お疲れ様です。
オリジンは終わり、時間軸は元の位置へ。
正体を現したヴィランはヒーローの目の前へ。
「どうしてお前が!」
ワン・フォー・オールを纏い、いつでも飛び出せる様に構えをとる出久。彼らしからぬ尋常では無い態度に切歌も目の前に現れた大男が只者では無いのを悟った。
「それはワン・フォー・オールか。よくもまぁ、僕はそれに縁があるね。そうだろ? 緑谷 出久君」
オール・フォー・ワンはどこか嬉しそうな様子で口元を歪め笑う。飄々とした態度だが、その溢れる威圧感から出久は身震いが止まらない。
自分の師でさえ限界まで追い込まれたヴィラン相手に半人前の自分がどこまでやれるだろうか。
その答えは明白だ。
相手になるはずもない。
それでもこの個性を受け継いだ者として、ここで引くわけにはいかなかった。
そして自分の後ろには守るべき人がいる。
ただそれだけの意思が彼をこの場に引き留めていた。
「おやおや。そんなに震えてどうしたんだい、九代目?」
面白がっている。
その事実が出久の脚を前へと踏み出させた。
「オール・フォー・ワンッッ!!」
「デク君!」
切歌の声を背中に聞きながら纏うフルカウル。その一撃を右足に込めて狙うのは奴の首。一瞬の内に詰めたその短くない距離。
だが最強のヴィランは何のこともないと左腕をかざした。
「『衝撃吸収』」
出久の蹴撃はその左手にやすやすと止められた。まるで上質なクッションを殴りつけた時の様に優しく包まれる脚。勢い全てが殺されていた。
「暴力的だね。仮にも正義の味方がそんな事でいいのかな」
「この!」
「無理だよ」
その一言と共に出久の身体が宙を舞う。オール・フォー・ワンは手を動かしてすらいない。何の個性を使われたのかさえわからなかった。
体勢を立て直す暇もなく近くの壁に叩きつけられる。切歌が駆け寄り、倒れる彼を抱き起こす。
「しっかりするデス!」
その大きく響いた音に喫茶店の店主が外に出てくる。
「うるせぇな。どこのどいつだ、騒いでんのは・・・」
そこまで口を開いた彼はついさっきまで店にいた少年が倒れているという状況に血相を変えた。
倒れる少年。それを泣きそうな顔で抱き抱える少女。道の反対側に視線を振るとよく知った青年が見知らぬ大男と共に立っている。
「・・・お前」
「あぁ、マスターですか」
いつもの笑顔が彼を迎えた。
だがなんと悲しく歪んだ笑顔なのだろうか。見ているだけで心をえぐられる笑みを浮かべた夢原に店主の目が細まる。
「大した事じゃないですよ。気にしないで下さい」
「そういう訳にはいかねぇな。ちゃんと説明しやがれ」
「マスターには関係ありませんよ」
「夢原!」
声を荒げながら歩み寄ろうとした店主の動きが止まった。踏み出した脚が縫い付けられたかに感じられる程、地から離れてくれない。
まず店主は自分と夢原の間に立つ異形の大男に目を奪われる。目の無い男から滲み出る非日常感は今まで感じた事の無いものだった。
そしてもう一つの脅威、ノイズだ。
三体のノイズは狭い道を塞ぐ。その隙間からこちらに手を向けている夢原の姿が見えた。
自らの命が握られている感触に冷や汗が流れる。
「夢原君。どうするかね?」
「・・・もういいですよ。興が削がれました」
オール・フォー・ワンの問いに答えた夢原はこちらを睨み続ける店主を一瞥する。
「緑谷君」
遂に正体を表したヴィランは口を開いた。
「君は、君の存在は僕の目的の障害になる。だから・・・邪魔をするな」
「夢原先輩・・・」
切歌の腕の中で頭を動かす。
信じられなかった。あんなに優しい笑みを浮かべる彼が裏から手を引いていたなんて、まだ信じたくなかった。
「これ以上手を出さないならいい。だが、もし首を突っ込んでくるのなら・・・」
夢原は嗤う。
