僕のヒーローシンフォギア   作:露海ろみ

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七十話目となります。

お疲れ様でございます。
無ければ書けば良い。自分の読みたいお話を書いていたら気がつくと、こんな話数となってしまいました。
人の欲とは底知れないものですね。



70.悪手

喚び出されたオール・フォー・ワンと尖兵たるノイズ達。

 

「なかなかに興味深いな。何だい、それは?」

 

オール・フォー・ワンは先日とは姿の違う出久を見て顔を綻ばせる。新しい玩具を見つけた子供のような、しかし邪悪な笑み。

出久はその笑いに負けまいと意識を張り直した途端、彼の姿を見失う。

 

「ちょっとよく見せておくれよ、緑谷君」

 

耳元から声がする。いつの間にか背後をとられている現実に全身の毛が逆立った。咄嗟に左の裏拳を繰り出す。

 

「おぉ! この間より素早いね」

「まだだッ!」

 

【St.LOUIS SMASH !!】

 

腰部バーニアを吹かし、地を蹴り奴目掛けて回し蹴りを放つ。セントルイススマッシュはオール・フォー・ワンの首に直撃する。

フルカウルのスピードを遥かに凌駕するシンフォギアはヴィランを遥か後方へ弾き飛ばした。

 

『効いている!』

 

手応えはあった。この脚は確かに奴に届いたはずだ。その結果、オール・フォー・ワンは眼前から一時的に姿を消す。

この力が通じるのなら、攻めるのは今しかない。着地するやいなや出久は更に跳んだ。

 

「させるか!」

 

それを遮るのは夢原に操られたノイズ群。自身とオール・フォー・ワンの間に壁を作るが如く展開される多くのノイズ達。その全てが自分を討ち果たさんと殺到してくる光景に出久の口調が荒くなる。

 

「邪魔だ、どけぇッ!」

 

波状攻撃を仕掛けてくるノイズをいなし、砕き、貫き、引き裂いていく。そんなノイズの波を掻き分けながら進む出久の耳に声が届いた。

 

「『圧縮空気』」

 

突如目の前のノイズが膨れる。反射的に右手を構えると手甲が稼働し、その指からエアフォースが撃ち出された。

その身の前後に大孔を空けるアイロンノイズ。出久が放った空気弾は何かにぶつかると辺りに風を撒き散らした。

土埃が自分を中心に盛大に舞う。腕を振るい風を起こすとその目眩しは晴れていった。

その先に立つのは無論、オール・フォー・ワンだ。着こなしたスーツにホコリ一つ付けず、手を叩きながら彼はゆっくりとこちらに歩を進めてくる。

 

「すごいすごい。まさか僕の反応が追いつかないなんて! やるじゃないか、九代目」

「ッ!」

 

まるでダメージを負っている様子が無い。

それはさっきまで僅かな希望を持っていた出久にとって絶望を覚える程残酷な現実を突きつけてきた。未熟な自分が新たに得た力を使っても、このヴィランには通じないと答えが出てしまっていると同義である。

 

「今の一撃には驚いたよ。空間をずらした筈なのに喰らってしまった。なかなかやるね、ワン・フォー・オールの継承者」

 

ノイズによるリングが二人を囲っていく。その中にいるのはこの世界にやってきたヒーローと最強のヴィランの二人だけ。

一方は負けるまいと相手を睨みつけ、一方はこの楽しい遊びをすぐ終わらせるのは残念だと彼のすぐ前まで歩いていく。

 

「さぁ、もっと楽しませてくれ」

 

まだまだ余裕を持ち、語りかけてくるオール・フォー・ワンにヒーローは挑みかかった。

 

 

「そうだ! そいつを殺せ、オール・フォー・ワン!」

 

自分の邪魔をする奴はみんな消えてしまえばいい。狂った様に高笑う夢原は次々とノイズを喚び出すと出久に向かわせる。

・・・頭が痛い。この個性は自分の精神力を削るものだ。使えば使うだけ、この心がすり減っていく。オール・フォー・ワンという特大の存在は彼の力を半分以上持っていっていた。

