僕のヒーローシンフォギア   作:露海ろみ

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七十八話目となります。

お疲れ様です。
ヒーローエクスドライブした出久と切歌。
二人の行く末は。


78.ピースサイン

解き放たれた二人のヒーローは宙で二つに分かれる。それぞれが空中で軌道を変えて左右からヴィランに挑みかかった。

そこに言葉は無い。

でも確かな事がひとつだけ。ヒーローの拳がオール・フォー・ワンの右頬と左脇腹に突き刺さる。

 

「ぐぅッ・・・」

 

苦痛の声を漏らすヴィランにヒーローは容赦はしない。殴り抜けたと見せかけて揃って反転すると、その逆箇所を蹴りつけていく。

衝撃の反対方向から続け様に打撃を喰らうオール・フォー・ワンは身体が捩じ切れる錯覚さえ感じる。

 

『どういう事だ?』

 

自問する思考。先程まで少女達の攻撃は容易く防御出来ていた。何故か喰らっていたのは緑谷 出久の攻撃だけだ。

それなのに、今度はもう一人の少女の一撃を防ぐ事が出来ない。

さっきの歌はなんだ。

あれを歌ったあと、何が変わった。

緑谷 出久だけではない。もう一人の少女、きりかと呼ばれていた彼女の『何か』が変わったのをその身で感じる。

姿・・・否。

速度・・・否。

重さ・・・否。

何故だかはわからない。先刻まで防げていたはずの彼女の一撃を防ぐ事が出来なかった。

 

 

「デス・・・デス・・・デスッ!」

 

切歌は拳と脚を振るう。

彼女の主兵装は大鎌だ。それでも今は出久の様に四肢を奮ってヴィランに挑みかかる。大好きな彼の攻撃パターンをトレースするかの様に。

切歌は出久の戦闘をそんなに見た事はない。でも既に理解していた。

絶唱を歌い、身体がヒーローエクスドライブする時。

 

彼女は感じた。

 

彼が自分の中に流れ込んでくる。

同時に自分が彼の中に流れ込んでいく事を。

二つが一つに溶け合う感覚。

彼の中身が自分と同一になる、その感触を味わった。

今、切歌は出久の全てを識っていた。

彼の心に聳え立つ一本の大きな柱を理解する。

 

暁 切歌は緑谷 出久の全てを理解した。

心情を。信条を。

彼を彼たらしめんとする信念を。

 

胸の底が熱くなる。

その熱量を感じた切歌は拳を握りしめた。

大好きな彼が愛すべきものを理解する。

そこに並ぶ力を得た自分に喜びを感じた。

 

『私がデク君の願いを叶えてみせるのデス。一緒に・・・その隣で!』

 

身体中から溢れ出るのはワン・フォー・オールの輝き。

もうひとりのワン・フォー・オールの担い手として暁 切歌は覚醒した。

 

「お前なんかに負けるわたし達じゃないのデス!」

 

雷をその身に纏う出久とそっくりな姿になった彼女は笑う。

だって笑顔のヒーローに敵はいないのだから。

 

 

攻める。

攻める。

攻め立てる。

五人の装者達は先程まで苦戦していた相手が一方的にやられていくのを見ていた。

 

「かっこいい・・・」

 

ギアインナー姿の調が戦いを続ける切歌たちへと呟く。

絶唱の瞬間。彼女達はシンフォギアの核となる聖遺物の持つエネルギーが出久と切歌に流れ込んでいくのを感じていた。

今の自分達にはアームドギアを出現させる事が出来ない。

何故ならそれらはあの二人の中に置いてきた。

何故なら自分達の『力』を彼らに譲渡してきた。

 

七色の光を灯したガントレットには七人分の『個性』がストックされている。

殴られ続けたオール・フォー・ワンの体勢が戻りかける。それを見た翼が叫んだ。

 

「『天羽々斬』を使え!」

 

翼の手が伸ばされる。彼女に残されたエネルギーは蒼き輝きとなり出久に向かう。それを受け止めた出久の手には天羽々斬の柄が握られていた。

 

「お借りします!」

 

かつて手合わせした防人の動きを思い出しながら彼は刃を煌めかせる。刀など振るった事はない。でもその身に受けた技を忘れてなどはいなかった。

気合と共に天羽々斬を振り抜く。

 

