僕のヒーローシンフォギア   作:露海ろみ

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七十五話目となります。

お疲れ様でございます。
やはりただではやられないオール・フォー・ワン。
そして夢原にとって、本当の意味で最悪の展開が始まります。
その時、ヒーローは何を思うのでしょうか。


75.存在証明

その男はいきなり現れた。

五人の装者達は一瞬たりとも気を抜かず、目を離してさえいない。しかし拍手の音とその声はいつの間にか夢原のすぐ側に佇んでいる。まるで最初からそこにいたかのように。

これまで数多の敵と戦ってきた彼女らは歳こそ若いものの戦歴を見れば戦闘経験豊富な強者である。そんな装者達の背中に汗が吹き出た。何をされたか、わからない。そんな形容し難い威圧感が男から感じられた。

異形の大男はその口からスラスラと称賛の言葉を続ける。

 

「『囮(デコイ)』とはいえまさか倒されてしまうとは想定外だった。やはり保険はかけておくものだね。ヒーローという奴は本当に面白い」

 

愉しそうに歪む口元。自分が倒された筈なのにそれさえも娯楽の一つと言わんばかりのヴィランはどこか興奮した様子で話す。

話を続ける男に対し装者の一人が刃を片手に飛び込んでいった。その顔には常日頃からある冷静さは無い。これまでで最上級の危機感を露わにした風鳴 翼は振るう天羽々斬でその首を断たんと迫る。一閃は確かに御首を奪おうと肉薄した。

この男は今ここで倒さなくてはならない。

 

「おや、危ないなぁ」

 

軽い口調で指を一本立てたオール・フォー・ワンは天羽々斬による斬撃をピタリと止める。その刃は一ミリたりとも届く事はなく人差し指で留められた。

翼は殺すつもりでこの一撃を放った。しかし結果は刃でもないただの指にて止められる。欠片とはいえ八岐大蛇を討ち倒した剣はそれ自体が宝剣の域に達しているはず。その一撃がただの攻撃であるはずがないのに通る事はなかった。それでも強引に捩じ切ろうとする翼は柄に力を込める。

 

「無粋だね。ミス剣豪」

 

オール・フォー・ワンは立てた指を横に傾ける。その流れに巻き込まれた翼の身体が吹き飛んだ。

仲間の惨状を見て残された装者は我を取り戻す。男の放つ異様な雰囲気に飲まれかけていた。その中でもいち早く立ち直った響が拳を握ると雄叫びと共に背後から殴りかかる。

オール・フォー・ワンは背中に目があるかのように容易くその拳を回避する。当てる対象を失い、勢いで横を抜けていく身体に個性を幾つか乗せた拳を使ってその飛距離を伸ばしてやった。

次いだマリア、クリス、調のそれぞれの攻撃が三方からオール・フォー・ワンに襲い掛かる。しかしながらダメージを与える事は出来ない。僅かに届いたものはある。でも短剣も、銃弾も、丸鋸さえも彼の着るスーツに切れ目さえ入れる事はなく弾き飛ばされた。

 

「どうなっていやがるッ!」

 

撃てども撃てども鉛の礫が対象を貫かない。焦燥感を覚えたクリスは小型ミサイルを展開、発射する。マリアと調は飛来するミサイルの爆風範囲からすぐさま退避した。襲い掛かるミサイルに夢原は頭を抱えて縮こまるがオール・フォー・ワンは慌てる事なく手をかざす。

 

「『方向反転(ミスディレクション)』」

 

その一言で着弾寸前のミサイルの動きがピタリと止まる。僅かに震えた後、その行き先を真逆に向けて再び飛翔した。クリスは目を見開き唖然とその動きを止めてしまう。

 

「クリスちゃん!」

 

瓦礫から転がり出た響が間一髪のタイミングでクリスに飛びつき、範囲外へと彼女を連れ出した。背後で盛大な爆発が連続する。爆風に後押しされる形で二人は地を転がった。

 

「クリス!響!」

 

腕で顔を守りながらマリアが仲間の名を叫ぶ。しかし返答は無い。悪態をつきながら右手の短剣を前にオール・フォー・ワンを睨みつける。余裕綽綽といった態度の彼は手を下ろすと側に蹲る青年に対して膝をついた。

