僕のヒーローシンフォギア   作:露海ろみ

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六十六話目となります。

前回の続き、夢原の過去回です。

皆様、読んでくださりありがとうございます。
沢山の方に勇気を頂きました。
この場を借りて感謝申し上げます。


66.夢原 探:オリジン その2

親族に取り仕切られた両親の葬式は何事もなく終わった。僕はただ二人の映る遺影をその手に持っているだけで事足りた。

でもその最中も、後も、誰も声をかけてこなかったのは僕が余程酷い顔をしていたのだろう。

住んでいた家は売る事にした。

これも世話を焼いてくれた親族がある程度のマージンを見返りに手続きを行ってくれた。一家無理心中があった家なのに立地が良かったのか、なかなかの値がつくとすぐに売れたそうだ。

僕は両親の残してくれた遺産を使い、隣街で部屋を借りた。荷物は少なかった。殆どが僕の身の回りのものだけ。あとはすぐるが大切にしていた半ば壊れたロボットと、みちるが可愛がっていたぬいぐるみ。

その二つはどうしても捨てる事ができなかった。

 

あの無理心中の後。父の部屋から遺書が見つかった。警察から渡されたそこには父の苦悩が書き綴られていた。

父は仕事を失っていた。

正確には退職金を積まれ、辞めさせられたというのが正しいだろう。

これは推測だが父が会社にいる事で不利益が出たのでは無いだろうか。例えば取引先との関係が悪くなるといった・・・。

涙でにじんだ文字で紡がれた遺書からは僕ら家族への感謝と謝罪の言葉と後悔が書いてある。

震える筆跡で書かれた文字が遺書を締め括っていた。

 

『どうしてこんな事になってしまったんだ』

 

それには僕も同じ事を思った。

僕がライブのチケットを当てなければこんな事態にならなかったのではないだろうか。

もし当てていても、当日行かなければ今も家族五人で幸せに暮らしていたのではないだろうか。

今となっては遅い後悔である。

手紙の文字が滲んでいく。流れ出る僕の涙が父の言葉を読めなくしていった。

 

 

あれから時間が経ち僕は高校に進学していた。

生存者への迫害は時間を経つごとに風化していき、今は殆ど無いに等しい。

僕にとっては無理心中の後から少しずつではあるが直接的なものは減っていき、いない者として扱われるまでには被害は減っていた。

あの頃はもうそれでよかった。

僕に関わらないで欲しかったのだ。

 

二年生になり、最近のこの街は再びノイズの被害が活発化していた。

僕も何度も警報からシェルターに逃げる事を体験した。

久しぶりにノイズの姿を再び見た僕はライブの光景が蘇り、胃の中のものを全て吐いた。

弟達の最後の光景がフラッシュバックする。

あの救けを求める二人の瞳が僕を射抜く。

 

『お兄ちゃん救けて』

 

二人の声が耳に響く。

二人との記憶が脳裏を走っていく。

迫るノイズ。

僕は歯を喰いしばると唾と共に口の中の残留物を吐き捨て、立ち上がった。

死ぬわけにはいかない。

死んでなんてやるものか。

もう殺されるのはごめんだ。

そんな思いから命辛々、ノイズから逃げた。

 

 

高校に進んだ僕にも新たに友人が出来た。

二年次のクラス替えで出会った彼は、僕がライブ生存者だと知ってもその態度を変えなかった珍しい人物だった。

 

「みんながみんな自分が助かる為に勝手をしたわけじゃ無いだろ?」

 

さも当然とそう言い放つ彼はいつもは人懐っこい笑みを浮かべているくせに真剣な顔だった。

そんな一番欲しかった言葉をかけてくれる彼が僕には眩しかった。

だがどうしても心から信じる事が出来なかったんだ。あの頃みたいにいざとなったら彼も裏切るのかもしれないと思っていた。

それ程までに僕の中身は歪んでしまっていた。

表面上は良い顔をして、彼や彼の友人と付き合った。

 

そして話は更に一年程進む。

僕は三年生になった。

 

 

季節は暑かった夏を通り越えて、秋に入っていた。

その日の僕は昔よく来ていた河川敷に脚を向けていた。辛い日々を過ごしたそこは一人になりたい時ほど今でも訪れる場所。

最近、僕はよく眠れていなかった。

家族と過ごした幸せな日々の夢を見るのだ。五人で食卓を囲み食事を摂る、当たり前だった日常の夢を。

そして食事を食べ終わると食卓には僕しか残らない。二つの席は炭で汚れ、二つの席は血で染まっている。

嫌と言うほど見た悪夢を再び見る様になっていた。

 

「この頃は、見なくなってたんだけどな」

 

一人っきりの河川敷で川の流れを見つめる。このまま入っていったらどうなるかな。

 

「・・・僕はどうして生きてるんだろう」

 

悪夢を見た後は決まってこうだ。

あれから僕は家族の分も生きるのが自分の役目だと言い聞かせていた。それが揺らぐ。

 

「父さん、母さん。みちる、すぐる」

 

あの夢の中の様に。

 

「みんなに会いたいよ」

 

