僕のヒーローシンフォギア   作:露海ろみ

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七十七話目となります。

この話は去年の十二月には原型が出来ていました。
そこから話の流れに沿って書き足したり、文章を減らしたりと様々あってこの形となりました。
色々と書き換えながらも絶対に変わらないものは『出久と切歌が絶唱してヒーローへと変貌する』という事。
私の描いてきた物語はこの一話の為にあったと言っても過言ではありません。

漸くこの話を投稿出来る事に感謝を。
そして温かく見守って下さった皆様に感謝を。
まだ少しだけ続く今作ですが、これが私が描きたかったお話です。


77. HEROES Re:RISING

ガタガタと震える脚がいう事を効かない。

それでも出久は立ち上がった。その両脚を大地に突き刺す。自分はテコでもここから引くわけにはいかないのだ。

彼女を、彼女の世界を救けるために。

 

「負けるわけにはいかないッ!」

 

その後ろには六人の装者。彼らは立ち上がったヒーローの背を見つめる。

見えるのは小さな背中。

全てを背負う大きな背中だ。

 

「僕達は! この世界のヒーローなんだ!」

 

出久が自らを鼓舞した言葉は伝染する。一人、また一人と立ち上がっていく装者達。誰一人としてその瞳から戦意を失ってはいなかった。

圧倒的な戦力を振りかざしてくるオール・フォー・ワンを前に七人の装者は立ち塞がる。自分達の後ろにいる人々を守るために。

その姿を見たヴィランは理解できないといった様子で告げた。

 

「僕は決してこの世界を不幸にしたい訳ではないと言っているじゃないか。個性の無いこの世界にそれを齎し、新しい世を切り拓こうとしているだけだよ?」

「それはお前の自分勝手な都合だろ!」

 

いち早く飛び出した出久はその脚で巨悪を蹴り抜こうとする。だがオール・フォー・ワンの腕は雑作もなく受け止める。

ワン・フォー・オールギアを纏った出久の蹴りはいまやオールマイトにも匹敵する威力を持っているはずだが、それさえ通じていないようだ。

 

「やれやれ。ワン・フォー・オールの継承者というのは誰も彼も僕とは相容れないね」

「・・・このッ!」

 

もう片方の脚に力を込めた出久はもう一撃を与えようと空中で体を入れ替える。

 

「五月蝿いな。『圧縮空気』」

 

その一言ともに弾かれるように吹き飛ばされる出久。

飛び出した以上の力で飛んでいく彼は響によって受け止められた。響は地面を派手に削りながら何とか衝撃を殺す。その隙を埋めるかのように背中を押された五人の装者達は飛びかかる。

 

「おのれッ!」

 

翼の天羽々斬が必殺の横薙ぎを放つ。

 

「舐めんなァ!」

 

クリスのイチイバルが精密射撃により頭部を狙い撃つ。

 

「喰らいなさい!」

 

マリアのアガートラームが多節鞭で逃げ場を失くす。

 

「負けない!」

 

調のシュルシャガナがその四肢を切り裂かんと巨大な丸鋸を撃ち出す。

 

「マスト、ダーイッ!」

 

切歌のイガリマが頭上から真っ二つにせんと斬りかかる。

 

しかし相手は最強最悪のヴィラン、オール・フォー・ワン。

 

「『身体硬化』『身体軟化』『部分透化』『鈍化』『自動反射』」

 

斬撃は容易く受け止められ、銃弾は難なく弾かれる。鎖は捉えるべき対象を失い、四刃は斬り裂くその動きを止め、最後の一撃はあらぬ方向に跳ね飛ばされた。

あらゆる個性を持つ彼にとってシンフォギア装者の攻撃など攻撃ではないのだ。その場から一歩も動かず、全ての攻撃の意味を消失してみせるオール・フォー・ワン。

 

「そんなものが僕に通じるはずがないだろう」

「だとしてもッッ!!」

 

六人目の装者が最速で最短で真っ直ぐに一直線に、その想いを乗せた拳で殴りかかる。

数多の世界で神と崇拝される彼に概念的特攻が入ってもおかしくはない『神殺し』の擊槍・ガングニールの少女は引き絞られたガントレットを変形させ、特攻を仕掛ける。

それでもオール・フォー・ワンにはまだまだ行使できる個性がある。

 