それでいい。自分を、家族を壊した世界を滅ぼせるのなら、その後どうなったっていい。

既に一度覚悟をした夢原にとって、死は恐怖では無い。『救済』なのだ。

辿るべきはその道筋。

復讐を願う青年は戦況を進めるために手駒を増やす。ヒーローの少年を憎む『彼』を喚び出すべく、意識を集中させた。

 

「さぁ、行け!」

 

狂気と共に喚び出されたのは出久の元クラスメイト。ヴィランに師を殺され、力を引き継いだ幼馴染を憎んだ異世界の少年・・・爆豪 勝己。

オール・フォー・ワンによる『遊び』に翻弄される出久にとって、これ以上手強い敵が増えるのは好ましくは無い状況。

駄目押しの召喚。

だがそれは夢原 探の崩壊の一手となる。

彼はまだ理解していなかった。自身の個性は感情までは知る事ができるが、その人物の全てを識る事が出来ない事を。

 

現れた少年は動こうとしない。人形の様に固まると戦闘地点をじっ、と見つめている。

夢原は訝しげに少年の背を見ると声をかけた。

 

「何してるんだ! ほら、緑谷君を殺せるチャンスなのがわからないのかい!」

 

叱咤する声を受けながらも爆豪は動こうとしない。何かが噴き上がるのを押さえつけるが如く、その肩が震えていく。

 

「・・・めぇ」

 

小さな声が漏れ出す。

直後、爆発し怒気を孕んだ叫びは戦場を貫いた。

 

「なんで此処にいやがるッ!!」

 

ターボを使い、一瞬にして飛び上がる爆豪は上空から憧れのヒーローを殺害したヴィランに殴りかかった。

 

「オール・フォー・・・ワンッッ!!」

 

 

声はヴィランとノイズに弄ばれていた出久の上空から降ってきた。

聞き間違えるはずのない声。

幼い頃から聞き馴染んだ声。

よく知る、かっちゃんの声。

敵を前にしているのに出久の顔が上がる。昔から自分の身近にいた彼が右手を振りながら、オール・フォー・ワンに挑みかかって来る。

 

「ブッ殺す!」

 

全身全力を込められたハウザーインパクトが容赦なくオール・フォー・ワンに叩きつけられる。彼の右手を中心に辺りは大爆発を起こした。

 

揺らめき立つ爆炎の中心に少年は立っている。

 

「てめぇだけは・・・」

 

彼は少しずつ身を起こしながら、憎しみの炎を見に纏う。

 

「倒さねぇと・・・オレが、オレ自身が! 許せねぇんだよ!!!」

 

吠える爆豪は突き出した掌から個性を連続使用すると高速で回転、炎の塊は地を奔りオール・フォー・ワンを駆逐せんと迫る。

 

「オールマイトの仇! とらせてもらうぞ、クソヴィランッ!!」

 

 

吹き荒れる爆炎からその顔を守りながら、出久は後ろに飛んだ。ギアが軽減してくれなければ、大火傷を負っていただろう。それが理解出来るほどの怒りが炎には込められていた。

そんな彼の叫びがここまで聞こえて来る。

 

「かっちゃん・・・」

 

それを聞いた出久の目に涙が溢れる。

爆豪は今「倒さないと」と言った。

口の悪い彼は普段から「死ね」だの「殺す」だのと口にする。だが決して相手を死に至らしめた事はない。それがヴィランであろうともだ。

人々を救うヒーローに憧れ、ヴィランに勝つヒーローを目指していた彼と一緒だ。一緒なのだ。

手の甲で拭いながら、笑っている自分がいる。彼は、やはり変わっていなかった。

僕のよく知る、君だったんだ。

 

出久は走り出す。

ヴィランに挑む『ヒーロー』と共に戦うために。




『救けて勝つ』ヒーローと『勝って救ける』ヒーローが揃いました。
この後、更に六人来ます。
さてオール・フォー・ワンはどうなるのでしょうか?

・・・それでも今のままでしたらオール・フォー・ワンが勝ちそうですね。


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