄い・・・。以前観測した数値を軽く凌駕している」

「よしッ!」

 

司令室が驚きに包まれる中、弦十郎は手に拳を打ちつけてモニターに笑いかけた。

 

『師匠! こっちも終わりました!』

『こっちもよ。出久の所に向かうわ』

 

既に市内各所のノイズは半ば一掃され、手の空いた者から出久の援護に向かっている。状況は好転した。これならばこの戦場は終着に向かうだろう。

 

「緑谷君が彼を押し留めている! 各員、油断せずに・・・」

 

そう弦十郎が指示を飛ばそうとした瞬間。モニターの一つで連続した爆発が起こる。

 

「何が起きた!」

「クリスちゃんの受け持つ地区です! 新たな反応を確認! ・・・これは」

 

モニターに映し出される両手の手甲を前に突き出したその姿。赤い瞳に殺意を搭載した彼を見て弦十郎は叫んだ。

 

「爆豪君、だとぉ⁉︎」

 

 

「おいおい。こいつは何の冗談だ?」

 

クリスはいきなり目の前に現れた爆豪の攻撃から既の所で身を躱す。だが爆風を完全に防ぐ事は出来ず、少しだけ吹き飛ばされた。

体勢を直したクリスは叫ぶ。

 

「お前! この間あんだけやられたのにまだあたしに楯突くつもりかよ!」

 

その挑発に爆豪は答えなかった。

その様相にクリスは違和感を覚える。

 

『こいつ、こんな落ち着いた奴だったか?』

 

目の前の彼は先日とは違う。

荒々しさの溢れる所は変わっていない。

ただ今さっきの一撃は力任せに振るわれたのではない。

『ピンポイントで的確に殺しに来ていた』のだ。

それに気がついたクリスはその頬に一筋、冷や汗をかいていた。

 

「『今度は油断しねぇ』って言っただろ」

 

静かに口を開く爆豪。

 

「足蹴にした事を許してやるほど、オレは気が長くはねぇんだよ!」

 

天に向けた掌から爆炎を轟き燃やしながら、爆豪 勝己は地の底から轟く様な声音を轟かせる。

 

「まずはてめぇから御礼参りだ、コラァァァ!!」

「舐めんてんじゃねぇぞ、クソガキィィィ!!」

 

構え直した両手のリボルバーを手にクリスは迎撃を開始した。

赤い爆炎と、紅い銃弾が入り乱れる戦場が新たなラウンドを開始する。

 

 

 

「雪音・・・雪音!」

 

翼の問い掛けに応える声はなかった。ただ開きっぱなしの回線からは激しい戦闘音だけが流れてくる。

翼は行き先を変更した。出久の元へは他の装者達が向かっている。ならば自分がクリスの側へ行かなくてはならない。

脚部ブースターを全開にして、翼は地を滑り出す。

 

「今行くぞ、雪音」

 

残るノイズを倒し終わった防人は只ひたすらに後輩の元へ向かう。


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