【緑ノ一閃】

 

蒼あらため緑の剣撃が放たれるとオール・フォー・ワンを遥か上空へと誘う。

 

「行きなさい!『アガートラーム』」

「切ちゃん、私の『シュルシャガナ』を!」

 

マリアと調の手からもエネルギーが放たれた。それを握り締めた切歌はアガートラームとシュルシャガナを融合させる。

 

「喰らえデスッ!」

 

左腕の白い砲身に装填される巨大化した桃色のヨーヨーが高速回転、火花を撒き散らしながら発射された。

 

【技合 β式†CANNON】

 

しかしオール・フォー・ワンとてこれ以上の攻撃を甘んじて受けるわけにはいかない。緑ノ一閃の範囲から空気噴射の個性を使い抜け出すと、向かってくるヨーヨーに対して新たな個性をチョイスする。

 

「ッ! 『見えない壁(インビジブルウォール)』」

 

すぐさま目に見えない障壁が展開される。撃ち出されたヨーヨーは文字通り壁にぶつかり、少しずつ動きを弱めていく。想定通りの状況にオール・フォー・ワンがニヤリとする。

 

「まだデスよ!」

 

切歌は砲身を上に振る。

彼女が撃ったのヨーヨーである。ヨーヨーとは円盤を二つ単軸にて束ね、紐で繋いだものを指す。

動きを止めるかに見えたそれは壁を登り出すと障壁を飛び越えた。彼女は腕に伝わる感触を頼りに今度は下に振り下ろす。

紐を構成する蛇腹状の刀身がしなり、インビジブルウォールを両断。ヨーヨーは頭上からオール・フォー・ワンに叩きつけられた。

 

「おぉぉぉ・・・」

 

腕を交差して降り注ぐ圧力を堪えながら声を上げる。オールマイトを感じさせる力にオール・フォー・ワンの顔が僅かだが苦しみに歪む。

『屈折』の個性で力を受け流すのだが、もう一人のヒーローはそれを赦しはしなかった。

 

「やってやれよ『イチイバル』」

 

グッ、とその拳を握るクリスからの力を得た出久は右腕に纏うガントレットを大きく変化させる。彼の手を包む様に形状を変えた大砲は中指を引き絞る出久の眼前に射撃用のバイザーを出現させた。

彼の右目がオール・フォー・ワンを捉える。

 

【MEGA DETH AIR FORCE】

 

放たれる中指。瞬間、エアフォースの空弾は空を覆うほどの暴力となる。点ではなく、面の一撃がヴィランに追い縋っていく。

エアミサイルは一つ一つが誘導性を持つと空を所狭しと飛び交い、オール・フォー・ワンを撃ち抜くためだけに目標に収束していった。爆発は起きないがオール・フォー・ワンの身には無数の衝撃が襲い掛かる。

 

「おのれ、こんな事がッ⁉︎」

 

しかしオール・フォー・ワンは未だに健在だ。幾つかの空弾を打ち消すと個性を複数掛け合わせ、反撃の手を創り出す。

 

「『筋骨発条化』『瞬発力』×三 『膂力増強』×四 『槍骨』『鋲』『肥大化』・・・。落ち着こうかヒーロー?」

 

膨れ上がる右腕は人間の腕とは思えない形状となり、メガデスエアフォースの反動で僅かに動きを止めている出久に向かい振るわれる。

それを見た響が叫ぶ。

彼女はガングニールのシンフォギアなら構築できるはずのアームドギアを持っていない。

それでもいつだってその手で歌ってきた。

歌い、繋ぎ、ぶん殴るその手が彼女のアームドギアだったから。

響は自分のギアを信じる。

 

「『ガングニール』ッ!」

 

伸ばされる手を引き継いだ切歌の左腕がそれに応える。パイルバンカーを装填した切歌は愛しの彼に殴りかかろうとするヴィランに敵意を剥き出す。

 

「デク君に・・・手を、出すなぁぁぁぁ!!」

 

彼女の声と共に腕は大きさを増していく。巨大化した左拳は真っ向からヴィランの攻撃とぶつかり合った。

拮抗の瞬間、放たれるパイルバンカーの追撃。

 

【GUNGNIR SMASH !!】

 

その衝撃はオール・フォー・ワンを地面に叩き落とすどころか個性で抵抗する彼の身体を容赦なく地に転がしていく。

 

