僕のヒーローシンフォギア   作:露海ろみ

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六十二話目となります。

お疲れ様です。
ゆっくりとですが続きを書き進めております。
今回も短めではありますがお納めくださいませ。


62.純白なヒカリ

相変わらず変わらない天井を見上げて目を覚ます。そこはまた医務室である。

起き上がろうとすると全身に痛みが走った。

 

「・・・痛って」

 

なんとか身体を起こすと自分の側で眠る人がいる事に気がつく。

切歌だ。

ベッドに寄りかかる様に眠る彼女は静かな寝息を立てていた。

痛む右腕を伸ばして彼女の髪に触れる。柔らかいそれは出久の指の間を流れていった。

撫でられた切歌の表情が柔らかくなる。

 

「デク君」

 

寝言で名を呼ばれる。聞いた出久の顔が緩んだ。そのまま暫く彼女を撫で続ける。眠っていても解るのだろうか。その寝顔もどこか緩んでいた。

 

「切歌ちゃん」

 

名を呼ぶと寝ているはずの彼女は手に寄り添うかの如く、その顔を綻ばせる。それが嬉しい出久は髪を撫でる手をその頬へ。柔らかいそこに手を当てて彼女の温もりを堪能する。

そこそこの時間、彼女の頬を弄り倒していると流石の切歌も目を覚ました。

 

「・・・んむぅ。くすぐったいデスよぉ」

「ごめん。起こしちゃったね」

 

その声に跳ね起きる切歌は声を確かに聞く。目の前には眠り続けていた愛しの彼の姿が。

 

「デク君! 目を覚ましたデスか⁉︎」

「おはよう」

 

朗らかに答えるその声を聞くやいなや切歌は飛びついた。

勢いに驚きながらも受け止める。僅かに震えるその身を抱きとめる。

その行動から理解した。彼女は心配してくれていたのだろう。だからこそきっと目の下にクマをつくりながらここにいるのだ。

気がつくと彼女を放すまいと力がこもっていた。少し強めのその力に抗わず身を委ねる切歌。いや、同じ位の力でこちらに返してきた。

互いに抱き合う二人はそのまま愛しい相手を抱きしめ続ける。

 

「心配したデスよ! わたし達が追いついたら倒れたまま泣いてて、そのまま気を失ったデス!」

 

切歌曰く。

調と切歌が現着すると、出久は一人が地面に泣きながら倒れていたそうだ。そこから気を失った彼は回収されて医務室に運ばれた。

そのまま二日間ほど目を覚まさずに眠り続けていたらしい。

 

「・・・もうだいじょぶデスか?」

 

心底心配した顔で告げる彼女に応える様に出久は切歌の手を握り返す。

 

「ありがとう。轟君とはちゃんと話せたよ」

「そうデスか・・・」

「・・・もしかしてずっと居てくれたの?」

 

答えは言葉ではなかった。握られるその手は彼女の想いを形にした様に強く握られる。

互いを感じ合う数瞬、出久は以前藤尭が言った一言を思い出した。

 

『女の子だからって特別なわけじゃないんだぜ。好きな人が、恋人がいたら意識するよ』

 

ならば今こそ、その瞬間なのかもしれない。自分自身でも意識した事が無い訳ではなかった。

 

違う。

 

今だからこそ。

彼女にこの想いを形にして伝えるべきなのではないだろうか。迷いながらも思い立つ出久の両手が切歌の両頬に添えられた。

急に手をだされた切歌は驚きながら、頬を赤くしながら、出久を見つめる。

彼女の目にはただ真っ直ぐに見つめる彼の姿しかなかった。意を組み思わず目を閉じる。

いつも以上に真剣な瞳に切歌は目を閉じた。

二人の顔が近づいていく・・・のだが。

 

「じーーー」

 

あからさまな嫉妬心を言葉にした調があからさまな邪魔を仕掛けてくる。

はっ!っと顔を向ける二人のすぐ側に、調は三白眼を全開で顔を寄せていた。

 

「おはよう切ちゃん、出久君」

「おおお、おはようございます!」

「おはようございますデス!」

 

出久はともかく、何故か敬語の切歌。その二人の態度に調はやれやれとばかりに首を振った。

 

「目を覚ましたんだね」

「・・・ご心配をおかけしました」

「元気そうで何より」

「あはは・・・」

 

なんとか笑いで誤魔化すのだが彼女にはお見通しの様であった。一方の切歌は真っ赤な顔をしてそそくさとベッドから離れていく。

 

「わ、わたしはみんなに伝えて来るデスよ!」

 

それで言い残すと一目散にドアを駆け抜けていく。出久のバイタルは逐一チェックされているので目を覚ました事は既に通知されているはずなのだが、彼女はその場から逃げる。見事な逃げっぷりだった。

 

「むー」

 

そんな切歌を見送りながら頬を膨らませた調は出久に厳しい視線を送ると、さらにその頬を膨らませた。

 

「むむー!」

「調ちゃん?」

「・・・出久君のバカ!」

「なんで⁉︎」

 

調は言い放つと切歌の後を追って部屋から出て行く。一人残された出久はぽつんとその場に残された。

 

 

 

「それで? 調はそのままいなくなったのね」

「はい・・・」

 

側に座り林檎の皮を剥きながらマリアは嘆息する。説明し終えてベッドに座る少年は小動物みたいな顔をしていた。出来うる限りその身体を小さく縮こませている。

 

「なんと言えば良いのか・・・」

 

そんな彼を前にマリアはこの様な件について豊かな経験がある訳ではない。いや、切歌に先んじられたと言った方がいい。

可愛い妹分と思っていた切歌と同弟分の出久がなかなかに進展している事実に歳上として若干の焦りを感じながらも、手の中の林檎を兎の形に切り終える。

皿に並べ終えると彼に差し出した。

 

「・・・私がどうこう言えることでは無いわね」

 

なんとかそれっぽい答えを捻り出す。

林檎製の兎さんを一つ手に取り、口に運ぶ出久。しばらくの間、その咀嚼音が二人しかいない部屋に響いた。

ちょうど出久が食べ終わった頃、マリアが口を開く。

 

「出久」

「・・・はい」

「切歌の事、好き?」

 

突然の質問。マリアからしたら彼は躊躇すると思っていた。しかしながらその答えはすぐに返ってきた。

 

「好きです」

「・・・そっか。ならいいのよ。しっかりとあの子にその想いを伝えなさい」

 

「あの子はよく言えば純粋。悪く言えば単純な子。だから貴方の真っ直ぐな想いで充分過ぎるくらいなのよ」

 

切った林檎を一つ口に運ぶ。確かな歯応えと甘酸っぱいその味。

 

「そして、二人でちゃんと前に進みなさいね」

 

応援されている。出久はそれが嬉しかった。しかし、しかし自分は。

 

「でも僕は・・・」

「大切なのは、此の今を生きて行く事。勿論、出久が暴走しそうな時は大人として止めるけどね」

 

そう悪戯っぽく笑うマリアに出久は頷いた。

何処か悲しげな顔をしながら。




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