そこで出久はやっと思い出す。
誰かに似ていると思ったあの目。
木椰区ショッピングモールで自らに問い掛けをしてきた『彼』
死柄木 弔の目にそっくりなのだ。
同じ笑い方をしながら、夢原とオール・フォー・ワンはその姿を消した。
残された三人はノイズが光の粒子となるまで、全員が暫くの間動けずにいた。
「嬢ちゃん、坊主は⁉︎」
夢原が去りノイズが消え、やっと店主が切歌のもとへ駆けつけると腕の中の出久は腕を動かして自身の無事をアピールした。
「すみません・・・巻き込んでしまって」
「何言ってやがる。ともかく、その血を止めねぇと・・・」
「本当に、ごめんなさい・・・」
「しっかりするデス!」
ぶつけられた時に頭を切ったのだろう。その額には赤い筋が走っている。流れ出す彼の生命はその顔を染めていく。
服が赤く染められていくのを関係ないとばかりに彼を抱きしめて声をかけ続ける切歌は涙と共に出久を受け止めた。
「待ってろ。今救急車を・・・」
店主が踵を返して店に戻ろうとした時、狭い路地に複数人の足音が響き渡る。
「切歌! 出久!」
桃色の髪を振り乱し、飛び込んでくるのはシンフォギアを纏ったマリア・カデンツァヴナ・イヴ。
「無事か、緑谷」
同じくギアを展開した翼が周囲を警戒しながら彼らの側に立つと、横目で彼の容態を見遣る。
二人は周囲を警戒し、互いにカバー出来る位置を守りながらその警戒網を狭めていった。
数瞬後。すぐさま現れる脅威を認められなかった二人は少しだけ警戒を解くと、周囲へアンテナを張り巡らせながらも倒れる仲間へ駆け寄る。
「しっかりしろ!」
「切歌、大丈夫⁉︎」
二人の装者は得物を構えながら、その中心点にいる三人をガードする様に防御円を狭めていった。
「すみません、やられてしまいました」
「そんな事はどうでもいいのよ!」
声を張り上げるマリアは出久の状況を観察、ギアを解くと取り出したハンカチを彼の傷にあてがう。傷が深いせいかそれはすぐに赤く染まった。
「ノイズの反応が出たので来たのだが・・・お前が倒したのか?」
「いえ。ノイズは、消えました」
「消えた?」
「どういう事⁉︎」
「それは・・・」
そこまで口を開くのが限界だった。出久は失血から自身を失っていく。朦朧とする意識の中、出久は彼が自分に向けた瞳を思い出す。
絶望を形にした目が自分自身を見据えている。
暗くて昏い、深淵から深淵の奥を覗くようなその瞳は底知れない闇の光を称えていた。
「夢原君。これからどうするんだい?」
「そうですね・・・」
所代わり、二人が居るのは夢原の自室。対面向き合うように座る二人はテーブルを挟み、湯気をたてるお茶を目の前に会話をする。
「僕の個性もなかなかに強くなってきました。今なら貴方を喚び出しながらも他の存在を現界させる事も出来ます。これで、僕の復讐を遂げる事が出来そうです」
「それはよかった」
「僕はこの手でこの世界を壊したい。この力を使って、僕の家族を死に追いやった世界を滅ぼすんです。だって・・・僕は被害者なんだ」
「なるほどなるほど」
煎れられたお茶を一口啜るオール・フォー・ワンは頷く。
「そして僕を苦しめたこんな世界なんて、いらないんですよ。だから壊し、滅ぼし、全てを消し去る」
自分の力に溺れつつある青年は気がつかない。
「力が回復したら、まずはこの街の人を皆殺しにします」
自分が喚び出した相手がどれ程の存在かを。
「緑谷君たちが邪魔するようなら容赦はしませんよ。無論、手を貸してくれますよね?」
「・・・勿論だとも」
大仰に首肯するヴィランが自分の事を嘲る様に見つめていることに全くもって気がつかなかった。
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