 

「ありがとう、切歌ちゃん」

「お安いもんデス!」

 

ガッツポーズで返事をするもう一人のヒーローの姿に出久の目が僅かに潤む。

オール・フォー・ワンを攻撃し、確実なダメージを与える度に感じる喪失感があった。奴の存在が揺らぐほど、自らの存在も不安定になっていく感覚。それはきっと弦十郎から伝えられた仮説を裏付けしているのだろう。

 

僕は、オール・フォー・ワンを倒す為にこの世界に喚ばれた。

それはつまり。

あいつを倒したらやはり僕は・・・。

 

頭を振って、弱気を追い出す。

彼女の優しさに、仲間達の想いに、皆の正義の心に後押しされてここまで来れた。

だから彼はもう躊躇わない。

大好きな切歌と最後の時を過ごせるのなら。

 

 

地を這うオール・フォー・ワンはゆっくりと立ち上がる。あそこまでやられてもその動きには何処か余裕が見えた。鋭くこちらを見てくるヒーロー達を前にしても態度を崩さない。寧ろまだ手は残っている、そんな口調で語り出す。

 

「僕を倒す。大いに結構。だが本当に良いのかな。・・・君たちは忘れていないか?」

 

醜悪。その一言がその顔から滲み出していた。

 

「僕の中には夢原君がいる。僕が消えたら彼も消える。それでもいいのかい」

 

悲劇の主人公といった様子のオール・フォー・ワンの台詞。

 

「さぁ、かかっておいでよ。彼を殺してもいいのなら!」

 

それは最後通牒の一言だった。

夢原は今オール・フォー・ワンに取り込まれ、その存在を同一化している。分離するのは不可能に近い。この一言はヒーローにとって、その動きを止める一言になるはずだった。

 

しかし。

二人のヒーローは表情を変えない。

 

変わらず、静かに、激しく闘志を燃やした瞳をこちらに向けてくる。

一人目のヒーローが口を開く。

 

「・・・お前」

 

深緑色の彼は言葉を続ける。

 

「『シンフォギア』を舐めるなよ」

 

それに明緑色の、もう一人のヒーローが後を引き継ぐ。

 

「わたし達の『個性』がお前なんかに負ける訳がないのデス」

 

向かい立つ二人の『ヒーロー』はエクスドライブギアに紫電を纏わせると互いの『力』の名を呼ぶ。

 

出久は切歌の。

 

「『イガリマ』ッッ!!」

 

切歌は出久の。

 

「『ワン・フォー・オール』ッッ!!」

 

ワン・フォー・オールとイガリマの絶唱特性がオーラとして可視化できる程に充填される。

二人の手はしっかりと繋がれた。

出久の右腕に、切歌は左腕へ力が集まっていく。

二色の緑は混じり合い光り輝いた。

それはまるで暗い夜空を照らす、夜明けを手に入れる為の・・・。

 

暁の閃光。

 

「「お前はここで絶対に倒すッ!!」」

 

出久と切歌は跳び出す。

各々の手は絶対に離さないように握られている。

二人三脚の様な疾走をしながら出久と切歌は拳を前へと放った。

 

 

【救・炉みo to 呪りeッTぉ】

 

 

イガリマの絶唱特性。

それは『魂ごと斬り裂く防御不能攻撃』

そこにワン・フォー・オールの絶唱特性『積み重なり形となった正義のエネルギー』が組み合わされた『悪意あるものを問答無用で打倒する』合体攻撃。

 

正義を貫き、悪を葬る一撃がオール・フォー・ワンに直撃した。

 

「なんだこの力は⁉︎」

 

その身に蓄積してきた数多の個性をどんなに使おうとも二人の放った両拳は逸らす事も受け止める事も打ち消す事も出来ない。

ただオール・フォー・ワンはその身が削られていくのを感じる。自分の存在そのものが否定されていく感覚に驚いた。

その身体は光へと変わっていく。

取り込まれた夢原 探をその場に残して、オール・フォー・ワンというヴィランはその姿を完全にこの世界から消滅させた。

 

 

そして。

五人の装者がその場に駆けつけた時、そこには二人の人間がいた。

一人は気を失い倒れる青年。

もう一人は拳を放った格好のまま立ち尽くす少女。

 

緑谷 出久の姿は、無かった。


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