「『空間停止』」

 

神殺しの拳は対象の僅か数センチ前で止まってしまう。どんなに力を込めても微動だにしない拳をねじ込もうと彼女はバーニアを全開にする。

 

「負ける・・・ものかぁぁぁぁぁ!!」

 

それでも拳は届かない。

オール・フォー・ワンが軽く腕を一振りすると六人の装者達は紙吹雪の様に空を舞った。

倒れ伏した出久はそれを動かない身体で眺めていた。仲間の身体が塵屑のように飛び、六つの鈍い着地音が地面を通じて出久に響く。

共に戦う仲間達は今や地面と同化するかのように動かない。

それでも目の前の圧倒的な脅威は依然変わらず、その場に君臨していた。

 

「無駄な足掻きはやめたまえ。所詮君達では無理だ。邪魔をするのなら、ここで安らかに死んでほしいな」

 

潰れた目で見下ろしながら、芝居がかった様子で喋るヴィランはこの世界のヒーロー達を嘲りながらその両手を天に向ける。

 

「君たち程度では力不足だ。僕に勝ちたいなら全盛期のオールマイトでも呼んでこないとね。まぁ、ここにはいないようだけれど」

 

高らかに笑うオール・フォー・ワンに見上げながら、出久はまだ戦おうと喘いでいた。

あいつを倒すのは力を引き継いだ自分の役割のはずだ。それなのに自分は地に伏している。

出久はもはや出ない力を振り絞る。

力の入らない四肢を半ば強引に動かす。

口の中に強い鉄の味が広がり、唾液と共に横に吐き出した。

『倒れてしまおう』という弱い心をぶん殴り、黙らせる。

ゆっくりと、でも確実に、その両脚を再び地面に縫い付ける。

 

「でも・・・」

 

口から出るのは。

 

「負けない。負けられない」

 

決意の現れ。

 

「お前をこの世界で・・・」

 

自分の使命を。

 

「好きにはさせないぞ!」

 

貫き通すヒーローの矜恃。

出久は睨みつけたオール・フォー・ワンに自分の背中を貫いている一本の想いをぶつける。

 

「お前を倒すのは、僕達なんだ!!」

 

 

その時。

 

 

そんな出久の胸に一つの歌詞が流れ出す。

それが何かはわからない。

それでも歌わずにはいられなかった。

今ここで歌わなくてはいけなかった。

 

だけれど口を開こうとしたその時、出久は感じとる。

 

この歌は使い方を誤れば大事となるだろう。

全開のワン・フォー・オールを使った時と同様に今の自分には過ぎたる力。

それこそが、今胸に流れている歌だ。

 

歌っていいのか。

本当に歌っていいのだろうか。

この歌はオール・フォー・ワンを倒す為に、夢原を救う為に必要なのは理解できた。

しかし歌ったら最後、どうなるかわからない。未来不確定なその要素が出久を一瞬だけ躊躇わせる。

 

だが。

そんな心の鎖をヒーローは強引に引き千切っていく。

 

『目の前で救けを求めている人を救えないで、ヒーローなんて言えるかよ!』

 

目の前のヴィランを倒す為なら、僕は全身全霊を懸けてやろう。たった一人でも救けるべき人がいるのならば、僕はこの歌を歌わなくてはならない。

その激情に任せて口を開こうとした彼の背にそっと手が添えられた。

驚き、背後を見ると倒れていたはずだった彼女の手が伸ばされている。

 

「デク君」

 

そこには傷だらけの切歌がいた。彼女は背に置いた手に額を付ける。

 

「『歌う』んデスね?」

 

ゆっくりとした問い掛けは出久の背骨を響かせる。出久は言葉を発さなかったが、切歌にはちゃんと伝わった。

 

「それなら」

 

切歌は彼の隣に立つ。

血を流し、傷だらけの二人の手が結ばれる。

彼女はしっかりと出久の手を握り、彼の見る方向を見据えた。

 

「一緒に歌えば、怖くないデス」

 