僕はそのまま膝に顔を埋めて、涙を流した。

 

 

騒ぐ声が聞こえた。

顔を上げると日は沈み、あたりは暗い。

声は川にかかった橋の下から聞こえてくる。

目が闇に慣れてくると、そこには数人の学生が話に興じているのがわかった。

煙草を吸っているのだろう、赤い光がチラチラと見える。

何気無しに眺めているとその中の一人が視線に気づいたのかこちらにやってきた。

 

「何見てんだよ」

 

凄む声が僕の上から浴びせられる。

声の主を見上げると彼は目を見開いた。それは僕も同様にだ。

髪を染めて制服を着崩し、大人しかった筈の風貌はだいぶ変わっていたが僕は彼を知っていた。

あのライブで姉を亡くしたクラスメイトだった。

彼は見る見るうちにその顔を歪ませる。

 

「お前・・・夢原」

「君は・・・」

 

その名を呼ぼうとした瞬間、殴られた。

まるであの日の再現だ。

 

「この人殺し野郎。何でまだ生きてんだよ」

 

彼は怒りに任せて僕を殴り続ける。理不尽な暴力に晒されながら、僕も同じ事を思った。

 

どうしてだろう。

何で僕はまだ生きていて、また殴られているのだろう。

妹達を亡くし、両親を亡くしたのは僕のせいなのか。

やはり僕は生きていちゃいけない人間なのだろうか。

 

「何とか言えや、コラ!」

 

この三年間で溜まった鬱憤を晴らす勢いで彼は拳を振り下ろしてくる。

その血走った目でこちらを睨みながら。

 

「弟と妹だけじゃ飽き足らず、本当は両親もお前が殺したんだろ⁉︎ このクソ野郎。てめぇなんかさっさとくたばればいいんだよ!」

 

・・・あぁ、そうだな。

お前の言う通りだ。もう疲れた。

僕の心が塗り替えられていく。

この絶望が僕のゴール地点の様だ。

 

そして僕は生きるのを諦めた。

 

「うわぁぁぁ‼︎」

 

だが僕を殴っていた奴はいきなり叫び声を上げると一目散に逃げていく。

 

「おい、やべーよ!」

「ノイズだ!」

 

倒れる僕にはそんな声が聞こえてくる。複数の足音が遠くに離れていった。

静けさを取り戻す河川敷。

咳き込みながら僕は身体を起こした。彼らは僕の後ろを見て逃げ出していた様だった。

そこに振り向く。

 

そこには一体のノイズがいた。

 

それを見た時、僕は嗤った。

これでやっと楽になれる。

みんなに会えるんだ。

笑顔の僕は手を伸ばして自らノイズに触れた。だがノイズは触れた所から光の粒子になると、僕の中に吸い込まれていく。

 

「・・・なんだよ、それ」

 

あり得ない光景に呆然としながら、僕は身体に流れるノイズの力を感じていた。

 

 

僕は誰もいない橋の下で立ち尽くす。

家族を亡くす原因となったノイズが自分の中にいるということに絶望しかなかったからだ。

右手を前に掲げる。その身に流れるノイズのエネルギーを指先から溢れさせるイメージ。

そして目の前に形作られるノイズの姿。

自分から現界したそれを見て僕は、これが現実なんだと実感して、完全に壊れた。

 

「あはは・・・あははははははははははははははははははははははははははは・・・」

 

口から壊れたスピーカーみたいに笑い声がとまらない。

これは何の皮肉だ?

あれ程憎んだノイズを僕が生み出したなんて。

 

「ふざけんなッ!!」

 

へたり込み、地面を掻き毟った。指先が傷ついて血が流れるが涙は一滴たりとも流れなかった。

なんでこんな酷いことをされなきゃいけないんだ。僕が何をした。僕の家族が何をした。

何にも、してないじゃないか。

こんなのはおかしい。絶対におかしい。

こんな理不尽があってたまるものか!

 

「・・・消えろ」

 

その一言でノイズは僕の中に。

日に日に増殖していくノイズの記憶を胸に僕はゆっくりと立ち上がる。

 

もうこんな世界どうでも良かった。

この理不尽な世界が憎い。憎い。憎い。

僕も死ぬ覚悟までしたんだ、なら巻き込めるだけ巻き込んで、僕みたいな奴を沢山作ってあげよう。

絶望をみんなに届けてあげよう!

 

そう考えた僕は家に帰る事にした。

部屋ではみちるとすぐるが待っている。

今日の夕飯は何にしようかな?

二人の好きなハンバーグとかどうだろう。

きっと喜んでくれるよね。

帰りに材料を買って帰らないと!

二人の笑顔を思い、僕はとびきりの笑顔になったんだ。

 

 

 

 

 

やがて夢原 探は緑谷 出久と出会う。

触れたその手から出久の記憶と並行世界の存在を知り、自分の力が『個性』と呼ばれる事を自然と理解する。

夢原は自らの個性を『並行現界(パラレルワールド)』と名付けた。

 

彼は世界を憎んだ。

正しく、憎悪したのだ。




これにて彼のオリジンは完結となります。

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