 

「大丈夫かい、夢原君」

「オール、フォー・ワン・・・。やられたんじゃなかったのか」

 

乱れた酷い顔を上げながら答える夢原に口元だけ嗤ったオール・フォー・ワンは答えた。それはまるで芝居役者の様に大袈裟な動きを伴う。

 

「僕はあの程度でやられたりはしないよ。なんたってこれでも『最強のヴィラン』だからねぇ・・・」

 

その頼もしくも悍しい姿に夢原の口も吊り上がる。

まだだ。まだ終わっていない。僕の復讐は終わらないのだ。彼さえいれば何とかなる。この世界を混沌に陥らせる事が出来る。絶望の中から悪意ある希望が芽をだす。

夢原から笑いが漏れ出した。全てを呪い、全てに絶望し、全てを無に還そうとする笑い。

 

そんな壊れた主人を見たオール・フォー・ワンは笑みを深くして告げる。

 

「でも。君は少し邪魔だね。夢原君」

「・・・は?」

 

夢原の笑いは止まる。

何を言われているのかわからない。これは止まない頭痛のせいだろうか。回らない頭で必死に意味を飲み込もうとするが、そうすればそうする程に理解出来なかった。

目の前にいるのは自分が喚び出した傀儡のはずだ。

 

「折角面白い個性を持っているのに使い熟せていないじゃないか」

「なにを、言ってる」

「勿体無いよねぇ。それだけの強個性、扱おうと思えばより良い運用が出来るはずだ」

「ま、待て」

「僕なら、もっと上手く扱える」

「やめろ・・・!」

 

思わず後ずさる夢原だったが、オール・フォー・ワンの腕からは逃れられない。

 

「だから僕が『貰ってあげよう』」

 

頭に乗せられる右手は夢原の中の何かを吸い取る。

自分だけの力。

復讐の為の力。

世界を滅ぼす力だと信じていたものはいとも容易く彼の中から消えていく。心の隙間を辛うじて埋めていたモノがすっかり消えてしまう。その喪失感から夢原は絶叫する。

 

やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ。

やめてくれ。

それはぼくのものなんだ。

それはぼくがぼくでいるためのものなんだ。

ぼくがじぶんでやらなくてはいけないためのものだ。

それをとらないで。

僕を・・・消さないで。

 

「いやだ・・・たすけて・・・」

「心配はいらない。復讐は僕が引き継ごう。君は僕の中から世界が変わっていくのを見ているといい。そして・・・」

 

奪われる個性と共に夢原の身体も消えていく。その全ては光と共にオール・フォー・ワンの中に取り込まれた。

 

「全てが終わった後に祝杯をあげよう、夢原 探君」

 

オール・フォー・ワンは吸収した。

夢原 探という人物を構成していた『全て』を奪い取る。

それは彼の個性であり、彼の生きる目標であり、彼自身がこの世界で存在する理由さえも自らの内に取り込んだ。

 

「あははははは・・・。癖はあるけれど本当に面白い個性だね、これは」

 

こうしてその個性と存在をオール・フォー・ワンに奪われる形で夢原 探は世界から姿を消した。

 

 

「大丈夫?」

「すまねぇ、油断した」

 

響の腕の中で答えるクリスはその身についた土を払いながら立ち上がる。即座にアームドギアを呼び出すと構え直した。その側に並ぶ響も拳を固めて大男に視線を向ける。

 

「響さん!」

「クリス先輩!」

 

そこに騒ぎに気がついた切歌と出久が合流した。距離が離れていたのが災いし、二人は状況が把握できていなかった。だがあれだけの戦闘音にただならぬ気配を感じ、加えて近くまで吹き飛んできた響とクリスから何かが起こっているのは察していた。

 

「デク! まだ終わってねぇ!」

「え・・・?」

 

鋭く叫ぶクリスの声に身体を固まらせる。そして戦闘態勢を崩さない二人の厳しい視線の先に目を向けた出久は凍りついた。

 

「あの野郎、やられてねぇぞ!」

「嘘、だろ・・・」

 