横から流れるのは彼女のうた。握られた手から伝わる鼓動は出久の胸に宿った激情を鎮めていった。

僕はその声に幾度救けられて来たのだろう。

思わず泣きそうになる。でも堪えた。

代わりに伝える感謝の言葉。

 

「ありがとう」

 

しっかりと握り締めるのは彼女の右手。大切な彼女の小さな手に想いを乗せて。

出久は答えの分かっている質問を切歌にした。

 

「ねぇ切歌ちゃん、僕と一緒に歌ってくれる?」

「もちろんデスよ」

 

にっこりと笑う彼女。

それにつられて笑う僕。

互いに握る掌を更に握り締めた。

二人なら、この歌を歌える。

僕達なら、この歌を歌える。

二人は同時に二つの音階を歌いだす。

 

 

目の前に立つ二人の姿を見た、残る装者達も立ち上がった。

ここまでやられても、その顔に絶望は無い。

あれだけ格好良いヒーローの在り方を魅せられたのだ。

今あるのは、この道を照らす希望の光だけ。

 

「やるんだな、緑谷」

「切ちゃん、私も歌うよ」

「先輩のあたしが引けるわけねぇよな!」

「・・・行くわよ、みんな!」

「S2CA、セプタコンバージョンッッ!!」

 

マリアの号令、響の宣言と共に五人も歌いだす。

 

それは『絶唱』

シンフォギア装者最大最強最高の奥の手。

 

 

本来、ワン・フォー・オールギアに歌は必要ない。それ自体が力を持つ個性だからだ。

それでも出久が、切歌が、全員が歌いはじめる。

その胸に流れる、確かな歌を信じて。

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal

Emustolronzen fine el baral zizzl...」

 

歌が次々に重なっていく。

七つの歌声が今、唯一の旋律へ昇華される。

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal

Emustolronzen fine el zizzl...」

 

絶唱が、歌が自分に歌えないなど誰が決めたのだろうか。

最後の一小節を歌いきった出久は笑う。

その口元から一筋の血を流しながら、その身を貫く新しい力を強く信じた。

 

出久はワン・フォー・オールとは変質した力だと聞いた。

『力をストックする個性』と『別の人間に譲渡する個性』が融合して生まれた力がワン・フォー・オールだ。

そこに新たな理が加えられる。

それは『歌の力でエネルギーに変換して、形にする力』

その力は絶唱により臨界を迎え、今シンフォギアは再構築を開始する。溢れんばかりの歌の光輪は彼らの全身を包み込んだ。

 

ワン・フォー・オールとイガリマの姿が変わっていく。僅かにあった黒い部位は全て白く塗り上げられていった。深緑部は光り輝き緑燐光を放ち始める。

余計な鎧は消え去り、閉じられていく各部は瞬間的に開かれ、多量の蒸気を吐き出し、再び閉じられた。同時にその身をぴったりと包むヒーロースーツへシンプルに収束していく。

まるでオールマイトのヒーロースーツの様に。

 

【ONE FOR ALL GEAR】

【SYSTEM ALTERATION】

【HERO EX-DRIVE OPERATION】

 

出久の唯一残る右腕のガントレットは七色の光を灯す。歌の力を限界まで搭載したシンフォギアはかけられたリミッターを次々に解除していく。

切歌のイガリマの左腕には新たに七色のガントレットが生成された。まるで出久のものと対をなす、鏡写しの様な代物が。

更にワン・フォー・オールが内包する莫大なエネルギーが歌により変換、共に歌う装者達からエネルギーを吸い上げていく。

 

進化していくシンフォギア。

FG式回天特機装束・限定解除。

名付けて『ヒーローエクスドライブ』

 

全ての換装が終わり、新たに誕生した二人のヒーローはその身を現す。

繋がれた手を掲げ、二人は同時に歌う。

 

「これが僕のッ!」

 

「わたしのッッ!」

 

「「絶唱だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

 

その身を包むオーラと共に構成された二色のマントを翻しながら、二人の喉が張り裂けんばかりの咆哮が最強最悪のヴィランに叩きつけられた。それは衝撃波と共に上空を包んでいた暗雲を弾き飛ばしていく。

蒼空が、姿を見せた。

 

 

「信じられません! こんな、こんなエクスドライブがあるなんて!」

 

思わず立ち上がり叫ぶエルフナイン。彼女はモニターに表示されたデータを信じられないと、その口を手で覆うと目を見開く。

 

「どうしたの!」

「見てください。これは皆さんのエネルギー総量です。こんな数値、現実的にありえないんです!」

 

各員のモニターに送られた装者五人のパラメータ。その数値はそれぞれ振り切れている。あまりに異常な表記に司令室の全員が息を飲む。

 

「何より異常なのは緑谷さんと切歌さんです!」

 

追加で送られた出久と切歌のステイタス。そのどれもが『測定不能』の一言で締められた。この世界の常識では考えられないイレギュラー反応。

しかし確かに二人の姿は観測されている。

そして確かに二人は姿を変えて、そこにいた。

 

「御二人を基点にエネルギー総量が上限を無くしている。いえ、流れだしたエネルギーが装者の皆さんを経て加速して戻って、緑谷さんと切歌さんの中で永久機関を作っているんです!」

 

ワン・フォー・オールのエネルギーが歌により変換、譲渡されていく。それは更に歌により変換。その力に当てられたシンフォギアにより再譲渡され出久と切歌に返り、次々と繰り返される。

なかば無限機関を化したそれはシンフォギアに掛けられたリミッターは三億百六十五万五千百二十二の中から今必要なそれを次々と解除していた。

選ばれたのは『ヒーロー』と成るべき『ヒーローエクスドライブギア』に至るべき最適解。

 

「シンフォギアを凌駕した規格外の・・・いやこれは、まるで奇跡を体現する『ヒーロー』の姿です!」

 

薄らと涙を浮かべながら驚くエルフナイン、モニターに映る出久と切歌の姿は様変わりしていた。

シンフォギア然とした鎧めかしい姿から、アメコミのヒーローの様な全身を包むスーツとたなびくマント。二人のカラーを示したそれは定着し、そうあるべきと存在していた。

違う。姿だけでは無い

今やあの二人は『シンフォギア』を越えて、その身を『ヒーロー』へと成った。

 

そこでエルフナインは思考する。

『ヒーロー』とは一体なんなのだろうか?

答えは『ヴィラン』と戦う者。

答えは『ヴィラン』に勝つ者。

出久はかつて話した。

「僕の世界は個性を駆使したヒーローが個性を悪用するヴィランと戦い、平和を護っている」と。

つまりヒーローとヴィランの関係は互いに戦い合う存在という事だ。

緑谷 出久はこの世界におけるイレギュラー。だが彼はある時から個性をシンフォギアとして身に纏い始めた。

まるで『この世界の理』に合わせるかの様に。

 

「もしかして、そうしなければいけない理由があるのかも・・・」

 

更に思考を深くする。

何故それだけでも戦える彼の個性は変貌を遂げたのか。

ヒーローとはヴィランと戦い、勝つ者。つまりはある位の優位性を持っているとも言えた。

シンフォギアの攻撃が届かないヴィラン。

そのヴィランに攻撃を与えられるヒーロー。

それはまるで『その存在自体が特効薬』なのではないだろうか。

そこまで至ってエルフナインは気がつく。よく似た現象を自分は知っている。よく、よく知っている。

かつてキャロルが使役したオートスコアラーの一人、ファラ・スユーフが持っていた剣を破壊する大剣『ソードブレイカー』

積み重なってきたコトバノチカラにてその概念を否定し、指定した対象に絶対的優位性を持つ特殊兵装。

 

その名を、哲学兵装。

 

『ヒーローがヴィランに対する哲学兵装』であるのなら。

もしこの仮説が正解であるとしたら。

 

「これなら、いけるかもしれません!」

 

限られた情報から戦況を分析し終えたエルフナインの期待を込めた言葉。それが聞こえたかの様に出久と切歌は飛び上がった。

それを見届けたエルフナインは心からは叫ぶ。

 

「い、っけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

その激励が聞こえなかった、だが感じた受け取るヒーロー達は呟いた。

 

「・・・行こう!!」

「デース!!」

 

二人の手はしっかりと繋がれた。




・・・ここまで来る事が出来ました。
描きたかったのは出久と切歌ちゃんがヒーローとなる姿。

私の願いは叶いました。
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