先程消えていくのを確認した相手。

倒したはずのヴィラン、オール・フォー・ワンの姿がそこにはあった。

見る限りダメージを負っている様子は見られない。自分と爆豪、二人がかりの最大攻撃が通じていなかったとでもいうのだろうか。あまりの事にたじろいでしまう。

 

「そんな・・・⁉︎」

「お前はここにいろ。あいつはあたし達でなんとかする」

「でも!」

 

クリスの言葉に反論する出久は動かした身体から痛みに顔を顰めてしまう。

 

「出久君、ボロボロだよ。これ以上無茶しちゃ駄目だ!」

 

続いた響の言葉は普段の彼女からは想像出来ない強い力で彼を制した。

 

「切歌、そいつの事任したぞ!」

「行っくぞぉぉぉぉぉ!!」

 

黄と赤のシンフォギア装者は二人を置いて戦場に戻っていく。傷だらけのヒーローと切歌はその背を見送る。

動いてくれない身体が恨めしい。

出久は涙を滲ませた。もっと自分が強ければ、もっと鍛えていれば、と。

歪む視界で目の前の宿敵の動向を見続ける。

そいつは青年に手をかざすと後ずさる彼に手を置く。彼の意味を成さない叫びがここまで聞こえて来た。

そしてその時、出久は目にし、耳にする。

彼の口から溢れ出たその一言を。

 

『たすけて』

 

瞬間。出久に力が戻った。

無理した痛みが消えたわけでは無い。

無茶した傷が治ったわけでも無い。

でも確かな事がひとつだけ。

 

救けを求める人がいる。

 

夢原は間違いなく自分の敵だった。

それでも、今「救けて」と言っていた。

それを見逃さない。

それは見逃さない。

だって僕は。

 

「行かなきゃ・・・夢原先輩を、救けなきゃ」

 

ゆっくりと立ち上がる出久の口から小さく声が出る。その行動と声に切歌は驚き、止めようとした。これ以上傷付く彼を見たくは無いのだ。

切歌も同じものを見ていた。自分達にノイズをけしかけた青年が消えていくのをその二つの目で見た。

どう考えても明らかに自分達の敵の筈なのに、そんな彼を出久は救けに行くという。

 

「駄目デスよ!」

「ごめん。でも行かなきゃ」

「どうしてデスか⁉︎ だってあいつは、わたし達の敵なんデスよ!」

「でも先輩は、救けを求める顔してたから・・・だから!」

 

出久はワン・フォー・オールギアに深緑色のエネルギーを流す。右腕のガントレットが再び同色の光を灯した。

 

「僕は、夢原先輩を救ける!」

 

戦闘が始まった場所を見つめる彼の真っ直ぐな瞳に迷いはない。

ヒーローとはお節介者の別称だ。

それでもいい。

救けられるのなら、それでいい。

出久は微笑んだ。それこそが『救けて勝つヒーロー』である、自らの存在証明に他ならない。

そんな今にも走り出そうとする出久の右手に重ねられる手が一組。俯いた切歌の手が添えられる。

 

「デク君のおバカ・・・」

 

止められない。止められる訳がない。

普段はちょっと頼りないけれど、困っている人がいれば救けずにはいられない。

自分はそんな彼を好きになったのだ。

だから切歌は彼を止められない。

だから切歌は決意する。

涙を堪えて、大好きな出久に伝えた。

 

「なら、一緒に行くデスよ。一人では戦わせない。デク君は、わたしが守るんデス!」

「切歌ちゃん・・・」

 

出久の右手に新たな光が宿る。明緑色のラインが輝きを増していく。その光は彼女の言葉に応えるが如く、出久のギアにエネルギーをもたらした。彼女の想いが出久に、この世界にやってきたヒーローの力になる。

震えるその手から伝わる沢山の感情を受け取った出久は握り返す。

 

「行こう!」

「りょーかいデス!」

 

声と共に出久と切歌はオール・フォー・ワンに向かっていった。




オール・フォー・ワンに取り込まれる夢原。
彼は自らの手で世界に復讐をしていくつもりが手段と、その存在さえも奪われてしまいました。

出久と装者の勝利条件
・オール・フォー・ワンの打倒
・取り込まれた夢原の救出

オール・フォー・ワンの勝利条件
・敵対勢力の排除
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